2010/10/04(月) - 16:25
トレックというとランス・アームストロングが駆るバイクブランド。そして「マドン」というその冠名が自然に浮かんでくる。バイクスポンサーが変わったものの、アルベルト・コンタドールがマドンに乗ってツール・ド・フランスを制したのは2009年のことだ。
そんなトレックマドンのセカンドグレード、5シリーズ『マドン5.2』が今回インプレッションするバイクだ。
トレック マドン5.2 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
軽量化と剛性を高めたBB90。快適性と軽さを追求したライドチューンドシートマスト。フレーム内にスピード・ケイデンス用センサーを内蔵できるデュオトラップなど、5シリーズはフラッグシップモデルである6シリーズにも使われているこれらの技術を多く受け継いでいる。
また前モデルと大きく変わったのがOCLVカーボンからTCTカーボンに変更されたこと。そして値段が480,000円(完成車・税込み)から399,000円(完成車・税込み)に引き下げられたことだろう。
ケーブルは内蔵式。ヘッドとダウンチューブからフレーム内に入っていく
太いダウンチューブはいかにも高いい剛性感を予感させる
特にOCLVから変更したTCTカーボンは気になる素材だ。TREK Carbon Technologyの頭文字をとったこのTCTカーボン。OCLV同様、開発とテストをトレック本社のカーボン施設で行い、業界でも厳格とされている26項目のトレック独自テストをパスできる品質を保っている。
その上で製造のみを海外で行うことでコストパフォーマンスも高めている素材となっている。前モデルと同名でだしてくる以上、自信のある素材と見ていいだろう。
ボントレガーRXLのロゴが入るスッキリとシャープなフォーク
グラフィックはトレックらしいアメリカンなシャープさがある
ライドチューンドシートマストはシートマストをカットしなくていいのも特徴 丸断面で扱いやすい
もともとOCLVカーボンは軍需産業用途にも使われる超高品質カーボン素材であるため、素材自体を海外へ輸出することは国家レベルで許されていないという。しかし価格を下げて一般コンシュマーに購入しやすい価格で提供するためには、OCLVでない製法で海外で生産するしかない。
しかしOCLVで蓄積したノウハウをもとに生産するトレックのTCTカーボンが、OCLVのその高性能を受け継いでいることは想像に難くない。むしろ、アメリカ生産の高人件費というコスト面で避けられないデメリットをクリアし、その高性能を誰もが享受できるようになったという面を喜びたいものだ。
各種センサーが内蔵できるデュオトラップは非常に便利な機能だ
見るからに太いBB90とその周り BB小物が不要なのも軽量化と安定感アップにつながる
マドン5.2は完成車販売なので、フレーム以外の大きな変更点も見ていこう。ホイールが前モデルのボントレガー・レースライトからボントレガー・レースに変更になっている。グレード差が大きいので気になるところかもしれない。そのほかはメインコンポはシマノ・アルテグラで共通であること等、目立った違いは見あたらない。
OCLVからTCTカーボンに変更されたことを示すステッカー。しかし中身はほぼ変わらない高品質
シートステーは力強いストレート形状 リアエンド部からケーブルが出る
ダウンチューブに内蔵されたケーブルがBB下で少しだけ顔を出す
ホイールの変更は価格引き下げに大きく関わっていそうだが、逆に好みのでやすい部分でもあるので、この変更を気にするライダーもいるだろう。それではインプレッションに入ろう。
ちなみに今回インプレを担当する西谷雅史さんと三上和志さんはともにマドン6.9プロのインプレも担当し、最高の評価を出したふたり。だからふたりとも5.2への期待度、そしてチェックする姿勢は格別なものがあったことを付け加えておきたい。
—インプレッション
「先進的かつターゲットどおりの仕上がりを感じる」 西谷雅史(オーベスト)
「先進的かつターゲットどおりの仕上がりを感じる」 西谷雅史 全体的な印象として優等生なバイクだ。どこをとってもそつなくこなしてくれる。それにトレックらしい振りの軽さとダンシングのしやすさ、そこからくる上りの軽さもあって、トレックの特徴がよくでているバイクだ。
