トップスプリンターであるカレブ・ユアン(オーストラリア)が5月6日、現役引退を発表した。今年1月にイネオス・グレナディアーズへ移籍し、4月8日のイツリア・バスクカントリーで勝利を飾るなど、復活の兆しを見せていた矢先の決断だ。



新チームでの初戦で復活勝利を飾ったカレブ・ユアン(オーストラリア) photo:CorVos

ユアンは自身のSNSで、長文の文章と共に引退を発表した。「先頭でフィニッシュラインを越えても(その喜びは)以前よりも早く過ぎ去っていった。何年もその感覚を追い求めていたのに。過去2シーズン、特に2024年の後半の経験は自分とこのスポーツとの関係に大きな打撃を与えた」と、勝利に対する感情の変化が、引退の大きな原因であったと説明した。

韓国人の母とオーストラリア人の間に生まれたユアンは、多くのプロ選手を輩出したジェイコAISサイクリングを経て、2015年にオリカ・グリーンエッジ(現ジェイコ・アルウラー)でプロデビュー。165cmと小柄ながら、爆発的なスプリント力と巧みなポジショニングを武器に1年目から勝利を量産。プロ通算65勝をマークし、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスでそれぞれステージ5勝、ブエルタ・ア・エスパーニャでもステージ1勝を挙げ、3大ツール全てで勝利を経験した世界屈指のスプリンターだった。

2020年ツール・ド・フランスでステージ優勝を飾ったカレブ・ユアン(オーストラリア、当時ロット・スーダル) photo:CorVos

しかし、2023年シーズンからは成績が低迷。ワールドツアーやプロレースのカテゴリーで勝利どころか、勝負に絡むことさえ難しい時期が続いた。2024年には古巣ジェイコ・アルウラーへ復帰し、シーズン初戦のオーストラリア国内選手権クリテリウムで優勝するなどシーズン3勝を挙げたものの、かつての輝きを取り戻すには至らず、2年契約を途中で解除。チームを去ることになった。

一時はそのまま引退の噂も囁かれたユアンだったが、今年1月23日、イネオス・グレナディアーズが獲得を発表。「イネオスのサポートのもと、最高の自分を取り戻す絶好の機会と感じている」と意気込みを語っていた。

2024年古巣ジェイコ・アルウラーに復帰したカレブ・ユアン(オーストラリア) photo:CorVos

そして、その言葉通り、今シーズン初レースとなったセッティマーナ・インテルナツィオナーレ・コッピ・エ・バルタリ(UCI2.1)で復活勝利を飾ると、続くイツリア・バスクカントリー第2ステージでは、2022年のティレーノ~アドリアティコ以来となるワールドツアーレベルでの勝利を掴み取った。

「あのまま(2024年末に)引退することにならなかったことを嬉しく思っている。そしてイネオス・グレナディアーズというチームで、短いながらも成功に満ちた期間にすることができ誇りに思っている」と、チームへの感謝を綴っている。


text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos