プレスセンターの画面に映し出された、顔を覆って座り込むヴィンゲゴー。その姿に報道陣からため息が漏れた。落車リタイアの背景に何があったのか。ポガチャルは、ヴィンゲゴーが午前2時にドーピング検査を受け、十分な睡眠を取れなかったことが「数%なりとも影響したのではないか」と語った。

区間2位でマイヨジョーヌを保持したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
フランス現地時刻の17時を迎える少し前。山頂のフィニッシュ地点から約20km離れたプレスセンターで、プロジェクターに映るフランスTVがCMから戻ると、赤いヘルメット姿のヨナス・ヴィンゲゴーハンセン(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)がコース上に座り込み、左手で顔を覆っていた。
その瞬間、報道陣の間からため息が漏れた。直前まで隊列を組み、プロトンを先導していたヴィスマ・リースアバイクの選手たちは首を振りながら周囲を見渡し、混乱した様子を見せてる。カメラが再びヴィンゲゴーを捉えると、依然として起き上がれずにいた。続いて落車の瞬間を捉えたヘリコプター映像が流れた後、最後には自ら歩いて医療車両に乗り込むヴィンゲゴーの姿が映った。
なぜ落車は起きたのか。その問いに「数%なりとも影響したのではないか」と前置きしながら、一つの可能性を示したのが、この日ステージ2位に入り、マイヨジョーヌを守ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)だった。表彰式後の記者会見で指摘したのは、ヴィンゲゴーが受けた午前2時のドーピング検査。ポガチャルの一問一答をお伝えする。

オンラインで繋いだプレスセンターでの記者会見で、ドーピング検査について語るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:Sotaro.Arakawa
タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG):ヨナス(ヴィンゲゴー)にとって、今日はとても厳しい一日だったと思う。午前2時にドーピング検査のために起こされたのだからね。睡眠を妨げるなんて、人道的とは言い難い。フランスTVでヨナスのインタビューを見て、今回の落車には、それが数%なりとも影響したのではないかと思っている。
一方、僕は午前5時に起こされたが、幸いにも深い眠りを取れていたので、午前2時よりはまだましだった。みんなが既に知っているように、身体の回復には睡眠が重要だ。それが少しでも欠けるだけで、レース中の集中力が削がれてしまう。特に街のなかを走る時は、危険がたくさんあるからね。
彼の落車によるリタイアはとても悲しい。彼がいるのといないのとでは、ツールは全く違うレースになる。彼とは2021年から戦ってきたんだ。おそらく鎖骨を骨折していると思うが、1日も早い回復を願っている。また彼と会えることを楽しみにしているし、今回のことで深く落ち込まないでほしい。そして数日前に彼と話したように、良い休暇を過ごしてほしい。

第15ステージのスタート前に撮影した、ヴィンゲゴーのバイクに貼られた家族の写真 photo:Sotaro.Arakawa
─ヴィンゲゴーの落車リタイアが、最後のスプリントでの積極性を削いだと思うか。
今日はまず、クイン・シモンズが素晴らしい走りを見せた。そして逃げていたアダム(イェーツ)が、勝利を狙えるコンディションではないと無線で伝えられた。そこで、巻き込まれた落車によって自信を失っているように見えたイサーク(デルトロ)を励ました。
そして登りの中腹で、彼から「勝利を狙いに行こう」と言われ、イサークのマイヨブランを守りつつ、総合順位を上げることを目指した。ここまで彼は僕のために尽くしてくれているからね。
ただ、最後は意思疎通がうまくいかなかったようだ。僕は彼にスプリントしてほしかったのに、彼がアタックしてしまった。僕らは勝利を逃したが、チーム全体として良い走りができたし、良い一日だったと言える。
─ヴィンゲゴーの不在により、今後何がどう変わると思うか。
僕はツールで、彼と戦うことに慣れてしまっている。今日の山岳では彼をマークする予定だったし、これから迎えるアルプデュエズでは、彼が飛ぶように登りを駆け上がるはずだった。だから、彼の棄権が悲しいよ。
─エヴェネプールの走りに驚いたか。
とても素晴らしい走りだったね。明日は休息日で、その翌日には彼の得意なタイムトライアルが待っている。だから、強力なライバルになるはずだ。
─デルトロの勝利が難しいと分かった瞬間、自らの勝利のために全力を尽くしたか。それともエヴェネプールへのプレゼントだったのか。
イサークの勝利のために全力を尽くし、彼を奮い立たせるように声をかけた。だけど、多くの観客が詰めかける登りではコミュニケーションを取るのが難しい。この結果に悔いはないし、僕らは全力を尽くした。ただ、レムコが僕らを上回っていただけだ。彼がかなり早いタイミングでスプリントを仕掛け、僕が適切に反応できなかった。

第15ステージを走るヨナス・ヴィンゲゴーハンセン(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)。この後落車に見舞われた photo:CorVos
─ドーピング検査は原則として、午後11時から午前6時まで行われない。その規程があるにもかかわらず、ヴィンゲゴーを午前2時、あなたを午前5時に検査した理由は何だと思うか。
わからない。今年は特に、不可解なドーピング検査が続いているんだ。いま、彼らは以前とは異なる方法で検査を行っているようだ。今年の1月1日から春のクラシックシーズンが終わるまでに、何度検査を受けたか数えたほど多かった。
家にいる時は毎朝6時に起きて、検査員が来ていないか確認するのが日課になったほどだ。また、家を不在にして検査員の訪問を見逃さないように、ディナーやスーパーマーケットへ行くことさえ控えている。彼らが原則の時間帯外に来るからね。
ストラーデビアンケの時はレース後に血液検査があり、その時も違和感があった。4月1日以前の規程では、サウナや激しいトレーニングの直後には、採血まで2時間の待機時間を設けなければならなかった。
そしてストラーデビアンケ後、記者会見などを終え、フィニッシュから1時間半後に検査場所へ行くと、6人の選手がドーピング検査の順番を待っていた。ところが、フィニッシュから1時間後には選手たちの採血を始めていた。これは規程が変わる4月1日より前の出来事だ。

スタート前、ヴィンゲゴーが当日の午前2時にドーピング検査を受けたことを認めたリチャード・プルッヘGM photo:CorVos
ちなみに、今朝の午前5時に僕を起こした医師は良い人だった。午前5時という時間を謝りながら検査をしていた。そこで僕は質問したんだ。規程では午後11時から午前6時まで、原則として検査を行わないはずだからね。でも彼らからは「ナイトコントロールだ」と説明された。僕はそれに対して何も文句を言わなかった。その後、もう一度眠れることを願っていたが、結局眠れなかった。
ドーピング検査は少し不可解ではある。でも、これが僕らがクリーンに戦っていることを証明してくれるなら、受け入れる。必要であるならね。だけど、3週間に及ぶツール・ド・フランスの期間中に、睡眠が4時間しか取れない日があるなんて、ふざけるなと言わざるを得ない。
午前2時にドーピング検査を受けたヨナスの睡眠時間は、4時間以下だっただろう。しかも、深い睡眠を妨げられたはずだ。これが僕らが受け入れなければならないことなら、仕方がない。質問に対し、これが適切になればいいのだけれどね。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Annecy, France
photo:CorVos

フランス現地時刻の17時を迎える少し前。山頂のフィニッシュ地点から約20km離れたプレスセンターで、プロジェクターに映るフランスTVがCMから戻ると、赤いヘルメット姿のヨナス・ヴィンゲゴーハンセン(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)がコース上に座り込み、左手で顔を覆っていた。
その瞬間、報道陣の間からため息が漏れた。直前まで隊列を組み、プロトンを先導していたヴィスマ・リースアバイクの選手たちは首を振りながら周囲を見渡し、混乱した様子を見せてる。カメラが再びヴィンゲゴーを捉えると、依然として起き上がれずにいた。続いて落車の瞬間を捉えたヘリコプター映像が流れた後、最後には自ら歩いて医療車両に乗り込むヴィンゲゴーの姿が映った。
なぜ落車は起きたのか。その問いに「数%なりとも影響したのではないか」と前置きしながら、一つの可能性を示したのが、この日ステージ2位に入り、マイヨジョーヌを守ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)だった。表彰式後の記者会見で指摘したのは、ヴィンゲゴーが受けた午前2時のドーピング検査。ポガチャルの一問一答をお伝えする。

タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG):ヨナス(ヴィンゲゴー)にとって、今日はとても厳しい一日だったと思う。午前2時にドーピング検査のために起こされたのだからね。睡眠を妨げるなんて、人道的とは言い難い。フランスTVでヨナスのインタビューを見て、今回の落車には、それが数%なりとも影響したのではないかと思っている。
一方、僕は午前5時に起こされたが、幸いにも深い眠りを取れていたので、午前2時よりはまだましだった。みんなが既に知っているように、身体の回復には睡眠が重要だ。それが少しでも欠けるだけで、レース中の集中力が削がれてしまう。特に街のなかを走る時は、危険がたくさんあるからね。
彼の落車によるリタイアはとても悲しい。彼がいるのといないのとでは、ツールは全く違うレースになる。彼とは2021年から戦ってきたんだ。おそらく鎖骨を骨折していると思うが、1日も早い回復を願っている。また彼と会えることを楽しみにしているし、今回のことで深く落ち込まないでほしい。そして数日前に彼と話したように、良い休暇を過ごしてほしい。

