2024/09/20(金) - 20:04
宮城県加美町で行なわれた「グラベルクラシックやくらい」。チームで走るファンライド形式のグラベルイベントに仲間たちと挑んだカラミッチこと唐見実世子さんによる体験レポートをお届け。大自然と格闘した走行時間9時間以上におよぶ過酷なライドの先には大きな充足感が待っていた。
唐見実世子さんプロフィール
2004年アテネ五輪ロードレース日本代表。UCIプロチーム サフィパスタ・ザーラ・マンハッタンに所属して活動した。2007年末でいったん引退、9年のブランクを経て2016年に弱虫ペダルサイクリングチームで選手兼コーチとして復帰し、2016年からJBCFフェミニンツアーで個人総合優勝5連覇を達成、シクロクロスでも連戦連勝する活躍。昨年トップカテゴリーから引退し、現在はあさひが運営するサイクルショップTHE BASEに勤務し、チームMINERVAの活動を支える。現在は選手のコーチングにあたるとともにJCGAサイクリングガイドの資格も取得、楽しむスタンスでライドを継続中だ。
2度目のやくらいでグラベルに再挑戦するチャンスが巡ってきた
「cannondale GRAVEL CLASSIC Yakurai 」に参加してきました。薬萊(やくらい)山近辺には至るところにグラベルの林道が通っていて、初心者から上級者までグラベルライドを楽しめる日本有数のフィールドがあり、2021年から形態を変えつつも毎年グラベルイベントが行われています。
今回のイベントの特徴はそんな大自然に恵まれつつも、体力、技術、経験を必要とするコースをチームで協力してゴールを目指すという形式で、タイムを競うレースではありません。コースはロングコースとショートコースがあり、私たちの参加したロングコースは128km、獲得標高2,654m、グラベル率は47%というチャレンジングな内容でした。
私がこの地、宮城県加美町薬萊を訪れるのはじつは今回が2回目。私にとって初めてのやくらい山、そしてグラベルとの出会いは3年前の2021年5月に同じ地域で2日間にわたって行なわれたJEROBOAM(ジェロボーム)グラベルチャレンジでした。2日で300km、獲得標高は6,520m! 今の自分では到底完走もままならないボリュームでした。その時の体験レポートはこちら。
(話はそれますがちょうど同じ日にチームメイトがTOJ東京ステージで優勝を果たし、自身のグラベル初挑戦と重なって思い出深い一日になりました)
前日試走でグラベルライドに目覚める
会場の宮城県加美郡は仙台から内陸側に1時間弱の場所です。都内にある自宅からは約450km。8月31日早朝に綾野編集長の運転するハイエースにお迎えにきてもらって出発。途中でランチを食べて7時間の長距離移動。ちょうどそのとき日本に停滞している台風10号の進路具合では開催も危ぶまれましたが、東北地方に入ったあたりから晴れ間も見え始め、こちらは台風の影響はなさそう。日本列島は大きい!
