2010/10/01(金) - 00:23
ファビアン・カンチェラーラ(スイス)が姿を現すと、それまでポルトの力走に沸いていたオージーたちの歓声のトーンが明らかに下がった。2分後にスタートしたはずのカンチェラーラが、リッチー・ポルト(オーストラリア)の1分後方にまで迫っている・・・。終わってみれば下位を1分以上引き離す圧勝。ブエルタを後味の悪い形で去ったカンチェラーラが、4度目の世界タイトルを手にした。
2年連続・4度目の世界タイトルを手にしたスパルタクス
9月29日にオーストラリア・ジーロングで開幕したロード世界選手権。自分は開幕前日の9月28日に現地入りし、世界各国から集まったジャーナリストやフォトグラファーに紛れて仕事をしている。世界選手権だけに、選手だけでなく報道陣の層も厚い。
ヨーロッパから来た報道陣は時差ボケが抜けていないので、夕方になるとアクビを連発している。毎日眠くなる時間帯にレースが加熱するので相当キツいらしい。幸い自分は時差1時間の日本人なので時差ボケの心配は無い。
実際にコースに繰り出してみて分かったこと。個人タイムトライアルのコースは予想以上に上りが長くて厳しい。U23とエリート女子の中には蛇行して前に進まない選手もいたほど。しかも丘の一帯は風が吹き付けるため、ディスクホイールを履いていると気が抜けない。
しかも路面の舗装は荒い。ヨーロッパで開催される場合は、わざわざ舗装し直されていることが多いのだが、ここオーストラリアではそんな気配が全く無い。寒暖の差が大きいため路面が痛みやすく、継ぎはぎだらけのアスファルトは凸凹。非常にセンシティブなコース設定だ。
前日のU23とエリート女子の個人タイムトライアルは気象条件が選手たちの走りに大きく影響したが、この日は幸い一日中曇りで気象条件はほぼ一定。最終走者カンチェラーラは、いつも通り前半から飛ばさず、抑え気味にスタートした。
ファインダー越しに見る彼は、まだまだ力をセーブしている感じだ。どこでスイッチを入れようかウズウズしているようにも見えた。
今年から無線機の使用が禁止されているため、監督はチームカーに付けられた拡声器を通して選手を鼓舞し、そしてラップタイム等を伝える。つまり、コース上に「アレ!アレ!」や「ベンガ!ベンガ!」「ダイ!ダイ!」「グーッド!グッドペース!メイト!」「○×△□!○×△□!」という優しい罵声が響き渡る(それを観客が笑いながら真似する)。
しかしスイスチームはラップタイムなどの必要最低限の情報をカンチェラーラに伝えるのみ。その大人しさが、逆に不気味な雰囲気を醸し出した。
1周目の時点で、カンチェラーラはデーヴィット・ミラー(イギリス)を上回ってトップに立った。そこからはもう全開スイッチが入った超特急。もう誰にも止められない。2分前にスタートした前走者のポルトに追いつかんばかりの勢いで上りを駆け上がり、下りを爆走した。
最終走者カンチェラーラを2つ目の上りで撮影し、コース上に散らばったフォトグラファーを収容するプレスバンに飛び乗って超特急を追いかける。そこで、コーナーをズバズバ切って行くその鬼気迫る走りに圧倒された。カンチェラーラの速さの秘密の一つに、その卓越したコーナリング技術があることを痛感した。
ブエルタで見せ場を作れずにリタイアし、一時は世界選手権欠場も考えていたカンチェラーラ。しかし蓋を開けれ見ると「調子が悪いのでは?」という周囲の声を一蹴する圧勝だった。「今までの勝利の中で最も難しかった」と語りながらも、下位を1分以上引き離す圧倒的な走りで4度目の頂点に立った。
上りが厳しいコースでの圧勝は、3日後のロードレースへの布石だ。個人タイムトライアルとロードレースは、最初の上り区間と後半の平坦区間のレイアウトが少し異なるのみ。ロードレース優勝候補の中で、カンチェラーラが最もコースを知り尽くしていると言っても過言ではないだろう。いよいよダブルタイトルが現実味を帯びてきた?
