世界王者のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)が「白い道」で18kmの独走勝利。落車でジャージを破いたアルカンシエルが、大会史上初となる連覇で、最多タイとなる3勝目を飾った。



アルカンシエルを着て大会に臨んだタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
2023年の覇者トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング) photo:CorVos


レースを象徴する砂埃が舞う photo:CorVos

「第6のモニュメント」という呼び声高い、ストラーデビアンケ(UCIワールドツアー)が3月8日に行われた。その理由はイタリア・トスカーナの丘陵地帯に通る未舗装路を、白い砂埃を上げながら走る姿の美しさ。そして最後にサンタカテリーナ通りの石畳坂から、大観衆の待つカンポ広場へとなだれ込むフィニッシュシーンが、世界中のファンを魅了するからだ。

コースは昨年よりも1km短い213km。しかし未舗装路区間は全16セクターと1つ増え、何よりその総距離は71kmから81.7km(38%)と過酷さが増した。スタートとフィニッシュ地点は変わらずシエナで、今年も勝負どころは最高難易度である5つ星をつけたセクター9「モンテ・サンテ・マリエ(11.5km)」と見られた。

晴天に恵まれたドライコンディションのスタート地点に、過去の優勝者であるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)とワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)は不在。しかし世界王者かつ連覇狙うポガチャルはゼッケン1をつけ、トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング)は新チームでクラシックレース2戦目を迎えた。

ストラーデビアンケ2025 コースプロフィール image:RCS Media group

UAEチームエミレーツXRGがプロトンを先導した photo:CorVos

体調不良のため直前で出走を取りやめたマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)を除く174名が走り出し、ヨハン・プリースパイタースン(デンマーク、アルペシン・ドゥクーニンク)など強力な10名の逃げグループが形成される。一方、最大5分のリードを許したメイン集団はUAEチームエミレーツXRGが先導。そのため前半の未舗装路と急坂で6名まで絞られた先頭とのタイムギャップは縮小し、プロトンは1分30秒遅れでセクター9「「モンテ・サンテ・マリエ(全長11.5km)」に入った。

過去最多3度の優勝を誇るファビアン・カンチェッラーラ(スイス)の記念碑が立つこのセクターは、昨年ポガチャルが仕掛けた場所。難易度5つ星という過酷なセクターで、ティム・ウェレンス(ベルギー)1名となったUAEのトレインから、ポガチャルではなくトーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング)がアタックした。

ピドコックのアタックに反応し、先頭に立ったポガチャル photo:CorVos

残り78.5km地点からの加速にはポガチャルが反応し、後続を引き離すべく前に出る。砂埃で視界が狭まるなか2名は逃げた選手たちを次々と交わし、単独先頭に立っていたコナー・スウィフト(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)をキャッチ。レースの先頭はポガチャルとピドコック、そしてスウィフトの3名のまま、セクター9をクリアした。

直後の補給ゾーンでポガチャルがピドコックにボトルを手渡すシーンもありながら、先頭の3名を10名集団が追うという展開。後続には抑え役のウェレンスが入り、ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)やマグナス・コルト(デンマーク、ウノエックス・モビリティ)など有力選手たちが前を追う。しかしポガチャルとピドコックがローテーションを回す先頭は、残り50km地点で1分25秒リードを得た。

そしてそれは、合計2度通過するセクター11「コッレ・ピンツート」の直前に起きた。舗装路の下りコーナーに先頭で入ったポガチャルが後輪を滑らせ落車し、バイクから投げ出されるとそのまま沿道の藪の中に転がり込む。ビブショーツの裾は捲れ上がり、右肩のジャージが破れたポガチャルは素早くバイクに戻ると、単独先頭に立ったピドコックを追いかけた。

落車後、素早くレースに戻り、ピドコックを追うタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos

「(試走を含め)20回は走っているコースなのに滑ってしまった」とレース後に振り返ったポガチャルは、コッレ・ピンツートの登りの手前でスペアバイクに交換する。そして残り45km地点でピドコックに追いつき、再び2名によるローテーションが再開。卓越したバイクハンドリングを見せるピドコックと、落車の影響を感じさせない軽快なペダリングを見せるポガチャルは、終盤の未舗装路セクターを次々とクリアしていく。

そして勝負を分けたのは、この日2度目の登場となったセクター15「コッレ・ピンツート」だった。大観衆のなか2名が未舗装路の登りに入ると、1度後ろを振り返ったポガチャルがペースを上げる。そのままアルカンシエルはもう1度後ろを確認し、一気にピドコックを置き去りにした。

そのまま高出力で踏み続けたポガチャルはシエナの旧市街に到着。サンタカテリーナ通りの最大勾配16%の石畳坂に入る頃に、ピドコックとの差は1分15秒まで拡がり、大歓声のなか軽快に登り切る。そしてカンポ広場にやってきた世界王者は、両手人差し指を天に掲げ、堂々とフィニッシュラインを通過した。

サンタカテリーナ通りの石畳坂を駆け上がるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos

最多タイとなる3勝目を手に入れたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos

大会史上初となる連覇と、最多タイの3勝目を手に入れたポガチャル。「フィニッシュラインを通過するまでレースを楽しむことができた。その後はアドレナリンが収まると、落車の傷が痛んだので最良の勝利とは言えないね(笑)。落車後、自分の身体の状態が分からず、バイクも交換しなければならなかった。落車は身体の力が奪われてしまうものだが、なんとか勝つだけのパワーは残っていた」と語り、トロフィーを手に笑顔を見せた。

「今日は1つのミスもなかった。これが僕が出せるベストな結果だ」と言うピドコックは1分24秒遅れの2位。そして3位には、追走集団を抜け出したウェレンスは入り、ポガチャルと共に表彰台に上がった。

選手たちのコメントは別記事にてお伝えします。

ストラーデビアンケ2025表彰台:2位ピドコック、1位ポガチャル、3位ウェレンス photo:CorVos


ストラーデビアンケ2025結果
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) 5:13:58
2位 トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング) +1:24
3位 ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG) +2:12
4位 ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) +3:23
5位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) +4:20
6位 マグナス・コルト(デンマーク、ウノエックス・モビリティ) +4:26
7位 ジャンニ・フェルミールス(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) +4:29
8位 ミケル・ヴァルグレン(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) +4:37
9位 レナルト・ファンイートヴェルト(ベルギー、ロット) +4:47
10位 ロジャー・アドリア(スペイン、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +5:06
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos