2009/05/12(火) - 13:15
今でも1989年のツールドフランス覇者グレッグ・レモンがその最終日にみせたTTでの逆転劇と並んで語られるのが、そのTTバイクに取り付けられていたスコットのエアロバーの革新性である。
それは24.5km区間でローラン・フィニョンとの50秒差を逆転させた、そのエアロハンドルが作り出すエアロダイナミクスポジションの勝利でもあった。そのハンドルの発明者であるブーン・レノン(Boone Lennon)氏が来日した。
ブーン・レノン氏はアメリカモンタナ在住の、スキーとサイクリングのコーチであり建築家という多彩な顔を持つ59歳。サイクリングにおいては、つい先日もチームコロンビアの選手の一人にTTのエアロポジションクリニックを行い、モンタナ州リビングストン〜ボーズマン間16kmで43秒の短縮を遂げたと話す。
また、自身も過去にアメリカアマチュアトップカテゴリーで走っていた経験を持ち、今でもモンタナに雪が降らないサイクリングシーズン中は週5、6日、平均3~5時間は自転車に乗り、自身の理論を実践にて裏付ける熱心なサイクリストである。
今回のレノン氏の来日は11月に日本での開催を予定しているサイクルクリニックに向けてのリサーチのためだ。
レノン氏は以前スキーコーチとして来日して以来、日本人の熱心な受講姿勢、勤勉な取り組みなど、また美しい風土にも魅了されて日本好きになり、自転車クリニックを開きたいと思うようになったという。
又レノン氏によれば(日本人の体型を見て)「日本のサイクリストが速くならない訳がない」のだそうだ。
エアロダイナミクスのスペシャリストであるが、その視点は前述したとおり自身が熱心なサイクリストである事から、トレーニング方法からバイクのサイズやホイールについてなどのアイデアも含め複合的だ。
氏のサイクルクリニックの一例は、異なるレベルのライダーが一緒に走り、一緒に終えるスタイルで、全員がレベルに応じた負荷でできるトレーニング方法や、また、一流のスキーコーチとしても過去3度招待された実績がある氏のスキー分野と自転車の共通項から考えだされた独自の考えを元にしたものがある。
例えばスキーの回転競技などに見られるダウンヒルの、特に上半身の形はサイクルロードレースのTTポジションと酷似している。そこからエアロダイナミクスについて説く。
また、エアロヘルメットをして走る場合でも「顎(あご)を突き出した状態での空気抵抗は、顎を引きエアロヘルメットの後部が”立った”状態よりも大きい」と、顎の空気抵抗の重要性を説く。また、コーナーでの体重移動ではスキー板と自転車のハンドルの切り方においても「非常に似ている」とし、カウンターハンドリング(又はカウンターステア)いわゆる”逆ハン”について話すなど、数々のアイデアを持つ。
こんにち、TTやトライアスロンで多用されるエアロバーを用いたエアロポジションは、自転車の最速の乗車姿勢と言っても過言ではないだろう。エアロバーをつけただけでライダーは空力面でアドバンテージを容易に得る事ができる。
それは、前面投影面積(進行方向に対して風を受ける面積)が小さくなる事を意味する。肩、肘、そして胸から腹にかけてのフトコロに受ける風の面積をドロップハンドルよりも小さくする。しかし、ライダーはそれをどこまで上手く活用しているだろうか?世界選手権個人TTを制したカンチェラーラの走りを見ても「まだ無駄があり、速くなる」(レノン氏)という。
その時勝った選手のフォームがもてはやされ、流行、廃れが変遷してゆくなか、
確かな理論に基づいたポジションを指導できる人は稀であろう。エアロバーのパイオニアが培って来たノウハウは見過ごせないものがある。
レノン氏によると自転車競技において重要なファクターに、アマチュアライダーは1にパワーウェイトレシオ、2にエアロダイナミクスであるという。
これが一方でツールなど大きなステージレースを走るトッププロ選手の場合は、出力において10%以内のパフォーマンス差しかないと言われる。そこでは、1にエアロダイナミクス、2にパワーウェイトレシオの順になるという。
空気抵抗との闘いでもある自転車競技は、体の抵抗値をはじめとして、ホイールとフレームなど、バイクにおいてもエアロダイナミクスは重要な要素となる。バイクにおける最近の流行はカーボンフレーム形成技術の進化に伴い、デザインにおいてもエアロシェイプを盛んに取り入れるようになっている。
それを示すかのように、独走で約180kmを走るハワイアイアンマンではエアロシェイプされた空力に優れるサーベロP3のようなマシンが席巻している。わずかな空力面でのパフォーマンスの違いでも確かな差となって現れる距離である。