会場に到着してからは、綾野さんがRide with GPSで引いてくれた30kmのルートでグラベルの予習ライドへ。登りは勾配がきつくて、石もゴロゴロしていて舗装路のようには進まず、前日試走で足がなくなってしまうのではないか、と若干ビビりが入ってしまう。
長い登り区間の途中辺りから雨も降り始め、だんだんと頭のネジが飛んで楽しくなってくる。後半は水たまり区間があって、もはや自転車も体も泥だらけ。自然と笑いが込み上げてきて、楽しくなってしまった。
会場近辺に到着した頃には晴れ間が見えて、遠くに虹がかかり、気持ちがほっこりとした。そう言えば、3年前のジェロボームの時も前日試走の時に虹を拝んだと思いだした。たった30kmなのに、グラベルの洗礼の厳しさにすでにお腹いっぱい。でも走っておいて良かった。
ウェルカムパーティーは会場にもなっているペンションKAMIFUJIで開催され、オーナーさんのつくる美味しい料理と大抽選会で盛り上がった。極め付けはキャノンデールのTopstoneカーボンのフレーム。まだグラベルバイクを持っていない友人の女性が当選して、会場じゅうが沸いた。
■予想以上の難コースに苦しみつつ、マイペースでグラベルと格闘
グラベルイベントの朝は早い。前夜は女子部屋での宿泊だったのでおしゃべりが止まらず、寝不足気味。ウェルカムパーティでご飯を食べすぎて胸焼けもしている。これまでの競技生活からすると考えられないけど、すごく新鮮で楽しかった。
午前4時過ぎにペンションKAMIFUJIが用意してくれたおしゃれなアメリカン・ブレックファストを、なかば強制的に食べて、ようやく明るくなってきた5時半にスタート。長い1日が始まった。
今回のチーム名は「チームいつも読んでますシクロワイアード」(笑)。チームメンバーは綾野編集長をはじめ、トレイルラン日本代表の田上さん、そして自転車だけでなくスキーなどいろいろなスポーツをこなす小島さん、そして私カラミッチ。どう考えても私が足を引っ張るのは目に見えてるけど、ゴールまで楽しんで走ろうと決めてスタートラインへ。
スタートは1分おきのタイムトライアル形式。私たちは第2ウェーブの一番手スタートだ。走り出して間もなく、後ろからスタートした元気なTRYCLEグループに追いつかれる。長い登りを何とかくらいついたけど、最後はチームからも置いて行かれて山頂で合流。でも無理すると結局はオールアウトしてしまって、もっと待たせる事になってしまうので、とにかくマイペースを守って登るしか方法はなかった。
チーム員の皆さんに「遅くてごめんなさい」を伝え、その後の下りは試走のときに通った(めちゃ険しいことを知っている)道なので自分に大丈夫と言い聞かせ、大きな水たまりが連続する区間も難なくクリア。下りは苦手だけど、今回乗ったバイクはフロントサスペンションとドロッパーシートポスト装備のグラベルバイクなので、ガレ場もシングルトラックの急な下りも難なくこなせて、自分が上手くなったと勘違いしてしまうほど。
永遠と続くグラベル区間は、石がゴロゴロしていたり、ウェットで時々滑りそうになってストレスに感じたけど、だんだんと慣れてきて気持ちよくバイクを進ませられるようになり、時折目の前の景色がパッと開け、それに癒されて勇気をもらって、次の一漕ぎに繋げられた。
下りきってしばらくは舗装区間だ。田園風景の中をひた走ったり、アップダウン区間を走って、人里の営みを楽しみ、垂れる稲穂から秋を感じることができた。舗装路の速さはロードバイクと大きく違わない。
その後はいつの間にかグラベル区間に吸い込まれる。暑くなってきて汗が止まらず、水分補給が大事。運動量が多いのにスピードが遅くて風を受けないから、よりたくさん汗が出るのだ。私に限ってはようやく胃もたれから解放され始め、喉が乾く感覚になる。
長いグラベル区間を終えた頃に硫黄の匂いが漂い始め、鳴子温泉へ。源泉の足湯に入れるサービスがあるとのことだったが、身体じゅう泥だらけだったので今回はパス。コンビニ休憩でビッグランチを食べる。コース上に2店のコンビニがあるのは鳴子温泉近辺のみなので、自ずとここで参加者が集い、情報交換の場となった。
不思議なもので、山から降りると日本じゅうどこにでもあるコンビニにホッとすると共に、どうやら私たちのチームはかなり上位で走っていることを知る。どうりでキツいワケだ・笑。
■過酷なライドの終わりに登場したストラーデ・ビアンケに感動
鳴子温泉を過ぎるとすぐに登りが始まる。山に向かって激坂を数キロ登っていると、急に景色がひらけて、目の前にエメラルドグリーンの池が現れた。
池ではSAPをされている方や散歩したりくつろいでいる方がいて、過酷なイベント最中の私からすると桃源郷のようにも見えた。少し硫黄の香がしたので、池に足を入れみるとやはり温かい、温泉の池だった。イベントも後半にさしかかり疲れも出始めていた頃なので、嬉しいサプライズだった。
気持ちを切り替えて長いグラベルの登り区間へ。力が残ってなくて、ゴロゴロとした石に足元を取られてしまい、たまらず歩いてしまう。この区間は自分との戦いで、この程度の登りも登れなくなってしまったんだなぁ、とか、もっと練習してくればよかった、とかネガティブな気持ちに襲われる。
しかしそんな私を待ってくれたチームメイトのおかげで何とか登り切って、チェックポイントへ。その辺りからは舗装路が増え、ゴールまでひたすら突き進む。
最後のやくらい山ヒルクライムはもはや止まりかけのスピード。でもゴールは目の前。時が止まっているかのように感じてしまうが、一漕ぎ一漕ぎ漕いでいけば、着実にゴールに近づいていった。
登り切ったらその後は最後のグラベル区間。拓けた地形に、やくらい山に向かって白いグラベルの道がうねるように続く。まさにストラーデ・ビアンケ!。
何もなくて、ただただやくらい山を含む絶景だけが広がる場所に何故かソファーが置かれ、カメラマンが居た。グラベルイベントでは、この「Chase the Chaise(チェース・ザ・チェイス)」という記念撮影があって、ゴール直前にソファーでくつろぐのが恒例らしい。「Chase」は英語で追う、「Chaide」はChaise longue、フランス語でシェーズ・ロングという長椅子ソファの事。つまりは「ソファーを追え!」となり、勝敗や速さだけを追うのではなく遊び心も残っているグラベルイベントらしい企画の一つ。
身体はボロボロだけどそのご褒美に気分も高揚し、チームメイトと健闘を讃えあう良い時間となった。写真を撮る際の構図や人物の立ち位置は編集長がテキパキと指示。最後の最後までプロの意識が途絶えないのは流石!
全ての行程を終え、ゴールしたのは14時半過ぎ。ゴール後は記念撮影をしたり、愛車を洗車したり、現地の大会スタッフと談笑したり。いつものサイクリストのまったりとした時間に戻る。
■グラベルライドは知的なゲーム
自転車競技を長くやってきて、もう選手ではないけど、まだまだ身体は健康で、まだまだ自転車に乗れて、仲間の輪が広がって、苦しい時間や楽しい時間を共有できて、自転車をやってて良かった、と心から思えた1日となった。 やっぱりグラベルは楽しい!
2021年にこの地を訪れ、2日間のビッグライドに参加させてもらった頃の私は、走ることが日常であり、絶対的なフィジカルを持っていた選手だったから、日々のライドを大自然の中へ落とし込む楽しみこそあったけれど、選手としてのイベントへの向き合い方をした。
今はどちらかというと、自分への挑戦とか冒険心、非日常を楽しむ時間として捉えるようになったように思う。 どちらが正解とかではなく、いろいろな向き合い方があっても良いし、自転車って奥が深くて、もっといろいろな楽しみ方を知りたいと思った。
今回のイベントはレースではなく、グループでのファンライドイベント。着順こそつかないものの、「チームいつも読んでますシクロワイアード」がトップタイム9時間12分を叩き出してのフィニッシュだった。
その要因は、レースに至るまでの機材の準備(飲食物含む)、蓄積されたノウハウ、キャプテンを中心とするチーム力、GPSを使うとはいえ地形を読む能力も必要で、普段からの体力作りなど、つまりは大自然の中で行われるイベントであることや、常に危険と隣り合わせであることを認識していたことだったと思われる。
私達は明るいうちにフィニッシュして温泉に入る余裕があったが、夜になって闇のグラベルを走ってまで完走したチームがあったり、リタイアしたチームがあったりと、かなり厳しかったことが伺える。
走り終わってみれば、グラベルライドには様々な準備や能力、対応力が求められることが理解できた。一人っきりで走るのは難しいし、だからこのイベントが仲間と一緒に走るというコンセプトなのだとも思った。
そんな知的でディープなライドであったことを私たち参加者はしっかりと把握して、グラベルワールドをこれからもっともっと盛り上げて行きたいと思った。(唐見実世子)
主催者・菅田純也さん(ハヤサカサイクル)
「グラベルの聖地やくらいで、いつかはグラベルレースも開催したい」
この場所でのグラベルイベントは2021年にJEROBOAM Gravel Challenge、その後raphaプレステージ、そしてやくらいグラベルが去年に続いて2回目になります。
チームで走る「プレステージ形式」にしているのは、山の中で独りで走るよりも、仲間が居たほうが楽しいから。あと最近は熊が出るので、身の安全の意味もあります。もし一緒に参加する仲間がいなくてもソロ同士の人でチームを結成して走れるようにもしています。それも好評で、初対面でも一緒にグラベルを走ると、絆は深まるようですよ。
今回、じつは当初は山形・最上側のグラベルルートが最高だったんです。松尾芭蕉の通ったシングルトラックや、川を渡るポイントがあったりと。しかし荒天の影響で道が崩れてしまって、直前にコースを変更したんです。来年はそこをぜひ走っていただきたいなと思っています。台風の影響も考慮してコースを変更したんですが、グラベル区間をできるだけ減らしたくはなかったので舗装区間は短くしても、逆に走行距離は長くなってしまい、獲得標高も300m増えてしまった(笑)。そして最後の白いグラベルのフォトスポットをご褒美として設定しました。
このあたりは地元の林業の方々との関係が良好で、林道をほぼ問題なく走ることができるので、グラベルイベントをやるにはもってこいの場所です。熊にだけ注意ですね。宮城県内の人はイベントに関係なく普段からグラベルを走っているみたいですね。年々グラベルを走る人が増えて、とれるルートは他にもたくさんある。そんな恵まれた環境ですから、ニセコに負けないグラベルの聖地にしたいと思っています。そしていつかグラベルレースもやりたいと思っています。
text : Miyoko Karami
photo:Makoto AYANO
唐見実世子さんプロフィール
2004年アテネ五輪ロードレース日本代表。UCIプロチーム サフィパスタ・ザーラ・マンハッタンに所属して活動した。2007年末でいったん引退、9年のブランクを経て2016年に弱虫ペダルサイクリングチームで選手兼コーチとして復帰し、2016年からJBCFフェミニンツアーで個人総合優勝5連覇を達成、シクロクロスでも連戦連勝する活躍。昨年トップカテゴリーから引退し、現在はあさひが運営するサイクルショップTHE BASEに勤務し、チームMINERVAの活動を支える。現在は選手のコーチングにあたるとともにJCGAサイクリングガイドの資格も取得、楽しむスタンスでライドを継続中だ。
2度目のやくらいでグラベルに再挑戦するチャンスが巡ってきた
「cannondale GRAVEL CLASSIC Yakurai 」に参加してきました。薬萊(やくらい)山近辺には至るところにグラベルの林道が通っていて、初心者から上級者までグラベルライドを楽しめる日本有数のフィールドがあり、2021年から形態を変えつつも毎年グラベルイベントが行われています。
今回のイベントの特徴はそんな大自然に恵まれつつも、体力、技術、経験を必要とするコースをチームで協力してゴールを目指すという形式で、タイムを競うレースではありません。コースはロングコースとショートコースがあり、私たちの参加したロングコースは128km、獲得標高2,654m、グラベル率は47%というチャレンジングな内容でした。
私がこの地、宮城県加美町薬萊を訪れるのはじつは今回が2回目。私にとって初めてのやくらい山、そしてグラベルとの出会いは3年前の2021年5月に同じ地域で2日間にわたって行なわれたJEROBOAM(ジェロボーム)グラベルチャレンジでした。2日で300km、獲得標高は6,520m! 今の自分では到底完走もままならないボリュームでした。その時の体験レポートはこちら。
(話はそれますがちょうど同じ日にチームメイトがTOJ東京ステージで優勝を果たし、自身のグラベル初挑戦と重なって思い出深い一日になりました)
前日試走でグラベルライドに目覚める
会場の宮城県加美郡は仙台から内陸側に1時間弱の場所です。都内にある自宅からは約450km。8月31日早朝に綾野編集長の運転するハイエースにお迎えにきてもらって出発。途中でランチを食べて7時間の長距離移動。ちょうどそのとき日本に停滞している台風10号の進路具合では開催も危ぶまれましたが、東北地方に入ったあたりから晴れ間も見え始め、こちらは台風の影響はなさそう。日本列島は大きい!
会場に到着してからは、綾野さんがRide with GPSで引いてくれた30kmのルートでグラベルの予習ライドへ。登りは勾配がきつくて、石もゴロゴロしていて舗装路のようには進まず、前日試走で足がなくなってしまうのではないか、と若干ビビりが入ってしまう。
長い登り区間の途中辺りから雨も降り始め、だんだんと頭のネジが飛んで楽しくなってくる。後半は水たまり区間があって、もはや自転車も体も泥だらけ。自然と笑いが込み上げてきて、楽しくなってしまった。
会場近辺に到着した頃には晴れ間が見えて、遠くに虹がかかり、気持ちがほっこりとした。そう言えば、3年前のジェロボームの時も前日試走の時に虹を拝んだと思いだした。たった30kmなのに、グラベルの洗礼の厳しさにすでにお腹いっぱい。でも走っておいて良かった。
ウェルカムパーティーは会場にもなっているペンションKAMIFUJIで開催され、オーナーさんのつくる美味しい料理と大抽選会で盛り上がった。極め付けはキャノンデールのTopstoneカーボンのフレーム。まだグラベルバイクを持っていない友人の女性が当選して、会場じゅうが沸いた。
■予想以上の難コースに苦しみつつ、マイペースでグラベルと格闘
グラベルイベントの朝は早い。前夜は女子部屋での宿泊だったのでおしゃべりが止まらず、寝不足気味。ウェルカムパーティでご飯を食べすぎて胸焼けもしている。これまでの競技生活からすると考えられないけど、すごく新鮮で楽しかった。
午前4時過ぎにペンションKAMIFUJIが用意してくれたおしゃれなアメリカン・ブレックファストを、なかば強制的に食べて、ようやく明るくなってきた5時半にスタート。長い1日が始まった。
今回のチーム名は「チームいつも読んでますシクロワイアード」(笑)。チームメンバーは綾野編集長をはじめ、トレイルラン日本代表の田上さん、そして自転車だけでなくスキーなどいろいろなスポーツをこなす小島さん、そして私カラミッチ。どう考えても私が足を引っ張るのは目に見えてるけど、ゴールまで楽しんで走ろうと決めてスタートラインへ。
スタートは1分おきのタイムトライアル形式。私たちは第2ウェーブの一番手スタートだ。走り出して間もなく、後ろからスタートした元気なTRYCLEグループに追いつかれる。長い登りを何とかくらいついたけど、最後はチームからも置いて行かれて山頂で合流。でも無理すると結局はオールアウトしてしまって、もっと待たせる事になってしまうので、とにかくマイペースを守って登るしか方法はなかった。
チーム員の皆さんに「遅くてごめんなさい」を伝え、その後の下りは試走のときに通った(めちゃ険しいことを知っている)道なので自分に大丈夫と言い聞かせ、大きな水たまりが連続する区間も難なくクリア。下りは苦手だけど、今回乗ったバイクはフロントサスペンションとドロッパーシートポスト装備のグラベルバイクなので、ガレ場もシングルトラックの急な下りも難なくこなせて、自分が上手くなったと勘違いしてしまうほど。
永遠と続くグラベル区間は、石がゴロゴロしていたり、ウェットで時々滑りそうになってストレスに感じたけど、だんだんと慣れてきて気持ちよくバイクを進ませられるようになり、時折目の前の景色がパッと開け、それに癒されて勇気をもらって、次の一漕ぎに繋げられた。
下りきってしばらくは舗装区間だ。田園風景の中をひた走ったり、アップダウン区間を走って、人里の営みを楽しみ、垂れる稲穂から秋を感じることができた。舗装路の速さはロードバイクと大きく違わない。
その後はいつの間にかグラベル区間に吸い込まれる。暑くなってきて汗が止まらず、水分補給が大事。運動量が多いのにスピードが遅くて風を受けないから、よりたくさん汗が出るのだ。私に限ってはようやく胃もたれから解放され始め、喉が乾く感覚になる。
長いグラベル区間を終えた頃に硫黄の匂いが漂い始め、鳴子温泉へ。源泉の足湯に入れるサービスがあるとのことだったが、身体じゅう泥だらけだったので今回はパス。コンビニ休憩でビッグランチを食べる。コース上に2店のコンビニがあるのは鳴子温泉近辺のみなので、自ずとここで参加者が集い、情報交換の場となった。
不思議なもので、山から降りると日本じゅうどこにでもあるコンビニにホッとすると共に、どうやら私たちのチームはかなり上位で走っていることを知る。どうりでキツいワケだ・笑。
■過酷なライドの終わりに登場したストラーデ・ビアンケに感動
鳴子温泉を過ぎるとすぐに登りが始まる。山に向かって激坂を数キロ登っていると、急に景色がひらけて、目の前にエメラルドグリーンの池が現れた。
池ではSAPをされている方や散歩したりくつろいでいる方がいて、過酷なイベント最中の私からすると桃源郷のようにも見えた。少し硫黄の香がしたので、池に足を入れみるとやはり温かい、温泉の池だった。イベントも後半にさしかかり疲れも出始めていた頃なので、嬉しいサプライズだった。
気持ちを切り替えて長いグラベルの登り区間へ。力が残ってなくて、ゴロゴロとした石に足元を取られてしまい、たまらず歩いてしまう。この区間は自分との戦いで、この程度の登りも登れなくなってしまったんだなぁ、とか、もっと練習してくればよかった、とかネガティブな気持ちに襲われる。
しかしそんな私を待ってくれたチームメイトのおかげで何とか登り切って、チェックポイントへ。その辺りからは舗装路が増え、ゴールまでひたすら突き進む。
最後のやくらい山ヒルクライムはもはや止まりかけのスピード。でもゴールは目の前。時が止まっているかのように感じてしまうが、一漕ぎ一漕ぎ漕いでいけば、着実にゴールに近づいていった。
登り切ったらその後は最後のグラベル区間。拓けた地形に、やくらい山に向かって白いグラベルの道がうねるように続く。まさにストラーデ・ビアンケ!。
何もなくて、ただただやくらい山を含む絶景だけが広がる場所に何故かソファーが置かれ、カメラマンが居た。グラベルイベントでは、この「Chase the Chaise(チェース・ザ・チェイス)」という記念撮影があって、ゴール直前にソファーでくつろぐのが恒例らしい。「Chase」は英語で追う、「Chaide」はChaise longue、フランス語でシェーズ・ロングという長椅子ソファの事。つまりは「ソファーを追え!」となり、勝敗や速さだけを追うのではなく遊び心も残っているグラベルイベントらしい企画の一つ。
身体はボロボロだけどそのご褒美に気分も高揚し、チームメイトと健闘を讃えあう良い時間となった。写真を撮る際の構図や人物の立ち位置は編集長がテキパキと指示。最後の最後までプロの意識が途絶えないのは流石!
全ての行程を終え、ゴールしたのは14時半過ぎ。ゴール後は記念撮影をしたり、愛車を洗車したり、現地の大会スタッフと談笑したり。いつものサイクリストのまったりとした時間に戻る。
■グラベルライドは知的なゲーム
自転車競技を長くやってきて、もう選手ではないけど、まだまだ身体は健康で、まだまだ自転車に乗れて、仲間の輪が広がって、苦しい時間や楽しい時間を共有できて、自転車をやってて良かった、と心から思えた1日となった。 やっぱりグラベルは楽しい!
2021年にこの地を訪れ、2日間のビッグライドに参加させてもらった頃の私は、走ることが日常であり、絶対的なフィジカルを持っていた選手だったから、日々のライドを大自然の中へ落とし込む楽しみこそあったけれど、選手としてのイベントへの向き合い方をした。
今はどちらかというと、自分への挑戦とか冒険心、非日常を楽しむ時間として捉えるようになったように思う。 どちらが正解とかではなく、いろいろな向き合い方があっても良いし、自転車って奥が深くて、もっといろいろな楽しみ方を知りたいと思った。
今回のイベントはレースではなく、グループでのファンライドイベント。着順こそつかないものの、「チームいつも読んでますシクロワイアード」がトップタイム9時間12分を叩き出してのフィニッシュだった。
その要因は、レースに至るまでの機材の準備(飲食物含む)、蓄積されたノウハウ、キャプテンを中心とするチーム力、GPSを使うとはいえ地形を読む能力も必要で、普段からの体力作りなど、つまりは大自然の中で行われるイベントであることや、常に危険と隣り合わせであることを認識していたことだったと思われる。
私達は明るいうちにフィニッシュして温泉に入る余裕があったが、夜になって闇のグラベルを走ってまで完走したチームがあったり、リタイアしたチームがあったりと、かなり厳しかったことが伺える。
走り終わってみれば、グラベルライドには様々な準備や能力、対応力が求められることが理解できた。一人っきりで走るのは難しいし、だからこのイベントが仲間と一緒に走るというコンセプトなのだとも思った。
そんな知的でディープなライドであったことを私たち参加者はしっかりと把握して、グラベルワールドをこれからもっともっと盛り上げて行きたいと思った。(唐見実世子)
主催者・菅田純也さん(ハヤサカサイクル)
「グラベルの聖地やくらいで、いつかはグラベルレースも開催したい」
この場所でのグラベルイベントは2021年にJEROBOAM Gravel Challenge、その後raphaプレステージ、そしてやくらいグラベルが去年に続いて2回目になります。
チームで走る「プレステージ形式」にしているのは、山の中で独りで走るよりも、仲間が居たほうが楽しいから。あと最近は熊が出るので、身の安全の意味もあります。もし一緒に参加する仲間がいなくてもソロ同士の人でチームを結成して走れるようにもしています。それも好評で、初対面でも一緒にグラベルを走ると、絆は深まるようですよ。
今回、じつは当初は山形・最上側のグラベルルートが最高だったんです。松尾芭蕉の通ったシングルトラックや、川を渡るポイントがあったりと。しかし荒天の影響で道が崩れてしまって、直前にコースを変更したんです。来年はそこをぜひ走っていただきたいなと思っています。台風の影響も考慮してコースを変更したんですが、グラベル区間をできるだけ減らしたくはなかったので舗装区間は短くしても、逆に走行距離は長くなってしまい、獲得標高も300m増えてしまった(笑)。そして最後の白いグラベルのフォトスポットをご褒美として設定しました。
このあたりは地元の林業の方々との関係が良好で、林道をほぼ問題なく走ることができるので、グラベルイベントをやるにはもってこいの場所です。熊にだけ注意ですね。宮城県内の人はイベントに関係なく普段からグラベルを走っているみたいですね。年々グラベルを走る人が増えて、とれるルートは他にもたくさんある。そんな恵まれた環境ですから、ニセコに負けないグラベルの聖地にしたいと思っています。そしていつかグラベルレースもやりたいと思っています。
text : Miyoko Karami
photo:Makoto AYANO
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