2010年9月4日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第8ステージが行なわれ、逃げグループからゴール手前の1級山岳ソレット・デル・カティ峠で飛び出したダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)が優勝。総合争いはメンショフやシュレクが遅れる波乱の展開で、イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)がマイヨロホを手にした。

最大8分のリードを得たヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)やダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)らの逃げグループ最大8分のリードを得たヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)やダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)らの逃げグループ photo:Unipublicレース8日目にしてブエルタ最初の本格的な山岳コースが登場。設定されたカテゴリー山岳は合計5つで、3級、2級、2級、2級、1級とゴールが近づくにつれて難易度が上がる。最後の1級山岳は最大勾配が22%に達する激坂ソレット・デル・カティ峠だ。

前日にマッサーのゴンザレス氏が急死したことを受け、チームスカイはブエルタから撤退した。レースに残っていたロヴクヴィスト(スウェーデン)、カールストローム(フィンランド)、ジェランス(オーストラリア)、ケノー(イギリス)、ノルダーグ(ノルウェー)、スタナード(イギリス)のブエルタが終わった。

山岳地帯を進むプロトン山岳地帯を進むプロトン photo:Cor Vosまた、スタート前にはチームスカイの選手たちを中心にゴンザレス氏を追悼するセレモニーが行なわれ、同氏に捧げる1分間の黙祷。チーム間の合意によって、この日の賞金は全て遺族に捧げられることが決まった。

スタート後しばらくして、集団前方ではステージ優勝と山岳賞ジャージを懸けたアタック合戦が本格化。スピードが上がった集団内ではマイヨロホを着るフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)、ダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ)、デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)を含む大落車が発生し、多くの選手が集団から脱落してしまう。

逃げグループ内で下りを進むダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)逃げグループ内で下りを進むダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス) photo:Cor Vosこの落車の影響で最初のスプリントポイントはキャンセル。先頭通過したホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)のボーナスタイムはカウントされなかった。

結局ジルベールらが集団に復帰するころには、ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)とヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)がアタックを成功させて先行。3年連続山岳賞を狙うモンクティエの目論みを阻止しようと、メイン集団からは山岳賞ジャージのセラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)が飛び出した。

マルティネスはホセルイス・アリエッタ(スペイン、アージェードゥーゼル)とアッサン・バザイエフ(カザフスタン、アスタナ)を引き連れて先頭2名に合流。こうしてレース序盤のアタック合戦は終わりを告げた。

最後から2つ目の2級山岳カラスケタ峠でペースが上がったメイン集団最後から2つ目の2級山岳カラスケタ峠でペースが上がったメイン集団 photo:Unipublic


最後から2つ目の2級山岳カラスケタ峠でメイン集団のペースを上げるサーヴェロ・テストチーム最後から2つ目の2級山岳カラスケタ峠でメイン集団のペースを上げるサーヴェロ・テストチーム photo:Unipublic逃げグループに入ったモンクティエとマルティネスの山岳賞狙いは明らかで、ジロ・デ・イタリアでガヴィアステージを制したチョップも山岳賞候補の一角。先頭5名は順調にリードを広げ、マルティネス、モンクティエ、チョップのオーダーで連続するカテゴリー山岳を通過して行く。

既に総合で大きく遅れている選手たちの逃げを、オメガファーマ・ロットは実質的に放置した。先頭5名は快調にリードを広げ、ゴールまで45kmを残してタイム差は最大7分55秒をマーク。

急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠で逃げグループを率いるヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)やアッサン・バザイエフ(カザフスタン、アスタナ)急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠で逃げグループを率いるヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)やアッサン・バザイエフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Unipublicレースが動いたのはゴール2つ手前の2級山岳カラスケタ峠。勾配の緩いこの上りでサーヴェロ・テストチームが集団ペースアップを図ると、先頭グループのリードは縮小開始。ゴールまで30kmを残してタイム差は3分45秒まで縮まった。

しかし逃げ吸収の難しさを悟ったサーヴェロはペースダウン。メイン集団はステージ優勝を諦め、5名の逃げ切りを容認した。

結局先頭5名は5分のリードを得て1級山岳ソレット・デル・カティ峠の上りに突入。急勾配の上りが始まると、すぐにモンクティエが脚の違いを見せつけて独走開始。登坂距離が4kmに満たない上りで逃げメンバーを1分近く引き離したモンクティエが、頂上の3km先に設定されたゴールに単独で飛び込んだ。

急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠で独走を開始したダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠で独走を開始したダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス) photo:Unipublic急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠でアタックを仕掛けるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠でアタックを仕掛けるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Unipublic独走でゴールに飛び込むダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)独走でゴールに飛び込むダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス) photo:Unipublic

メイン集団はリクイガスがペースを上げてソレット・デル・カティ峠へ。すると急勾配の上りでデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)やフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が脱落してしまう。

急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠でメイングループを形成するカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)ら急勾配の1級山岳ソレット・デル・カティ峠でメイングループを形成するカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)ら photo:Unipublic選手が蛇行するほどの激坂でカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)がアタックを仕掛けたが成功せず、メイン集団はホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)、シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)、そしてアントンの4名に。

