2025年シーズンの後半も、主役はタデイ・ポガチャル(スロベニア)のままだった。ツール・ド・フランスで区間4勝と自身4度目の総合優勝を決めたポガチャルは、ロード世界選手権で連覇を達成。一方、最終日が中止されるなどデモの影響を受けたブエルタ・ア・エスパーニャはヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)が制した。
リールでの波乱と、新星ミランの覚醒
ジロ・デ・イタリアが終わると、ヨーロッパの自転車ロードレースはツール・ド・フランスに向けて加速する。本戦を占う前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネではポガチャルが自身初の総合優勝を決め、一方のツール・ド・スイスもUAEのジョアン・アルメイダ(ポルトガル)が制覇。シーズン前半を席巻したUAEが、これ以上ない結果でツールに臨むこととなった。

圧巻のスプリントでツール初日を制したヤスペル・フィリプセン photo:CorVos 
フィリプセンからマイヨジョーヌを受け継いだマチュー・ファンデルプール photo:CorVos

初出場で勝利を掴んだジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos
2024年はヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)とレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)と総合の有力勢が怪我明けと本調子ではなかったが、今年は共に万全な状態でポガチャルに挑んだ。
そのツールはフランス北部リールで開幕し、一度もフランス国外に出ることなくパリで決着する21日間で争われた。初日スプリントをヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)が制してマイヨジョーヌを着ると、2日目はマチュー・ファンデルプール(オランダ)がポガチャルをスプリントで退け勝利。チームメイトからマイヨジョーヌを引き継ぐ、アルペシンにとってこれ以上ない滑り出しとなった。
今大会の特徴は、名のある実力者が各ステージで勝利したこと。特に平坦ステージの集団スプリントは入れ替わるように新たな勝者が生まれた。しかしそんな中でもマイヨヴェール(ポイント賞)を獲得したのは、第8、17ステージを制したジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)。初出場ながら第8ステージ以降、パリまでポイント賞の首位を守り、24歳にして世界トップスプリンターであることを証明した。
ポガチャルによる決定的な「2日間」の猛攻

2年連続でヴィンゲゴーを突き放し、4度目の総合優勝をしたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
一方の総合争いでサプライズが起こることはなく、第5ステージから総合首位に立ったポガチャルが、ファンデルプールとベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)にマイヨジョーヌを譲りながらも、総合2位のヴィンゲゴーとのタイムを徐々に広げていく。特に圧巻だったのは、山岳フィニッシュだった第12ステージと、翌第13ステージの山岳タイムトライアルでの2連勝。それまで1分17秒差だったものを、この2日間で4分7秒まで広げたのだ。
集団スプリントではなく、丘が加えられ難易度の上がった最終日のパリ決戦は、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が雨で濡れた石畳の登りでポガチャルを引き離し、独走勝利。そしてポガチャルが2年連続4度目となる総合優勝を手に入れた。2位はヴィンゲゴー。そして総合3位にはフロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が入り、当時24歳の若手が台頭した。

ツール・ド・フランス2025総合表彰台 photo:A.S.O.
混迷のブエルタと、ヴィンゲゴーが示した意地
8月23日に開幕したブエルタ・ア・エスパーニャも、初日の集団スプリントを制したのはフィリプセンだった。ツール第3ステージで落車リタイアしたフィリプセンはブエルタで区間3勝。これまで通りのスプリント力はもちろん、ブエルタの厳しい山岳ステージでも耐えられる力を見せつけた。なお、マイヨプントス(ポイント賞)はジロに続きマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が獲得している。

