ティム・メルリールが最高72.2km/hを記録して2日連続勝利を飾った約30分後、翌日の第9ステージを酷暑により約30km短縮するとA.S.O.が発表した。連日の暑さがツール史を動かした日、ベルジュラックでは12番手からの逆転が生まれた。



後方からのロングスプリントを成功させたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

ティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が、圧巻としか表現できないスプリントで勝利してから、わずか30分後だった。レース主催者のA.S.O.が、翌日に行われるツール・ド・フランス第9ステージのコースを約30km短縮すると発表した。

マルモールからウッセルへ向かうスタート地点とフィニッシュ地点に変更はない。本来のコース序盤に設定されていた大きな迂回部分を取り除き、選手たちはニュートラル区間で予定のルートを外れる形だ。変更の理由は、フランス気象局がコレーズ県に発令した、最高段階の「赤色」の熱波警報だった。

発表を受けたプレスセンターに広がったのは、驚きよりも「ようやくか」という安堵だった。少なくとも、筆者の周囲にいたメディア関係者から大きな反対の声は聞こえてこなかった。開幕から連日、スタートとフィニッシュ地点などで十分暑さを体感しているからだ。屋外に数分立っているだけで汗が噴き出し、日陰を探さずにはいられない。そんな環境を、選手たちは何時間も走り続けている。

それだけではない。沿道の観客は、選手やキャラバンカーが到着する何時間も前から炎天下に立っている。この暑さは選手のパフォーマンスだけではなく、観客や大会運営に携わる人々の健康にも関わる問題だ。発表直後に行われたメルリールの記者会見でも、記者から翌日のコース変更について質問が飛んだ。

「開幕してからここまで、常に35度以上の中を走ってきた。最初の3日間はレース内容で忙しかったが、それ以降は身体を冷やすのに忙しかった。だから賢明な判断だと思うし、この決断を下したレース主催者に感謝を伝えたい」。

悪天候や道路事情などによって、過去にもツールのステージが中止、短縮された例はある。しかし、高温を理由にステージの距離が短縮されるのは、ツール史上初めてのこと。連日の暑さがついに、レースの距離そのものを変えた。


この日もギヨーム・マルタンファンクラブのボードに遭遇。チームプレゼン後、マルタンがファンと触れ合うシーンもあった photo:Sotaro.Arakawa
ポガチャルを一目見るべく、トタルエネルジーのTシャツを着た多くの少年たちがチームバスの前で待ち構えていた photo:Sotaro.Arakawa


この日のスタート地点であるペリグーも、うだるような暑さだった photo:Sotaro.Arakawa

前日のフィニッシュ地だったボルドーと比べれば、ほとんどの街が小さく見えてしまう。第8ステージのスタート地点であるペリグーも、市街地には必要な店や施設が一通り揃い、決して小さな街ではない。それでも南西フランスを代表する大都市から移動してきた翌朝には、街全体が一回り小さくなったように感じられた。だが、街が小さくなっても暑さは変わらない。

ペリグーからベルジュラックまでの180.4kmは、3名の逃げによって幕を開けた。終盤にはリアム・スロック(ベルギー、ロット・アンテルマルシェ)が単独で粘り続けたものの、フィニッシュまで1.5kmを残して吸収。レースは2日連続となる集団スプリントに持ち込まれた。しかし、その結末は予定調和とは呼べないものだった。

2つ目の4級山岳で抜け出し、ラスト1.5kmまで逃げたリアム・スロック(ベルギー、ロット・アンテルマルシェ) photo:A.S.O.

残り500mの最終コーナーを抜けた時点で、メルリールは12番手。メルリールの最終リードアウトを務めるヤスペル・ストゥイヴェン(ベルギー)はすでに役割を終え、先頭を行く選手たちとの間には小さな切れ目まで生まれていた。勝利するためには、自ら前方との差を埋めなければならなかった。

その直前には周囲を囲まれ、落車しかけてもいたため、「一瞬、今日はもう終わったと思った」と本人が振り返るほど、勝利は遠ざかっていた。それでも「やるだけやってみよう」と、前方でリードアウトを終えた選手たちを追いかけた。残り250mでその背後に取りついた時には、すでに大きな速度差がついていた。その勢いのまま左側から踏み込み、前を行く選手を次々に抜き去っていった。

先頭ではマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・プレミアテック)が、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)のために渾身のリードアウトを続けていた。そこへ左後方からメルリールが追いつき、先頭に立ってからもさらに速度を伸ばした。記録された最高速度は72.2km/h。ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、NSNサイクリングチーム)とオラフ・コーイ(オランダ、デカトロンCMA CGM)を従え、メルリールが2日連続となる勝利を掴んだ。

残り150m地点で先頭に立ったティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:Sotaro.Arakawa

「残り50mでは、もうこれ以上踏み込めないと感じていた。でもフィニッシュラインが見えれば、僕は誰よりも力を引き出すことができるのだと思う」。ベルジュラックで披露した走りは、前日のボルドー以上に衝撃的だった。ボルドーでは残り200mまで踏み出すのを待ち、わずかに空いたスペースを突いて勝った。ベルジュラックでは十数番手から前方との差を埋め、リードアウトトレインごと飲み込んだ。

基本的な構図は似ていた。

第6ステージで最終リードアウトを務めるベルト・ファンレルベルへ(ベルギー)が大会を去り、理想の位置まで運んでもらうことはできない。位置取り争いの中で一度は勝利が遠ざかる。それでも勝負を諦めず、自らの脚で前へ戻り、最後には誰よりも速く踏み込む。

ボルドーで勝った後、メルリールは「一度勝った選手が、続けて勝つことはよくある」と話していた。その言葉を、わずか24時間後に自ら実現させた。

直近では第11、第12ステージが、ピュアスプリンターにとって明確な勝機となる。第17ステージも平坦ステージではあるが、獲得標高は2200m。最終日のパリは今年も「モンマルトルの丘」が3回組み込まれており、メルリールが得意とするピュアな集団スプリントが、あと何度訪れるかは分からない。それでも、もはや焦る必要はない。それは「2連勝できて嬉しい。僕のツールは、すでに成功と言っていい」という言葉からも明らかだ。

少なくともピュアスプリンターに残されたであろうスプリントはあと2つ。だが、「リア11Tさえ足りないことがある」というメルリールの加速を、止められる選手は現れるのだろうか。

ソーレン・ヴァーレンショルト(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)の応援団 photo:Sotaro.Arakawa
オラフ・コーイ(オランダ、デカトロンCMA CGM)の応援もフィニッシュ地点には響いていた photo:Sotaro.Arakawa


区間12位だったマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) photo:Sotaro.Arakawa

text&photo:Sotaro.Arakawa in Périgueux, France

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