レノン氏の理論やテクニックは、肉体面のフォームや機材面のファクターが複合的かつ高度に絡み合うものであるため、とてもここで紹介しきれるものではない。そしてつねに指導はマンツーマンな色合いが濃い。
この度来日したレノン氏は4月15日、東松山のシクロパビリオンを訪れて浅田顕監督(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)と意見交換をした。レノン氏は「メジャーレースで戦うチームがこういった裾野を広げる活動をするビジョンに感銘を受けた」と話し、2009年11月に向けてシクロパビリオンにてサイクルクリニックを開くことに大筋で合意した。また、日本各地でもセミナーを開催する可能性を探っている。
氏の対象としているライダーは、エントリーライダーからプロライダーまでと幅広い。次回の来日時11月に行われるサイクルクリニックは、限られた時間や日程の中でレノン氏がどのようなプログラムを組むのか注目したい。
また、今年6月にもアメリカでレノン氏のサイクルクリニックが行われる予定である。
ここ数年の自転車ブームを経て、スポーツバイクは増えた。しかし買ったはいいもののその道具を十分に楽しんでいるかどうかには大いに疑問が残るところだ。ソフトまで提供できる自転車販売店は少なく、各地で開かれ始めた自転車講習会も言わば黎明期という現状である。様々な自転車があるように、たくさんのソフトにも触れられたら幸せだ。
ブーンレノン氏の確かな理論と実績は走り始めたばかりの日本のスポーツバイク界のソフト面の一翼を担う可能性を秘めているかもしれない。
レノン氏は11月に行うサイクルクリニックに向けて日頃のバイクライドで感じている質問や疑問を募集している。日本国内の需要に応じて対象者や来日のプログラムを組む予定である。
レノン氏のクリニックでさらに今よりもバイクパートを速くなりたいトライアスリートや、個人・チームTTのタイムアップを狙いたいロードサイクリストやトラック選手などを抱えるクラブチームやショップは、上記の質問事項なども含めシクロワイアード編集部までメールや電話でご連絡ください。日本側の受け入れをお手伝いするスタッフとともに、スケジュール等の詳細を相談させていただきます。
text:Toru.Tokura
それは24.5km区間でローラン・フィニョンとの50秒差を逆転させた、そのエアロハンドルが作り出すエアロダイナミクスポジションの勝利でもあった。そのハンドルの発明者であるブーン・レノン(Boone Lennon)氏が来日した。
ブーン・レノン氏はアメリカモンタナ在住の、スキーとサイクリングのコーチであり建築家という多彩な顔を持つ59歳。サイクリングにおいては、つい先日もチームコロンビアの選手の一人にTTのエアロポジションクリニックを行い、モンタナ州リビングストン〜ボーズマン間16kmで43秒の短縮を遂げたと話す。
また、自身も過去にアメリカアマチュアトップカテゴリーで走っていた経験を持ち、今でもモンタナに雪が降らないサイクリングシーズン中は週5、6日、平均3~5時間は自転車に乗り、自身の理論を実践にて裏付ける熱心なサイクリストである。
今回のレノン氏の来日は11月に日本での開催を予定しているサイクルクリニックに向けてのリサーチのためだ。
レノン氏は以前スキーコーチとして来日して以来、日本人の熱心な受講姿勢、勤勉な取り組みなど、また美しい風土にも魅了されて日本好きになり、自転車クリニックを開きたいと思うようになったという。
又レノン氏によれば(日本人の体型を見て)「日本のサイクリストが速くならない訳がない」のだそうだ。
エアロダイナミクスのスペシャリストであるが、その視点は前述したとおり自身が熱心なサイクリストである事から、トレーニング方法からバイクのサイズやホイールについてなどのアイデアも含め複合的だ。
氏のサイクルクリニックの一例は、異なるレベルのライダーが一緒に走り、一緒に終えるスタイルで、全員がレベルに応じた負荷でできるトレーニング方法や、また、一流のスキーコーチとしても過去3度招待された実績がある氏のスキー分野と自転車の共通項から考えだされた独自の考えを元にしたものがある。
例えばスキーの回転競技などに見られるダウンヒルの、特に上半身の形はサイクルロードレースのTTポジションと酷似している。そこからエアロダイナミクスについて説く。
また、エアロヘルメットをして走る場合でも「顎(あご)を突き出した状態での空気抵抗は、顎を引きエアロヘルメットの後部が”立った”状態よりも大きい」と、顎の空気抵抗の重要性を説く。また、コーナーでの体重移動ではスキー板と自転車のハンドルの切り方においても「非常に似ている」とし、カウンターハンドリング(又はカウンターステア)いわゆる”逆ハン”について話すなど、数々のアイデアを持つ。
「カンチェラーラにも、まだ改善の余地がある」(ブーン・レノン)
こんにち、TTやトライアスロンで多用されるエアロバーを用いたエアロポジションは、自転車の最速の乗車姿勢と言っても過言ではないだろう。エアロバーをつけただけでライダーは空力面でアドバンテージを容易に得る事ができる。
それは、前面投影面積(進行方向に対して風を受ける面積)が小さくなる事を意味する。肩、肘、そして胸から腹にかけてのフトコロに受ける風の面積をドロップハンドルよりも小さくする。しかし、ライダーはそれをどこまで上手く活用しているだろうか?世界選手権個人TTを制したカンチェラーラの走りを見ても「まだ無駄があり、速くなる」(レノン氏)という。
その時勝った選手のフォームがもてはやされ、流行、廃れが変遷してゆくなか、
確かな理論に基づいたポジションを指導できる人は稀であろう。エアロバーのパイオニアが培って来たノウハウは見過ごせないものがある。
レノン氏によると自転車競技において重要なファクターに、アマチュアライダーは1にパワーウェイトレシオ、2にエアロダイナミクスであるという。
これが一方でツールなど大きなステージレースを走るトッププロ選手の場合は、出力において10%以内のパフォーマンス差しかないと言われる。そこでは、1にエアロダイナミクス、2にパワーウェイトレシオの順になるという。
空気抵抗との闘いでもある自転車競技は、体の抵抗値をはじめとして、ホイールとフレームなど、バイクにおいてもエアロダイナミクスは重要な要素となる。バイクにおける最近の流行はカーボンフレーム形成技術の進化に伴い、デザインにおいてもエアロシェイプを盛んに取り入れるようになっている。
それを示すかのように、独走で約180kmを走るハワイアイアンマンではエアロシェイプされた空力に優れるサーベロP3のようなマシンが席巻している。わずかな空力面でのパフォーマンスの違いでも確かな差となって現れる距離である。
レノン氏の理論やテクニックは、肉体面のフォームや機材面のファクターが複合的かつ高度に絡み合うものであるため、とてもここで紹介しきれるものではない。そしてつねに指導はマンツーマンな色合いが濃い。
日本でのクリニックは11月開催
この度来日したレノン氏は4月15日、東松山のシクロパビリオンを訪れて浅田顕監督(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)と意見交換をした。レノン氏は「メジャーレースで戦うチームがこういった裾野を広げる活動をするビジョンに感銘を受けた」と話し、2009年11月に向けてシクロパビリオンにてサイクルクリニックを開くことに大筋で合意した。また、日本各地でもセミナーを開催する可能性を探っている。
氏の対象としているライダーは、エントリーライダーからプロライダーまでと幅広い。次回の来日時11月に行われるサイクルクリニックは、限られた時間や日程の中でレノン氏がどのようなプログラムを組むのか注目したい。
また、今年6月にもアメリカでレノン氏のサイクルクリニックが行われる予定である。
ここ数年の自転車ブームを経て、スポーツバイクは増えた。しかし買ったはいいもののその道具を十分に楽しんでいるかどうかには大いに疑問が残るところだ。ソフトまで提供できる自転車販売店は少なく、各地で開かれ始めた自転車講習会も言わば黎明期という現状である。様々な自転車があるように、たくさんのソフトにも触れられたら幸せだ。
ブーンレノン氏の確かな理論と実績は走り始めたばかりの日本のスポーツバイク界のソフト面の一翼を担う可能性を秘めているかもしれない。
クリニックへの質問、受講希望者、チームを募集
レノン氏は11月に行うサイクルクリニックに向けて日頃のバイクライドで感じている質問や疑問を募集している。日本国内の需要に応じて対象者や来日のプログラムを組む予定である。
レノン氏のクリニックでさらに今よりもバイクパートを速くなりたいトライアスリートや、個人・チームTTのタイムアップを狙いたいロードサイクリストやトラック選手などを抱えるクラブチームやショップは、上記の質問事項なども含めシクロワイアード編集部までメールや電話でご連絡ください。日本側の受け入れをお手伝いするスタッフとともに、スケジュール等の詳細を相談させていただきます。
text:Toru.Tokura