アメリカの“グラベルレジェンド” テッド・キングにインタビュー。プロロード選手から転向してすぐの2016年ダーティカンザに優勝、通算2勝したキングに、当時のキャノンデールとの10年間のバイク開発と、現在挑戦しているXLクラスへの取り組みを訊いた。北のクラシックでの経験や、グラベルバイクの起源を知ることができる貴重な対談となった。

XLへの準備を整えたテッド・キングと愛車のTopstone ©Cannondale
1983年アメリカ・ニューハンプシャー州エクセター生まれ。2006年プロロードレーサーとしてデビュー。2009・2010年にサーヴェロ・テストチームに所属。2011年からリクイガス・キャノンデール、以降キャノンデール・ガーミンに所属した2015年までの10年間プロ選手として欧州で活動。トール・フースホフト、カルロス・サストレ、ペテル・サガンらのアシストとして活躍した。ロード界から引退した翌年の2016年にはグラベルレーサーとして活動開始、ダーティカンザ200マイルプロクラスで優勝。2018年に同クラス2度目の優勝を飾る。長らくキャノンデールのバイク開発に関わり続け、天然のメープルシロップを素材としたスポーツサプリメント「UnTapped」の共同創業者というビジネスマンの顔も持つ。
この対談はレース前日に実施。訊き手は200マイルに2度目の出場の永田隼也、XLに2度目の出場予定の福田暢彦、100マイルに5年連続出場の綾野真(シクロワイアード)の3人。なお福田(Zwiftジャパン・カントリーマネジャー改め翌月からキャノンデール日本総代理店インターテックに勤務)は、この対談の後、家庭の事情により急遽帰国&DNSとなってしまった。

自信のグラベル黎明期を語るテッド・キング photo:Makoto AYANO
綾野:ようやくお会いできました。実は2022年に私が初めてアンバウンドに来た時、キャノンデール・ジャパンの“カズ”(山本和弘さん)からあなたにコンタクトして対談取材を申し込んだんですが、実現しませんでした。だから待望していたんですよ。
キング:あぁ、その年は僕のプライベートな事情で出場を見送ったんだ。結婚して子どもがまだ小さかったから、選手活動を自粛していたんだ。

アンバウンド200マイルレースのアドバイスを永田隼也が尋ねる 
このアンバウンドから帰国したらキャノンデールのマーケティング仕事に就くという福田暢彦
福田:今年も昨年に続いてXL(560km)に出場するんですか?
キング:そうだよ。今バイクの準備をしていたんだ。エアロバーが付いているとおりXL。荷物の積載をどうするか考えていたんだ。
永田:200マイル(320km)ではなく、なぜXLなんですか?
キング:200マイルはまたいつかだね。XLを選んでいるのは、200マイルにはすでに2回勝っていて、やり遂げた感があるから。でもXLは昨年リタイアしたし、まだ完走できていないんだ。“やり残した仕事”みたいなものだね。

2016年ダーティカンザで初出場・初勝利を挙げたテッド・キング ©Cannondale
福田:今日はあなたのグラベルとの出会いから、今に至るまでの経緯を話してもらえますか?。
キング:そう、グラベルレースに初めて出たのは2016年だったね。アンバウンドがまだ「ダーティカンザ」の名で、そのときが初めての出場だった。
綾野:初めてのダーティカンザ出場で優勝した、と。2015年末にプロサイクリング界から引退して翌年のことですよね。

キャノンデールプロサイクリング時代のテッド・キングの仕事はペテル・サガンなどエース選手のアシストだった ©CorVos
キング:そう、10年間のプロロード選手のキャリアを終えてすぐのことだった。ダーティカンザのまさに初回大会で勝ったんだ。
福田:プロロードレーサーからの転身でグラベルレーサーになった経緯は、どんな感じだったんですか?
キング:キャノンデール・ガーミンを離れて、それはもう本当に「違うところ」に飛び込んだという感じだったね。

2016年ダーティカンザ 長距離逃げで初出場・初勝利へと向かうテッド・キング ©Cannondale
それはキャノンデールがちょうどSLATE(スレート)を発表した年なんだ。ユニークで面白いバイクだったよね。まったく斬新なバイクだった。650Bホイールに42Cスリックタイヤ、レフティサスペンション...etc。本当に革新的でクールなバイクだったね。今で言うグラベルバイクの革命だったと思うよ。そう、そのバイクは今はエンポリアのHall of Fame(殿堂)ミュージアムに飾ってあるんだ。そのバイクがきっかけだった。

2016年ダーティカンザを制したテッド・キングのキャノンデールSLATE ©Cannondale
綾野:あぁ、つい先ほどミュージアムで見ました。あのバイクがあなたの乗ったダーティカンザ優勝バイクだったんですね。グラベルレースの最初の体験がどんなものだったか、話してもらえますか?
キング:その年は「ロード選手を辞めたら、次に何をしよう?」と考えていたんだ。フリーの選手として独立したプログラムで活動するなんてことは、まだ誰もしていなかった。でもプライベーターとしてシクロクロスで活動するティム・ジョンソンがいい例になった。ヨーロッパと違って北米のシクロクロスシーンはマイナーだったし、いくつかのスポンサーを集めて、スタッフ含めて2、3人のチームで欧州で活動する形態。もうひとり、ジェレミー・パワーズ(アメリカ)もインスピレーションをくれる存在だったね。

仲の良いテッド・キング(左)とティム・ジョンソン(右)。ティムはフレームバック装備のTopstoneに乗る(2018年)
綾野:ティムもジェレミーも日本に来てシクロクロス東京を走ってくれましたよ!ティムはキャノンデールのサポートで欧州を中心にプロ活動をしていましたね。そういえばティムにはSLATEの本質について、八ヶ岳山麓で一緒に乗りながら語ってもらいました。(記事へ)

SLATEの開発にも大いに関わったティム・ジョンソン photo:Toshiki.Sato 
シクロクロス東京を走ったジェレミー・パワーズ(アメリカ、アスパイアレーシング) photo:Kei Tsuji / CX TOKYO
キング:僕の考える活動に同意してくれたのがキャノンデールだったんだ。もっとも彼らにしか活動内容のプレゼンはしなかったけど。
キャノンデールと一緒に活動プログラムを創り上げたんだ。純粋なプロ選手としてのレース活動にスポンサーしてもらうというより、彼らと一緒になって新たなバイクを開発することが主な仕事で、同時にレース活動も行う、というようなものだったんだ。

テッド・キングとダーティカンザを勝った愛車のSLATE(2016年) ©Cannondale
だからキャノンデールのバイク開発にイチから関わったんだ。ニーズの市場調査やニュープロダクツのローンチ(発表会)もやったね。まさにSLATEが僕をグラベルレースに向かわせてくれたんだ。
福田:グラベルではどんな人たちと関わって活動を始めたんですか?
キング:何度も世界チャンピオンになっているレベッカ・ラッシュ(アメリカの女子プロMTB&エンデュランスレースのトップ選手)が「ダーティカンザにおいでよ」って誘ってくれたんだ。すでにイベントが誕生して10年が経っていたけど、僕は前年までヨーロッパで走っていたから、アメリカのグラベルレースは未知だったね。
グラベル界のレジェンド、ダン・ヒューズ(アメリカ)も僕をグラベルに導いてくれたひとり。彼はダーティカンザに4勝しているチャンピオンだ。そんなビッグネームの彼らが手伝ってくれたね。だから初出場で優勝できたんだ。

2018年ダーティカンザで2度目の勝利を挙げたテッド・キング ©Cannondale
綾野:先人のガイドとアドバイスがあったんですね。そしていきなりの出場で勝ってしまった。プロロード選手だったテッド・キングが勝ったということで、ダーティカンザの世界的な知名度も高まりました。
キング:最初の年は200マイルのうち100マイルを独走して勝ったね。次の年は何度もパンクしてしまったんだ。
福田:天気が悪かったんですか?
キング:いや、天気はむしろ良かったけど、たんに不運だね。フリントストーン(尖った燧石)の多いエンポリアではよくあること。そして2018年にはまた優勝することができた。

2018年ダーティカンザで2度目の優勝を飾ったテッド・キング バイクはCXベースのSuperXだった ©Cannondale
そして2019年はグラベル界にとって変化の年だったね。EFエデュケーションファースト(語学・留学学校)がチームスポンサーに加わって、ラクラン(モートン)やアレックス(・ハウズ)など、現役のロードプロ選手がグラベルにやって来たんだ。引退したロード選手が転向するんじゃなく、正規の活動として挑んできたんだ。

2019年のアンバウンド・グラベルを走るラクラン・モートンとアレックス・ハウズ ©AlexHows/instagram
グラベルレースの価値が上がり、プロがオルタナティブ(代替)カレンダーとしてグラベルレースを主戦場とするようになった。そうなると勝つにはもっと馬力が要るし、チーム体制も求められるようになっていったね。(ラクラン・モートンとアレックス・ハウズと対談した特集記事へ)
君らはアンバウンド出場は初めて? 何マイルに出るの?
永田:僕は昨年初めて200マイルに出場して完走しましたが、とても苦労しました。ビッグチャレンジでした。今年も200マイルです。僕はダウンヒル系のMTB選手なんです。

アンバウンド200マイルレースのアドバイスを永田隼也が尋ねる 
「キャノンデールが考案したSLATEがグラベルバイクの元祖だった」と話すテッド・キング
キング:ワォ、それは凄いね。それで200マイルに?
永田:走っているときの辛さはすごかったです。本当にハード。今年もまた今から憂鬱です(笑)。
キング:グラベルレースはメンタルテストだね。精神力が試される。
永田:あなたにとってもそうなんですか?
キング:もちろんそうさ。アンバウンドでは参加する全員が苦しみ、痛みを感じるんだ。ただ参加クラスや走る距離、スピードが違うだけだね。プロだって同じだよ。全員がハードな一日を過ごすんだ。苦しみながらも諦めることなく頑張り続けるんだ。

天候や条件が悪いほどグラベルレースは過酷になる photo:Makoto AYANO
福田:ジュンヤ、MTBからグラベルに移行するときに苦労したことは何?
永田:それはもう、すべてが違いますからね。トレーニング、エナジーマネジメント、それにコミュニティも違う(笑)
キング:種目の違いってどこに感じるの?
永田:ダウンヒルはたった3分。エンデューロだって数分の勝負です。それがグラベルは10時間以上。まったく違うものですね。
キング:でもレース経験を積むと、走っている間に何をするべきかは時間にかかわらず掴めてくるよね。

グループを組んで走るXLの上位集団 ©️Lifetime
永田:グラベルレースを走り続けるには何がもっとも大事だと考えますか? メンタル?フィジカル?
キング:根本的な質問だね。そうだな....ひとつアドバイスするなら、タイムを考えないことかな。
僕の場合、普段は1時間あたり20マイル(32km)進むスピードでトレーニングしている感覚がある。だから200マイルなら10時間だね。その感覚があるけど、あえてそれを忘れるんだ。
集団で速いスピードで走っているときは時の流れを忘れる。でも独りになったとき、スピードが落ち、道は果てしなく続いていることを目の当たりにするんだ。するとつい考えてしまう。
「あと100マイル、なら3時間だ」。でも今のスピードは....実際は4、5時間、もっとかかるだろうか?...。そう考えると憂鬱になる。でも計算することを忘れるんだ。

XLクラス(560km)を走るテッド・キング。序盤は順調な滑り出しでトップにつける ©Cannondale
チェックポイントでは止まることになる。その止まっている時間は走っているときより長く感じる。でも休んだほうがいい。動きながらもね。そして天候が荒れ狂ってると、いったいあと何時間苦しむんだ?と考えてしまう。でもあえて時間を忘れるんだ。無心になることだね。でも、経験があれば同じ時間でも短く感じるかもしれない。それが「経験を積む」ということだね。

レース前日。日没と共に雷雨が近づきつつあった ©️Lifetime
今、レースを控えたエンポリアに居る選手たちは皆がナーバスになっている。タイヤの選択や空気圧をどうしよう? 何を持とう?給水は? 補給食は?、泥になるだろうか?フレームのクリアランスに対してタイヤの幅は?....考えることはいくらでもあるね。
福田:今年のあなたのバイクには何かギミックがありますか? 工夫していることは?

テッド・キングの愛車 Topstone ©Cannondale
キング:できればレース前には記事にしないで欲しいんだけど、昨年ラクラン(・モートン)が取り入れたようなエアロパック&ラックシステムを導入して、ハイドレーション(給水ブラダー/タンク)を仕込むつもりなんだ。

Tailfinのエアロカーボンラック&専用バッグ。ここに大容量のハイドレーションバッグを仕込むという photo:Makoto AYANO
昨年は5人の先頭集団に入ったんだ。200マイル走ったところまでは問題が無かったんだ。ところがその後のチェックポイントで停まったら、他の4人はストップせずに行ってしまった。彼らはそれと似たシステムを使っていたんだ!
XLはすでにどれだけの補給食・水分を積んでいるかのレースになっているね。補給のために停まってしまうと負けるんだ。

長時間TTポジションが取れるようトライアスロン用の3Dプリントサドルを導入した photo:Makoto AYANO 
TTバーを使い、先端のスイッチとBlipsボタンで変速操作も可能だ photo:Makoto AYANO
そして快適性向上のためにトライアスロン用の3Dプリントサドルを使うよ。サドル前方にクッションが多いからTTポジションをとったときに圧迫感を軽減できるんだ。
福田:Lefty(レフティ)フォークを使うんですね。やはりサスペンションはあったほうが快適ですか?

Leftyフォークは片持ちシングルクラウン構造のため泥はけ性能は他に類を見ない高さだ photo:Makoto AYANO
キング:Leftyを選ぶのは、第1に泥に対するクリアランス向上のためなんだ。サスペンション効果ももちろんだけれど、Leftyはタイヤクリアランスが絶対的に大きいんだ。他のバイクフレームの比じゃないほどにね。
福田:Topstoneを選んだ理由は?
キング:Topstoneは君らも知っているとおりアドベンチャーバイクだね。対してSuperXはレースバイク。典型的なのは数日間で行われるアドベンチャーレース。3〜5日といった日数をかけて、キャンプできる装備をバイクパッキングで積載して走るレース。アンバウンドのXLはそれに準じるアドベンチャーだ。
Topstoneはスピードよりも快適性が大事になってくるライドに選ぶね。SuperXも素晴らしいバイクだけどね。もし200マイルレースならSuperXを選ぶよ。SuperXにはMOMOモノコックハンドルバーをセットして。でもXLは迷うこと無くTopstoneだよ。

長時間のナイトライドのお供はExposureのライト 
ZIPPのエアロTTバーにBlipsボタンも併用する

Tailfinのトップチューブバッグにニュートリションを仕込む 
自身のサプリブランド「Untapped」のボトルを装着
綾野:昨年XLを走ったときも選んだバイクはTopstoneでしたか?
キング:そう。でもノーマルフォークだった。Leftをセットしたのは今回が初めて。Leftフォークは圧倒的なマッドクリアランスがメリットだ。今のところ泥の予報が少し出ているから間違った選択じゃないはずだよ。泥が詰まるとホイールが回らなくなるからね!
福田:もしグラベルビギナーに勧めるとするならTopstoneですか?
キング:そうだね。ほとんどのアベレージ(平均的な)ライダーならTopstoneが始めやすいと思う。もし路面がスムーズならSynapseでもいいんだ。舗装路がメインで少しだけグラベルに入るならね。自分が走りたい舗装路とグラベルの割合で選ぶといいね。
グラベルレースならSuperX、マルチデイ・アドベンチャーならTopstone、ほとんど舗装路・時々グラベルならSynapse。3つあれば言うこと無いね(笑)。
永田:今回のタイヤチョイスを教えてください。

