一強だったSDワークス・プロタイムから主要選手が離散し、群雄割拠と化した2025年の女子レース。パリ〜ルーベとツール・ファムを制したポーリーヌ・フェランプレヴォや、新チームで躍動したデミ・フォレリング、伏兵マグドレーヌ・ヴァリエールによるロード世界選手権制覇など、選手たちの活躍を振り返る。



SDワークス一強時代の終焉と新たな勢力図

ストラーデビアンケ・ドンネでファンデルブレッヘンを引き離すフォレリング photo:CorVos

64勝を積み重ねたSDワークス・プロタイムによる一強だった2024年から一転、2025年の女子ロードレースは各チームが見せ場を作るシーズンとなった。その要因にはデミ・フォレリング(オランダ、FDJスエズ)とマーレン・ロイサー(スイス、モビスター)が共にSDワークスを離れ、また前世界王者のロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)が不調だったことが挙げられる。

男子と同じくサントス・ツアー・ダウンアンダーから幕を開けたUCIワールドツアーは、当時23歳のノエミ・リュエッグ(スイス、EFオートリー・キャノンデール)が総合優勝。新しい風を感じさせるWT初戦を経て、始まったヨーロッパでのクラシックシーズンでは、ストラーデビアンケ・ドンネをフォレリングが、アンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ、SDワークス・プロタイム)を終盤に引き離し、2年ぶり2度目の優勝を果たした。

この時敗れた元世界王者ファンデルブレッヘンも、2025年シーズンのトピックの1つ。2021年で現役を退き、SDワークスの監督を経て今年現役復帰し、フォレリングの穴を埋めるエースに就いた35歳だ。

4年振りにプロトンに戻ってきたアンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ、SDワークス・プロタイム) photo:CorVos

コペッキーの苦難とフェランプレヴォの衝撃

初代ミラノ〜サンレモ王者に輝いたロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム) photo:CorVos
ロンドを制したロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム) photo:CorVos


石のトロフィーを掲げたポーリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

ミラノ〜サンレモ・ドンネという名では初開催となった別名「ラ・プリマヴェーラ(春)」の初代王者に輝いたのは、集団スプリントを制したロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム)だった。ヨーロッパ王者ジャージを着るウィーベスは、今年25勝を挙げる活躍。またUCIグラベルワールドシリーズでも2勝と、今年も平地レースでは敵なしの強さを誇った。

3名によるスプリントに持ち込まれたロンド・ファン・フラーンデレンは、アルカンシエルをまとうロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)が、史上最多となる3度目の優勝。しかしコペッキーは今季、膝の怪我や腰痛、体調不良にも悩まされ、不調が続く。さらにシーズン後半では腰椎の骨折が判明。ロード世界選手権の3連覇の夢はもちろん、10月のトラック世界選手権の出場も叶わなかった。

今年で第5回を迎えたパリ〜ルーベ・ファムを制したのは、19kmを独走したポーリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、ヴィスマ・リースアバイク)だった。金メダルを獲得したパリ五輪でマウンテンバイクに区切りをつけ、ロードに本格復帰したフェランプレヴォ。卓越したテクニックを駆使し、石畳区間でライバルたちを引き離し、いきなりロードで結果を出した。

グランツールで示した多才なタレントたちの力

逆転でジロ・デ・イタリア・ウィメン総合優勝を飾ったエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア) photo:UCI

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ・ファムではモーリシャス王者の29歳、キンバリー・ルコート(AGインシュランス・スーダル)がフォレリングらをスプリントで打破。金星を挙げ、春のクラシックの幕が降ろされた。

そして5月から始まったグランツールを筆頭にしたステージレースでは、ブエルタ・エスパーニャ・フェメニーナを総合連覇したフォレリングはもちろん、新天地モビスターの総合エースとなったロイサーが躍動。母国スイスのツール・ド・スイス・ウィメンで2度目の総合優勝を果たした。そしてジロ・デ・イタリア・ウィメンでは、リドル・トレックからUAEチームADQに移ったエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)が制している。

フランスに歓喜をもたらしたフェランプレヴォのツール制覇

マイヨジョーヌを獲得したマリアンヌ・フォス(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos
区間2勝し、念願のマイヨヴェールを獲得したロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム) photo:A.S.O.

