スペシャライズドの新型レースバイク「S-Works Tarmac SL9」が待望のデビュー。前作Tarmac SL8からわずか2gの重量増で4W分の空力向上を果たし、オールラウンドレーサーとして更なる進化を遂げたブランド史上最速レースバイクを、インプレッションと共に紹介しよう。

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 photo:Michinari TAKAGI
今年に入り、XCバイクの「Epic 9」やグラベルバイクの「CRUX」など、様々な新型バイクをリリースしてきたスペシャライズド。しかし、なんといっても注目を集めていたのは、同社のオールラウンドレーサーであるTarmacシリーズの最新作、SL9の動向だ。
ピュアエアロロードと比肩しうる空力性能と、フレームで685gというクライミングバイクを圧倒する軽量性。そして卓越したハンドリングを武器に、プロレーサーからアマチュアライダ―まで絶大な支持を受けてきたTarmac SL8。デビューから既に4年が経過した今も、レーシングバイクの最前線を行く一台から、どのようにアップデートされるのか。

フレーム形状の全てが一新された photo:Michinari TAKAGI
もっと軽くなる?もっとエアロに振る?誰もが注目するこのテーマに、スペシャライズドのエンジニアが出した答えは、今一度レーシングバイク本来の目的に立ち返ること。
フィニッシュラインを最速で通過する。最もシンプルで、最もプリミティブなこの願いこそ、全てのレーシングバイクが叶えるべき目標だ。軽さも、剛性も、空力も、その後についてくる手段に過ぎない。
クラシックでも、グランツールでも、スプリントでも、ヒルクライムでも、全てのレースにおいて、フィニッシュラインに先着する。距離、勾配、気候、ライダーの特性etc……常に変化する膨大な変数が絡みあう難題を解くために、スペシャライズドが導き出したのが「スピードの方程式」だ。
「RIDER + BIKE + ROUTE = TIME TO FINISH」

スペシャライズドが提唱する「スピードの方程式」 (c)スペシャライズド・ジャパン
スピードの方程式を構成するのは3つの変数。RIDER、BIKE、ROUTE、この和がフィニッシュまでの時間を決定づけると、スペシャライズドは主張する。
最初の項であるRIDERに含まれるのは、選手についての全ての要素。パワーカーブ、体重、各ポジションでのCdA値(空気抵抗を示す指標)、そういった情報がこの項に含まれる。
2つ目のBIKEは、自転車に関する全ての要素。バイクのCdA、駆動効率、重量といったデータが該当する。
3つ目のROUTEは、ライダーと自転車以外の全ての要素。コースの距離、勾配、空気密度、風速、風向、路面の抵抗値、そういった外的要因が含まれる、もっとも複雑な項目だ。
これらのデータを正確に入力することが出来れば、現実世界における本当の速さをシミュレーション可能となる。優れたバイクを開発するためには、その効果を厳密に測定、評価することが不可欠だ。

スペシャライズド本社内の風洞「WIN-TUNNEL」でテストを受けるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) (c)スペシャライズド・ジャパン

背中のプレートを吊り下げるような形で固定された第6世代のムービングレッグマネキンを導入 (c)スペシャライズド・ジャパン
そのために、スペシャライズドはデータ計測や収集、分析に関わる全てをアップデートし続けてきた。その好例が、風速データの取り扱いだ。以前、スペシャライズドは自動車業界の慣習に習い、地上3mの風速データをシミュレーションに用いていた。しかし、ある時加入した空力エンジニアが自動車と自転車の条件の違いを指摘。実際に自転車が通過する地上1mの風速データを用いることで、より忠実な計算が行えるようになったという。
SL9の開発にあたっても、空力データの計測方法に大きなアップデートが施された。ライド時の状況を再現するために用いるムービングレッグマネキンが第6世代に更新されたのだ。以前のマネキンでは、脚の動きによってマネキンの位置がズレることで、計測結果に影響していたという。その問題を解決すべく、第6世代では背中から吊り下げるような固定形式を採用し、マネキンの位置ズレを排除することでより信頼できるデータ測定を可能とした。
このように膨大な投資を惜しまず測定した正確なデータを元に開発されたのが新型Tarmac SL 9。「スペシャライズド史上最速のロードバイク」と高らかに宣言する一台がどのようなパフォーマンスを発揮するのか、まずは「スピードの方程式」に当てはめたシミュレーションを見ていこう。
スペシャライズドが行ったレースシミュレーション

超級山岳ラルプデュエズに突入したデミ・フォレリング(オランダ、SDワークス・プロタイム) photo:CorVos
舞台は2024年のツール・ド・フランス・ファム第8ステージ。第7ステージが終了した時点で、総合連覇を目指していたデミ・フォレリング(オランダ、SDワークス・プロタイム)は、マイヨジョーヌを着るカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、キャニオン・スラム)に対し1分15秒遅れ。
レースが超級山岳グランドン峠に突入すると、Tarmac SL8と共にプロトンを飛び出したフォレリングが独走。そのまま先頭でフィニッシュラインを越えるが、総合タイムでは4秒届かず、総合優勝を僅差で逃す結果となった。

もしデミ・フォレリングがTarmac SL9を使用し同じコースを走るとSL8よりも14秒早くゴールに到達し、10秒差の逆転勝利を達成できる計算結果が出た (c)スペシャライズド・ジャパン

S-Works Tarmac SL9をテストするデミ・フォレリング(オランダ、FDJユナイテッド・スエズ) (c)スペシャライズド・ジャパン
そこで、スペシャライズドはフォレリングがTarmac SL9を使用していたという想定で「スピードの方程式」に基づくシミュレーションを実施。すると、SL8よりも14秒早くゴールに到達し、10秒差で総合成績を逆転できるという結果が出た。このように、バイクの開発は選手のキャリアを変える大きな違いに繋がる。
更に、スペシャライズドはUCIワールドチームが使用する他社のバイクと比較したデータも公開している。タイヤ幅やハンドル幅、多くのセットアップなど同条件に揃え、再現性の高いフェアなテストを実施した。

グランツールの代表的な100kmコースとして再構築して、シミュレーションした結果 (c)スペシャライズド・ジャパン
シミュレーションの結果は上記表のとおり。Weighted CdA【㎡】とは、単なるCdAではなく、実際のレースにおける風向を考慮し、各ヨー角の風の遭遇頻度のデータを元に加重し、平均値をとった空気抵抗値だ。つまり、現実世界において、各フレームが平均的に発揮する空力性能を示している。
その数値において、Tarmac SL9はサーヴェロ S5に次ぐ2番手としてコルナゴ Y1RSと並ぶ数値をマーク。一方で、重量面においては、ライバルから圧倒的なアドバンテージを有している。その結果として導き出されるのが最上段のGrand Tour Stage100kmの行。
これは、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャを分析し、高速な平坦路、起伏のある区間、急勾配の登り、そして下りといった共通要素を抽出し、実際のレースダイナミクスを反映することで、グランツールの要素を凝縮した100kmコースとして再構築して、シミュレーションに用いたもの。この結果、SL8やライバルモデルに対して大きなタイム差を生み出すことを導き出した。

ツールや世界選手権など、あらゆる有名なロードレースの勝負所を切り取り、シミュレーションも行っているが、SL9が最速という結果が得られた (c)スペシャライズド・ジャパン
仮想コースだけでなく、スペシャライズドはツールや世界選手権など、過去の有名なロードレースの勝負所において同様のシミュレーションを実施したところ、全てのシチュエーションにおいてSL9が最速である証拠を更に積み重ねる結果となった。
綿密なシミュレーションにおいて、圧倒的な結果を残したTarmac SL9。それでは、スペシャライズドはいかにしてその性能向上を成し遂げたのか。そのディテールを掘り下げよう。
Tarmac SL9で進化したディテール

左右2mmずつ計4mm細身になり、全面投影面積を10%も減少している。(左がSL8、右がSL9) (c)スペシャライズド・ジャパン
まずは、空気が真っ先にあたるフロントセクションから見て行こう。ヘッドチューブは、SL9では左右2mmずつ計4mm細身になり、前面投影面積を10%削減することに成功している。
このデザインを可能としたのが、特許出願中のOffset Steerer。ブレーキホースを通すための空間を確保すべく、ヘッド内部でステアリングコラムがノンドライブサイド側にオフセットされているのだ。つまり、コラムがクランク形状となっている。これは、異形コラムや厚みの変更によってハンドリングを犠牲にしないための設計だ。

ステアリングコラムがノンドライブ側にオフセットさせることで、ドライブ側からブレーキホースを通すことで解決した photo:Michinari TAKAGI
44サイズから61サイズまでフレームサイズ展開に合わせ、4種類のフロントフォークを用意している。それぞれのサイズでどこをオフセットさせるかは、その高さによって4種類で異なっている。なお、フレームジオメトリーはSL8からの変更はない。SL8からSL9への乗り換えを検討している方は、フレームサイズについて悩む必要は無さそうだ。
SL8から明らかに異なるのがフォークブレード。前後方向への厚みが増し、よりエアロなルックスに仕上がっている。さらに、フォークブレードはハの字に開くような形状とされており、フロントホイールからの高エネルギー気流をフォークブレードに沿って導いてくれる。最大タイヤ幅は32Cまでとなっており、SL8から変更なし。

フォークブレードをハの字に開くような形状によって、フロントホイールからの高エネルギー気流を、フォークブレードに沿って導く(青線は空気の流れを表している) (c)スペシャライズド・ジャパン 
最大タイヤ幅は32Cまで photo:Michinari TAKAGI 
SL9ではロード用に改良されたステアリングストップが搭載 photo:Michinari TAKAGI

Dropped Downtubeを採用し、ダウンチューブ上の気流を整え、ドラッグを低減 photo:Michinari TAKAGI
フォークから流れてきた気流を受け止めるダウンチューブにはDropped Downtubeデザインを採用。フォーククラウンからダウンチューブへの段差をなくし、空気の流れをスムーズに接続することで、ドラッグを低減している。ダウンチューブを下げることで発生するフォークブレードとダウンチューブの干渉を防ぐため、SL9ではロード用に改良されたステアリングストッパーが搭載された。
シートチューブに搭載された「Win Fin」は、SL9の最も特徴的なパーツだろう。このフィンが生まれたのは、選手が勝負所の登り区間や集団から逃げるときに、ボトル1本で走っている選手が多いことに開発陣が気づき、ボトル1本の時に最適な空力を求めた結果だという。

リアホイールに沿うような「Win Fin」を搭載(手前がSL9、奥がSL8) photo:Michinari TAKAGI

Win Finはボトル1本使用時の状況で空力を最適化したデザイン photo:Michinari TAKAGI

シートポストの上部が翼断面になったS-Works RapideAero Postを搭載 photo:Michinari TAKAGI 
シートクランプはTarmac SL8から変更なし photo:Michinari TAKAGI
また、シートポストはSL8と同じく上部が翼断面となり、ペダリング時に整流効果を発揮する「S-Works RapideAero Post」を採用。これらの改善点によって、SL8比で4Wの空気抵抗低減を実現した。一方でエアロ性能を向上させているのにもかかわらず、SL9のフレーム重量は687gと、SL8から僅か2g重くなっただけ。FACT 12rカーボンを引き続き採用していることを考えれば、驚くべき数値だろう。
これは形状が荷重を支える「Flow State Design」を採用したことによる恩恵だ。有限要素法解析(FEA)を使用し、応力がかかる部分の積層を減らし、軽量かつしなやかなフレームに仕上げられた。また、カーボンの層ごとの重ね方も、シミュレーションから導き出されたものだ。
Rapideのコックピットとホイールをレディートゥペイントという最も軽量なペイントで組み上げた場合、スラム RED完成車で6.5kgとUCIの重量規定を悠々と下回る。因みに、Alpinistのコックピットとホイールで組み上げれば6.1kgとなり、ヒルクラムに適したバイクにも化ける。

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9のフレーム重量は687g photo:Michinari TAKAGI

有限要素法解析(FEA)を使用し、応力がかかる部分の積層を減らし、軽量かつしなやかなフレームが完成。カーボンの層ごとの重ね方も同時にシミュレーションをできるようになったという (c)スペシャライズド・ジャパン
フロントディレイラー台座はリベットではなく六角ネジで固定されており、フロントシングルでの運用もしやすい。また、MTBではスタンダードになっているユニバーサルディレーラーハンガー(UDH)を採用するなど、細かな仕様もアップデートされている。
直感的に応えるハンドリングやレースで証明されたパフォーマンスジオメトリー、比類なき快適性で疲労軽減を実現している。また、すべてのサイズで同じライドクオリティーとするべく、「Rider First Engineered」も引き続き採用しているのは言うまでもないだろう。

Tarmac SL9のプレゼンテーションを行うオリンピアンの小田島梨絵さん photo:Michinari TAKAGI 
フロントディレイラー台座はリベットではなく六角のネジで取り外し可能 photo:Michinari TAKAGI
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9完成車
S-works Tarmac SL9は2026年7月1日19時に発表され、20時に販売開始となる。スラム RED AXS完成車の3色、シマノ DURA-ACE完成車の1色、フレームセットは10色、チームレプリカの4色が一挙にリリースされる。