自身アドバイザーを務めるルネ・エルスのタイヤを使う。センタースリックながらサイドノブはしっかりあるモデル photo:Makoto AYANO
キング:タイヤはルネ・エルス(Rene Herse)製で、フロントは48Cのセミスリック。泥の心配があるからリアタイヤはおそらくスリックでいくつもり。なぜならそれも泥へのクリアランスのため。タイヤにノブが無いと泥が付着しにくいからね。ルネ・エルスは僕のタイヤスポンサーで、僕もアイデアを出し合って製品をつくってもらっているんだ。日本のパナレーサー製なんだよ。

来日したヤン・ハイネさんを迎えて走った房総グラベルライド(2022年) photo:Naoshige Yoshimura
綾野:ルネ・エルスのヤン・ハイネさんとは友人なんですよ。ヤンさんが年末年始に日本に来るここ4年は、毎年のように日本各地のグラベルルートを案内しているんです。ヤンさんの手記でルネ・エルス公式サイトのツーリング記事にも数回登場したことがあります。(ヤン・ハイネさんと走った房総グラベル記事へ)
キング:そうなんだね! じゃぁそのツーリングから得たアイデアもタイヤに詰まっているね。彼のリリースするタイヤはグラベルレーサーやアドベンチャーライダーの細かいニーズに応えてくれるんだ。

テッド・キングファミリー。奥さんのラウラさんもグラベルレーサーだ ©Ted King
永田:日常のトレーニングはどうしていますか?
キング:アンバウンドに出場しているプロなら週に30時間は外でバイクに乗って練習しているだろう。でも僕は43歳のビジネスマンアスリートで、スポーツニュートリションブランドの「Untapped」の経営、そして家庭をもつ父の立場があるから、その範囲でできるトレーニングをしているよ。仕事があり、家族がいる。だから身の丈にあった取り組み方でレースを走っているんだ。今回はエアロポジションの練習にはできるだけ時間を割いた。ようやく身についていい感じだね。
福田:もうずっと長いことキャノンデールと関係が深いんですね。

レジェンドのテッド・キングがプロデュースするUntappedのメイプルワッフル photo:Makoto AYANO
キング:そう、2011年にリクイガス・キャノンデールと契約して以来、ずっとキャノンデールとバイクライフを歩んできたよ。キャノンデールのグラベル〜オフロード系のバイクの設計に関わってきたんだ。
福田:キャノンデールの歴代のバイクでもっとも気に入っているバイクは何ですか?
キング:一台を選ぶのは難しいな。だって家に帰ったら普段良く乗るのはロードのSuperSix Evoなんだ。もともとプロロードマンだったからね。
SuperSixは初代から乗っているよ。ロードは気軽に乗れるからね。マウンテンバイクのScalpelにだって乗る。
歴代の中で思い入れがあるのはやっぱりSLATEだね。太くて低い空気圧のスリックタイヤでコーナーのグリップ力を稼ぐという、今までの考え方にはなかった特別なバイクだったね。でも、やっぱりSLATEのその考え方が、今のワイドタイヤやグラベルバイクに通じる起源と言っていいね。そして、今乗っているバイクがいちばん!と言っておくよ。

インタビューはエンポリアのコテージで photo:Makoto AYANO
近いうちに日本に行きたいんだ。実は妻とは結婚したときにハネムーンに日本に行くことを計画していたんだけど、行けなかったんだ。もで来年が結婚10周年だから、日本に記念旅行に行こうと計画しているんだ。ぜひ自転車を持っていくよ!
福田:日本のグラベルは私有地が多いし、田んぼ、畑も多いから難しい面もあるけどガイドしますよ。ぜひ一緒に走りましょう!
綾野:今春、ロンド・ファン・フラーンデレンとパリルーベに自転車とともに出かけましたよね?

ロンド・ファン・フラーンデレンの石畳を走るテッド・キング ©Cannondale
キング:そう! 夢のようなバケーションだった。ロンドもルーベも選手のときに何度も出場している。でも、ただでさえアメリカ人がイタリアのチームに所属して、ヨーロッパのレースに適応するのが大変なのに、北のクラシックはそれに増してストレスが多いレースだった。

リクイガス・キャノンデール時代にロンド・ファン・フラーンデレンを走ったテッド・キング(アメリカ) ©CorVos
ロンドは2014年が最後の年だった。雨に濡れたコッペンベルグで、集団の皆が足を着いてしまって、歩いて登ったものさ。
かつてのチームメイトで、今はEFのチーム監督になったアンドレアス・クリアーや、当時のスタッフや関係者たちと交流できて、素晴らしい時間を過ごしたよ。あの頃のようなストレスはゼロで、過去をゆっくり振り返るような素敵な旅だった。
自転車に時々乗って石畳を楽しみ、ベルギーのビール工場を訪問して、ライドと相性のいいビールを教えてもらったり、カフェで街往くサイクリストたちを眺めたり、ロンド・ファン・フラーンデレン博物館にも行ったね。春は北フランスやベルギーは本当に美しい季節なんだ。長い冬から日が高くなり、花が咲き、緑が芽吹き始める。ビールにチョコレート、美しい国だよ。

パリ〜ルーベの石畳を走るテッド・キング。バイクはSuperXだ ©Cannondale
パリ〜ルーベでは、2023年の女子レース覇者のアリソン・ジャクソンと話したね。今のパヴェの女王と、クラシックレースの走り方、クラシックレースの真髄、グラベル世界選のことについても話し合ったね。
僕自身パリ〜ルーベには4回出場した。当時はSuperSixかSynapseに26mm〜28mmタイヤを履かせて走ったね。ルーベの石畳は今ならグラベルバイクで走るべき道だね。SuperXに太さ45mmのタイヤの組み合わせなら楽しく走れるね。
僕が初めて石畳クラシックを走ったのは2005年にUSナショナルチームの一員としてだった。当時のソワニエ(介添えスタッフ)だったクリスとも会ったんだ。彼は今UAEチームエミレーツのスタッフだけど、ロジャー・デフラミングのソワニエでもあったんだ。彼に文化としてのクラシックを話してもらった。
もちろんプロレースも観戦した。昔とはかなり違っているね。かつて苦しみながら走った道の沿道で、素晴らしい雰囲気を味わった2週間の旅だった。
福田:バイクは何を持っていったんですか?
キング:ロンド・ファン・フラーンデレンにはSynapseを。パリルーベにはSuperXを連れていって乗ったんだ。それでレースコースを走り回ったよ。それぞれ適材・適所だろう?

北フランスの美しい春とパリ〜ルーベの石畳を楽しんだテッド・キング ©Cannondale
綾野:素敵ですね。ところでロンドやルーベはグラベルレースのようなものだと思いますか?
キング:ハハハ、いい質問だ(笑)。イエスであり、ノーだね。妻は2024年のベルギーでのグラベル世界選手権に出ているんだけど「まるで春のクラシックのようだった」と言っていたね。道は狭く、グラベルというよりトレイルのような細道をハイスピードで駆け抜けていく。それもグラベルレースのひとつと言えるけど...。
だからトラディショナルな見方ではノー。しかし間違いなくグラベルレースのひとつだね。だからイェスだね(笑)。だからグラベルレースにも北のクラシックのようなパヴェ道があっておかしくないとも言えるね。
バイク、ビール、石畳 〜キングの帰還 part1. ロンド・ファン・フラーンデレン編〜
この対談の翌日、アンバウンド・グラベルXLに出走したテッド・キングだが、豪雨のなかレース中に泥区間でスリップし、転倒。脚と腕を負傷してリタイアすることに。XLへの挑戦は、再び「やり残した仕事」として翌年に持ち越すこととなってしまった。

嵐の夜を走っていて泥にスリップして落車、負傷したことでリタイアを強いられたテッド・キング ©Cannondale
Ted KING / テッド・キング プロフィール

1983年アメリカ・ニューハンプシャー州エクセター生まれ。2006年プロロードレーサーとしてデビュー。2009・2010年にサーヴェロ・テストチームに所属。2011年からリクイガス・キャノンデール、以降キャノンデール・ガーミンに所属した2015年までの10年間プロ選手として欧州で活動。トール・フースホフト、カルロス・サストレ、ペテル・サガンらのアシストとして活躍した。ロード界から引退した翌年の2016年にはグラベルレーサーとして活動開始、ダーティカンザ200マイルプロクラスで優勝。2018年に同クラス2度目の優勝を飾る。長らくキャノンデールのバイク開発に関わり続け、天然のメープルシロップを素材としたスポーツサプリメント「UnTapped」の共同創業者というビジネスマンの顔も持つ。
この対談はレース前日に実施。訊き手は200マイルに2度目の出場の永田隼也、XLに2度目の出場予定の福田暢彦、100マイルに5年連続出場の綾野真(シクロワイアード)の3人。なお福田(Zwiftジャパン・カントリーマネジャー改め翌月からキャノンデール日本総代理店インターテックに勤務)は、この対談の後、家庭の事情により急遽帰国&DNSとなってしまった。

綾野:ようやくお会いできました。実は2022年に私が初めてアンバウンドに来た時、キャノンデール・ジャパンの“カズ”(山本和弘さん)からあなたにコンタクトして対談取材を申し込んだんですが、実現しませんでした。だから待望していたんですよ。
キング:あぁ、その年は僕のプライベートな事情で出場を見送ったんだ。結婚して子どもがまだ小さかったから、選手活動を自粛していたんだ。


福田:今年も昨年に続いてXL(560km)に出場するんですか?
キング:そうだよ。今バイクの準備をしていたんだ。エアロバーが付いているとおりXL。荷物の積載をどうするか考えていたんだ。
永田:200マイル(320km)ではなく、なぜXLなんですか?
キング:200マイルはまたいつかだね。XLを選んでいるのは、200マイルにはすでに2回勝っていて、やり遂げた感があるから。でもXLは昨年リタイアしたし、まだ完走できていないんだ。“やり残した仕事”みたいなものだね。

福田:今日はあなたのグラベルとの出会いから、今に至るまでの経緯を話してもらえますか?。
キング:そう、グラベルレースに初めて出たのは2016年だったね。アンバウンドがまだ「ダーティカンザ」の名で、そのときが初めての出場だった。
綾野:初めてのダーティカンザ出場で優勝した、と。2015年末にプロサイクリング界から引退して翌年のことですよね。

キング:そう、10年間のプロロード選手のキャリアを終えてすぐのことだった。ダーティカンザのまさに初回大会で勝ったんだ。
福田:プロロードレーサーからの転身でグラベルレーサーになった経緯は、どんな感じだったんですか?
キング:キャノンデール・ガーミンを離れて、それはもう本当に「違うところ」に飛び込んだという感じだったね。

それはキャノンデールがちょうどSLATE(スレート)を発表した年なんだ。ユニークで面白いバイクだったよね。まったく斬新なバイクだった。650Bホイールに42Cスリックタイヤ、レフティサスペンション...etc。本当に革新的でクールなバイクだったね。今で言うグラベルバイクの革命だったと思うよ。そう、そのバイクは今はエンポリアのHall of Fame(殿堂)ミュージアムに飾ってあるんだ。そのバイクがきっかけだった。