ツールに続き、ブエルタの初日を制したヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos
第2ステージは早くも登りフィニッシュが設定され、小集団によるスプリントをヴィンゲゴーが制す。ツールの総合優勝が叶わなかったヴィンゲゴーだったが、今大会では積極的な走りが光った。そして10月の宇都宮ジャパンカップにも参戦したトースタイン・トレーエン(ノルウェー、バーレーン・ヴィクトリアス)が、逃げからマイヨロホを着用し、総合争いが本格的に動いたのは第9ステージだった。
1級山岳フィニッシュのコースで、ヴィスマ・リースアバイクの高速牽引にライバルのアルメイダが遅れると、ヴィンゲゴーは10.3kmの独走を決め、区間2勝目をゲット。その後UAEによる猛攻を凌いだヴィンゲゴーは、自身初となるブエルタの総合優勝に輝いた。
圧倒的な登坂力と安定感を見せたヴィンゲゴーだったが、今大会はそんな競技を妨害するデモ隊が話題となってしまった。

ガッツポーズと共にフィニッシュしたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

ブエルタ最終日のレース途中に、警察に止められるヴィンゲゴーら選手たち photo:CorVos
発端は開幕地イタリアからスペインに入国初日の第5ステージだった。イスラエルによるガザ地区への侵攻に反対するデモ隊がイスラエル・プレミアテック(現NSNサイクリングチーム)の進路を妨害。その後もデモ隊によるレース妨害は激化し、イスラエルはチームジャージから「イスラエル」の文字を削除。しかし事態は収まらず、マドリードにフィニッシュする予定だった第21ステージが途中で中止となった。その影響はブエルタだけに収まらず、イスラエルはチームから撤退し、NSNサイクリングチームとしての再スタートを余儀なくされた。
アフリカの地で刻まれた新たな伝説

左手で3連覇を表しながらフィニッシュしたレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos
史上初のアフリカ開催となったロード世界選手権は、ツール・ド・ルワンダでもお馴染みの首都キガリで行われた。純粋なタイムトライアルスペシャリストよりも、クライマー寄りの総合系選手に有利なアップダウンコースで行われた個人TTでは、ポガチャルが4位に沈むなか、2位のジェイ・ヴァイン(オーストラリア)に1分14秒の差をつける最速タイムをエヴェネプールが叩き出した。
世界選手権でTT3連覇を達成したエヴェネプールも優勝候補に挙がったロードレースは、総距離267.5km、総獲得標高差5,475mのタフなレイアウトに。強力なチームメイトのアシストを受けたポガチャルが、残り66.6km地点で先頭に立つと、後続ではエヴェネプールがメカトラに見舞われる不運などもありながら、ポガチャルが独走でフィニッシュ。世界選手権で連覇を達成した。

世界選手権という舞台で75kmの独走決め、初優勝したタデイ・ポガチャル(スロベニア) photo:CorVos

史上初の大記録を打ち立てたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
その13日後に行われたイル・ロンバルディアも、制したのはポガチャルだった。モニュメント(5大クラシック)の最終戦に臨んだ世界王者は、世界選手権と同じくエヴェネプールを引き離し、残り33.7km地点から独走。前人未到の5連覇という大記録と共に、同一年でのモニュメント全てで表彰台に立つという史上初の選手となった。
2025年モニュメントにおけるポガチャルの順位
ミラノ〜サンレモ:3位
ロンド・ファン・フラーンデレン:1位
パリ〜ルーベ:2位
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:1位
イル・ロンバルディア:1位
2026年シーズンに向けて

シーズン18勝と大ブレイクし、2026年の活躍が期待されるイサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
2025年をもってワールドチームとプロチームの昇降格が決まり、2028年までの新たな3年サイクルが始まる2026年シーズン。注目されるのは、ポガチャルと新戦力デルトロ、覚醒したアルメイダというトリプルエースを敷くUAEに対し、ヴィスマ・リースアバイクをはじめとするライバルチームがどう挑むか。
また今年はコンディション不良で見られなかったファンアールトとファンデルプールの直接対決も期待され、そこにポガチャルも入るパリ〜ルーベが今春最大の注目点だろう。ツールではポガチャルの5勝目をヴィンゲゴーが止められるのか。あるいはレッドブル・ボーラ・ハンスグローエに移籍したエヴェネプールや、UAEを離れリドル・トレックで総合エースを担うフアン・アユソ(スペイン)の走りなど、新時代の勢力図がどのように書き換えられるのだろうか。
リールでの波乱と、新星ミランの覚醒
ジロ・デ・イタリアが終わると、ヨーロッパの自転車ロードレースはツール・ド・フランスに向けて加速する。本戦を占う前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネではポガチャルが自身初の総合優勝を決め、一方のツール・ド・スイスもUAEのジョアン・アルメイダ(ポルトガル)が制覇。シーズン前半を席巻したUAEが、これ以上ない結果でツールに臨むこととなった。



2024年はヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)とレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)と総合の有力勢が怪我明けと本調子ではなかったが、今年は共に万全な状態でポガチャルに挑んだ。
そのツールはフランス北部リールで開幕し、一度もフランス国外に出ることなくパリで決着する21日間で争われた。初日スプリントをヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)が制してマイヨジョーヌを着ると、2日目はマチュー・ファンデルプール(オランダ)がポガチャルをスプリントで退け勝利。チームメイトからマイヨジョーヌを引き継ぐ、アルペシンにとってこれ以上ない滑り出しとなった。
今大会の特徴は、名のある実力者が各ステージで勝利したこと。特に平坦ステージの集団スプリントは入れ替わるように新たな勝者が生まれた。しかしそんな中でもマイヨヴェール(ポイント賞)を獲得したのは、第8、17ステージを制したジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)。初出場ながら第8ステージ以降、パリまでポイント賞の首位を守り、24歳にして世界トップスプリンターであることを証明した。
ポガチャルによる決定的な「2日間」の猛攻

一方の総合争いでサプライズが起こることはなく、第5ステージから総合首位に立ったポガチャルが、ファンデルプールとベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)にマイヨジョーヌを譲りながらも、総合2位のヴィンゲゴーとのタイムを徐々に広げていく。特に圧巻だったのは、山岳フィニッシュだった第12ステージと、翌第13ステージの山岳タイムトライアルでの2連勝。それまで1分17秒差だったものを、この2日間で4分7秒まで広げたのだ。
集団スプリントではなく、丘が加えられ難易度の上がった最終日のパリ決戦は、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が雨で濡れた石畳の登りでポガチャルを引き離し、独走勝利。そしてポガチャルが2年連続4度目となる総合優勝を手に入れた。2位はヴィンゲゴー。そして総合3位にはフロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が入り、当時24歳の若手が台頭した。

混迷のブエルタと、ヴィンゲゴーが示した意地
8月23日に開幕したブエルタ・ア・エスパーニャも、初日の集団スプリントを制したのはフィリプセンだった。ツール第3ステージで落車リタイアしたフィリプセンはブエルタで区間3勝。これまで通りのスプリント力はもちろん、ブエルタの厳しい山岳ステージでも耐えられる力を見せつけた。なお、マイヨプントス(ポイント賞)はジロに続きマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が獲得している。

第2ステージは早くも登りフィニッシュが設定され、小集団によるスプリントをヴィンゲゴーが制す。ツールの総合優勝が叶わなかったヴィンゲゴーだったが、今大会では積極的な走りが光った。そして10月の宇都宮ジャパンカップにも参戦したトースタイン・トレーエン(ノルウェー、バーレーン・ヴィクトリアス)が、逃げからマイヨロホを着用し、総合争いが本格的に動いたのは第9ステージだった。
1級山岳フィニッシュのコースで、ヴィスマ・リースアバイクの高速牽引にライバルのアルメイダが遅れると、ヴィンゲゴーは10.3kmの独走を決め、区間2勝目をゲット。その後UAEによる猛攻を凌いだヴィンゲゴーは、自身初となるブエルタの総合優勝に輝いた。
圧倒的な登坂力と安定感を見せたヴィンゲゴーだったが、今大会はそんな競技を妨害するデモ隊が話題となってしまった。


