4月下旬に入ると、ヨーロッパのロードシーズンは「北のクラシック」から「アルデンヌ・クラシック」へと移ろう。3連戦の幕開けを告げるのは、今年46回目を迎えるアムステル・ゴールドレース(UCIワールドツアー)だ。今年もオランダ南部の丘陵地帯を舞台に、合計32カ所の登り坂が選手たちを苦しめる。

「1000のカーブ」と「32の急坂」を含む260kmのアップダウンコース

アムステル・ゴールドレース2011コースマップアムステル・ゴールドレース2011コースマップ image:www.amstelgoldrace.nlオランダと聞いて思い描くのは、チューリップが咲き、風車が穏やかに回る平原だ。確かに国土の大半は標高0メートル、もしくはそれ以下。国名Nederland(英語でNetherlands)が「低地の国」を意味するほど、国土の大部分は起伏に乏しい。

しかしそんなオランダ最大のロードレースであるアムステル・ゴールドレースは、上りが勝負の鍵を握る起伏に富んだレースだ。いよいよアルデンヌ3連戦が始動。3日後の水曜日にフレーシュ・ワロンヌ、1週間後の日曜日にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが開催される。

オランダはオランダでも、レース開催地は同国南部の丘陵地帯。ベルギーとドイツに隣接したリンブルフ州を駆け巡る大小3つの周回コースが設定される。登場する短い登りの数は32カ所。260kmのコースはまさにアップダウンの連続だ。

「1000のカーブ」と呼ばれるほどカーブや上りが連続するコース「1000のカーブ」と呼ばれるほどカーブや上りが連続するコース photo:Cor Vos特に終盤の小周回に登場するヴォルフスベルグ、クルイスベルグ、アイゼルボスウェグ、ケウテンベルグはいずれも急勾配で、登りでのアタックとカウンターアタックが集団の人数を減らしていく。文字通りサバイバルレースが展開される。

そして、最後はアムステル名物のカウベルグを駆け上がってゴール。この登りは大小3つの周回コースの起点に設定されているため、選手たちは計3回通過することになる。登坂距離は1200mで、高低差は68m。平均勾配は5.8%と、それほど厳しい登りではない。

名物カウベルグを通過していくメイン集団名物カウベルグを通過していくメイン集団 photo:Cor Vosしかしコースは全体的に道幅が狭い。「1000のカーブ」と呼ばれるほどコーナーが連続し、一瞬たりとも気が抜けない。アップダウンとワインディングの繰り返しはまるで「ジェットコースター」だ。

これらの試練を“フレッシュな状態”で乗り越え、最後のカウベルグに全力をぶつけることが出来るかが勝負の分かれ道。一瞬の判断ミスが敗戦に繋がることもあり、アタックチャンスを感じ取る優れた嗅覚も問われる。

ちなみに、レース名がオランダの首都アムステルダムに由来すると勘違いしがちだが、その名前はメインスポンサーのアムステル社からきている。アムステル社はオランダを代表するビール会社。レース公式サイトを閲覧するためには年齢を記さなければならない。


本命ジルベールの連覇なるか?レオパードやカチューシャがチーム力で挑む

直前のブラバンツ・ペイルを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)直前のブラバンツ・ペイルを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vos先週までベルギーとフランスで開催されていた「北のクラシック」は、平地に強い重量級のクラシックレーサー向き。一方、起伏に富んだアルデンヌでは、軽量級のクラシックレーサーが活躍する。グランツールで総合上位を狙えるオールラウンダーも優勝候補に名を連ねる。

32カ所の登りをこなす登坂力と耐久力、そして最後のカウベルグでのパンチの効いたスプリント力が勝利への必須事項。レース終盤のアタックに反応し、最後まで先頭グループに食らいつくタフさが要求される。先頭グループでカウベルグに挑まない限りチャンスは回ってこない。

アンディ&フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)アンディ&フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:vueltapaisvasco.diariovasco.com優勝候補の筆頭は、昨年カウベルグでライバルたちを蹴散らし、初優勝に輝いたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)だ。

ジルベールは直前のブラバンツ・ペイルで優勝を飾っており、コンディションは上々。登坂力のあるユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー)がジルベールの連覇を支える。カウベルグでの勝負に持ち込まれれば、ジルベールのスプリントが炸裂するだろう。

ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック) photo:Cor Vosチーム力でオメガファーマ・ロットを凌駕しているのが、2006年大会覇者のフランク・シュレク(ルクセンブルク)擁するレオパード・トレックだ。2009年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ覇者アンディ・シュレク(ルクセンブルク)もラインナップに並ぶ。シュレク兄弟はこのアルデンヌ3連戦をシーズン前半の目標に掲げている。

レオパード・トレックはヤコブ・フグルサング(デンマーク)やファビアン・ウェーグマン(ドイツ)、マキシム・モンフォール(ベルギー)を揃えており、「北のクラシック」で見せた脆弱さは皆無。そして、その「北のクラシック」で苦い思いを経験したファビアン・カンチェラーラ(スイス)の参戦も予定されている。決してカンチェラーラ向きのコースとは言えないが、カンチェラーラの破壊力がレースを支配する可能性も。

ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:vueltapaisvasco.diariovasco.comレオパード・トレックにチーム力で対抗するのは、2009年大会覇者のセルゲイ・イワノフ(ロシア)擁するカチューシャ。登りに強いホアキン・ロドリゲス(スペイン)や2005年大会覇者ダニーロ・ディルーカ(イタリア)、そしてアレクサンドル・コロブネフ(ロシア)が控えており、カチューシャ史上最強のチームメンバーが揃っている。

地元オランダの期待を背負うのが、オランダチーム所属のオランダ人、ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)だ。ヘーシンクは2009年大会3位。しかし「連続する短い登りではなく、もっと長い登りが得意」と謙遜している。

ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) photo:A.S.O.同じオランダのヴァカンソレイユ・DCMやスキル・シマノは、オランダ最大のレースにベストメンバーを送り込む。ヴァカンソレイユ・DCMはブラバンツ・ペイル2位のビョルン・ルークマンス(ベルギー)とジョニー・フーガーランド(オランダ)が軸。積極的にレースを展開してくるだろう。

2003年大会覇者のアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)は、エンリーコ・ガスパロット(イタリア)らを従えての出場。昨年ヴィノクロフはリエージュを制覇。このアルデンヌ3連戦にコンディションを合わせているはずだ。

アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Cor Vos2008年大会覇者のダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)や、昨年大会2位のライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・サーヴェロ)も優勝候補の一角。期待されたカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は怪我により欠場する。

スペイン人選手初優勝を狙うサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)や伏兵ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)にも注目。落車やメカトラによってロンドとパリ〜ルーベを失ったクイックステップは、シルヴァン・シャヴァネル(フランス)をエースに送り込む。フランス人の優勝者は1981年のベルナール・イノー以来出ていない。

コースレイアウト的には、ワールドカード枠で出場するジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)向き。しかしヴィスコンティは直前に体調を崩し、4月13日の時点で38度の発熱。イタリアチャンピオンは、このアムステルに集中するために直前のレースを欠場している。

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

最新ニュース(全ジャンル)