ちなみにカンチェラーラのバイクは黒と金の特別仕様。フレームやホイールはもちろんのこと、よく見るとスピードプレイのペダルまで黒と金。喜びに沸くスイスのメカニック曰く、シートチューブが湾曲しているためモーターを内蔵しにくいとのこと。
ジーロングに宿泊して調整を続ける日本チーム
9月27日に現地入りした日本チームは、ジーロング中心部、ゴール地点から300mほど離れたホテルに宿泊している。フランスチームやポルトガルチームと同ホテルで、UCIのスタッフも宿泊している。しっかりとした高級ホテルなので、そこでマッタリしていると自分の安宿に帰りたくなくなる。
9月29日には日本代表メンバー7名揃ってジーロングから南方へ5時間のトレーニングライドへ。カーペーサーを含めて180kmのトレーニング。9月30日には3時間ほどのトレーニングをこなした。
どの選手も予想以上の寒さと風の強さに驚いている様子。しかしエリートの3名、新城幸也、別府史之、土井雪広はトップレースへの出場経験が豊かなだけにリラックスした表情を浮かべる。それぞれの言葉の節々に調子の良さを感じとることが出来る。3名のコメントは後ほど別ページでお伝えします。
新城と土井は日本経由(と言っても日本滞在は数日)、別府は24時間かけてヨーロッパからオーストラリアに降り立った。旅慣れている3名なので移動の疲れは少ないようだが、ヨーロッパと10時間の時差があるため、まだ時差ボケが抜け切れていない様子だ。
3つの個人タイムトライアルを終え、いよいよロードレースが始まる。10月1日はU23のロードレース。日本から小森亮平(ヴァンデU)、平塚吉光(シマノレーシング)、内間康平(鹿屋体育大学)の3名が出陣する。
text&photo:Kei Tsuji in Geelong, Australia
2年連続・4度目の世界タイトルを手にしたスパルタクス
9月29日にオーストラリア・ジーロングで開幕したロード世界選手権。自分は開幕前日の9月28日に現地入りし、世界各国から集まったジャーナリストやフォトグラファーに紛れて仕事をしている。世界選手権だけに、選手だけでなく報道陣の層も厚い。
ヨーロッパから来た報道陣は時差ボケが抜けていないので、夕方になるとアクビを連発している。毎日眠くなる時間帯にレースが加熱するので相当キツいらしい。幸い自分は時差1時間の日本人なので時差ボケの心配は無い。
実際にコースに繰り出してみて分かったこと。個人タイムトライアルのコースは予想以上に上りが長くて厳しい。U23とエリート女子の中には蛇行して前に進まない選手もいたほど。しかも丘の一帯は風が吹き付けるため、ディスクホイールを履いていると気が抜けない。
しかも路面の舗装は荒い。ヨーロッパで開催される場合は、わざわざ舗装し直されていることが多いのだが、ここオーストラリアではそんな気配が全く無い。寒暖の差が大きいため路面が痛みやすく、継ぎはぎだらけのアスファルトは凸凹。非常にセンシティブなコース設定だ。
前日のU23とエリート女子の個人タイムトライアルは気象条件が選手たちの走りに大きく影響したが、この日は幸い一日中曇りで気象条件はほぼ一定。最終走者カンチェラーラは、いつも通り前半から飛ばさず、抑え気味にスタートした。
ファインダー越しに見る彼は、まだまだ力をセーブしている感じだ。どこでスイッチを入れようかウズウズしているようにも見えた。
今年から無線機の使用が禁止されているため、監督はチームカーに付けられた拡声器を通して選手を鼓舞し、そしてラップタイム等を伝える。つまり、コース上に「アレ!アレ!」や「ベンガ!ベンガ!」「ダイ!ダイ!」「グーッド!グッドペース!メイト!」「○×△□!○×△□!」という優しい罵声が響き渡る(それを観客が笑いながら真似する)。
しかしスイスチームはラップタイムなどの必要最低限の情報をカンチェラーラに伝えるのみ。その大人しさが、逆に不気味な雰囲気を醸し出した。
1周目の時点で、カンチェラーラはデーヴィット・ミラー(イギリス)を上回ってトップに立った。そこからはもう全開スイッチが入った超特急。もう誰にも止められない。2分前にスタートした前走者のポルトに追いつかんばかりの勢いで上りを駆け上がり、下りを爆走した。
最終走者カンチェラーラを2つ目の上りで撮影し、コース上に散らばったフォトグラファーを収容するプレスバンに飛び乗って超特急を追いかける。そこで、コーナーをズバズバ切って行くその鬼気迫る走りに圧倒された。カンチェラーラの速さの秘密の一つに、その卓越したコーナリング技術があることを痛感した。
ブエルタで見せ場を作れずにリタイアし、一時は世界選手権欠場も考えていたカンチェラーラ。しかし蓋を開けれ見ると「調子が悪いのでは?」という周囲の声を一蹴する圧勝だった。「今までの勝利の中で最も難しかった」と語りながらも、下位を1分以上引き離す圧倒的な走りで4度目の頂点に立った。
上りが厳しいコースでの圧勝は、3日後のロードレースへの布石だ。個人タイムトライアルとロードレースは、最初の上り区間と後半の平坦区間のレイアウトが少し異なるのみ。ロードレース優勝候補の中で、カンチェラーラが最もコースを知り尽くしていると言っても過言ではないだろう。いよいよダブルタイトルが現実味を帯びてきた?
ちなみにカンチェラーラのバイクは黒と金の特別仕様。フレームやホイールはもちろんのこと、よく見るとスピードプレイのペダルまで黒と金。喜びに沸くスイスのメカニック曰く、シートチューブが湾曲しているためモーターを内蔵しにくいとのこと。
ジーロングに宿泊して調整を続ける日本チーム
9月27日に現地入りした日本チームは、ジーロング中心部、ゴール地点から300mほど離れたホテルに宿泊している。フランスチームやポルトガルチームと同ホテルで、UCIのスタッフも宿泊している。しっかりとした高級ホテルなので、そこでマッタリしていると自分の安宿に帰りたくなくなる。
9月29日には日本代表メンバー7名揃ってジーロングから南方へ5時間のトレーニングライドへ。カーペーサーを含めて180kmのトレーニング。9月30日には3時間ほどのトレーニングをこなした。
どの選手も予想以上の寒さと風の強さに驚いている様子。しかしエリートの3名、新城幸也、別府史之、土井雪広はトップレースへの出場経験が豊かなだけにリラックスした表情を浮かべる。それぞれの言葉の節々に調子の良さを感じとることが出来る。3名のコメントは後ほど別ページでお伝えします。
新城と土井は日本経由(と言っても日本滞在は数日)、別府は24時間かけてヨーロッパからオーストラリアに降り立った。旅慣れている3名なので移動の疲れは少ないようだが、ヨーロッパと10時間の時差があるため、まだ時差ボケが抜け切れていない様子だ。
3つの個人タイムトライアルを終え、いよいよロードレースが始まる。10月1日はU23のロードレース。日本から小森亮平(ヴァンデU)、平塚吉光(シマノレーシング)、内間康平(鹿屋体育大学)の3名が出陣する。
text&photo:Kei Tsuji in Geelong, Australia
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