11月16日(日)に神奈川県中郡大磯町の大磯プリンスホテル特設クリテリウムコースで開催された「大磯クリテリウム第2戦」でQNリーグのシリーズ第10戦が併催された。中学生クラスは柬理日楠詩(Team FITTE)が優勝。女子スポーツはオーストラリアU23チャンピオンのソフィー・サットン(High Ambition Racing Academy )がゴールスプリントを制した。QNリーグ主催者からのレポートで紹介する。



秋晴れの中、女子スポーツの熱い闘いに声援が飛ぶ photo:QNリーグ事務局

11月16日(日)、いわし雲が広がる爽やかなコンディションのもと、リーグ第10戦「大磯クリテリウム第2戦」が神奈川県中郡大磯町の大磯プリンスホテル特設クリテリウムコースで開催された。

この大会は大磯プリンスホテルの敷地内に特設コースを設定し、今シーズンで開催13年目を迎える地元密着型の自転車クリテリウムレース。コースとなるホテル駐車場の改装により、昨年の開催からレイアウト一部変更で途中箇所にあったクランク部分がなくなり、スピードアップしたレース展開で盛り上がった。また、クラス設定では、走り方の指導を受けてから直ぐレース走行するのが好評の「初心者レースセミナークラス」や、ビギナーとピュアビギナーの間に新たなクラスとして「ピュアツー」が組み込まれ、エントリークラスの細分化が図られた。

朝から賑わう会場内のブースは飲食だけでなく、自転車関連アイテムも手に取って見られる貴重な機会 photo:QNリーグ事務局

山根代表自ら、参加する選手たちに安全走行レクチャーを丁寧におこなう photo:QNリーグ事務局

今シーズンは弊リーグのシリーズ戦にこの第2戦、そして来年1月18日(日)に開催の第4戦が対象となり、QリーグとNリーグ中学生女子NWが女子スポーツ、そしてNリーグの中学生男子Nが中学生男子と、それぞれ対象の各クラスでポイント獲得を目指す。

朝からよく晴れ渡り秋らしい⻘空。会場には8時前から続々と参加者が集まってくる。大磯クリテリウム名物の1つとなっているさまざまな出展ブースや種類豊富なキッチンカーも開店準備を整え、コーヒーや朝食を求める列ができている。昼にはボリューム満点なランチを求めて観戦者だけでなく、サイクリングやトレーニングの途中に立ち寄ってそのままレースを応援していく姿も多く見かけた。

ライダーズミーティングだけでなく、毎大会で工夫し様々な案内を判りやすく掲示して案内 photo:QNリーグ事務局

昼から始まる小学生クラスはチャンピオンクラスもおこなわれ、この大磯クリテリウムのほか、しもふさクリテリウムなどで獲得した累積ポイントでランキングを競う photo:QNリーグ事務局

この大会では必ずレーススケジュールのブロックごとに、大会主催の一般社団法人GRサイクリングの代表である山根理史氏によるライダーズミーティングが実施される。受付やコミュニケボードの掲示板には、レース前の心得が大きく貼りだしてあり、自転車レースに初めて参加するライダーにも安心な対応を整えている。そのような工夫もあり、相変わらず参加ライダーの年齢層は比較的に低く、初めて自転車レースというものにトライしたい!という要求に大磯クリテリウムは応えられている。

午前中は脚力別のクラスを中心にレースが進行。大磯クリテでは脚力別クラスにおいて「ピュアビギナー」から「エリート」へと段階的にクラスが上がる。その昇格条件は原則としてクラス上位3位に入ることで、最上位のエリートを目指して切磋琢磨する。そのため、Nリーグの対象クラスとなっている中学生男子も脚力別クラスにダブルエントリーができ、昇格も可能。年⻑の大人達と競い合うことになるので、念のため保護者監督のもとよく吟味してから申し込むことを大会側から促されている。同世代と闘える年齢別とともに、脚力別に走れるクラスと、両方のレースを同じ日に出走できてしまうのも大磯クリテリウムの魅力だ。

スタート号砲を待つ中学生男子クラス出場選手たち photo:k.kazuma

自転車レースの未来を担う年齢別クラスは、小学生からスタート。そしてNリーグ中学生男子N対象の中学生男子クラスとスケジュールが進む。今回のエントリーは31名、出走が28名と最近恒例の大磯クリテ同クラス大人数がスタートラインに並んだ。

そのなかでNリーグ登録は10名、バトルマリンジャージ姿の現ポイントリーダー柬理日楠詩(Team FITTE)や、ポイントランキング3位に付ける神戶雅渡(保土ヶ谷.Bro)、また⻩色いジャージが目立つ#1-PRIMERA-(ナンバーワン・プリメーラ)のチームメンバーも多く、エース格である全日本ジュニアロードレース選手権・男子U15の現チャンピオン茂木陽向が久しぶりにNリーグシリーズ戦に参戦し、レースの行方が楽しみとなった。

クランクコーナーが無くなった影響か、スピードが上がって⻑く伸びる集団 photo:QNリーグ事務局

久々にNリーグシリーズ戦に登場した茂木は、この後エキスパートクラスに出場し5位に photo:k.kazuma

全8周回のレースはオンタイムの12時26分にスタート。1周目のニュートラル走行を終え、コントロールラインを越えて2周目に入った瞬間から、小林右京(城北埼玉)を先頭にペースが一気に上がる。一列棒状に引き延ばされ、先頭が柬理、そして茂木に変わりながら、集団は⻑くなっていく。

周回を重ねるなかでも先行集団のスピードは緩むことがなく、4周目に入った頃には小林、茂木、柬理、神戶 、 そして富永和彦 ( #1-PRIMERA- )、 宮﨑達也 ( LEVEANTE HOPE )、 森喜埜(ShonanVertexRacing)、さらに大磯クリテリウム第1戦の同クラスで優勝した白須樹(TEAM YOUCAN)の8名が、追いかける後続集団から約10秒のタイム差をつけて5周回目へ。この後、コントロールラインを越えて直ぐのタイミングで柬理が強めにアタック。これに刺激されて、程なく柬理は集団に吸収されるものの、6周回目に入る目前で惜しくも神戶が先行集団から落ちてしまった。

集団の様子を伺う柬理も、この後のエリートクラスに出場し14位で完走 photo:QNリーグ事務局

タイヤ差の接戦となった中学生男子のゴールスプリント photo:k.kazuma

残り2周回となって先行集団の形は決まったようにみえ、7名のまま最終周回へ。バックに入りすぐ、観客が集まる箇所からまず柬理がアタック、そして一番奥の小田原コーナーで茂木が追い抜いて先頭が入れ替わり、最終コーナーを立ち上がった7名はゴールスプリントに。横に広がった小林、茂木、柬理、白須の一騎打ちは、最終コーナーで落ち着いて若干、後ろに下がってタイミングを合わせた柬理に軍配が上がった。

2位には最後まで粘った茂木が、3位は前半から積極的に動いた小林が入り表彰台をゲットした。なお、この7名のゴールスプリントには加われなかった神戶だが、単独で後続から逃げ続け 8位に入り、ポイントランキング3位をキープした。

表彰式で嬉しそうに肩を組んで撮影に応じる中学生男子クラス入賞の3人 photo:QNリーグ事務局

左から2位のPRIMERA 茂木、優勝のFITTE 柬理、3位の城北埼玉・小林 photo:k.kazuma

バトルマリンジャージを着用して初のレース優勝を飾った柬理は、ヒルクライマーであり、逃げて自分で展開を作り出す印象だが、アールエルNリーグ中学生男子Nポイントリーダー授与式で今回、ゴールスプリントに持ち込んで勝利という展開に成功した感想を聞くと「今日の試合は特に狙いはなく、とにかく勝てればいい!というレース展開で、最後スプリントの形になったので、しっかりスプリントに対応できるように自分の脚を調整しながら、それで勝てたので良かったかな?と思います」と、いつになく非常に冷静にレースを振り返りながら語ってくれた。

さらに、いつもより多い 28 名を相手にして闘ったことについては「大人数だったので、なるべく少人数に絞れるようにペースアップとか頑張ったんですけど。絞り切ることが出来なかったのは悔しいんですが、それも展開の一つなので。今後も展開をしっかりと見極めて頑張ります」と、今後もNリーグやJBCFなどさまざまなレースでの経験を積んで活かす抱負を語っていた。

武田レッグウェアー株式会社のR×Lの賞品目録パネルを手に笑顔を見せる柬理 photo:k.kazuma

最後にシリーズ残り3戦に向けては「しっかり(レースで)逃げきってポイントリーダーを守ってカッコイイところを最終戦でも見せたいと思います!」と力強く応えてくれた。きっと今、彼の着るバトルマリンジャージには、ツール・ド・フランス覇者の証マイヨジョーヌが「ヒルクライマーにはスプリントの力を、スプリンターにはヒルクライムの力を与える」というように、柬理に新たな力を与えてくれるのであろう。バトルマリンジャージの防衛に期待したい。

表彰式やNリーグポイントリーダー授与式の後、13時31分にスタートとなったのが Q リーグ、そしてNリーグ中学生女子NWが対象の女子スポーツ。今回は急遽、オーストラリアから来日中のソフィー・サットン(Sophie Sutton)が High Ambition Racing Academy チームとして出場が決定。

スタートを待つ女子スポーツの出場選手たち photo:k.kazuma

迎え撃つ日本メンバーはQリーグ現ポイントリーダーの岡本彩那(SPECIALIZED UTSUNOMIYA)に根本香織(Team 一匹狼)、さらにクリテリウムレースで存在感を見せる仲谷あい(Roppongi Express)や、田中麗奈(Bellmare Women's Racing team)、そしてサットンの日本滞在時のチームメイトで、力をつけている若手の⻄山 千智(High Ambition Racing Academy)をはじめとする12名が参戦し、12周回のレースが開始された。

スタート地点に並んだときには中学生男子クラスの際に起きた突風もなく、穏やかになったこともあり選手らはカメラマンにピースサインで応え和気あいあいな様子で和んでいたが、いざローリング周回後からコントロールラインを越えた途端、選手全員の表情が一気にキリっと引き締まって戦闘体制に。サットンの引きが強く集団のペースが上がってきて、早くも数名がドロップしてしまう。

スタート前はカメラに向かってポーズしたりと和やかな雰囲気(左写真:左から Bellmare 田中、Qリーグ岡本、RE 仲谷) photo:k.kazuma

スタートすると一転、戦士の顔となってレースに集中する photo:k.kazuma

3周回目には大磯クリテでは“妖怪つけまつげ”のニックネームで愛される仲谷がアタックし、さらに集団はスピードアップ。また1名が集団からドロップし10名の集団となる。この後、仲谷は集団に吸収され、5周目に再びサットンが単独でアタック。この後ろを田中が単独で集団から抜け出しブリッジをかけ、この動きにQリーグ岡本が反応。

6周目にはサットン、田中、岡本の3名で先行するが、そうはさせない!と7周目には逃げる3名に仲谷、⻄山、そして廣瀬 博子(ペダリストピナレロショップ)、野口真亜瑠が追いついて7名の集団が再形成された。この激しい動きに現在、ポイントランキング2位の根本が付いていけずドロップしてしまう。

ニュートラル走行が終わり、サットン(右端)の動きに活性化しスピードアップする集団 photo:k.kazuma

6周回目に逃げを形成した先頭のサットン、続く岡本、田中 photo:k.kazuma

手に汗握る展開。会場は大いに沸き、歓声に刺激されたのか集団は先頭が目まぐるしく変わりながらスピードアップ!7名でギリギリ集団が保っていたが、とうとう残り3周目になったタイミングで野口と廣瀬が集団からドロップしてしまう。

フィナーレは仲谷、岡本、田中、⻄山、そしてサットンの 5名によるゴールスプリントに持ち込まれた。ゴールスプリントの展開になると集団のペースが緩むことが多いが、今回はサットンのパワーを嫌ってできるだけ先に先に、と皆が動いたため、スピードが落ちないままスプリント合戦へ。

逃げる3名を後続が捕らえ、再びペースアップし振り落とす様子に会場は大いに沸きたった photo:QNリーグ事務局

パワーとパワーが、ぶつかり合ったゴールスプリントはサットン(右から2番目)が押し切って勝利! photo:k.kazuma

最初に⻄山が動くも力尽き、次にすかさず仲谷がアタックするが後ろから田中、岡本、サットンが前に入れ替わって、競り勝ったサットンが優勝、以降がタイヤ差で田中が2位、岡本が3位、仲谷が4位で決着、ゴール後には大きな拍手が自然と湧き上がった。

初代・2代目のQリーグ年間総合ポイントリーダーでもある廣瀬はレース終了後に、このレースを振り返り「今回の女子スポーツは凄く難しい展開だったけど、中弛みなどなくバチバチの熱い闘いを皆さんに観てもらえたし、何より会場が応援で盛り上がって良かった!」と振り返るほど、激しい展開に観客は息を呑んだ。

ゴール直後には再び和気あいあいで健闘を称え合う女子スポーツの上位3名 photo:QNリーグ事務局

現在21歳でオーストラリアのU23女子チャンピオンでもあるソフィー・サットンにレース後、インタビューできた。今レースでの優勝を祝うと「Thank you so much!!」と明るく笑顔。

今回の来日目的について聞くと「昨年、シクロクロス参戦で初めて日本に来た印象が良くて、再び来るタイミングを狙っていました。今回はツール・ド・おきなわに参戦してから今、滞在している場所(三島)から近いということもあって今レースに出場しました」とのこと。「レースの距離が短かったので、この後は滞在先の三島まで自走で帰ります」とレース直後にも関わらず元気を見せるのは、さすがU23の若手選手ならでは。

左から2位のBellmare 田中、優勝サットン、3位のQリーグポイントリーダー岡本 photo:QNリーグ事務局


今日のレースについては「天気が良くて楽しかったし、最高だったわ!声援も多くて感謝しています」、ゴールスプリントを競った岡本選手については「逃げグループに彼女が乗っていて、すごく強さを感じていました」と走りを評価。そんなコメントを横で聞いていた岡本からサットンの印象を聞くと「非常に強い方だと知っていて意識していて、最後のスプリントも強いと思っていたので警戒していました。自分の脚では全然、敵わなくて悔しいです!」と完敗を認めつつも、その走りから何かを学んだようだ。

今レースで新たにポイントを積み上げリーダーの座を守った岡本 photo:QNリーグ事務局

愛用するアスリチューンのポケットエナジーの目録を手に次回レースでの勝利を誓った photo:QNリーグ事務局

アスリチューンQリーグのポイントリーダー授与式では改めて、今回の女子スポーツが参加人数、実力ともに勢揃いとなったレースの印象を聞いたところ「今まで走った大磯クリテのなかで、一番楽しいレースでした!」と笑顔で答えてくれた。最終的に7名まで絞られた最終局面については「そうですね。ソフィー(・サットン)選手は力がある選手だと判っていたので、つい(集団の中で)引きまくっていたら、ちょっと馬力が違い過ぎて。最後は置いていかれてしまったので悔しい部分が多いです」とゴールスプリントに向かう場面を反省していた。

しかし先月の栃木県・宇都宮市で開催されたジャパンカップ・クリテリウムの女子レースでスプリントを決めて初代女王となった岡本のスプリントに持ち込む立ち回りや組み立ての上手さは素晴らしいので、ぜひとも学連での走りも併せて今後もご注目いただきたい。

次は第11戦、来年の1月18日(日)に神奈川県の大磯プリンスホテル特設クリテリウムコースで開催される「大磯クリテリウム第4戦」 photo:QNリーグ事務局

次は第11戦、来年の1月18日(日)に神奈川県の大磯プリンスホテル特設クリテリウムコースで開催される「大磯クリテリウム第4戦」となる。

今回もレースではクランクコーナーがなくなったので、選手は自分達で一列棒状になってペースを上げる必要ができた。中切れが発生した場合、後ろを分断するために通常の先頭交代のように後ろに下がるのではなく、前に上がっていく交代方法が必要な戦術となり、逃げが作りやすくもなる。

今回は各クラスにおいて積極的なレース展開となったが、これはクランクコーナーがなくなったことにより、選手達が自分たちで積極的なレース展開を作るようになったと証左だろう。今後もこのようなレース展開で熱く会場を沸かせることを期待したい。

photo:k.kazuma、QNリーグ事務局
text:須藤むつみ(QNリーグ事務局)
協力:一般社団法人 GR サイクリング
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