2011/06/20(月) - 18:10
「I'm sorry, man(ごめんよ)」。表彰台裏のテントで、リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)は走り終えたばかりのダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)を迎えてこう告げた。ツール・ド・スイスの最終個人タイムトライアルでライプハイマーが逆転総合優勝。そのタイム差は僅かに4秒だった。
「直線が多くてしかも風が強い。今朝コースを下見した時点で、このコースは自分の脚質向きではないと分かった」。総合リーダーの証であるイエロージャージを着て最終個人TTを走ったクネゴはそう振り返った。
第8ステージを終えた時点で、クネゴの総合リードはステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク)から1分36秒、フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)から1分41秒、そしてリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)から1分59秒。
つまりクネゴはクルイスウィックより1分36秒、Fシュレクより1分41秒、そしてライプハイマーよりも1分59秒遅く走ったとしても、総合首位を守ることができる。ツール・ド・スイスの最終個人TTの距離は32.1km。起伏に富んだコースだ。
しかしクネゴは前半から苦しんだ。進めば進むほどライプハイマーとの総合タイム差が縮まっていく。クルイスウィックとFシュレクが伸び悩んだため、クネゴの実質的なライバルは総合4位のライプハイマーに。
ライプハイマーは、ステージ優勝のファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)から僅か13秒遅れの41分14秒という好タイムでゴール。つまり43分13秒より良いタイムでゴールしなければ、クネゴはイエロージャージを失う。
しかしクネゴのペースは後半に入っても上がらず、むしろライプハイマーとのタイム差は更に広がった。最終ストレートに差し掛かり、ダンシングでもがくクネゴ。ラスト50mの標識通過の時点で、計時は無情にも43分13秒を過ぎていく。タイムは43分17秒。4秒差でのライプハイマーの逆転総合優勝が決まった。
落ち着かない表情でクネゴのゴールを待っていたライプハイマーは、総合優勝の知らせを聞いて喜びを爆発させる。「なんてレースだ!クネゴとそんな接戦になっているとは知らなかった。最終コーナーを曲がってからの『スプリントしろ!スプリントしろ!』という監督の切羽詰まった声を聞いて、数秒差の闘いになっていることを理解した」。
ライプハイマーは身長168cm・体重62kgと小柄な選手。決してTT向きの体格ではないが、コースを問わずに持ち前の独走力を発揮する。TTでリードを広げる走りで、2007年のツール・ド・フランスで総合3位。ブエルタ・ア・エスパーニャでは2001年に総合3位、2008年に総合2位という成績を残している。
ライプハイマーは、この日ステージ2位に入ったアンドレアス・クレーデン(ドイツ)とともに、レディオシャックを率いてツール・ド・フランスに挑む。「今年のツール・ド・スイスは山岳ステージが多く、厳しい闘いを強いられた。レディオシャックのチームメイトたちのサポートが無ければ、この勝利は実現してしなかっただろう。これから短い休養を取って、ツール・ド・フランスに向けて始動するよ」。
「得意分野で存分に力を発揮したライプハイマーの走りは称賛に値するものだった」と、イエロージャージを奪われたクネゴはライバルを讃える。「でもここまで僕をサポートし続けてくれたチームメイトに最高の結果で報いることができずに残念だ」。
クネゴは久々のビッグステージレース制覇を4秒差で失った悔しさを隠せない。しかしツール・ド・スイス総合2位という成績は、例年以上に絞れていることを意味している。今年クネゴはツールに出場予定だ。
僅差の総合争いに沸いたツール・ド・スイスの最終個人TTは、世界チャンピオンのカンチェラーラの手に落ちた。カンチェラーラが叩き出したタイムは41分01秒。初日の第1ステージ個人TTに続く今大会2勝目。今シーズン5勝目で、そのうち4勝がTTでの成績だ。
「早い時間にスタートする(総合下位の)選手には、考える時間が無い。ただ自分の力を信じて、持てる力を全て出し尽くすしかないんだ。クレーデンとライプハイマーの走りをバスの中で見ていたとき、少しナーバスになったよ」。2位から4位までを独占したレディオシャック勢を抑え込んだ世界チャンピオンは語る。
「地元スイスで、しかも初日と最終日で勝利を飾るのは特別だ。このスイスでの走りを見る限り、ツールに向けて準備は整っている」。
レオパード・トレックはヤコブ・フグルサング(デンマーク)が好走してステージ7位に入り、総合4位にジャンプアップ。総合3位につけていたディフェンディングチャンピオンのFシュレクはステージ60位に終わり、総合7位にダウンした。
選手コメントはレオパード・トレック、レディオシャック、ならびにランプレ・ISDの公式サイトより。
ツール・ド・スイス2011第9ステージ結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック) 41'01"
2位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック) +09"
3位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック) +13"
4位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、レディオシャック) +25"
5位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +38"
6位 グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク・サンガード)+41"
7位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック) +44"
8位 トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM) +48"
9位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +1'02"
10位 クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)+1'04"
19位 ステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク) +1'38"
39位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +2'16"
60位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +3'06"
個人総合成績
1位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック) 31h45'02"
2位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +04"
3位 ステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク) +1'02"
4位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック) +1'10"
5位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク) +2'05"
6位 マティアス・フランク(スイス、BMCレーシングチーム) +2'24"
7位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'35"
8位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク) +3'11"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +3'17"
10位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レオパード・トレック) +4'12"
ポイント賞
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)
山岳賞
アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
中間スプリント賞
ロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)
