イタリアンヘルメットブランドのカスクが手掛ける新型エアロヘルメット「NIRVANA」。TTモデルではないロードレース用ヘルメットとしては異例のイヤーカバーを備え、究極のエアロダイナミクスを求めたレーシングヘルメットを編集部員がテストしていく。



カスク NIRVANA photo:Michinari TAKAGI

常勝軍団と呼ばれたチームスカイと緊密なパートナーシップを結び、様々なヘルメットを共同開発してきたカスク。チームがイネオス・グレナディアーズと呼ばれるようになった今もその関係は続いており、選手らがマージナルゲインを得るために惜しみない協力を捧げている。

そんなカスクが手掛ける中で最新のレーシングモデルとなるのがNIRVANAだ。これまで、UTOPIAやWASABIといったエアロヘルメットを手掛けてきたカスクが、そのノウハウを結集して開発。過去最高の空力性能は言うに及ばず、通気性や快適性、安全性においてもこれまでのヘルメットを凌駕すべく造り上げられた一着だ。

開発には計算流体力学(CDF)シミュレーションを活用 photo:Michinari TAKAGI

ヘルメット後部は空気の流れを良くするロングテールデザインを採用 photo:Michinari TAKAGI

開発にあたっては徹底的なCFD解析を実施し、空力性能、通気性、内部温度の変化といった要素を煮詰めていったという。その結果生み出されたシェルデザインは、ライバルとなるレーシンググレードのエアロヘルメットと比較して35%もの空気抵抗を低減しつつ、通気性を19%も向上させた。

驚異的な性能を叩きだすNIRVANAだが、そのアイコンとも言えるのがカスクのロードヘルメット史上初となるイヤーカバーだ。イヤーカバーといっても耳をすっぽり覆うものではなく、上部をヘルメット内に収める程度のもの。しかし、頭の部位の中でも横に張り出している耳は、その形状も相まって乱流の発生元となっている。そんな耳の一部をヘルメットシェルによって覆い隠すことで、より効率的なエアフローを実現した。

イヤーカバーを備えたエアロヘルメット photo:Michinari TAKAGI

通気性とねじれ衝撃への安全性を向上する立体ハニカム構造のMULTIPODを搭載 photo:Michinari TAKAGI

低い空気抵抗と共に、通気性を兼ね備えるNIRVANA。ヘルメットの前方に設けられた4つのエアインテークと後部の排気口は、計算されつくした形状のエアチャネルによって繋がれており、非常に効率的にヘルメット内部を換気。熱を帯びた空気は常に新鮮な空気と入れ替わり、快適な状態に頭部を保ってくれる。

高い通気性に貢献するのが頭頂部の"MULTIPOD"インナーパッド。サドルなどでは既にお馴染みとなった3Dプリント製の立体ハニカム構造のインナーパッドは、トラディショナルなフォームパッドとは段違いの通気性を発揮する。頭頂部以外のパッドには、温度調整機能と抗菌作用を持つメリノウールパッドを使用する。

前面に設けられた4つのエアインテーク photo:Michinari TAKAGI

フィッティングシステムは「OCTO FIT PLUS」 photo:Michinari TAKAGI

MULTIPODパッドが実現するのは、高い通気性だけではない。クッション性に優れた立体ハニカム構造は、垂直方向だけでなく横方向にも変形するため、脳震盪などの原因となる回転衝撃を吸収する役割も果たしている。その効果は、欧州標準化委員会(CEN)がヘルメットの回転衝撃に対する安全基準を定めるために立ち上げたワーキンググループのWG11が示す水準をクリアしていることでも明らかだ。

肌への刺激が少ない「ECO-LEATHER チンストラップ」や軽量かつ大きなダイヤルを用いた「OCTO FIT PLUS」アジャスターなど、快適な使い心地に直結するパーツもこだわり抜かれたNIRVANA。カラーはシンプルなホワイトマット、グラデーションカラーのチェリーブラストとブルーベリーフェードの3色展開。サイズはM(52-58cm)とL(59-62cm)の2サイズが用意され、価格は46,200円(税込)。それでは編集部インプレッションに移っていこう。



―編集部インプレッション

カスクのヘルメットを愛用してきたCW編集部員の高木がテストをしていく photo:Gakuto Fujiwara

今回、NIRVANAのインプレッションを担当するのは、学生時代から現在に至るまでロードレースやシクロクロス、トラック競技、タイムトライアルなどでカスクのヘルメットを愛用してきたCW編集部員の高木。

オールラウンドモデルのPROTONEやエアロモデルのUTOPIA、軽量モデルであるVALEGRO、トラック競技のポイントレースやタイムトライアル競技ではTTヘルメットのBAMBINOなど、様々なカスクのヘルメットを好んでレースやトレーニングで使用し続けてきた。

