ポガチャルの独走勝利と思われた第59回アムステルゴールドレースは、追いついたエヴェネプールを含む3名スプリントで決着。24歳のマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)が世界王者と五輪金メダリストを下し、初優勝を飾った。

2度目の優勝狙うタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos

大会連覇を目論むピドコック photo:CorVos 
昨年引退したデヘントと言葉を交わすエヴェネプール photo:CorVos
1週間前のパリ〜ルーベで石畳系クラシックが終わり、アルデンヌクラシックが幕を開けた春のクラシックシーズン。「アルデンヌ3連戦」と呼ばれる1つ目はこのアムステルゴールドレースから始まり、3日後にフレーシュ・ワロンヌ、1週間後にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと起伏に富んだレイアウトのレースが続いていく。
1966年に初開催され、今年で59回目を迎えた本大会はオランダ最大のワンデーレース。255.9kmのコースには「1000のカーブ」と形容される連続するコーナーと、いずれも「2分以下」で頂上にたどり着く34つの短い登り(ベルグ)が散りばめられている。アップダウンの激しい舗装路のため、出場選手の中に重量級のクラシックレーサーたちの姿はなく、軽量なパンチャーやクライマーが目立った。
スタート地点であるマーストリヒトには、集団先頭に前回覇者トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング)が並ぶ。出場した175名の中でも注目が集まったのは2023年優勝者のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)と、怪我から復帰直後の前哨戦、ブラバンツ・ペイルを制したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)の2人だ。

アムステルゴールドレース2025 コースプロフィール image:Amstel Gold Race

4月20日に行われた第59回アムステルゴールドレース photo:CorVos
晴天の気温16度とレース日和のなか、逃げ集団を形成したのはレミ・カヴァニャ(フランス、グルパマFDJ)ら8名。そのままレースも中盤を過ぎると、38歳のベテランであるサイモン・クラーク(オーストラリア、イスラエル・プレミアテック)ら4名がメイン集団を飛び出す。しかしこの追走は逃げには届かず、また逃げ集団も4名に絞られたが、残り69km地点でUAEが先導するプロトンに吸収された。
主力であるジョナタン・ナルバエス(エクアドル)とティム・ウェレンス(ベルギー)の2名を落車で失いながらも、UAEはレースをハイペースに持ち込む。そしてポガチャルに残された最後のアシストであるブランドン・マクナルティ(アメリカ)を先頭に「No.26 グルペルベルグ」に突入。最大勾配19.7%の壁で飛び出したのは、ポガチャルではなくジュリアン・アラフィリップ(フランス、チューダー・プロサイクリング)だった。

プロトンは終始、UAEチームエミレーツXRGが先導した photo:CorVos

合計34のベルグを登っていく photo:CorVos
切れ味鋭いアラフィリップのアタックには、唯一ポガチャルが反応する。共に世界選手権を制した2名はローテーションを回しながら12秒のリードを得る。しかしポガチャルが次なるベルグでシッティングのまま加速すると、ダンシングするアラフィリップが遅れていった。
残り42.5kmでポガチャルが単独先頭に立ち、今季の春のクラシックを見てきた誰もが、このまま独走勝利だろうと予想した。しかしレースはこのままでは終わらず、意外な展開を見せた。

残り42.5km地点でアラフィリップを引き離し、単独先頭に立ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
初出場のエヴェネプールが自ら先導した追走集団は30秒差でポガチャルを追いかける。そのハイペースにニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)ら有力選手たちが遅れていき、コンディションの上がらないワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が苦悶の表情を浮かべる。そして残り32km地点でマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)が飛び出した。
その後7kmを経て、追走集団のペースがこれ以上上がらないと判断したエヴェネプールが単独でスケルモースに合流する。この時点で先頭ポガチャルと追走2名の差は31秒。昨年12月に肋骨や右肩甲骨、手などを骨折する大怪我を負い、これが今季2レース目のエヴェネプールはここから猛チャージを見せる。それにスケルモースが食らいつきながら、2名は残り8km地点でポガチャルを捉えた。

スケルモースに合流したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos
その後もエヴェネプールは脚を緩めることなく、ハイスピードでポガチャルとスケルモースにプレッシャーをかける。後続ではファンアールトやベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)、ルイ・バレ(フランス、アンテルマルシェ・ワンティ)が追走に力を入れるものの、最後まで追いつくには至らない。そして先頭3名は、今年コースに戻ってきたレースを象徴する「No.34 カウベルグ」でも決着はつかず、勝負はスプリントに持ち込まれた。
エヴェネプールを先頭にポガチャル、そしてスケルモースの順番で最終ストレートに入る。最初に腰を上げ、踏み始めたのはエヴェネプール。フィニッシュライン直前でポガチャルがエヴェネプールを抜くなか、先着したのはスケルモースだった。

3名によるスプリントを制したマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) photo:CorVos
フィニッシュ直後にガッツポーズではなく、信じられないと頭を抱えたスケルモース。「何が起きたのか分からない。自分が勝ったなんて信じられない。これは何かの間違いなんじゃないかとすら思っている。この勝利の価値は大きく、今季は(落車もあり)不運の連続だった。1ヶ月前に祖父を亡くし、どうしても捧げる勝利が欲しかった」と、困惑しながらもスケルモースは勝利を噛み締めた。
「タデイが飛び出し、2位を狙うべく集団から飛び出した。カウベルグで脚に力は残っておらず、食らいつくことに集中した。先頭集団にいるだけで嬉しく、3位が最善の結果だと思いながら走っていたんだ」とも。
一方、2位のポガチャルは「とても良いレースだったが、フィニッシュラインがあと5m長ければと思う。レムコがトップコンディションに戻ったことを示し、今日のスプリントはスケルモースが最も強かった」とコメント。続くエヴェネプールも「良い日となったが完璧とはならなかった。向かい風の中のスプリントとなったので、もう少し待つべきだった」と悔しがった。