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 スラム RED AXS完成車(GLOSS RUBY METALLIC / WHITE SILVER METALLIC) (c)スペシャライズド・ジャパン 
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 シマノ DURA-ACE完成車(GLOSS CARBON / GLOSS WHIT) (c)スペシャライズド・ジャパン

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 スラム RED AXS完成車(GLOSS WHITE SILVER METALLIC / GLOSSRUBY METALLIC / OBSIDIAN METALLIC) (c)スペシャライズド・ジャパン 
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 スラム RED AXS完成車(SATIN SILVER DUST / GLOSS CHROME) (c)スペシャライズド・ジャパン
完成車のコンポーネントでは、52~58サイズでハンドル幅とクランク長が変更となった。52サイズではハンドル幅が380mm、クランク長が165mm、54サイズではハンドル幅が380mm、クランク長が170mmと、ハンドル幅が狭くなり、ショートクランクが実装された。
フレームとフォークは最高峰のカーボン 12rを採用し、S-Works RapideAero Postが付属する。完成車にはホイールはロヴァール Rapide CLX IIIが搭載される。
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9フレームセット

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセット (c)スペシャライズド・ジャパン

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセット (c)スペシャライズド・ジャパン
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセットチームレプリカ

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセットチームレプリカ (c)スペシャライズド・ジャパン
S-Works Tarmac SL9 フレームセットチームレプリカはレッドブル・ボーラ・ハンスグローエとFDJユナイテッド・スエズ、SDワークス・プロタイム、スーダル・クイックステップの4チームが展開され、憧れのチームや選手と同じカラーのバイクを入手できる。
価格はフレームセットが880,000円(税込)、チームレプリカフレームセットが935,000円(税込)、スラム RED AXS完成車とシマノ DURA-ACE完成車は共に1,980,000円(税込)。
前置きがかなり長くなったが、テストライドインプレッションに移っていこう。
―編集部インプレッション

前作のS-Works Tarmac SL8でJプロツアーを走るCW編集部員の高木が新型Tarmac SL9をテストしていく photo:Ryuta Iwasaki
今回Tarmac SL9をテストを担当するのは、前作のTarmac SL8でJプロツアーを走るCW編集部員の高木。スペシャライズドとの付き合いは初めて購入したスペシャライズド ALLEZから始まり、その後はS-WORKS Tarmac SL3やSL5、初代VENGEを経て、現在のSL8まで、様々なバイクでロードレースを走ってきた。
Tarmac SL9と対面すると、SL8よりもエアロ性能が高そうなルックスに気がつく。フロントフォークの厚みはもちろん、リア周りやシートポストなどフレーム形状が大幅にアップデートされ、よりレーシングバイク然とした雰囲気に仕上がっている。持ち上げるとSL8との重量差は感じられず、軽量そのもの。特に目を惹かれたのはトップチューブ形状。丸型から扇型に変わり、細部のデザインも全て変更されていることから、乗り心地も変わっていそう、というのが第一印象だ。

Tarmac SL9は高剛性でタイムラグのない爆発的な加速のスプリントができる photo:Ryuta Iwasaki
そして、早速テストライドへ。ペダルを漕ぎだすと一踏み目からSL8とは異なる剛性を感じる。SL8ではフロントの剛性が高く、リア周りがしなり、足あたりが良かった。
しかしSL9ではフロントの剛性が一層高く、加えてリアの剛性も高まっているように感じた。フロントからリアにかけて同じ剛性感のフレームになっているような感覚だ。そのため踏み出しと同時に、タイムラグなくバイクが進み出してくれる。事前のプレゼンテーションでは、SL8とSL9の剛性値は数値上では同じとされていた。しかし、フレームの形状の変更によってライダーフィーリングとしては大きく変わる。SL8よりは以前のSL7に近いライドフィーリングといえる。ゼロ発進ではパリっとした印象の剛性感で、また低速域からは明らかな空力性能のアップデートを感じつつ、リニアに加速していく。
SL9の剛性の向上は、より太く、空力を求めた形状へと変化したフロントフォークやヘッド周りの影響が大きいのではないだろうか。これによりフロント周りの安定感が増し、直進安定性も増したという印象だ。

Tarmac SL9は30km/h以上の高速域でスピードの維持がしやすい photo:Ryuta Iwasaki
SL8ではスプリントでの加速時、踏み込むとBB周りやリア三角が一度しなり、そのしなりが戻る反発を活かして一気に加速していった。対してSL9はしなり戻りが早く、よりハイテンポでの加速を実現してくれる。
空力性能で言えば、ゼロ発進から10~20km/hの低速域からすでに空力の良さを感じる。20~40km/hの中速域はもちろん、40km/h以上でもその恩恵は絶大だ。さらに、SL8よりも省エネルギーで30km/h以上の中~高速域でスピードの維持がしやすい印象。SL9は得意とするスピードレンジがSL8よりも全体的に高速化されている印象だった。