綾野:あぁ、つい先ほどミュージアムで見ました。あのバイクがあなたの乗ったダーティカンザ優勝バイクだったんですね。グラベルレースの最初の体験がどんなものだったか、話してもらえますか?
キング:その年は「ロード選手を辞めたら、次に何をしよう?」と考えていたんだ。フリーの選手として独立したプログラムで活動するなんてことは、まだ誰もしていなかった。でもプライベーターとしてシクロクロスで活動するティム・ジョンソンがいい例になった。ヨーロッパと違って北米のシクロクロスシーンはマイナーだったし、いくつかのスポンサーを集めて、スタッフ含めて2、3人のチームで欧州で活動する形態。もうひとり、ジェレミー・パワーズ(アメリカ)もインスピレーションをくれる存在だったね。

綾野:ティムもジェレミーも日本に来てシクロクロス東京を走ってくれましたよ!ティムはキャノンデールのサポートで欧州を中心にプロ活動をしていましたね。そういえばティムにはSLATEの本質について、八ヶ岳山麓で一緒に乗りながら語ってもらいました。(記事へ)


キング:僕の考える活動に同意してくれたのがキャノンデールだったんだ。もっとも彼らにしか活動内容のプレゼンはしなかったけど。
キャノンデールと一緒に活動プログラムを創り上げたんだ。純粋なプロ選手としてのレース活動にスポンサーしてもらうというより、彼らと一緒になって新たなバイクを開発することが主な仕事で、同時にレース活動も行う、というようなものだったんだ。

だからキャノンデールのバイク開発にイチから関わったんだ。ニーズの市場調査やニュープロダクツのローンチ(発表会)もやったね。まさにSLATEが僕をグラベルレースに向かわせてくれたんだ。
福田:グラベルではどんな人たちと関わって活動を始めたんですか?
キング:何度も世界チャンピオンになっているレベッカ・ラッシュ(アメリカの女子プロMTB&エンデュランスレースのトップ選手)が「ダーティカンザにおいでよ」って誘ってくれたんだ。すでにイベントが誕生して10年が経っていたけど、僕は前年までヨーロッパで走っていたから、アメリカのグラベルレースは未知だったね。
グラベル界のレジェンド、ダン・ヒューズ(アメリカ)も僕をグラベルに導いてくれたひとり。彼はダーティカンザに4勝しているチャンピオンだ。そんなビッグネームの彼らが手伝ってくれたね。だから初出場で優勝できたんだ。

綾野:先人のガイドとアドバイスがあったんですね。そしていきなりの出場で勝ってしまった。プロロード選手だったテッド・キングが勝ったということで、ダーティカンザの世界的な知名度も高まりました。
キング:最初の年は200マイルのうち100マイルを独走して勝ったね。次の年は何度もパンクしてしまったんだ。
福田:天気が悪かったんですか?
キング:いや、天気はむしろ良かったけど、たんに不運だね。フリントストーン(尖った燧石)の多いエンポリアではよくあること。そして2018年にはまた優勝することができた。

そして2019年はグラベル界にとって変化の年だったね。EFエデュケーションファースト(語学・留学学校)がチームスポンサーに加わって、ラクラン(モートン)やアレックス(・ハウズ)など、現役のロードプロ選手がグラベルにやって来たんだ。引退したロード選手が転向するんじゃなく、正規の活動として挑んできたんだ。

グラベルレースの価値が上がり、プロがオルタナティブ(代替)カレンダーとしてグラベルレースを主戦場とするようになった。そうなると勝つにはもっと馬力が要るし、チーム体制も求められるようになっていったね。(ラクラン・モートンとアレックス・ハウズと対談した特集記事へ)
君らはアンバウンド出場は初めて? 何マイルに出るの?
永田:僕は昨年初めて200マイルに出場して完走しましたが、とても苦労しました。ビッグチャレンジでした。今年も200マイルです。僕はダウンヒル系のMTB選手なんです。


キング:ワォ、それは凄いね。それで200マイルに?
永田:走っているときの辛さはすごかったです。本当にハード。今年もまた今から憂鬱です(笑)。
キング:グラベルレースはメンタルテストだね。精神力が試される。
永田:あなたにとってもそうなんですか?
キング:もちろんそうさ。アンバウンドでは参加する全員が苦しみ、痛みを感じるんだ。ただ参加クラスや走る距離、スピードが違うだけだね。プロだって同じだよ。全員がハードな一日を過ごすんだ。苦しみながらも諦めることなく頑張り続けるんだ。

福田:ジュンヤ、MTBからグラベルに移行するときに苦労したことは何?
永田:それはもう、すべてが違いますからね。トレーニング、エナジーマネジメント、それにコミュニティも違う(笑)
キング:種目の違いってどこに感じるの?
永田:ダウンヒルはたった3分。エンデューロだって数分の勝負です。それがグラベルは10時間以上。まったく違うものですね。
キング:でもレース経験を積むと、走っている間に何をするべきかは時間にかかわらず掴めてくるよね。