深めなかぶり心地 photo:Gakuto Fujiwara

アジアンフィットのヘルメットが合う丸型頭の持ち主でMETやケープラス、スペシャライズドではMサイズ、カブトではS/Mサイズを着用している。これまでのカスクのヘルメットではMサイズが丁度よく、NIRVANAもMサイズでぴったりだった。

先だって発表されていたカスクの新世代オールラウンドモデルであるELEMENTOと同じく、3Dプリント製のMULTIPODインナーパッドが搭載されている。これは被り心地にも大きく影響しており、頭頂部周辺のクッション感は少し硬く感じる。前面および側面は歴代のラインアップと同じメリノウールインナーパッドが搭載されているため肌あたりは柔らかく、MULTIPODパッドの存在感が際立つ印象だ。

ダイヤルの側面には凹凸が細かく刻まれ指が掛かりやすい photo:Gakuto Fujiwara

NIRVANAを被った瞬間、その深い被り心地に驚いた。イヤーカバーによって生まれる安心感は、今までのロード用ヘルメットとは一線を画すもの。もちろん物理的に覆われているわけなので安心「感」だけでなく、実際の安全性にも優れているはず。レースだけでなく、普段の練習や通勤でもこのヘルメットを着用するに足る理由だ。

日本人の頭にも比較的フィットしやすい形状はカスク全体の特徴だ。フィッティングシステムの出来も良く、頭の後頭部の位置に合わせてアジャスターを上下に幅広く調整可能で確実にフィットしてくれる。しっかりと調整すれば上下左右から優しく包み込んでくれるようなフィット感を得られるのはカスクならでは。また、ダイヤルの側面には凹凸が細かく刻まれ指が掛かりやすく、冬用グローブでも操作しやすいのもポイント高し。

4つのエアインテークから入ってきた風が頭部全体を駆け抜けていく photo:Gakuto Fujiwara

さて、それではいざライドへ。今回のテストは向かい風が強くなってきた冬時期に突入し、猛烈な北風が吹き荒れる冬のライドとなった。以前テストしたカスクのエアロヘルメット「UTOPIA」も非常に好印象だったため、このNIRVANAにも大きな期待を寄せてライドに臨んだ。

走り出した最初の感想は「寒い」(笑)。一見すると開口部が少なく、熱がこもりやすそうな印象を受けるNIRVANAだが、実際は抜群の通気性を誇っている。考えてみれば、通気性も空力性能と言えるわけで、エアロヘルメットを名乗る以上通気性にも優れているのは当然、という時代となっているのかもしれない。

たった4つの通気口から入ってきた冷気は、どういうわけか頭全体をキンキンに冷やしてくれる。ヒルクライムくらいの低速でも頭部に熱がこもる隙もなく、温められるはしから外気に押されて排気されていく。もちろん外気温との差が少ない夏場では、熱交換が間に合わなくなることはあるだろうが、同条件における冷却効率という面ではトップレベルであることに疑う余地はない。冬場ではキャップやヘッドウォーマーを重ねて着用したほうが良さそうだ。

平坦な道を走っている時にスピード維持もしやすい photo:Gakuto Fujiwara

気になるエアロダイナミクスについても効果を体感できる。高速になればなるほどわかりやすく、明らかにスピード維持が楽になる。ブラケットやドロップ部など、ポジションを変えてみてもその感想は変わらない。

特にイヤーカバーの効果は大きいように感じる。耳の一部がヘルメット内に収まることで、周辺の空気の流れが良くなるのは嘘ではない。ダウンヒルで聞こえる風切り音が小さく、その効果は感覚的にも伝わってくるのだ。

速く走る選手たちにおすすめしたいレーシングヘルメットだ photo:Gakuto Fujiwara

エアロなプロダクトとは、より速く、1mmでも前でゴールするために開発されるもので、このNIRVANAも例外ではない。だが、NIRVANAの恩恵を受けられるのは、より速く走りたい人だけではないし、誰かと競う瞬間だけでもない。

最先端の流体力学設計は空気抵抗の低減だけでなく、同時に高効率な換気性能をも生み出した。アイコニックなイヤーカバーも、エアロなだけでなく安全性、安心感にも貢献している。シリアスレーサーだけのものにしておくのはもったいない、NIRVANAはそんな広がりを感じさせる一着だった。


カスク NIRVANA 
カラー:ホワイトマット、チェリーブラスト、ブルーベリーフェード
サイズ:M(52-58cm)、L(59-62cm)
重量:270g(Mサイズ)
価格:46,200円(税込)
リンク