バンクを走れる敷居の低い大会が、22回目を誇る京都向日町競輪場での春季普及大会だ。中学生からインターハイ、インカレで活躍する選手、実業団選手や競輪選手、そして女子競輪の選手も参加した大会はまさに運動会。いっぽうで存続問題に揺れるのもこのバンクだ。

スクラッチC1決勝、木村圭祐(京都産業大学)が優勝スクラッチC1決勝、木村圭祐(京都産業大学)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI普及大会に111名が参加
4月10日(日)、京都府向日市の京都向日町競輪場で第22回自転車競技春季普及大会が行われた。主催は京都府自転車競技連盟・京都府高体連自転車競技専門部、協力は日本競輪選手会京都支部だ。
この大会は京都府選手権や国体予選などとは違って記録会的意味合いを持ち、未登録者や中学生、他府県そしてプロアマ問わずに参加できる敷居の低いものだ。でもレースそのものは厳格に行われ、全国大会となんら変わりない緊張感のあるもの。
集まったサイクリストは111名。インターハイやインカレで活躍する選手、宇都宮ブリッツェンの辻善光ら実業団選手も。プロからは地元の競輪選手3名、そして5月に競輪学校へ入学する女子選手3名の姿も。

ケイリンC1決勝、畑段嵐士(同志社大学)が優勝ケイリンC1決勝、畑段嵐士(同志社大学)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGIスクラッチ 8km
C1クラス決勝は予選2組の上位者16名で行われた。辻善光(TeamZenko)がどう走るか注目された。スタートから木村圭祐(京都産業大学)がアタック、これに中西重智(龍谷大学)と尾上純二(チームチェブロ)が反応して3人で先行。集団と半周以上開いたところで辻が抜け出し追走。しかし前の3人はペースを上げたままで、辻はあと20mが届かず集団へ戻る。先頭の3人は集団をラップ後、中西が再び先頭に出るが、ゴールは木村が先着して優勝。ラップ組3人以外では、入学してまだ数日の鍵本大地(京都産業大学)が先頭ゴールで4位に。
辻の飛び出しと加速も鋭かったが、先頭の3人がそれに合わせて追いつかせない走りに歓声が上がる、見ごたえのあるレースに。

4km速度決勝C1、中西重智(龍谷大学)が抜け出す4km速度決勝C1、中西重智(龍谷大学)が抜け出す photo:Hideaki.TAKAGIケイリン
C1は予選3組の上位者6名で行われた。岡山・水島工業高校勢2名が先行、最終周回へ入るが、ここで3番手につけていた畑段嵐士(同志社大学)が抜け出し大差をつけて優勝。昨年の全日本トラック・スクラッチチャンピオンの意地を見せた。

4km速度競走
C1は序盤に大菅順弥(同志社大学)らが先頭責任を取るが、中盤から中西が単独抜け出すと集団はお見合い状態に。結局中西はレース半分の距離を逃げ切って優勝。

1kmタイムトライアル
やや風があるコンディションだったが好タイムが多く出た。岡山から出場の高校生、原田裕成(水島工業高校)が1分08秒937を出してトップタイムに。
1kmTT、原田裕成(水島工業高校)1分08秒937の好タイム1kmTT、原田裕成(水島工業高校)1分08秒937の好タイム photo:Hideaki.TAKAGI後半、山岸正教(日本競輪選手会京都支部)が1分06秒613をたたき出し、さすがの走りに場内から歓声が上がる。山岸は「実は自身のベストタイム。年間最低1回は1kmTTを走っています。自転車競技の要素が凝縮された種目なので。だいぶテクニックでカバーしていますが」と語る。まだまだ進化を続ける37歳のS級1班だ。

3km個人追抜きには豊岡英子(パナソニックレディース)が出場。4分08秒30とまずまずのタイム。
500mTTには女子競輪に合格した白井美早子が38秒29、中山麗敏は40秒41のタイム。同じく会場に来ていた近内稚明とともに、5月から日本競輪学校へ入学する。デビューは2012年春の予定だ。

ポイントレース 24km
C1は26人でスタート。この日最もエキサイトしたレースだ。辻に加え、競輪選手の山田久徳と窓場千加頼(日本競輪選手会京都支部)が出場。さらに昨年のインカレ同種目5位の中西、そして京都産業大学勢が出場。普及大会とは思えないほど豪華な顔ぶれだ。
序盤から山田が積極的に切れ味鋭く仕掛ける。中盤で木村、山田、中西の3人が抜け出し集団をラップする。終盤に木村と吉岡直哉(京都産業大学)が抜け出し木村が優勝。木村はスクラッチと合わせて2勝目。
ポイントレースC1、優勝の木村圭祐(京都産業大学)ポイントレースC1、優勝の木村圭祐(京都産業大学) photo:Hideaki.TAKAGI

トラックレースは自転車競技の基本
普及大会にもかかわらず111名が参加したトラックレース。みんなレースを心待ちにしていた。京都を含む関西では、トラック、ロード、シクロクロスを掛け持ちで走る選手が非常に多い。トップレベルや大学勢はもちろんだが、C2以下のクラスでも多く、むしろトラック専門は少数派。
自転車競技でのトラックは基本とも言われているが、ペダリングや位置取りなどは重要だ。そして忘れてはならないのはトラック独特の緊張感だろう。挨拶に始まりトラック内では誰もが一定の緊張感のもと準備し走る。いまや自転車人口が増えて裾野が広がりハードルが下がった。でも何をやってもいいということではない。スポーツとして自転車に乗るならば、トラックの経験は必要ともむしろ言える。