登りでは軽量とエアロ性能を活かして、スムーズに登っていける (c)スペシャライズド・ジャパン
登りに差し掛かると、軽量性を活かしてスムーズに登りやすい。ダンシングでは若干立ちが強く、バイクを大きく振るというより、シッティングでケイデンスをキープしながら登っていく方がSL9では良さそうだ。
コーナーリングはSL8のようにクイックに倒れやすいバイクではなく、速すぎず遅すぎずリズムが取りやすい感覚。ハンドルやフロントフォークの剛性感がしっかりしているため、コーナーリングの最中でもブレることなく安心して攻めていける。

これまで歴代のTarmacと比較しても、SL9は歴代最速に感じたレーサーにおすすめしたい一台 photo:Michinari TAKAGI
今回、Tarmac SL9を平坦や登り、下りなどあらゆるシチュエーションでテストしてきたが、これまで歴代のTarmacと比較しても、SL9は最速の一台だと感じる。今のロードレースやクリテリウムでも平均スピードが上がり、まさにSL9のバイクが今のレースシーンにマッチしてくれる勝利を求めるレーサーにおすすめしたい一台だった。
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 スラム RED AXS完成車
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:GLOSS RUBY METALLIC / WHITE SILVER METALLIC、GLOSS WHITE SILVER METALLIC / GLOSSRUBY METALLIC / OBSIDIAN METALLIC、SATIN SILVER DUST / GLOSS CHROME
コンポーネント:スラム RED AXS
ハンドル:ロヴァール Rapide Cockpit
ホイール:ロヴァール Rapide CLX III
価格:1,980,000円 (税込)
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 シマノ DURA-ACE完成車
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:GLOSS CARBON / GLOSS WHIT
コンポーネント:シマノ DURA-ACE
ハンドル:ロヴァール Rapide Cockpit
ホイール:ロヴァール Rapide CLX III
価格:1,980,000円 (税込)
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセット
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:10種類
価格:880,000円(税込)
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセット チームレプリカフレームセット
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:4種類
価格:935,000円(税込)

今年に入り、XCバイクの「Epic 9」やグラベルバイクの「CRUX」など、様々な新型バイクをリリースしてきたスペシャライズド。しかし、なんといっても注目を集めていたのは、同社のオールラウンドレーサーであるTarmacシリーズの最新作、SL9の動向だ。
ピュアエアロロードと比肩しうる空力性能と、フレームで685gというクライミングバイクを圧倒する軽量性。そして卓越したハンドリングを武器に、プロレーサーからアマチュアライダ―まで絶大な支持を受けてきたTarmac SL8。デビューから既に4年が経過した今も、レーシングバイクの最前線を行く一台から、どのようにアップデートされるのか。

もっと軽くなる?もっとエアロに振る?誰もが注目するこのテーマに、スペシャライズドのエンジニアが出した答えは、今一度レーシングバイク本来の目的に立ち返ること。
フィニッシュラインを最速で通過する。最もシンプルで、最もプリミティブなこの願いこそ、全てのレーシングバイクが叶えるべき目標だ。軽さも、剛性も、空力も、その後についてくる手段に過ぎない。
クラシックでも、グランツールでも、スプリントでも、ヒルクライムでも、全てのレースにおいて、フィニッシュラインに先着する。距離、勾配、気候、ライダーの特性etc……常に変化する膨大な変数が絡みあう難題を解くために、スペシャライズドが導き出したのが「スピードの方程式」だ。
「RIDER + BIKE + ROUTE = TIME TO FINISH」

スピードの方程式を構成するのは3つの変数。RIDER、BIKE、ROUTE、この和がフィニッシュまでの時間を決定づけると、スペシャライズドは主張する。
最初の項であるRIDERに含まれるのは、選手についての全ての要素。パワーカーブ、体重、各ポジションでのCdA値(空気抵抗を示す指標)、そういった情報がこの項に含まれる。
2つ目のBIKEは、自転車に関する全ての要素。バイクのCdA、駆動効率、重量といったデータが該当する。
3つ目のROUTEは、ライダーと自転車以外の全ての要素。コースの距離、勾配、空気密度、風速、風向、路面の抵抗値、そういった外的要因が含まれる、もっとも複雑な項目だ。
これらのデータを正確に入力することが出来れば、現実世界における本当の速さをシミュレーション可能となる。優れたバイクを開発するためには、その効果を厳密に測定、評価することが不可欠だ。


そのために、スペシャライズドはデータ計測や収集、分析に関わる全てをアップデートし続けてきた。その好例が、風速データの取り扱いだ。以前、スペシャライズドは自動車業界の慣習に習い、地上3mの風速データをシミュレーションに用いていた。しかし、ある時加入した空力エンジニアが自動車と自転車の条件の違いを指摘。実際に自転車が通過する地上1mの風速データを用いることで、より忠実な計算が行えるようになったという。
SL9の開発にあたっても、空力データの計測方法に大きなアップデートが施された。ライド時の状況を再現するために用いるムービングレッグマネキンが第6世代に更新されたのだ。以前のマネキンでは、脚の動きによってマネキンの位置がズレることで、計測結果に影響していたという。その問題を解決すべく、第6世代では背中から吊り下げるような固定形式を採用し、マネキンの位置ズレを排除することでより信頼できるデータ測定を可能とした。
このように膨大な投資を惜しまず測定した正確なデータを元に開発されたのが新型Tarmac SL 9。「スペシャライズド史上最速のロードバイク」と高らかに宣言する一台がどのようなパフォーマンスを発揮するのか、まずは「スピードの方程式」に当てはめたシミュレーションを見ていこう。
スペシャライズドが行ったレースシミュレーション

舞台は2024年のツール・ド・フランス・ファム第8ステージ。第7ステージが終了した時点で、総合連覇を目指していたデミ・フォレリング(オランダ、SDワークス・プロタイム)は、マイヨジョーヌを着るカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、キャニオン・スラム)に対し1分15秒遅れ。
レースが超級山岳グランドン峠に突入すると、Tarmac SL8と共にプロトンを飛び出したフォレリングが独走。そのまま先頭でフィニッシュラインを越えるが、総合タイムでは4秒届かず、総合優勝を僅差で逃す結果となった。


そこで、スペシャライズドはフォレリングがTarmac SL9を使用していたという想定で「スピードの方程式」に基づくシミュレーションを実施。すると、SL8よりも14秒早くゴールに到達し、10秒差で総合成績を逆転できるという結果が出た。このように、バイクの開発は選手のキャリアを変える大きな違いに繋がる。
更に、スペシャライズドはUCIワールドチームが使用する他社のバイクと比較したデータも公開している。タイヤ幅やハンドル幅、多くのセットアップなど同条件に揃え、再現性の高いフェアなテストを実施した。

シミュレーションの結果は上記表のとおり。Weighted CdA【㎡】とは、単なるCdAではなく、実際のレースにおける風向を考慮し、各ヨー角の風の遭遇頻度のデータを元に加重し、平均値をとった空気抵抗値だ。つまり、現実世界において、各フレームが平均的に発揮する空力性能を示している。
その数値において、Tarmac SL9はサーヴェロ S5に次ぐ2番手としてコルナゴ Y1RSと並ぶ数値をマーク。一方で、重量面においては、ライバルから圧倒的なアドバンテージを有している。その結果として導き出されるのが最上段のGrand Tour Stage100kmの行。
これは、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャを分析し、高速な平坦路、起伏のある区間、急勾配の登り、そして下りといった共通要素を抽出し、実際のレースダイナミクスを反映することで、グランツールの要素を凝縮した100kmコースとして再構築して、シミュレーションに用いたもの。この結果、SL8やライバルモデルに対して大きなタイム差を生み出すことを導き出した。

仮想コースだけでなく、スペシャライズドはツールや世界選手権など、過去の有名なロードレースの勝負所において同様のシミュレーションを実施したところ、全てのシチュエーションにおいてSL9が最速である証拠を更に積み重ねる結果となった。
綿密なシミュレーションにおいて、圧倒的な結果を残したTarmac SL9。それでは、スペシャライズドはいかにしてその性能向上を成し遂げたのか。そのディテールを掘り下げよう。
Tarmac SL9で進化したディテール

まずは、空気が真っ先にあたるフロントセクションから見て行こう。ヘッドチューブは、SL9では左右2mmずつ計4mm細身になり、前面投影面積を10%削減することに成功している。
このデザインを可能としたのが、特許出願中のOffset Steerer。ブレーキホースを通すための空間を確保すべく、ヘッド内部でステアリングコラムがノンドライブサイド側にオフセットされているのだ。つまり、コラムがクランク形状となっている。これは、異形コラムや厚みの変更によってハンドリングを犠牲にしないための設計だ。

44サイズから61サイズまでフレームサイズ展開に合わせ、4種類のフロントフォークを用意している。それぞれのサイズでどこをオフセットさせるかは、その高さによって4種類で異なっている。なお、フレームジオメトリーはSL8からの変更はない。SL8からSL9への乗り換えを検討している方は、フレームサイズについて悩む必要は無さそうだ。
SL8から明らかに異なるのがフォークブレード。前後方向への厚みが増し、よりエアロなルックスに仕上がっている。さらに、フォークブレードはハの字に開くような形状とされており、フロントホイールからの高エネルギー気流をフォークブレードに沿って導いてくれる。最大タイヤ幅は32Cまでとなっており、SL8から変更なし。




フォークから流れてきた気流を受け止めるダウンチューブにはDropped Downtubeデザインを採用。フォーククラウンからダウンチューブへの段差をなくし、空気の流れをスムーズに接続することで、ドラッグを低減している。ダウンチューブを下げることで発生するフォークブレードとダウンチューブの干渉を防ぐため、SL9ではロード用に改良されたステアリングストッパーが搭載された。
シートチューブに搭載された「Win Fin」は、SL9の最も特徴的なパーツだろう。このフィンが生まれたのは、選手が勝負所の登り区間や集団から逃げるときに、ボトル1本で走っている選手が多いことに開発陣が気づき、ボトル1本の時に最適な空力を求めた結果だという。




また、シートポストはSL8と同じく上部が翼断面となり、ペダリング時に整流効果を発揮する「S-Works RapideAero Post」を採用。これらの改善点によって、SL8比で4Wの空気抵抗低減を実現した。一方でエアロ性能を向上させているのにもかかわらず、SL9のフレーム重量は687gと、SL8から僅か2g重くなっただけ。FACT 12rカーボンを引き続き採用していることを考えれば、驚くべき数値だろう。
これは形状が荷重を支える「Flow State Design」を採用したことによる恩恵だ。有限要素法解析(FEA)を使用し、応力がかかる部分の積層を減らし、軽量かつしなやかなフレームに仕上げられた。また、カーボンの層ごとの重ね方も、シミュレーションから導き出されたものだ。
Rapideのコックピットとホイールをレディートゥペイントという最も軽量なペイントで組み上げた場合、スラム RED完成車で6.5kgとUCIの重量規定を悠々と下回る。因みに、Alpinistのコックピットとホイールで組み上げれば6.1kgとなり、ヒルクラムに適したバイクにも化ける。


フロントディレイラー台座はリベットではなく六角ネジで固定されており、フロントシングルでの運用もしやすい。また、MTBではスタンダードになっているユニバーサルディレーラーハンガー(UDH)を採用するなど、細かな仕様もアップデートされている。
直感的に応えるハンドリングやレースで証明されたパフォーマンスジオメトリー、比類なき快適性で疲労軽減を実現している。また、すべてのサイズで同じライドクオリティーとするべく、「Rider First Engineered」も引き続き採用しているのは言うまでもないだろう。


スペシャライズド S-Works Tarmac SL9完成車
S-works Tarmac SL9は2026年7月1日19時に発表され、20時に販売開始となる。スラム RED AXS完成車の3色、シマノ DURA-ACE完成車の1色、フレームセットは10色、チームレプリカの4色が一挙にリリースされる。




完成車のコンポーネントでは、52~58サイズでハンドル幅とクランク長が変更となった。52サイズではハンドル幅が380mm、クランク長が165mm、54サイズではハンドル幅が380mm、クランク長が170mmと、ハンドル幅が狭くなり、ショートクランクが実装された。
フレームとフォークは最高峰のカーボン 12rを採用し、S-Works RapideAero Postが付属する。完成車にはホイールはロヴァール Rapide CLX IIIが搭載される。
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9フレームセット


スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセットチームレプリカ

S-Works Tarmac SL9 フレームセットチームレプリカはレッドブル・ボーラ・ハンスグローエとFDJユナイテッド・スエズ、SDワークス・プロタイム、スーダル・クイックステップの4チームが展開され、憧れのチームや選手と同じカラーのバイクを入手できる。
価格はフレームセットが880,000円(税込)、チームレプリカフレームセットが935,000円(税込)、スラム RED AXS完成車とシマノ DURA-ACE完成車は共に1,980,000円(税込)。
前置きがかなり長くなったが、テストライドインプレッションに移っていこう。
―編集部インプレッション

今回Tarmac SL9をテストを担当するのは、前作のTarmac SL8でJプロツアーを走るCW編集部員の高木。スペシャライズドとの付き合いは初めて購入したスペシャライズド ALLEZから始まり、その後はS-WORKS Tarmac SL3やSL5、初代VENGEを経て、現在のSL8まで、様々なバイクでロードレースを走ってきた。
Tarmac SL9と対面すると、SL8よりもエアロ性能が高そうなルックスに気がつく。フロントフォークの厚みはもちろん、リア周りやシートポストなどフレーム形状が大幅にアップデートされ、よりレーシングバイク然とした雰囲気に仕上がっている。持ち上げるとSL8との重量差は感じられず、軽量そのもの。特に目を惹かれたのはトップチューブ形状。丸型から扇型に変わり、細部のデザインも全て変更されていることから、乗り心地も変わっていそう、というのが第一印象だ。

そして、早速テストライドへ。ペダルを漕ぎだすと一踏み目からSL8とは異なる剛性を感じる。SL8ではフロントの剛性が高く、リア周りがしなり、足あたりが良かった。
しかしSL9ではフロントの剛性が一層高く、加えてリアの剛性も高まっているように感じた。フロントからリアにかけて同じ剛性感のフレームになっているような感覚だ。そのため踏み出しと同時に、タイムラグなくバイクが進み出してくれる。事前のプレゼンテーションでは、SL8とSL9の剛性値は数値上では同じとされていた。しかし、フレームの形状の変更によってライダーフィーリングとしては大きく変わる。SL8よりは以前のSL7に近いライドフィーリングといえる。ゼロ発進ではパリっとした印象の剛性感で、また低速域からは明らかな空力性能のアップデートを感じつつ、リニアに加速していく。
SL9の剛性の向上は、より太く、空力を求めた形状へと変化したフロントフォークやヘッド周りの影響が大きいのではないだろうか。これによりフロント周りの安定感が増し、直進安定性も増したという印象だ。

SL8ではスプリントでの加速時、踏み込むとBB周りやリア三角が一度しなり、そのしなりが戻る反発を活かして一気に加速していった。対してSL9はしなり戻りが早く、よりハイテンポでの加速を実現してくれる。
空力性能で言えば、ゼロ発進から10~20km/hの低速域からすでに空力の良さを感じる。20~40km/hの中速域はもちろん、40km/h以上でもその恩恵は絶大だ。さらに、SL8よりも省エネルギーで30km/h以上の中~高速域でスピードの維持がしやすい印象。SL9は得意とするスピードレンジがSL8よりも全体的に高速化されている印象だった。

登りに差し掛かると、軽量性を活かしてスムーズに登りやすい。ダンシングでは若干立ちが強く、バイクを大きく振るというより、シッティングでケイデンスをキープしながら登っていく方がSL9では良さそうだ。
コーナーリングはSL8のようにクイックに倒れやすいバイクではなく、速すぎず遅すぎずリズムが取りやすい感覚。ハンドルやフロントフォークの剛性感がしっかりしているため、コーナーリングの最中でもブレることなく安心して攻めていける。

今回、Tarmac SL9を平坦や登り、下りなどあらゆるシチュエーションでテストしてきたが、これまで歴代のTarmacと比較しても、SL9は最速の一台だと感じる。今のロードレースやクリテリウムでも平均スピードが上がり、まさにSL9のバイクが今のレースシーンにマッチしてくれる勝利を求めるレーサーにおすすめしたい一台だった。
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 スラム RED AXS完成車
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:GLOSS RUBY METALLIC / WHITE SILVER METALLIC、GLOSS WHITE SILVER METALLIC / GLOSSRUBY METALLIC / OBSIDIAN METALLIC、SATIN SILVER DUST / GLOSS CHROME
コンポーネント:スラム RED AXS
ハンドル:ロヴァール Rapide Cockpit
ホイール:ロヴァール Rapide CLX III
価格:1,980,000円 (税込)
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 シマノ DURA-ACE完成車
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:GLOSS CARBON / GLOSS WHIT
コンポーネント:シマノ DURA-ACE
ハンドル:ロヴァール Rapide Cockpit
ホイール:ロヴァール Rapide CLX III
価格:1,980,000円 (税込)
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセット
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:10種類
価格:880,000円(税込)
スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセット チームレプリカフレームセット
サイズ:44、49、52、54、56、58
カラー:4種類
価格:935,000円(税込)
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