2025/02/03(月) - 11:04
まさに文句なしの圧勝。強烈なペースでライバル勢を粉砕したマチュー・ファンデルプール(オランダ)が世界選手権最多優勝記録タイとなる自身7度目のシクロクロス世界王者に輝いた。2位ファンアールト、40位織田聖のコメントと合わせてレポートします。

男子エリートレースがスタート。マチュー・ファンデルプール(オランダ)が好ダッシュを決める photo:Nobuhiko Tanabe
3日間に渡って開催されたシクロクロス世界選手権を締めくくるエリート男子レース。北フランスはリエヴァンに用意された1周2,800mの特設コースは折からの低温によって地面が凍り、表面だけが泥でぬかるんだテクニカルコンディションに仕上がった。
織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)の言葉を借りれば「表面は泥、轍の中は氷という欧州でもあまり無い状況。ここまでのベルギーレースでも体験できない状況でした」。現地15時05分(日本時間23時05分)のブルーシグナルと共に、澄み渡った青空の下、最前列からスタートしたマチュー・ファンデルプール(オランダ)がダッシュを決めた。

独走するマチュー・ファンデルプール(オランダ)。誰もその勢いを止めることはできなかった photo:CorVos

ファンデルプールを追いかけるベルギー勢 photo:CorVos
「1番の作戦はスタートからリードを奪って自分の走りたいラインで走ることだった。ライバル国(ベルギー)の気持ちを折るために最初からできるだけ大きなリードを作ろうとした」というファンデルプールは、開始20秒で単独先頭に立つ。ここまで勝率100%で臨んだ優勝最有力候補は、保有ポイントの少なさ故に後方スタートとなり、さらに第1コーナーの混乱で勢いを失ったワウト・ファンアールト(ベルギー)を尻目にチャージ。背後に続いたマイケル・ファントーレンハウト(ベルギー)やフェリペ・オルツ(スペイン)を早々に引き離して独走体制を築き上げた。
大挙して会場に押し寄せたベルギーファンの期待を一身に背負うファンアールトは「自分のリズムを見つけるまでまるまる一周掛かってしまった」と言いつつも、3周目にはファントーレンハウトやヨリス・ニューウェンハイス(オランダ)やティボー・ネイス(ベルギー)らの追走グループに合流する。1周回このグループ内でペースを掴んだのち、5%勾配のホームストレートでアタックして単独2番手に浮上してみせる。「コースに翻弄されてしまった部分が否めなかった」という織田は耐えるレースを強いられ、最終的に40位で終了。フルラップ完走には手が届かなかった。

後方から追い上げ続けたワウト・ファンアールト(ベルギー)は2位フィニッシュ photo:UCI 
序盤追走グループに加わったフェリペ・オルツ(スペイン)。今年はトップ10入り叶わず photo:UCI

苦しい戦いを強いられた織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)。40位で完走に手が届かなかった photo:Nobuhiko Tanabe
パワー区間でも、深く轍が刻まれたキャンバー区間でも、格の違いを見せつけながら独走するファンデルプールはリードを50秒まで広げて巡航。圧倒的な走りでファンを湧かせ続けたファンデルプールが、文句なしの走りで最終ストレートに姿を現した。
頭を抱え、握り拳を1回、両手で世界選手権7度目の優勝をアピール。自身が持つ輝かしい戦歴に7度目となるシクロクロス世界チャンピオンのタイトルを加えた。

7勝をアピールしてフィニッシュに飛び込むマチュー・ファンデルプール(オランダ) photo:CorVos

2位銀メダルを獲得したワウト・ファンアールト(ベルギー) photo:CorVos 
自身初となるエリート表彰台を掴んだティボー・ネイス(ベルギー) photo:CorVos
2015年、20歳にしてエリートタイトルを獲ったファンデルプールはその後2019年、2020年、2021年、2023年、2024年、そして2025年に優勝し、今回エリック・デ・フラミンク(ベルギー)が持っていた世界選手権最多優勝記録タイに到達。その45秒に敗れたジャージ姿のファンアールトが自身5度目の2位フィニッシュし、混戦を抜け出したネイスが嬉しい3位表彰台に滑り込んだ。
「全く簡単なレースじゃなかった。コースはとてもキツくてテクニカルだったんだ。スタートからダッシュが決まって調子もすごく良かった。最初から飛ばす戦略がうまくいったけれど、リードを奪った後にタイヤがパンクするんじゃないかという恐怖に襲われたんだ。実際3周目のピット通過後に前輪がパンクしてしまい、かなり体力を消耗してしまった。そこからは細心の注意を払いながら走ったよ」と、ファンデルプールはあくまでも簡単なレースではなかったと説明する。
30歳となり、自転車競技そのもののアイコンとなっているファンデルプールにとって、母国オランダのフルストで開催される世界選手権では、世界最多となる8度目の優勝がかかることとなる。「エリートカテゴリーに上がったとき、僕は世界タイトルを1回獲得することを夢見ていた。歳を重ねるにつれてプレッシャーが減っているように感じるよ。それが良いリザルトを重ねている理由だと思う。来年記録を更新できるかって?それは来年分かることさ。今はこの世界タイトルを楽しみたいと思う」とレース後のインタビューでコメントを残している。

シクロクロス世界選手権2025 男子エリート表彰台:1位ファンデルプール、2位ファンアールト、3位ネイス photo:UCI
満足の表情で銀メダルを受け取ったファンアールトは「第1コーナーで囲まれてしまい、内側で起きた落車がドミノ倒しのように僕の所まで広がってしまった。そこで完全に勢いを失ってしまったんだ。そこからは前を追いかけ続ける厳しい戦いだった。ただ自分のレースができるようになってからはマチューとそれほど差はないように感じたよ」とコメントする。
「(保有ポイントが少なく)スタートが後方だったのは、今年はあまり多くのレースに出場しないと僕自身が決めたから。だから埋もれてしまったことに対する不満は一切ない。マチューに対してはあまりにも状況が悪かったけれど、他のライバルたちに対しては失礼ながらまだ勝てると思っている。フランスのレースはいつだってエキサイティングなコースを提供してくれる。地理的に近いからベルギーやオランダのファンも来場しやすかったと思う。僕が参戦表明したことがあちこちから高く評価されて嬉しく思ったよ。レースを本当に楽しむことができた。ファンを楽しませることができて嬉しいし、この世界選手権を走るために協力してくれた全ての人に感謝したい」と、1週間前の電撃表明を経て参戦した8度目のエリートレースを振り返った。

声援を浴びながら走る織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Nobuhiko Tanabe
「日本チャンピオンという肩書き以上にナショナルジャージを着て走る世界選手権はプレッシャーが強いですし、それで動きが固かった感は正直あるかもしれません」。そうレースを振り返ったのは織田だ。今回はスタートのペダルキャッチでミスして出遅れ、緊張感を感じながらのレースだったと言う。「世界選手権も大切ですが、個人的な目標はワールドカップや欧州の普段のレースでコンスタントに完走すること。世界選はその先にあるものですからね。欧州遠征を続け、しっかり走れるように自分自身を高めていきたい」と目標を改めている。
織田のコメント全文は別記事で紹介します。

3日間に渡って開催されたシクロクロス世界選手権を締めくくるエリート男子レース。北フランスはリエヴァンに用意された1周2,800mの特設コースは折からの低温によって地面が凍り、表面だけが泥でぬかるんだテクニカルコンディションに仕上がった。
織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)の言葉を借りれば「表面は泥、轍の中は氷という欧州でもあまり無い状況。ここまでのベルギーレースでも体験できない状況でした」。現地15時05分(日本時間23時05分)のブルーシグナルと共に、澄み渡った青空の下、最前列からスタートしたマチュー・ファンデルプール(オランダ)がダッシュを決めた。


「1番の作戦はスタートからリードを奪って自分の走りたいラインで走ることだった。ライバル国(ベルギー)の気持ちを折るために最初からできるだけ大きなリードを作ろうとした」というファンデルプールは、開始20秒で単独先頭に立つ。ここまで勝率100%で臨んだ優勝最有力候補は、保有ポイントの少なさ故に後方スタートとなり、さらに第1コーナーの混乱で勢いを失ったワウト・ファンアールト(ベルギー)を尻目にチャージ。背後に続いたマイケル・ファントーレンハウト(ベルギー)やフェリペ・オルツ(スペイン)を早々に引き離して独走体制を築き上げた。
大挙して会場に押し寄せたベルギーファンの期待を一身に背負うファンアールトは「自分のリズムを見つけるまでまるまる一周掛かってしまった」と言いつつも、3周目にはファントーレンハウトやヨリス・ニューウェンハイス(オランダ)やティボー・ネイス(ベルギー)らの追走グループに合流する。1周回このグループ内でペースを掴んだのち、5%勾配のホームストレートでアタックして単独2番手に浮上してみせる。「コースに翻弄されてしまった部分が否めなかった」という織田は耐えるレースを強いられ、最終的に40位で終了。フルラップ完走には手が届かなかった。



パワー区間でも、深く轍が刻まれたキャンバー区間でも、格の違いを見せつけながら独走するファンデルプールはリードを50秒まで広げて巡航。圧倒的な走りでファンを湧かせ続けたファンデルプールが、文句なしの走りで最終ストレートに姿を現した。
頭を抱え、握り拳を1回、両手で世界選手権7度目の優勝をアピール。自身が持つ輝かしい戦歴に7度目となるシクロクロス世界チャンピオンのタイトルを加えた。



2015年、20歳にしてエリートタイトルを獲ったファンデルプールはその後2019年、2020年、2021年、2023年、2024年、そして2025年に優勝し、今回エリック・デ・フラミンク(ベルギー)が持っていた世界選手権最多優勝記録タイに到達。その45秒に敗れたジャージ姿のファンアールトが自身5度目の2位フィニッシュし、混戦を抜け出したネイスが嬉しい3位表彰台に滑り込んだ。
「全く簡単なレースじゃなかった。コースはとてもキツくてテクニカルだったんだ。スタートからダッシュが決まって調子もすごく良かった。最初から飛ばす戦略がうまくいったけれど、リードを奪った後にタイヤがパンクするんじゃないかという恐怖に襲われたんだ。実際3周目のピット通過後に前輪がパンクしてしまい、かなり体力を消耗してしまった。そこからは細心の注意を払いながら走ったよ」と、ファンデルプールはあくまでも簡単なレースではなかったと説明する。
30歳となり、自転車競技そのもののアイコンとなっているファンデルプールにとって、母国オランダのフルストで開催される世界選手権では、世界最多となる8度目の優勝がかかることとなる。「エリートカテゴリーに上がったとき、僕は世界タイトルを1回獲得することを夢見ていた。歳を重ねるにつれてプレッシャーが減っているように感じるよ。それが良いリザルトを重ねている理由だと思う。来年記録を更新できるかって?それは来年分かることさ。今はこの世界タイトルを楽しみたいと思う」とレース後のインタビューでコメントを残している。

満足の表情で銀メダルを受け取ったファンアールトは「第1コーナーで囲まれてしまい、内側で起きた落車がドミノ倒しのように僕の所まで広がってしまった。そこで完全に勢いを失ってしまったんだ。そこからは前を追いかけ続ける厳しい戦いだった。ただ自分のレースができるようになってからはマチューとそれほど差はないように感じたよ」とコメントする。
「(保有ポイントが少なく)スタートが後方だったのは、今年はあまり多くのレースに出場しないと僕自身が決めたから。だから埋もれてしまったことに対する不満は一切ない。マチューに対してはあまりにも状況が悪かったけれど、他のライバルたちに対しては失礼ながらまだ勝てると思っている。フランスのレースはいつだってエキサイティングなコースを提供してくれる。地理的に近いからベルギーやオランダのファンも来場しやすかったと思う。僕が参戦表明したことがあちこちから高く評価されて嬉しく思ったよ。レースを本当に楽しむことができた。ファンを楽しませることができて嬉しいし、この世界選手権を走るために協力してくれた全ての人に感謝したい」と、1週間前の電撃表明を経て参戦した8度目のエリートレースを振り返った。

「日本チャンピオンという肩書き以上にナショナルジャージを着て走る世界選手権はプレッシャーが強いですし、それで動きが固かった感は正直あるかもしれません」。そうレースを振り返ったのは織田だ。今回はスタートのペダルキャッチでミスして出遅れ、緊張感を感じながらのレースだったと言う。「世界選手権も大切ですが、個人的な目標はワールドカップや欧州の普段のレースでコンスタントに完走すること。世界選はその先にあるものですからね。欧州遠征を続け、しっかり走れるように自分自身を高めていきたい」と目標を改めている。
織田のコメント全文は別記事で紹介します。
シクロクロス世界選手権2025 男子エリート結果
1位 | マチュー・ファンデルプール(オランダ) | 1:02:44 |
2位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー) | +0:45 |
3位 | ティボー・ネイス(ベルギー) | +1:06 |
4位 | ヨリス・ニューウェンハイス(オランダ) | +1:15 |
5位 | エミエル・フェルストリンゲ(ベルギー) | +1:53 |
6位 | トーン・アールツ(ベルギー) | +1:56 |
7位 | マイケル・ファントーレンハウト(ベルギー) | +2:00 |
8位 | ヨラン・ウィズーレ(ベルギー) | +2:03 |
9位 | ラース・ファンデルハール(オランダ) | +2:09 |
10位 | ローレンス・スウェーク(ベルギー) | +2:28 |
40位 | 織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) |
text:So Isobe
photo:Nobuhiko Tanabe, CorVos , UCI
photo:Nobuhiko Tanabe, CorVos , UCI