発端は開幕地イタリアからスペインに入国初日の第5ステージだった。イスラエルによるガザ地区への侵攻に反対するデモ隊がイスラエル・プレミアテック(現NSNサイクリングチーム)の進路を妨害。その後もデモ隊によるレース妨害は激化し、イスラエルはチームジャージから「イスラエル」の文字を削除。しかし事態は収まらず、マドリードにフィニッシュする予定だった第21ステージが途中で中止となった。その影響はブエルタだけに収まらず、イスラエルはチームから撤退し、NSNサイクリングチームとしての再スタートを余儀なくされた。
アフリカの地で刻まれた新たな伝説

史上初のアフリカ開催となったロード世界選手権は、ツール・ド・ルワンダでもお馴染みの首都キガリで行われた。純粋なタイムトライアルスペシャリストよりも、クライマー寄りの総合系選手に有利なアップダウンコースで行われた個人TTでは、ポガチャルが4位に沈むなか、2位のジェイ・ヴァイン(オーストラリア)に1分14秒の差をつける最速タイムをエヴェネプールが叩き出した。
世界選手権でTT3連覇を達成したエヴェネプールも優勝候補に挙がったロードレースは、総距離267.5km、総獲得標高差5,475mのタフなレイアウトに。強力なチームメイトのアシストを受けたポガチャルが、残り66.6km地点で先頭に立つと、後続ではエヴェネプールがメカトラに見舞われる不運などもありながら、ポガチャルが独走でフィニッシュ。世界選手権で連覇を達成した。


その13日後に行われたイル・ロンバルディアも、制したのはポガチャルだった。モニュメント(5大クラシック)の最終戦に臨んだ世界王者は、世界選手権と同じくエヴェネプールを引き離し、残り33.7km地点から独走。前人未到の5連覇という大記録と共に、同一年でのモニュメント全てで表彰台に立つという史上初の選手となった。
2025年モニュメントにおけるポガチャルの順位
ミラノ〜サンレモ:3位
ロンド・ファン・フラーンデレン:1位
パリ〜ルーベ:2位
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:1位
イル・ロンバルディア:1位
2026年シーズンに向けて

2025年をもってワールドチームとプロチームの昇降格が決まり、2028年までの新たな3年サイクルが始まる2026年シーズン。注目されるのは、ポガチャルと新戦力デルトロ、覚醒したアルメイダというトリプルエースを敷くUAEに対し、ヴィスマ・リースアバイクをはじめとするライバルチームがどう挑むか。
また今年はコンディション不良で見られなかったファンアールトとファンデルプールの直接対決も期待され、そこにポガチャルも入るパリ〜ルーベが今春最大の注目点だろう。ツールではポガチャルの5勝目をヴィンゲゴーが止められるのか。あるいはレッドブル・ボーラ・ハンスグローエに移籍したエヴェネプールや、UAEを離れリドル・トレックで総合エースを担うフアン・アユソ(スペイン)の走りなど、新時代の勢力図がどのように書き換えられるのだろうか。
2025年シーズン男子ロード 下半期海外主要レース結果
| 開催日 | レース | 優勝者 |
|---|---|---|
| 6月8-15日 | クリテリウム・デュ・ドーフィネ | 総合優勝:タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) |
| 6月15-22日 | ツール・ド・スイス | 総合優勝:ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG) |
| 7月5-27日 | ツール・ド・フランス | 総合優勝:タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) |
| 8月23日-9月14日 | ブエルタ・ア・エスパーニャ | 総合優勝:ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) |
| 9月21日 | ロード世界選手権個人タイムトライアル | レムコ・エヴェネプール(ベルギー) |
| 9月28日 | ロード世界選手権ロードレース | タデイ・ポガチャル(スロベニア) |
| 10月11日 | イル・ロンバルディア | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos
photo:CorVos
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