─ヴィンゲゴーの落車リタイアが、最後のスプリントでの積極性を削いだと思うか。
今日はまず、クイン・シモンズが素晴らしい走りを見せた。そして逃げていたアダム(イェーツ)が、勝利を狙えるコンディションではないと無線で伝えられた。そこで、巻き込まれた落車によって自信を失っているように見えたイサーク(デルトロ)を励ました。
そして登りの中腹で、彼から「勝利を狙いに行こう」と言われ、イサークのマイヨブランを守りつつ、総合順位を上げることを目指した。ここまで彼は僕のために尽くしてくれているからね。
ただ、最後は意思疎通がうまくいかなかったようだ。僕は彼にスプリントしてほしかったのに、彼がアタックしてしまった。僕らは勝利を逃したが、チーム全体として良い走りができたし、良い一日だったと言える。
─ヴィンゲゴーの不在により、今後何がどう変わると思うか。
僕はツールで、彼と戦うことに慣れてしまっている。今日の山岳では彼をマークする予定だったし、これから迎えるアルプデュエズでは、彼が飛ぶように登りを駆け上がるはずだった。だから、彼の棄権が悲しいよ。
─エヴェネプールの走りに驚いたか。
とても素晴らしい走りだったね。明日は休息日で、その翌日には彼の得意なタイムトライアルが待っている。だから、強力なライバルになるはずだ。
─デルトロの勝利が難しいと分かった瞬間、自らの勝利のために全力を尽くしたか。それともエヴェネプールへのプレゼントだったのか。
イサークの勝利のために全力を尽くし、彼を奮い立たせるように声をかけた。だけど、多くの観客が詰めかける登りではコミュニケーションを取るのが難しい。この結果に悔いはないし、僕らは全力を尽くした。ただ、レムコが僕らを上回っていただけだ。彼がかなり早いタイミングでスプリントを仕掛け、僕が適切に反応できなかった。

─ドーピング検査は原則として、午後11時から午前6時まで行われない。その規程があるにもかかわらず、ヴィンゲゴーを午前2時、あなたを午前5時に検査した理由は何だと思うか。
わからない。今年は特に、不可解なドーピング検査が続いているんだ。いま、彼らは以前とは異なる方法で検査を行っているようだ。今年の1月1日から春のクラシックシーズンが終わるまでに、何度検査を受けたか数えたほど多かった。
家にいる時は毎朝6時に起きて、検査員が来ていないか確認するのが日課になったほどだ。また、家を不在にして検査員の訪問を見逃さないように、ディナーやスーパーマーケットへ行くことさえ控えている。彼らが原則の時間帯外に来るからね。
ストラーデビアンケの時はレース後に血液検査があり、その時も違和感があった。4月1日以前の規程では、サウナや激しいトレーニングの直後には、採血まで2時間の待機時間を設けなければならなかった。
そしてストラーデビアンケ後、記者会見などを終え、フィニッシュから1時間半後に検査場所へ行くと、6人の選手がドーピング検査の順番を待っていた。ところが、フィニッシュから1時間後には選手たちの採血を始めていた。これは規程が変わる4月1日より前の出来事だ。

ちなみに、今朝の午前5時に僕を起こした医師は良い人だった。午前5時という時間を謝りながら検査をしていた。そこで僕は質問したんだ。規程では午後11時から午前6時まで、原則として検査を行わないはずだからね。でも彼らからは「ナイトコントロールだ」と説明された。僕はそれに対して何も文句を言わなかった。その後、もう一度眠れることを願っていたが、結局眠れなかった。
ドーピング検査は少し不可解ではある。でも、これが僕らがクリーンに戦っていることを証明してくれるなら、受け入れる。必要であるならね。だけど、3週間に及ぶツール・ド・フランスの期間中に、睡眠が4時間しか取れない日があるなんて、ふざけるなと言わざるを得ない。
午前2時にドーピング検査を受けたヨナスの睡眠時間は、4時間以下だっただろう。しかも、深い睡眠を妨げられたはずだ。これが僕らが受け入れなければならないことなら、仕方がない。質問に対し、これが適切になればいいのだけれどね。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Annecy, France
photo:CorVos
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