ベッルーノ~ネヴェガルの12.7kmで争われた山岳個人タイムトライアル。アルベルト・コンタドール(サクソバンク)が他を圧倒する走りで唯一の28分台のタイムを叩き出し、またリードを広げた。もはやジロはコンタドールの手中にある。コンタドールはポディウムで天国のシャビエル・トンドを指さし、勝利を捧げた。

イタリアンファン「ティフォージ」たちがコンタドールに声援を送るイタリアンファン「ティフォージ」たちがコンタドールに声援を送る (c)RCS Sports

山岳個人TTはもはやジロの恒例行事となりつつある。ベッルーノから街を見下ろすネヴェガルまでの全長12.7km・標高差705mの登りは昨年のプランデコロネスほど極端ではないが、山岳連戦に疲労困憊の選手にとっては十分に厳しいものだ。優勝者が速ければ、そのぶん遅い選手のタイムアウトの可能性が高くなる。

ベッルーノのスタート地点は石畳でスタートベッルーノのスタート地点は石畳でスタート (c)RCS Sports前半は短い下り区間を含んでおり、本格的な登りは中間計測ポイントを通過してから始まる。後半の7.3kmは登りっぱなし。平均勾配8.2%・最大勾配14%の九十九折りの登りで、選手たちは登坂力を競い合った。

主催者による優勝予想タイムは27分半前後で、スピードになおすと平均27.7km/h。3連続ドロミテ山岳ステージで疲労困憊し、前日の休息日でリズムを崩した選手は、確実に総合争いから脱落するだろう。

スタート前、快晴のベッルーノでは、ジロの休息日にあたる前日にスペインの自宅で不慮の事故死を遂げたシャビエル・トンド(スペイン、モビスター)を追悼する1分間の黙祷が捧げられた。
ネヴェガルのゴールを目指す別府史之(日本、レディオシャック)ネヴェガルのゴールを目指す別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiチームメイトの突然の死に悲しみに暮れるモビスターチームは、「トンドのためにも走り続けることが弔いになる」としてジロを続行することを選択した。

ネヴェガルへのタイムアタック

フェラーリなどのイタリアンカーによる山岳TTのコースでもあるネヴェガル。選手たちは力を振り絞って登りに挑んだ。

別府史之(レディオシャック)は88番スタート。結果は4分24秒遅れのステージ127位。「キツい登りだった。でも昨日よりも脚の感触はいいし、踏めたから良くなっている」と話し、この山岳TTを乗り切った。ジロの完走が見えてきた。

期待を集めたのはステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)。昨年のプランデコロネスでの山岳TTの覇者はマリアヴェルデのワンピースに身を包み、全身グリーンで挑んだ。走り終えた時点で29分台でトップに踊りでるが、続いてスタートする有力勢がその好タイムを塗り替えていく。

46秒差・ステージ5位のステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)46秒差・ステージ5位のステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) photo:Riccardo Scanferla34秒差のステージ2位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)34秒差のステージ2位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Riccardo Scanferla

38秒差のステージ3位に入ったミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)38秒差のステージ3位に入ったミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD) photo:Riccardo Scanferla39秒差・ステージ4位のホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)39秒差・ステージ4位のホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ) photo:Riccardo Scanferla

ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)はDHバーとディスクホイールをセットしてスタートにたった。この機材仕様で走るのはロドリゲスただひとり。平坦をマシンの力でこなし、上りになったら上り専用バイクに乗り換えようという手の込んだ作戦だ。

スタートから飛ばしたのはヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)。5.3kmの中間計測地点をトップ通過。最初の下り区間でも限界まで攻めこみ、コーナーで膨らんであわや橋の欄干にぶつかりそうになったほど。しかしニーバリは華麗な身のこなしでそれを避けた。