そして太いダウンチューブと見るからに大きなBB90、そのBB周り。これだけ見ても硬いバイクであると感じさせる。なのに硬さを感じさせない。硬いハズなのにソフトな踏み心地で、入力がすべて推進力になっている感じがする。この硬さを感じさせない造りにはトレックの技術力の高さを感じさせる。
コーナリングも全体に1本芯が通っている感じで気持ちがいい。オーバーステアにもアンダーステアにもならないハンドリングで、綺麗なラインをとることができる。フォークの設計がよくないと、こうはいかない。
嫌なクセもなく、不得手を感じさせるところもない。扱いやすくトータルバランスが非常にいいバイクだ。誰が乗っても不満を感じることはないだろう。
とても優秀なのでこれといった不満点はないのだが、あえて不満になるようなポイントを挙げるなら「高速域での伸びのなさ」くらいだ。振りの軽いいわゆる“ヒラヒラした感じ”なのだが、安定させて踏み込んでいくと今ひとつ伸びない。
ただ、これはあくまで高速域での話。この5シリーズのメインターゲットとなるであろう中級くらいのライダーはそこまで求めていないだろう。むしろそこまで求めるなら、フラッグシップである6シリーズにいくべきだ。6シリーズならこの要望もしっかり満たしてくれる。
しかし、精いっぱい探してもそのくらいしか不満点がないので、6シリーズのフレーム価格までを考えると、このマドン5.2完成車のコストパフォーマンスはとても高い。曖昧なグレード分けではなく、しっかりと振り分けられたグレードである理由がある。このようによく考えられたラインナップは購入検討時にありがたい。
メーター類のセンサーを内蔵できる機構やDi2電動シフトに対応しているなど、走り以外の部分でもやってくることにそつがない。最近求められているトレンドの構造がすべてしっかり入っている。
これらを評価に加味すると、マドン5.2は先進的でいてターゲットユーザーに適したカタチでしっかり造りこまれたバイクと言えるだろう。どんな使い方でも高い水準で満足できる1台だ。
「バイクが自分の乗り方に合わせてくれるフレンドリーな1台」 三上和志(サイクルハウスミカミ)
BB90やライドチューンドシートマストなどを受け継いでいるので、見た目のうえでは6シリーズと変わらない。乗り味もオールマイティなクセのないトレックらしいバイクになっている。
どんなシチュエーションでも安心して乗ることができる。それに頑張りたいときにも、疲れてしまったときでも、性能を発揮してくれるバイクだ。
「バイクが自分の乗り方に合わせてくれるフレンドリーな1台」 三上和志
低速での乗りやすさや高速域での強い入力に対してよく伸びてくれる6シリーズのような爆発力はない。しかし、入力を逃さないしなやかさをしっかり持っているこの5シリーズは、ほかのブランドのトップグレードで肩を並べるものがあってもおかしくない。脚質によってはそういった実力の近い他ブランドのトップグレードバイクよりも、こちらのほうが向いているライダーがいても不思議じゃない。それだけの実力を持っている。
そもそもコストがまったく違う6シリーズとくらべるのはナンセンスだ。しかし、そうでもしないとこの5シリーズの特徴的なものを指摘するのは難しい。これといった欠点がどこにも見つからず、バランスよく仕上がっている。
劣っている点がもしあれば、それを補う部分がフィーチャーされて具体的に乗り方や使い方を提案できるが、このマドン5.2はそれがない。欠点があるとすればこの“特徴が見あたらないこと”くらいだろうか(笑)?。
しかし、この、どんな乗り方もできるからこそ自分の乗り方にバイクが合わせてくれるというフレンドリーな性格はマドン5.2の武器だ。ストレスがないので、疲れたときには「このバイクにしてよかった」と心底思えるだろう。
もちろんツーリングからレースまであらゆる使い方ができる万人向けのデキだ。だからいろいろ試して何が自分に向いているのかを探すのに適した1台と言える。「いろいろな用途に使える優秀なバイクに乗りたい」という人には特にオススメだ。
フルカーボンでアルテグラの完成車。この条件でマドン5.2より安く提供されているものは世の中にある。しかしカタログスペックには表れないフレーム性能の良さをこのバイクは確実に持っている。選んで後悔することはないだろう。
トレック マドン5.2 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