永田:グラベルレースを走り続けるには何がもっとも大事だと考えますか? メンタル?フィジカル?
キング:根本的な質問だね。そうだな....ひとつアドバイスするなら、タイムを考えないことかな。
僕の場合、普段は1時間あたり20マイル(32km)進むスピードでトレーニングしている感覚がある。だから200マイルなら10時間だね。その感覚があるけど、あえてそれを忘れるんだ。
集団で速いスピードで走っているときは時の流れを忘れる。でも独りになったとき、スピードが落ち、道は果てしなく続いていることを目の当たりにするんだ。するとつい考えてしまう。
「あと100マイル、なら3時間だ」。でも今のスピードは....実際は4、5時間、もっとかかるだろうか?...。そう考えると憂鬱になる。でも計算することを忘れるんだ。

チェックポイントでは止まることになる。その止まっている時間は走っているときより長く感じる。でも休んだほうがいい。動きながらもね。そして天候が荒れ狂ってると、いったいあと何時間苦しむんだ?と考えてしまう。でもあえて時間を忘れるんだ。無心になることだね。でも、経験があれば同じ時間でも短く感じるかもしれない。それが「経験を積む」ということだね。

今、レースを控えたエンポリアに居る選手たちは皆がナーバスになっている。タイヤの選択や空気圧をどうしよう? 何を持とう?給水は? 補給食は?、泥になるだろうか?フレームのクリアランスに対してタイヤの幅は?....考えることはいくらでもあるね。
福田:今年のあなたのバイクには何かギミックがありますか? 工夫していることは?

キング:できればレース前には記事にしないで欲しいんだけど、昨年ラクラン(・モートン)が取り入れたようなエアロパック&ラックシステムを導入して、ハイドレーション(給水ブラダー/タンク)を仕込むつもりなんだ。

昨年は5人の先頭集団に入ったんだ。200マイル走ったところまでは問題が無かったんだ。ところがその後のチェックポイントで停まったら、他の4人はストップせずに行ってしまった。彼らはそれと似たシステムを使っていたんだ!
XLはすでにどれだけの補給食・水分を積んでいるかのレースになっているね。補給のために停まってしまうと負けるんだ。


そして快適性向上のためにトライアスロン用の3Dプリントサドルを使うよ。サドル前方にクッションが多いからTTポジションをとったときに圧迫感を軽減できるんだ。
福田:Lefty(レフティ)フォークを使うんですね。やはりサスペンションはあったほうが快適ですか?

キング:Leftyを選ぶのは、第1に泥に対するクリアランス向上のためなんだ。サスペンション効果ももちろんだけれど、Leftyはタイヤクリアランスが絶対的に大きいんだ。他のバイクフレームの比じゃないほどにね。
福田:Topstoneを選んだ理由は?
キング:Topstoneは君らも知っているとおりアドベンチャーバイクだね。対してSuperXはレースバイク。典型的なのは数日間で行われるアドベンチャーレース。3〜5日といった日数をかけて、キャンプできる装備をバイクパッキングで積載して走るレース。アンバウンドのXLはそれに準じるアドベンチャーだ。
Topstoneはスピードよりも快適性が大事になってくるライドに選ぶね。SuperXも素晴らしいバイクだけどね。もし200マイルレースならSuperXを選ぶよ。SuperXにはMOMOモノコックハンドルバーをセットして。でもXLは迷うこと無くTopstoneだよ。




綾野:昨年XLを走ったときも選んだバイクはTopstoneでしたか?
キング:そう。でもノーマルフォークだった。Leftをセットしたのは今回が初めて。Leftフォークは圧倒的なマッドクリアランスがメリットだ。今のところ泥の予報が少し出ているから間違った選択じゃないはずだよ。泥が詰まるとホイールが回らなくなるからね!
福田:もしグラベルビギナーに勧めるとするならTopstoneですか?
キング:そうだね。ほとんどのアベレージ(平均的な)ライダーならTopstoneが始めやすいと思う。もし路面がスムーズならSynapseでもいいんだ。舗装路がメインで少しだけグラベルに入るならね。自分が走りたい舗装路とグラベルの割合で選ぶといいね。
グラベルレースならSuperX、マルチデイ・アドベンチャーならTopstone、ほとんど舗装路・時々グラベルならSynapse。3つあれば言うこと無いね(笑)。
永田:今回のタイヤチョイスを教えてください。

キング:タイヤはルネ・エルス(Rene Herse)製で、フロントは48Cのセミスリック。泥の心配があるからリアタイヤはおそらくスリックでいくつもり。なぜならそれも泥へのクリアランスのため。タイヤにノブが無いと泥が付着しにくいからね。ルネ・エルスは僕のタイヤスポンサーで、僕もアイデアを出し合って製品をつくってもらっているんだ。日本のパナレーサー製なんだよ。

綾野:ルネ・エルスのヤン・ハイネさんとは友人なんですよ。ヤンさんが年末年始に日本に来るここ4年は、毎年のように日本各地のグラベルルートを案内しているんです。ヤンさんの手記でルネ・エルス公式サイトのツーリング記事にも数回登場したことがあります。(ヤン・ハイネさんと走った房総グラベル記事へ)
キング:そうなんだね! じゃぁそのツーリングから得たアイデアもタイヤに詰まっているね。彼のリリースするタイヤはグラベルレーサーやアドベンチャーライダーの細かいニーズに応えてくれるんだ。

永田:日常のトレーニングはどうしていますか?
キング:アンバウンドに出場しているプロなら週に30時間は外でバイクに乗って練習しているだろう。でも僕は43歳のビジネスマンアスリートで、スポーツニュートリションブランドの「Untapped」の経営、そして家庭をもつ父の立場があるから、その範囲でできるトレーニングをしているよ。仕事があり、家族がいる。だから身の丈にあった取り組み方でレースを走っているんだ。今回はエアロポジションの練習にはできるだけ時間を割いた。ようやく身についていい感じだね。
福田:もうずっと長いことキャノンデールと関係が深いんですね。