アムステルゴールドレース2025表彰台:2位ポガチャル、1位スケルモース、3位エヴェネプール photo:CorVos



1週間前のパリ〜ルーベで石畳系クラシックが終わり、アルデンヌクラシックが幕を開けた春のクラシックシーズン。「アルデンヌ3連戦」と呼ばれる1つ目はこのアムステルゴールドレースから始まり、3日後にフレーシュ・ワロンヌ、1週間後にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと起伏に富んだレイアウトのレースが続いていく。
1966年に初開催され、今年で59回目を迎えた本大会はオランダ最大のワンデーレース。255.9kmのコースには「1000のカーブ」と形容される連続するコーナーと、いずれも「2分以下」で頂上にたどり着く34つの短い登り(ベルグ)が散りばめられている。アップダウンの激しい舗装路のため、出場選手の中に重量級のクラシックレーサーたちの姿はなく、軽量なパンチャーやクライマーが目立った。
スタート地点であるマーストリヒトには、集団先頭に前回覇者トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング)が並ぶ。出場した175名の中でも注目が集まったのは2023年優勝者のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)と、怪我から復帰直後の前哨戦、ブラバンツ・ペイルを制したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)の2人だ。


晴天の気温16度とレース日和のなか、逃げ集団を形成したのはレミ・カヴァニャ(フランス、グルパマFDJ)ら8名。そのままレースも中盤を過ぎると、38歳のベテランであるサイモン・クラーク(オーストラリア、イスラエル・プレミアテック)ら4名がメイン集団を飛び出す。しかしこの追走は逃げには届かず、また逃げ集団も4名に絞られたが、残り69km地点でUAEが先導するプロトンに吸収された。
主力であるジョナタン・ナルバエス(エクアドル)とティム・ウェレンス(ベルギー)の2名を落車で失いながらも、UAEはレースをハイペースに持ち込む。そしてポガチャルに残された最後のアシストであるブランドン・マクナルティ(アメリカ)を先頭に「No.26 グルペルベルグ」に突入。最大勾配19.7%の壁で飛び出したのは、ポガチャルではなくジュリアン・アラフィリップ(フランス、チューダー・プロサイクリング)だった。


切れ味鋭いアラフィリップのアタックには、唯一ポガチャルが反応する。共に世界選手権を制した2名はローテーションを回しながら12秒のリードを得る。しかしポガチャルが次なるベルグでシッティングのまま加速すると、ダンシングするアラフィリップが遅れていった。
残り42.5kmでポガチャルが単独先頭に立ち、今季の春のクラシックを見てきた誰もが、このまま独走勝利だろうと予想した。しかしレースはこのままでは終わらず、意外な展開を見せた。

初出場のエヴェネプールが自ら先導した追走集団は30秒差でポガチャルを追いかける。そのハイペースにニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)ら有力選手たちが遅れていき、コンディションの上がらないワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が苦悶の表情を浮かべる。そして残り32km地点でマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)が飛び出した。
その後7kmを経て、追走集団のペースがこれ以上上がらないと判断したエヴェネプールが単独でスケルモースに合流する。この時点で先頭ポガチャルと追走2名の差は31秒。昨年12月に肋骨や右肩甲骨、手などを骨折する大怪我を負い、これが今季2レース目のエヴェネプールはここから猛チャージを見せる。それにスケルモースが食らいつきながら、2名は残り8km地点でポガチャルを捉えた。

その後もエヴェネプールは脚を緩めることなく、ハイスピードでポガチャルとスケルモースにプレッシャーをかける。後続ではファンアールトやベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)、ルイ・バレ(フランス、アンテルマルシェ・ワンティ)が追走に力を入れるものの、最後まで追いつくには至らない。そして先頭3名は、今年コースに戻ってきたレースを象徴する「No.34 カウベルグ」でも決着はつかず、勝負はスプリントに持ち込まれた。
エヴェネプールを先頭にポガチャル、そしてスケルモースの順番で最終ストレートに入る。最初に腰を上げ、踏み始めたのはエヴェネプール。フィニッシュライン直前でポガチャルがエヴェネプールを抜くなか、先着したのはスケルモースだった。

フィニッシュ直後にガッツポーズではなく、信じられないと頭を抱えたスケルモース。「何が起きたのか分からない。自分が勝ったなんて信じられない。これは何かの間違いなんじゃないかとすら思っている。この勝利の価値は大きく、今季は(落車もあり)不運の連続だった。1ヶ月前に祖父を亡くし、どうしても捧げる勝利が欲しかった」と、困惑しながらもスケルモースは勝利を噛み締めた。
「タデイが飛び出し、2位を狙うべく集団から飛び出した。カウベルグで脚に力は残っておらず、食らいつくことに集中した。先頭集団にいるだけで嬉しく、3位が最善の結果だと思いながら走っていたんだ」とも。
一方、2位のポガチャルは「とても良いレースだったが、フィニッシュラインがあと5m長ければと思う。レムコがトップコンディションに戻ったことを示し、今日のスプリントはスケルモースが最も強かった」とコメント。続くエヴェネプールも「良い日となったが完璧とはならなかった。向かい風の中のスプリントとなったので、もう少し待つべきだった」と悔しがった。

アムステルゴールドレース2025結果
1位 | マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) | 5:49:58 |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | |
3位 | レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | |
4位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) | +0:34 |
5位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) | |
6位 | ルイ・バレ(フランス、アンテルマルシェ・ワンティ) | |
7位 | ロマン・グレゴワール(フランス、グルパマFDJ) | |
8位 | ティシュ・ベノート(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) | |
9位 | トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング) | |
10位 | ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos
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