名門CXタイヤ、デュガスを傘下に収めたヴィットリアがリリースした"Vittoria A.DUGASTシリーズ"をインプレッション。全日本王者、織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)にその走りを聞いた。前編では「チューブラーに近くなった」と絶賛するチューブレスの乗り味や価値にフォーカスを当てる。



ヴィットリアが生み出す「A.DUGAST」

2024年6月に発表された「Vittoria A.DUGASTシリーズ」。最新テクノロジーと、トップレーサーを支え続けてきた伝統を融合させた photo:So Isobe

コアなシクロクロスレーサーに長年愛されてきた、こだわりの高級ハンドメイドチューブラータイヤがオランダのA.DUGAST(アンドレ・デュガス)だ。しなやかであることを極めた乗り味と欧州プロの圧倒的な使用率ゆえ、真っ白なコットンケーシングに記された古(いにしえ)の「A.DUGAST」とロゴと可愛らしくデフォルメされたレーサーのイラストは、フランスのFMBと並び、いつの時代も使うことがステータスとも言えるほど憧れの的になってきた。

しかし熟練のノウハウが求められるシクロクロスチューブラータイヤの組み付けと運用は、ホビーレーサーにとって気軽に手を出せないほど難しいものだ。経験と技が求められるタイヤ貼りに、ケーシングや、タイヤとリム間に泥や水分が入らないようにする加工処理。レース後はこまめにクリーニングを行い、コーティングや接着面の剥がれがないか確認しなければならないし、何より今の時代にチューブラーホイールを購入する勇気と資金力も求められる。「チューブラータイヤを使いたけどチューブレスで我慢する」という方も少なくはないだろう。

デュガスタイヤを愛用するワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos
長年欧州プロの走りを支えてきたデュガス。世界チャンピオンの供給タイヤには虹があしらわれることも通例だ photo:Nobuhiko Tanabe


2020シーズンからヴィットリアのタイヤを使い続けてきた弱虫ペダルサイクリングチーム photo:Makoto AYANO

そんなシクロクロス市場に向けて、2021年2月にデュガスを傘下に加えたイタリアのヴィットリアが、今年2024年6月に「Vittoria A.DUGASTシリーズ」たる新作タイヤシリーズを発表。ヴィットリアの誇る世界クラスの設備や最先端のテクノロジーと、デュガスの伝統的なクラフトマンシップが融合したレーシングタイヤであり、ヴィットリアならではの長所を活かした至高のタイヤとしてデビューを遂げた。

Vittoria A.DUGASTシリーズに用意されるパターンは、サンド用のPIPISTRELLO(ピピストレッロ)と、PIPISTRELLOのサイドに低ノブをつけたドライコンディション用のPIPISQUALLO(ピピスクアッロ)、シリーズ中唯一3Cトリプルコンパウンドを採用するオールラウンド用のSMALL BIRD(スモールバード)、SMALL BIRDよりもややルーズなコンディションに対応するTYPHOON(タイフーン)、そして過酷極まりない欧州レースに対応する究極の泥用タイヤRHINO(リノ)という、これまでデュガスがトップ選手を支えてきた合計5種類のトレッドパターン(詳細は登場時のレビューにて)。5種類すべてにチューブラーとチューブレスレディが用意され、特にチューブレスタイヤをコットンケーシング仕様にしてきたことは、ロード用のCORSA PROを筆頭に、コットンケーシングタイヤの性能を昇華させてきたヴィットリアにしかできない技。市場への供給体制も含め、気軽に伝統のタイヤを試せるようになった意味はあまりにも大きいと言えるだろう。

全日本シクロクロス王者、織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)。Vittoria A.DUGASTシリーズのファーストインプレッションを聞いた photo:So Isobe

前置きが長くなったが、シクロワイアードではVittoria A.DUGASTシリーズの供給が決まったシクロクロス全日本王者、織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)のシーズン前機材テストの現場に同行し、メカニック作業も兼任する佐藤成彦GMも含めてタイヤのインプレッションを聞いた。前編はVittoria A.DUGASTシリーズ、特にホビーレーサーにとって注目のチューブレスタイヤのインプレッション、そして後編は5種類も用意されるトレッドパターンをどう選ぶのかについて、合計2本構成で詳しく紹介したい。



インプレッションby織田聖:「チューブラーの感覚に近く、"良いタイヤ"の走りを味わえる」

新しいタイヤを試す織田。「チューブレスであってもすごく柔らかくて、大きなメリットを感じます」と言う photo:So Isobe

「同じヴィットリアのシクロクロスタイヤでも、従来のタイヤと比べるとガラッと変わりました。チューブレスであってもすごく柔らかくて、しなやかで、低圧にした時にタイヤサイドがよじれる感触があります。チューブラーの感覚にすごく近くなりました」と、BMXを出自にする持ち前のテクニックにパワーをプラスして力を伸ばし、2年連続の全日本チャンピオンに輝いた織田は言う。初テストの場に立ち会ったが、さまざまな空気圧とパターンで乗り込むその様子からは、実に良いフィーリングを掴んでいるように見て取れた。

「チューブレスもチューブラーも、どちらもコシが強いように感じます。それは"硬い"というニュアンスではなくて、しっかり芯があって腰砕けせず、それでいて柔らかいという意味。僕は体重66kgと決して軽い方ではないので、空気圧はチューブレスで1.5bar基準、チューブラーで1.6bar基準(ホイールとタイヤの条件でチューブラーの方がタイヤ幅が若干狭いため0.1差が出たという)で合わせるのが良さそうです。コシがあるから低圧で乗れる。これはすごく良いポイントですね」と織田は言う。

「ライン取りの自由度が生まれるのでレース中に有利です。コーナーが多い国内レースでは武器になりますね」 photo:So Isobe

シクロクロスバイクを低圧で乗るメリットは計り知れない。今やグラベルタイヤよりも細い33mmが許容される最大幅で、機敏な運動性能や担ぎでの軽さを求めたバイクにはサスペンションもない。タイヤが柔らかければ衝撃を消すことができる上、コーナーではタイヤサイドをよじらせつつ、ペダリングしながら曲がることで「トレッドは地面を掴んでいるけど、サイドをよじらせているからグリップがすっぽ抜けない」という状態を作り出せるからだ。

「国内レースは全体的にタイトコーナーが多いコースですよね。デュガスのタイヤはクイックに曲がれるのでインに切り込んでライバルを抜いたり、プレッシャーをかけられる。ラインの自由度が高くなればめちゃくちゃ有利ですし、連続コーナー区間ではそのメリットはさらに大きくなりますよね。単純な乗り心地も良いので、日本のレースで多いボコボコした芝生コースは有利になるでしょうね」。

「シクロクロスではチューブラータイヤが最良なのは当然なのですが、今回はチューブレスのしなやかさだったり、乗り味だったりが、めちゃくちゃ進化していてイメージが変わりました。従来のヴィットリアのチューブレスCXタイヤは乗り味が硬く、僕らからするとレースユースは考えられませんでした。でも、今回のチューブレスなら砂や超泥レース以外なら納得できてしまいます」。

「チューブレスはすごく進化しましたね。絶対的に買うべきタイヤだと思います」と佐藤GMは言う photo:So Isobe

「その分、取り付け作業が難しいのですが...(笑)」と佐藤GMは言う。コットンケーシングを採用しているためビード上げの際に許容される空気圧はたったの1bar。装着にはヴィットリア純正のシーラントを使い、丁寧な作業を要する点など、コットンタイヤに適正化された扱いが要求される(設計リム寸法より太いリムだと尚更)。

「でも、それを踏まえてもなお、"買い"のタイヤじゃないかと思います。価格的にも1本15,000円以上と従来の倍近い価格になっていますが、それでも、ということを僕は言いたい。性能が本当に違います。圧倒的なアドバンテージを得られるから、せっかくレースに出るなら良いものを選んで欲しい。内幅19mmなど細いリムなら少し作業性も良いでしょうし、デュガスのチューブレスタイヤは本当に良いものだと思いますから」と佐藤GMは加える。

次章では各トレッドパターン別の選び方や乗り分けを紹介する photo:So Isobe

「良いタイヤは走っていて楽しいし、コーナーも、荒れた場所もすごく走りやすいですよね」と織田は言う。「今回の新作タイヤは、チューブレスも、チューブラーも、シクロクロスタイヤとしてすごくモノ自体が良くなりました。タイヤで生み出せるメリットがすごく大きくなったと思います」。

フェルトからビアンキに乗り換え、コンポーネントも11速から12速に変わった織田だが、最も違うと話していたのがVittoria A.DUGASTのタイヤだった。次章では5種類用意されているトレッドパターンをどう選び分けるかについて、日本のシクロクロスシーンに沿いながら紹介していきたい。

Vittoria A.Dugastシリーズラインナップ
仕様 タイヤ幅 価格(税込)
Pipistrello チューブラー 28-33mm 17.930円
チューブレスレディ/チューブド兼用 700x33c 15,620円
Pipisquallo チューブラー 28-33mm 17.930円
チューブレスレディ/チューブド兼用 700x33c 15,620円
Small Bird チューブラー 28-33mm 18.920円
チューブレスレディ/チューブド兼用 700x33c 15,620円
Typhoon チューブラー 28-33mm 17.930円
チューブラー(フライングドクターケーシング) 28-33mm 21,340円
チューブレスレディ/チューブド兼用 700x33c 15,620円
Rhino チューブラー 28-33mm 18.590円
チューブレスレディ/チューブド兼用 700x33c 15,620円
text&photo:So Isobe

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