34秒差のステージ2位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)34秒差のステージ2位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Riccardo Scanferlaピンクに身を包んだコンタドールは最終走者での出走。ピンクの紙吹雪を浴びながら、落ち着いてスタートしていく。しかし身のこなしは軽い。コンタドールの中間計測地点の通過順位は13位。
控えめなペースに、今日のステージ覇者はニーバリになるだろうという期待がファンの間に膨らんだ。
コンタドールは前日のステージで用いたような大きなスプロケットを使い、軽めのギアで回している。

対してニーバリは明らかにすべてを賭けた走り。ステージをひとつ取っておきたいという気迫が感じられた。

昨日のステージで調子の上がらなかった小さな巨人ホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)が暫定トップを更新したあと、ニーバリがフィニッシュして暫定1位のタイムを更新。ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)も好タイムをマークしたが、ニーバリに及ばず。残るはコンタドールのみとなる。

ネヴェガルにただひとり28分台でフィニッシュするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ネヴェガルにただひとり28分台でフィニッシュするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) (c)RCS Sportsコンタドールは抑えめの前半のペースを覆し、華麗なダンシングでペースを上げた。そのパワフルさとスピードはもはや誰もかなわない。ゴールに飛び込めば、誰一人いない28分台でフィニッシュ。ニーバリに34秒差をつけてネヴェガルを制した。スカルポー二がさらに+4秒、ルハノがさらに+1秒だ。

結果的に総合では4分58秒差でさらに差を広げた。これからまだ難しいステージはあるが、トラブルさえなけれもはやマリアローザを守るのに十分なマージンと言えるだろう。

コンタドールは表彰台に登ると、天を高々と指さした。もちろん今は亡きプロトンの友人シャビエル・トンドへ勝利を捧げるというジェスチャーだ。そしてマリアローザにキスすると、再び天を指さした。

コンタドールのコメント
最初の1kmはかなりきつかったけれど、その後はリズムに乗って、強度を落とさずに走りきった。第一計測ポイントで、ニーバリに数秒ほど優位に立てた。それからリース監督と話し合った通りにリズムを速めたんだ。ライバルについては考えなかった。

もちろん、この勝利はシャビエル・トンド・ボルピニに捧げる。悲しい勝利じゃない。勝利はいつも喜ばしいものだ。トンドはとてもいいやつだった。今日は彼のために勝って、勝利を彼に捧げたかったんだ。
タイム差は申し分ないけれど、それを守っていかなければならない。ライバルたちは差をつめることを狙ってくるだろう。レースはまだ終わっていないと思う。


天を仰ぎ、シャビエル・トンドに勝利を捧げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)天を仰ぎ、シャビエル・トンドに勝利を捧げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) (c)RCS Sports第16ステージ結果
1アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)28:55
2 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+0:34
3 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)+0:38
4 ホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ) +0:39
5 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)+0:46
6 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)+0:49
7 デニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)+0:52
8 マルコ・ピノッティ(イタリア、HTC・ハイロード)+0:58
9 ブラニスラウ・サモイラウ(ベラルーシ、モビスターチーム)+0:59
10 ウラディミール・ミホロヴィッチ(クロアチア、アックア・エ・サポーネ)+1:04
11 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
12 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)
127位 別府史之(レディオシャック) +4:24

個人総合成績 
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) 62h43'37"
2位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)+4'58"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+5'45"
4位 ジョン・ガドレ(アージェードゥーゼル)+7'35"
5位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ) +9'18"
6位 ミケルニエベ・イトゥラルデ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)+9'22"
7位 デニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)+9'38"
8位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)+9'47"
9位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)+10'25"
10位 ダビ・アローヨ(スペイン、モビスターチーム)+10'58"
81位 別府史之(レディオシャック)+1h50'35"

ポイント賞 マリアロッサ・パッシオーネ
アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)

山岳賞 マリアヴェルデ
ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)

新人賞 マリアビアンカ
ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)

チーム総合成績
アスタナ


text:Makoto.AYANO
photo:Kei Tsuji,Riccardo Scanferla,CorVos