チーム総合成績
レオパード・トレック
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
「直線が多くてしかも風が強い。今朝コースを下見した時点で、このコースは自分の脚質向きではないと分かった」。総合リーダーの証であるイエロージャージを着て最終個人TTを走ったクネゴはそう振り返った。
第8ステージを終えた時点で、クネゴの総合リードはステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク)から1分36秒、フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)から1分41秒、そしてリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)から1分59秒。
つまりクネゴはクルイスウィックより1分36秒、Fシュレクより1分41秒、そしてライプハイマーよりも1分59秒遅く走ったとしても、総合首位を守ることができる。ツール・ド・スイスの最終個人TTの距離は32.1km。起伏に富んだコースだ。
しかしクネゴは前半から苦しんだ。進めば進むほどライプハイマーとの総合タイム差が縮まっていく。クルイスウィックとFシュレクが伸び悩んだため、クネゴの実質的なライバルは総合4位のライプハイマーに。
ライプハイマーは、ステージ優勝のファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)から僅か13秒遅れの41分14秒という好タイムでゴール。つまり43分13秒より良いタイムでゴールしなければ、クネゴはイエロージャージを失う。
しかしクネゴのペースは後半に入っても上がらず、むしろライプハイマーとのタイム差は更に広がった。最終ストレートに差し掛かり、ダンシングでもがくクネゴ。ラスト50mの標識通過の時点で、計時は無情にも43分13秒を過ぎていく。タイムは43分17秒。4秒差でのライプハイマーの逆転総合優勝が決まった。
落ち着かない表情でクネゴのゴールを待っていたライプハイマーは、総合優勝の知らせを聞いて喜びを爆発させる。「なんてレースだ!クネゴとそんな接戦になっているとは知らなかった。最終コーナーを曲がってからの『スプリントしろ!スプリントしろ!』という監督の切羽詰まった声を聞いて、数秒差の闘いになっていることを理解した」。
ライプハイマーは身長168cm・体重62kgと小柄な選手。決してTT向きの体格ではないが、コースを問わずに持ち前の独走力を発揮する。TTでリードを広げる走りで、2007年のツール・ド・フランスで総合3位。ブエルタ・ア・エスパーニャでは2001年に総合3位、2008年に総合2位という成績を残している。
ライプハイマーは、この日ステージ2位に入ったアンドレアス・クレーデン(ドイツ)とともに、レディオシャックを率いてツール・ド・フランスに挑む。「今年のツール・ド・スイスは山岳ステージが多く、厳しい闘いを強いられた。レディオシャックのチームメイトたちのサポートが無ければ、この勝利は実現してしなかっただろう。これから短い休養を取って、ツール・ド・フランスに向けて始動するよ」。
「得意分野で存分に力を発揮したライプハイマーの走りは称賛に値するものだった」と、イエロージャージを奪われたクネゴはライバルを讃える。「でもここまで僕をサポートし続けてくれたチームメイトに最高の結果で報いることができずに残念だ」。
クネゴは久々のビッグステージレース制覇を4秒差で失った悔しさを隠せない。しかしツール・ド・スイス総合2位という成績は、例年以上に絞れていることを意味している。今年クネゴはツールに出場予定だ。
僅差の総合争いに沸いたツール・ド・スイスの最終個人TTは、世界チャンピオンのカンチェラーラの手に落ちた。カンチェラーラが叩き出したタイムは41分01秒。初日の第1ステージ個人TTに続く今大会2勝目。今シーズン5勝目で、そのうち4勝がTTでの成績だ。
「早い時間にスタートする(総合下位の)選手には、考える時間が無い。ただ自分の力を信じて、持てる力を全て出し尽くすしかないんだ。クレーデンとライプハイマーの走りをバスの中で見ていたとき、少しナーバスになったよ」。2位から4位までを独占したレディオシャック勢を抑え込んだ世界チャンピオンは語る。
「地元スイスで、しかも初日と最終日で勝利を飾るのは特別だ。このスイスでの走りを見る限り、ツールに向けて準備は整っている」。
レオパード・トレックはヤコブ・フグルサング(デンマーク)が好走してステージ7位に入り、総合4位にジャンプアップ。総合3位につけていたディフェンディングチャンピオンのFシュレクはステージ60位に終わり、総合7位にダウンした。
選手コメントはレオパード・トレック、レディオシャック、ならびにランプレ・ISDの公式サイトより。
ツール・ド・スイス2011第9ステージ結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック) 41'01"
2位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック) +09"
3位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック) +13"
4位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、レディオシャック) +25"
5位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +38"
6位 グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク・サンガード)+41"
7位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック) +44"
8位 トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM) +48"
9位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +1'02"
10位 クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)+1'04"
19位 ステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク) +1'38"
39位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +2'16"
60位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +3'06"
個人総合成績
1位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック) 31h45'02"
2位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +04"
3位 ステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク) +1'02"
4位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック) +1'10"
5位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク) +2'05"
6位 マティアス・フランク(スイス、BMCレーシングチーム) +2'24"
7位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'35"
8位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク) +3'11"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +3'17"
10位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レオパード・トレック) +4'12"
ポイント賞
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)
山岳賞
アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
中間スプリント賞
ロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)
チーム総合成績
レオパード・トレック
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
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