最後はこの4名がグループを形成し、先頭モンクティエから1分29秒遅れでゴール。ロドリゲスがゴール前でライバルたちを引き離そうとスプリントしたが、タイム差は付かず。同タイムでゴールしたアントンが総合首位に立った。

ライバルたちの位置を確認してゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)ライバルたちの位置を確認してゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Cor Vosモンクティエは3年連続山岳ステージ優勝。今シーズン限りでの引退が囁かれる生粋のクライマーが、相性の良いブエルタ初日の山岳ステージで早速力を見せつけた。

「このブエルタでの目標は山岳賞ジャージを手にすること。すでに総合で遅れているので自由に動くことが出来る。山岳賞争いにおいてマルティネスは難敵だ。ジャージを手にすることは出来なかったけど、今日は予想通りの展開に持ち込めた」。3年連続山岳賞獲得が懸かったモンクティエは、トップのマルティネスと10ポイント差の山岳賞2位につけている。

3分34秒遅れでゴールするフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)3分34秒遅れでゴールするフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vosモンクティエはこれからのステージでも勝利を狙っていく。「アンドラにゴールする第11ステージやコバドンガにゴールする第15ステージで再びチャンスが回ってくると思う。ビッグネームたちとの闘いが楽しみだ。今日の勝利はローラン・フィニョンとチームスカイのスタッフ(ゴンザレス氏)に捧げたい」。

ロドリゲスを徹底マークし、0秒差でマイヨロホに袖を通したアントンは喜びを隠せない。「ゴールしてしばらくはマイヨロホの行方が分からなくてハラハラした。総合トップに立つのはナイスなサプライズだ。ステージレースでリーダージャージを着るのは2008年のツール・ド・スイス以来。明日からはチームが集団コントロールを担うことになる」

マイヨロホに袖を通したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)マイヨロホに袖を通したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic「まだこのステージは前菜に過ぎない。どうしても最初の山岳ステージは波乱が起きやすい。メンショフやシュレクはタイムを失ったけど、まだ総合優勝候補から外れたわけじゃない。昨年チームメイトのサムエル・サンチェスは最初の山岳ステージで45秒失いながらも、最終的に総合優勝に近いところまで行った。ブエルタは最終週で決まる。ロドリゲス=アントンの一騎打ちになるとは思っていないよ。調子の良いニーバリがかなり危険な存在。メンショフとシュレクもタイムを挽回してくるだろう。とにかくこの勝利は亡くなった元エウスカルテルのチェマ・ゴンザレスに捧げたい」。

0秒差の総合2位に甘んじたロドリゲス。序盤のスプリントポイントが落車の影響でキャンセルされていなければマイヨロホに手が届くはずだった。「マイヨロホを着るためにスプリントポイントでボーナスタイムを稼いだのに、落車の影響で記録が抹消された。目標だったジャージ獲得を達成出来ずに残念だ。また明日のステージでチャンスが残っている」。これからのステージでもロドリゲスは攻撃の手を緩めない。

勾配のあるソレット・デル・カティ峠で遅れたシュレクはライバルたちから1分07秒、メンショフは2分15秒ものタイムを失った。シュレクは「メイングループに付いていけなかった。これからのステージでタイムを挽回したい」とコメント。登坂距離の長い山岳で力を発揮するはずだ。

総合で3分16秒遅れにつけるメンショフは「序盤の大落車に巻き込まれて右膝を痛めてしまった。一日中痛みを抱えながら走ったんだ。痛みの影響でペダリングに力が入らなかった。不運な一日だったと言うしかない」と落胆。3度目の大会制覇に暗雲が立ち込める。

翌第9ステージは今大会最多の7つのカテゴリー山岳が登場。どれも難易度は低めだが、休むまもなく現れる山岳が選手たちを苦しめる。しかもラスト1.1kmから高低差60mを駆け上がるゴールレイアウト。再び総合成績は変動することになるだろう。

選手コメントはレース公式リリースより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第8ステージ結果
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        5h14'32"
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    +54"
3位 ヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)
4位 ホセルイス・アリエッタ(スペイン、アージェードゥーゼル)
5位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          +1'29"
6位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)
7位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)
8位 アッサン・バザイエフ(カザフスタン、アスタナ)          +1'32"
9位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
10位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +1'35"
13位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)   +2'00"
17位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)      +2'02"
21位 タジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア) +2'36"
22位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)
23位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
38位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   +3'34"
41位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)            +3'44"

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)       32h28'49"
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          +00"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)        +02"
4位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +42"
5位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ケースデパーニュ)      +1'10"
6位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)         +1'15"
7位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)     +1'18"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)    +1'19"
9位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)    +1'26"
10位 タジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア)
13位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)       +1'47"
17位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +2'11"
20位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)            +3'16"

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)56pts
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)  53pts
3位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)        51pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  36pts
2位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        26pts
3位 ダリオ・カタルド(イタリア、クイックステップ)        8pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)      30pts
2位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)  32pts
3位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)   38pts

チーム総合成績
1位 ケースデパーニュ    97h01'00"
2位 カチューシャ       +1'46"
3位 エウスカルテル      +3'58"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

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