積極的な活動を続ける山岸正教(日本競輪選手会京都支部)。京都産業大学のコーチでもある積極的な活動を続ける山岸正教(日本競輪選手会京都支部)。京都産業大学のコーチでもある photo:Hideaki.TAKAGI「本物の走りが若い人の目標になれたら」山岸正教(日本競輪選手会京都支部)
当日の1kmTTでベストタイムを出した山岸は京都産業大学出身のS級1班37歳の競輪選手。在学時は4km速度競走を得意とした頭脳派の選手だ。普段の競輪選手としての活動以外に多方面でも行動している。昨年のツアー・オブ・ジャパンでは学生選抜チームにメカニックとして帯同。毎年2回向日町競輪場で開いている子ども自転車教室(ウィーラースクール)を全国に先駆けて競輪場で開催。そして今回の東日本大震災にあたっては、3月におこなった募金やチャリティーオークション活動の発起人となった。

その山岸はこう語る。
「競輪選手が国内で自転車競技をするには、実業団登録して走るのもひとつの方法。僕たちは実業団登録をしておらず、今回は京都府車連が参加を受け入れてくれたので出場している。京都は自転車競技が好きな競輪選手が多く関心が高い。本業の競輪にもプラスになる。自分含めて3人出たが、本物の走りを見てもらえることはいいこと。若い人の目標になるかもしれない」
1kmTT、山岸正教(日本競輪選手会京都支部)1分06秒6131kmTT、山岸正教(日本競輪選手会京都支部)1分06秒613 photo:Hideaki.TAKAGI「競輪場は自転車競技場の要素も大きい。ギャンブル施設としか捉えられないのは違うと思う。高校生や大学生などの夢を発揮する場所だ。アマチュアもプロもお互いに出て交流する。京都府代表選手のジャージを今は村上兄弟など競輪選手も着ている。そこで憧れの存在になればと思う」
「自身の競輪選手として考えることは、まずはいいレースをして盛り上げること。京都所属の選手は、S級1班が他所の倍ほどの20%いるところ。レースで本来やるべきことはやっているところと感じている」
「子供自転車教室(ウィーラースクール)も、競輪場のあり方として競輪界に投げかけることができたかなと思う」

普及大会に111名も集まった裏には、連盟そして山岸など競輪選手の努力がある。


存続問題に揺れる京都向日町競輪場
京都向日町競輪事業検討委員会は、昨年に京都府に対し事業廃止を求める提言をまとめた。現状において決定事項ではないが、もし廃止ならば2012年度以降と見られている。
このことに関し、京都府自転車競技連盟の声かけで「向日町競輪場を考えるシンポ」として4月に2回の勉強会が開かれた。
5月から競輪学校へ入学する女子競輪の白井美早子と近内稚明。このあとすぐにバンク練習へ5月から競輪学校へ入学する女子競輪の白井美早子と近内稚明。このあとすぐにバンク練習へ photo:Hideaki.TAKAGIシンポジウムは自由参加だが、京都府自転車競技事務所長や同従事員、選手会、連盟、関係企業、議員、府民、メディアなどさまざまな立場の人たちが出席。現状や問題点を認識、意見交換などおこなった。

その場での資料(数字は過去5年分のみ)や話などからわかる事実は次のとおりだ。
・車券売り上げ収入は減少傾向。161.7億円から139.6億円へ
・事業収支は平成21年度のみ赤字約3200万円。それ以前は4億8000万円から6000万程度の黒字。
・収支は特別競輪の開催などで大きく変動する。他場も同じく
・京都府への繰り出しは平成21年度のみ8億円。それ以前9年間はゼロ
・本来出す規程のない向日市へは、環境整備金として9000万円から4000万円を毎年拠出。平成21年度は4000万円
・従事員(事務所雇用)はピーク時の約700人から現在66人(延べ数)へ削減してきた
・全国で震災復興費へ10%を拠出決定
・平成15年度から民間包括委託が可能となった。12場実施済み
・全国から見た向日町は、平成21年度は収支およそゼロのグループ内。しかしそれ以前は黒字グループ内
・繰越金(=今までの貯金)は12億円から18億円程度だったが、平成21年度にここから京都府へ8億円が繰り出され10億円になった。いっぽうで仮に向日町競輪場を閉鎖するとき、撤去費用や退職金などで合計10億円は必要(事務所長)とのこと

4月に2回行われた「向日町競輪場を考えるシンポ」4月に2回行われた「向日町競輪場を考えるシンポ」 photo:Hideaki.TAKAGIこれらは一部だが、全体を通して感じられることは、向日町競輪場を今すぐに閉鎖する理由がない、ということ。
確かに昨年度だけは赤字だが、それでも145億の収入に対しての0.3億と小さい。それ以前は黒字で(2000年前後5年間は赤字)、京都府へも向日市へも財政的に貢献してきた。特別競輪を誘致するなど事務所の努力も大きく影響し、今後黒字に転向する可能性もある。全国のなかで収益性が悪いというほどでもない。そして昨年度府への8億円の繰り出しによって、「これ以上赤字を出すと府財政から廃止費用を出すことになる」状況に追い込まれたとみることもできる。
普通に調べれば、廃止という言葉が出てくるほうがむしろ不自然に思えてくる。

加えて向日町競輪場は、京都府自転車競技連盟や日本競輪選手会京都支部の行動で、おそらく全国一アマチュアや子供達に使われている競輪場と言っても支障ないだろう。
隣接する滋賀県大津市の大津びわこ競輪場がこの3月で廃止されたいま、ファンや選手たちはどこへ行けばいいのか。
全国の競輪場すべてを廃止することがすでに決定しているのならば話は別だが。

photo&text:高木秀彰

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