キング:そう、2011年にリクイガス・キャノンデールと契約して以来、ずっとキャノンデールとバイクライフを歩んできたよ。キャノンデールのグラベル〜オフロード系のバイクの設計に関わってきたんだ。
福田:キャノンデールの歴代のバイクでもっとも気に入っているバイクは何ですか?
キング:一台を選ぶのは難しいな。だって家に帰ったら普段良く乗るのはロードのSuperSix Evoなんだ。もともとプロロードマンだったからね。
SuperSixは初代から乗っているよ。ロードは気軽に乗れるからね。マウンテンバイクのScalpelにだって乗る。
歴代の中で思い入れがあるのはやっぱりSLATEだね。太くて低い空気圧のスリックタイヤでコーナーのグリップ力を稼ぐという、今までの考え方にはなかった特別なバイクだったね。でも、やっぱりSLATEのその考え方が、今のワイドタイヤやグラベルバイクに通じる起源と言っていいね。そして、今乗っているバイクがいちばん!と言っておくよ。

近いうちに日本に行きたいんだ。実は妻とは結婚したときにハネムーンに日本に行くことを計画していたんだけど、行けなかったんだ。もで来年が結婚10周年だから、日本に記念旅行に行こうと計画しているんだ。ぜひ自転車を持っていくよ!
福田:日本のグラベルは私有地が多いし、田んぼ、畑も多いから難しい面もあるけどガイドしますよ。ぜひ一緒に走りましょう!
綾野:今春、ロンド・ファン・フラーンデレンとパリルーベに自転車とともに出かけましたよね?

キング:そう! 夢のようなバケーションだった。ロンドもルーベも選手のときに何度も出場している。でも、ただでさえアメリカ人がイタリアのチームに所属して、ヨーロッパのレースに適応するのが大変なのに、北のクラシックはそれに増してストレスが多いレースだった。

ロンドは2014年が最後の年だった。雨に濡れたコッペンベルグで、集団の皆が足を着いてしまって、歩いて登ったものさ。
かつてのチームメイトで、今はEFのチーム監督になったアンドレアス・クリアーや、当時のスタッフや関係者たちと交流できて、素晴らしい時間を過ごしたよ。あの頃のようなストレスはゼロで、過去をゆっくり振り返るような素敵な旅だった。
自転車に時々乗って石畳を楽しみ、ベルギーのビール工場を訪問して、ライドと相性のいいビールを教えてもらったり、カフェで街往くサイクリストたちを眺めたり、ロンド・ファン・フラーンデレン博物館にも行ったね。春は北フランスやベルギーは本当に美しい季節なんだ。長い冬から日が高くなり、花が咲き、緑が芽吹き始める。ビールにチョコレート、美しい国だよ。

パリ〜ルーベでは、2023年の女子レース覇者のアリソン・ジャクソンと話したね。今のパヴェの女王と、クラシックレースの走り方、クラシックレースの真髄、グラベル世界選のことについても話し合ったね。
僕自身パリ〜ルーベには4回出場した。当時はSuperSixかSynapseに26mm〜28mmタイヤを履かせて走ったね。ルーベの石畳は今ならグラベルバイクで走るべき道だね。SuperXに太さ45mmのタイヤの組み合わせなら楽しく走れるね。
僕が初めて石畳クラシックを走ったのは2005年にUSナショナルチームの一員としてだった。当時のソワニエ(介添えスタッフ)だったクリスとも会ったんだ。彼は今UAEチームエミレーツのスタッフだけど、ロジャー・デフラミングのソワニエでもあったんだ。彼に文化としてのクラシックを話してもらった。
もちろんプロレースも観戦した。昔とはかなり違っているね。かつて苦しみながら走った道の沿道で、素晴らしい雰囲気を味わった2週間の旅だった。
福田:バイクは何を持っていったんですか?
キング:ロンド・ファン・フラーンデレンにはSynapseを。パリルーベにはSuperXを連れていって乗ったんだ。それでレースコースを走り回ったよ。それぞれ適材・適所だろう?

綾野:素敵ですね。ところでロンドやルーベはグラベルレースのようなものだと思いますか?
キング:ハハハ、いい質問だ(笑)。イエスであり、ノーだね。妻は2024年のベルギーでのグラベル世界選手権に出ているんだけど「まるで春のクラシックのようだった」と言っていたね。道は狭く、グラベルというよりトレイルのような細道をハイスピードで駆け抜けていく。それもグラベルレースのひとつと言えるけど...。
だからトラディショナルな見方ではノー。しかし間違いなくグラベルレースのひとつだね。だからイェスだね(笑)。だからグラベルレースにも北のクラシックのようなパヴェ道があっておかしくないとも言えるね。
バイク、ビール、石畳 〜キングの帰還 part1. ロンド・ファン・フラーンデレン編〜
この対談の翌日、アンバウンド・グラベルXLに出走したテッド・キングだが、豪雨のなかレース中に泥区間でスリップし、転倒。脚と腕を負傷してリタイアすることに。XLへの挑戦は、再び「やり残した仕事」として翌年に持ち越すこととなってしまった。

photo : Makoto AYANO, Cannondale,Life Time
提供:インターテック
提供:インターテック