独走で2連勝、そして総合優勝を決めたポーリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

2024年から1日増え、全9ステージで争われたツール・ド・フランス・ファムが7月26日に開幕。ブルターニュからフランスを横断するように東に向かう戦いは、初日の丘陵ステージから総合エースたちが動く。そして登りスプリントをマリアンヌ・フォス(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)が制した。しかしマイヨヴェール(ポイント賞)は区間2勝したウィーベスが念願の初獲得となった。

アルプス山脈が舞台となった山岳決戦の2日間。クイーンステージとなった超級山岳マドレーヌ峠にフィニッシュする8日目に、フェランプレヴォが残り5km地点からアタック。フォレリングらに3分以上の差をつける大差でマイヨジョーヌを獲得。フェランプレヴォによるサプライズはこの日だけで終わらず、翌日の最終日も6.5kmの独走で勝利。初出場のツール・ファムで2日連続勝利を飾るとともに、母国フランスに初の総合優勝をもたらした。

フォレリングは2年連続の総合2位となり、2024年覇者カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、キャニオン・スラム・ゾンダクリプト)は3位だった。

2025年ツール・ド・フランス・ファム総合表彰台 photo:CorVos

ロイサーの悲願とカナダの新星

ロード世界選手権個人タイムトライアルは、毎年優勝候補に挙げられながらも掴めずにいたロイサーが悲願の初制覇。ロイサーは直後のヨーロッパ選手権でもTTで優勝しており、移籍初年度がさらなる飛躍の年となった。

最後の石畳坂で仕掛け、独走勝利したマグドレーヌ・ヴァリエール(カナダ) photo:CorVos

一方、アップダウンを繰り返すタフなコースレイアウトで行われたロードレースで優勝したのは、フォレリングでもロンゴボルギーニでも、フェランプレヴォでもなく、EFオートリー・キャノンデール所属で24歳の新星、マグドレーヌ・ヴァリエール(カナダ)だった。有力勢の動きが少ないレース展開のなか、積極果敢に攻めたヴァリエールがラスト2kmを独走。それまでプロで1勝しか挙げたことのないヴァリエールが、世界選手権という大舞台で大金星を挙げたのだ。

2026年も春のクラシックやグランツールはフォレリングを中心に展開されるのはもちろんフェランプレヴォや、ファンデルブレッヘンの復活が期待される。また本来の強さを取り戻せればコペッキーもワンデーレースの争いには加わるであろう。そして期待されるのは、集団スプリントで絶対王者として君臨するウィーベスを脅かす「対抗馬」の出現だ。
2025年シーズン女子ロード 主要レース結果
開催日 レース 優勝者
3月8日 ストラーデビアンケ・ドンネ デミ・フォレリング(オランダ、FDJスエズ)
3月22日 ミラノ〜サンレモ・ドンネ ロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム)
4月6日 ロンド・ファン・フラーンデレン ロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)
4月12日 パリ〜ルーベ・ファム ポーリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、ヴィスマ・リースアバイク)
4月20日 アムステルゴールドレース・レディースエディション ミーシャ・ブレーデウォルツ(オランダ、SDワークス・プロタイム)
4月23日 ラ・フレーシュ・ワロンヌ・フェミニーヌ プック・ピーテルセ(オランダ、フェニックス・ドゥクーニンク)
4月27日 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ・ファム キンバリー・ルコート(モーリシャス、AGインシュランス・スーダル)
5月4-10日 ブエルタ・エスパーニャ・フェメニーナ デミ・フォレリング(オランダ、FDJスエズ)
7月6-13日 ジロ・デ・イタリア・ウィメン エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア、UAEチームADQ)
7月26-8月3日 ツール・ド・フランス・ファム ポーリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、ヴィスマ・リースアバイク)
9月21日 ロード世界選手権個人タイムトライアル マーレン・ロイサー(スイス)
9月27日 ロード世界選手権ロードレース マグドレーヌ・ヴァリエール(カナダ)
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos