獲得標高差5,475mの過酷なコースで争われた、ロード世界選手権の男子エリートロードレース。残り104kmで加速したタデイ・ポガチャル(スロベニア)が、残り66.6kmでデルトロを引き離し独走。圧巻の走りで2年連続の世界王者に輝いた。



TTで3連覇を達成したエヴェネプール photo:UCI
レース前にインタビューに答えるギルマイ photo:UCI


スロベニアチームと共に、集団先頭でスタートを待つタデイ・ポガチャル photo:CorVos

ロード世界選手権2025 男子エリートロードレースコース image:UCI

1927年にドイツで初開催されたロード世界選手権は今年、史上初めてアフリカ大陸に足を踏み入れた。開催地は東アフリカのルワンダ。大会は事前に心配されていた大きなトラブルもなく順調に進み、9月28日(日)、男子エリート・ロードレースで最終日を迎えた。

総距離267.5km、総獲得標高差5,475mのコースは、キガリ・ゴルフ峠(距離0.8km/平均8.1%)と石畳のミュール・ド・キミハーウラ(距離1.3km/平均6.3%)を含む15.1kmの周回を9周。続いて西側の29.1kmコースを1周し、再びキミハーウラを含む小周回を6周してフィニッシュ。世界選手権ではエリートカテゴリー初挑戦の留目夕陽を含む164名がスタートし、カリブ海の島国グレナダのレッド・ウォルターズが飛び出した。

この単独走は長く続かず、ジュリアン・ベルナール(フランス)ら6名が逃げ集団を形成。メイン集団ではジュリアン・アラフィリップ(フランス)が体調不良で早々にリタイアするなか、ラウル・ガルシア(スペイン)がブリッジして逃げの最終便となる。容認したプロトンはそれぞれタデイ・ポガチャルとレムコ・エヴェネプールという絶対的エースを擁する、スロベニアとベルギーが牽引した。

晴天に恵まれた男子エリートロードレースがスタート photo:UCI

イヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル)ら7名が逃げ集団を形成した photo:UCI
ルワンダの首都キガリで行われたロード世界選手権の最終日 photo:CorVos


アメリカもクイン・シモンズで勝負する構えで先頭交代に加わり、逃げとの差を3分以内でコントロール。最初の9周を終えて大周回へ。先頭はベルナールとイヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル)、アナス・フォレーヤ(デンマーク)の3名に絞られ、最大勾配20%のキガリ峠(距離5.9km/平均6.9%)に2分4秒のリードで入った。

ベルナールが単独で粘る一方、集団は1分差まで接近。スロベニアが8名いるアシストを躊躇なく使いながら集団先頭に位置を取ると、ポガチャルが頂上手前の急勾配でペースを上げる。それにエヴェネプールやフアン・アユソ(スペイン)、ヤン・クリステン(スイス)が追従。ベルナールを捉える過程でエヴェネプールが遅れ、反応の遅れたイサーク・デルトロ(メキシコ)らが入れ替わるように追走した。

ポガチャルが先頭で頂上を越える頃に、その背後にはアユソしか残っていなかった。下りでアユソがペースを上げ、デルトロが合流して先頭はUAEチームエミレーツXRGの3名になる。しかし石畳のミュール・ド・キガリ(距離0.4km/平均11%)にトップで入ったアユソが突然遅れたため、先頭はポガチャルと21歳のデルトロに絞られた。

残り104km地点のキガリ峠でタデイ・ポガチャル(スロベニア)が加速した photo:UCI

先頭集団から遅れたフアン・アユソ(スペイン) photo:UCI

追走集団に入り、ライバルのマークに徹したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア) photo:UCI

先頭を40秒差で追う後続はベン・ヒーリー(アイルランド)やリチャル・カラパス(エクアドル)、ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)ら。一方、エヴェネプールはルイス・フェルヴァーケ(ベルギー)の助けを受けつつもメカトラでバイク交換を強いられた。

全体は15.1kmの周回へ戻り、先頭2名は45秒差で残り6周に入る。オーストラリアとイタリアが各最大4名、エヴェネプールも2名のチームメイトを伴う32名の集団が追走。単騎で残ったプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)は協調が整わず、繰り返されるカウンターアタックを時折笑顔を見せながら潰し、間接的に同国のポガチャルを援護した。

何とか先頭に追いつきたいエヴェネプールは残り76km地点のミュール・ド・キミハーウラで、再びメカトラの不運に見舞われる。オリンピック金メダリストを表すゴールドのスペアバイクに乗り換えて追走を継続。しかし合流しかけた矢先、先頭ではポガチャルがデルトロを引き離した。

ポガチャルは派手な加速ではなく、ダンシングしつつも静かにペースを上げ、残り66.6kmで単独先頭へ。遅れたデルトロは「お腹の調子が悪くなってしまった」とレース後に失速の理由を明かし、終盤は追走からも遅れながら粘って7位でフィニッシュ。21歳ながら世界選手権の大舞台で存在感を示した。

残り66.6km地点で単独先頭に立ったタデイ・ポガチャル(スロベニア) photo:CorVos

追走はレムコ・エヴェネプール(ベルギー)ら3名に絞られた photo:CorVos

軽快に周回を重ねるポガチャルに対し、追走はエヴェネプール、ヒーリー、ヒンドレー、マティアス・スケルモース(デンマーク)、トーマス・ピドコック(イギリス)の5名に集約される。その背後でアユソとフランス注目の19歳であるポール・セクサスが合流を狙い、スロベニア代表として十二分な働きを見せたログリッチは遅れながらも、11位でレースを終えている。

ポガチャルはツール・ド・フランスで自身4度目の総合優勝後、休養を挟んでグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルでブランドン・マクナルティ(アメリカ)とワンツーフィニッシュを達成。しかし大会の直前に体調不良を明かし、1週間前のTT世界選手権ではエヴェネプールに追い抜かれて4位と表彰台を逃した。そのためコンディションを不安視されていたが、レース前に「環境や標高、天候にも慣れ、何も問題のない状態だ」と語った通り、その後もペースが落ちることはなかった。

最終周回は苦悶の表情を見せつつも、最後のミュール・ド・キミハーウラをそれまでと変わらぬペースでクリア。そして最終ストレートでは大観衆を見渡し、両手を広げながらフィニッシュラインを通過。昨年の51.6kmに続き、66.6kmの独走で2年連続の世界王者となった。

圧巻の独走勝利を決め、ロード世界選手権を連覇したタデイ・ポガチャル(スロベニア) photo:CorVos

「このコースは、まさにこういう展開を狙って設計されたと思っている。(同じUAE所属の)フアン(アユソ)とデルトロと3人で走ることができ、夢のようだった。だが早い段階で1人になり、自分との戦いとなった。それでも最後まで走りきれたことが本当に嬉しい。周回を重ねるごとに登りは厳しくなっていき、下りでも踏み続けなければならなかった。ラスト数周回は本当にキツく、不安もよぎったが、とにかく踏み抜きベストを尽くすしかなかった。ルワンダでの1週間は最高で素晴らしい経験となった」と、アルカンシエルに袖を通したポガチャルは喜んだ。

ポガチャルから1分28秒遅れの2位でフィニッシュしたのは、最終周回で3名の追走から飛び出したエヴェネプール。ポガチャルがチームメイトやスタッフと喜びを分かち合う一方で、エヴェネプールは座り込み、しばらく立てないほど消耗していた。

3位は追走で積極的に動いたヒーリー。アイルランド人としては1989年に銅メダルを獲得したショーン・ケリー以来のロードレース表彰台に上がった。アフリカ人として唯一完走したアマヌエル・ゲブレイグザビエル(エリトリア)は最下位でフィニッシュし、完走者は僅か30名とレースの苛烈さが際立つ結果となり、留目も途中棄権で完走は叶わなかった。

2位でフィニッシュ後、座り込んだレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:UCI
3位で表彰台を喜ぶベン・ヒーリー(アイルランド) photo:UCI


2年連続でアルカンシエルと金メダルを獲得したタデイ・ポガチャル(スロベニア) photo:UCI

ロード世界選手権2025 男子エリートロードレース表彰台:2位エヴェネプール、1位ポガチャル、3位ヒーリー photo:UCI
ロード世界選手権2025 男子エリートロードレース結果
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア) 6:21:20
2位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー) +1:28
3位 ベン・ヒーリー(アイルランド) +2:16
4位 マティアス・スケルモース(デンマーク) +2:53
5位 トムス・スクインシュ(ラトビア) +6:41
6位 ジュリオ・チッコーネ(イタリア) +6:47
7位 イサーク・デルトロ(メキシコ)
8位 フアン・アユソ(スペイン)
9位 アフォンソ・エウラリオ(ポルトガル) +7:06
10位 トーマス・ピドコック(イギリス) +9:05
DNF 留目夕陽
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, UCI