トレック マドン5.2
フレーム 5シリーズTCTカーボン
フォーク ボントレガーレースXライト
ホイール ボントレガーレース
タイヤ ボントレガーR3 700×23C
コンポ シマノアルテグラ
カラー Trek Red/Onyx Carbon (チームカラー)
サイズ 50、52、54、56、58
希望小売価格(税込み) 399,000円(完成車)
インプレライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント・オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト
三上和志(サイクルハウスMIKAMI) 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI
ウェア協力:ルコック・スポルティフ
photo:Makoto.Ayano
text:Kiichi.Gotoda
そんなトレックマドンのセカンドグレード、5シリーズ『マドン5.2』が今回インプレッションするバイクだ。
軽量化と剛性を高めたBB90。快適性と軽さを追求したライドチューンドシートマスト。フレーム内にスピード・ケイデンス用センサーを内蔵できるデュオトラップなど、5シリーズはフラッグシップモデルである6シリーズにも使われているこれらの技術を多く受け継いでいる。
また前モデルと大きく変わったのがOCLVカーボンからTCTカーボンに変更されたこと。そして値段が480,000円(完成車・税込み)から399,000円(完成車・税込み)に引き下げられたことだろう。
特にOCLVから変更したTCTカーボンは気になる素材だ。TREK Carbon Technologyの頭文字をとったこのTCTカーボン。OCLV同様、開発とテストをトレック本社のカーボン施設で行い、業界でも厳格とされている26項目のトレック独自テストをパスできる品質を保っている。
その上で製造のみを海外で行うことでコストパフォーマンスも高めている素材となっている。前モデルと同名でだしてくる以上、自信のある素材と見ていいだろう。
もともとOCLVカーボンは軍需産業用途にも使われる超高品質カーボン素材であるため、素材自体を海外へ輸出することは国家レベルで許されていないという。しかし価格を下げて一般コンシュマーに購入しやすい価格で提供するためには、OCLVでない製法で海外で生産するしかない。
しかしOCLVで蓄積したノウハウをもとに生産するトレックのTCTカーボンが、OCLVのその高性能を受け継いでいることは想像に難くない。むしろ、アメリカ生産の高人件費というコスト面で避けられないデメリットをクリアし、その高性能を誰もが享受できるようになったという面を喜びたいものだ。
マドン5.2は完成車販売なので、フレーム以外の大きな変更点も見ていこう。ホイールが前モデルのボントレガー・レースライトからボントレガー・レースに変更になっている。グレード差が大きいので気になるところかもしれない。そのほかはメインコンポはシマノ・アルテグラで共通であること等、目立った違いは見あたらない。
ホイールの変更は価格引き下げに大きく関わっていそうだが、逆に好みのでやすい部分でもあるので、この変更を気にするライダーもいるだろう。それではインプレッションに入ろう。
ちなみに今回インプレを担当する西谷雅史さんと三上和志さんはともにマドン6.9プロのインプレも担当し、最高の評価を出したふたり。だからふたりとも5.2への期待度、そしてチェックする姿勢は格別なものがあったことを付け加えておきたい。
—インプレッション
「先進的かつターゲットどおりの仕上がりを感じる」 西谷雅史(オーベスト)
そして太いダウンチューブと見るからに大きなBB90、そのBB周り。これだけ見ても硬いバイクであると感じさせる。なのに硬さを感じさせない。硬いハズなのにソフトな踏み心地で、入力がすべて推進力になっている感じがする。この硬さを感じさせない造りにはトレックの技術力の高さを感じさせる。
コーナリングも全体に1本芯が通っている感じで気持ちがいい。オーバーステアにもアンダーステアにもならないハンドリングで、綺麗なラインをとることができる。フォークの設計がよくないと、こうはいかない。
嫌なクセもなく、不得手を感じさせるところもない。扱いやすくトータルバランスが非常にいいバイクだ。誰が乗っても不満を感じることはないだろう。
とても優秀なのでこれといった不満点はないのだが、あえて不満になるようなポイントを挙げるなら「高速域での伸びのなさ」くらいだ。振りの軽いいわゆる“ヒラヒラした感じ”なのだが、安定させて踏み込んでいくと今ひとつ伸びない。
ただ、これはあくまで高速域での話。この5シリーズのメインターゲットとなるであろう中級くらいのライダーはそこまで求めていないだろう。むしろそこまで求めるなら、フラッグシップである6シリーズにいくべきだ。6シリーズならこの要望もしっかり満たしてくれる。
しかし、精いっぱい探してもそのくらいしか不満点がないので、6シリーズのフレーム価格までを考えると、このマドン5.2完成車のコストパフォーマンスはとても高い。曖昧なグレード分けではなく、しっかりと振り分けられたグレードである理由がある。このようによく考えられたラインナップは購入検討時にありがたい。
メーター類のセンサーを内蔵できる機構やDi2電動シフトに対応しているなど、走り以外の部分でもやってくることにそつがない。最近求められているトレンドの構造がすべてしっかり入っている。
これらを評価に加味すると、マドン5.2は先進的でいてターゲットユーザーに適したカタチでしっかり造りこまれたバイクと言えるだろう。どんな使い方でも高い水準で満足できる1台だ。
「バイクが自分の乗り方に合わせてくれるフレンドリーな1台」 三上和志(サイクルハウスミカミ)
BB90やライドチューンドシートマストなどを受け継いでいるので、見た目のうえでは6シリーズと変わらない。乗り味もオールマイティなクセのないトレックらしいバイクになっている。
どんなシチュエーションでも安心して乗ることができる。それに頑張りたいときにも、疲れてしまったときでも、性能を発揮してくれるバイクだ。
低速での乗りやすさや高速域での強い入力に対してよく伸びてくれる6シリーズのような爆発力はない。しかし、入力を逃さないしなやかさをしっかり持っているこの5シリーズは、ほかのブランドのトップグレードで肩を並べるものがあってもおかしくない。脚質によってはそういった実力の近い他ブランドのトップグレードバイクよりも、こちらのほうが向いているライダーがいても不思議じゃない。それだけの実力を持っている。
そもそもコストがまったく違う6シリーズとくらべるのはナンセンスだ。しかし、そうでもしないとこの5シリーズの特徴的なものを指摘するのは難しい。これといった欠点がどこにも見つからず、バランスよく仕上がっている。
劣っている点がもしあれば、それを補う部分がフィーチャーされて具体的に乗り方や使い方を提案できるが、このマドン5.2はそれがない。欠点があるとすればこの“特徴が見あたらないこと”くらいだろうか(笑)?。
しかし、この、どんな乗り方もできるからこそ自分の乗り方にバイクが合わせてくれるというフレンドリーな性格はマドン5.2の武器だ。ストレスがないので、疲れたときには「このバイクにしてよかった」と心底思えるだろう。
もちろんツーリングからレースまであらゆる使い方ができる万人向けのデキだ。だからいろいろ試して何が自分に向いているのかを探すのに適した1台と言える。「いろいろな用途に使える優秀なバイクに乗りたい」という人には特にオススメだ。
フルカーボンでアルテグラの完成車。この条件でマドン5.2より安く提供されているものは世の中にある。しかしカタログスペックには表れないフレーム性能の良さをこのバイクは確実に持っている。選んで後悔することはないだろう。
トレック マドン5.2
フレーム 5シリーズTCTカーボン
フォーク ボントレガーレースXライト
ホイール ボントレガーレース
タイヤ ボントレガーR3 700×23C
コンポ シマノアルテグラ
カラー Trek Red/Onyx Carbon (チームカラー)
サイズ 50、52、54、56、58
希望小売価格(税込み) 399,000円(完成車)
インプレライダーのプロフィール
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI
ウェア協力:ルコック・スポルティフ
photo:Makoto.Ayano
text:Kiichi.Gotoda
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