現TT世界王者が雨のバッドコンディションで快走。パリ市街地の32.4kmコースで最速タイムを出したレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が金メダルを獲得し、フィリッポ・ガンナ(イタリア)とワウト・ファンアールト(ベルギー)がそれぞれ銀と銅メダルを手にした。



全体の2番目に走り出したヤン・トラトニク(スロベニア) photo:CorVos

BMXやMTB、トラックなどが行われるパリ2024オリンピックの自転車競技は、ロードレースの個人タイムトライアルからスタートする。開会式が行われた翌日7月27日(土)の午後に、男子個人TTが32.4kmコースで争われた。

コースは起伏のない平坦路であるものの鋭角コーナーが多く設定されたレイアウトに加え、天候は前日から降り続ける雨。先んじて行われた女子でも落車が続出するウェットコンディションのなか、アミール・アンサリ(五輪難民チーム)から順に34名が1分半の間隔でスタートを切った。

2番手に走り出したのは直前のツール・ド・フランスで怪我を負った東京五輪金メダリストのプリモシュ・ログリッチに代わり、スロベニア代表として出場したヤン・トラトニク。途中でメカトラからバイク交換をするアクシデントに見舞われながらも39分38秒のトップタイムでフィニッシュ。しかしすぐさまアルベルト・ベッティオル(イタリア)が上回ると、続々と最速タイムは更新されていった。

29位だったビニヤム・ギルマイ(エリトリア) photo:CorVos

ツールで区間3勝とマイヨヴェール(ポイント賞)を獲得したビニヤム・ギルマイ(エリトリア)はオリンピック初出場を噛みしめるように走り、23歳のケヴィン・ヴォークランは母国フランスのファンから大歓声を受ける。前TTスイス王者のシュテファン・ビッセガー(スイス)がコース後半に向けてペースを上げる走りで37分38秒のトップタイムを出す一方で、22歳のマグナス・シェフィールド(アメリカ)は濡れた路面で落車した(16位)。

そして優勝候補の1人であるワウト・ファンアールト(ベルギー)が全体の24番目でスタートを切る。前輪にもディスクホイールを使用するTTの前国内王者ファンアールトは第1中間計測(13.4km)と第2計測(22.3km)でトップタイムをマーク。終盤の直線路では更にスピードを挙げ、平均速度53km/hを上回る36分37秒の最速タイムを叩き出した。

このタイムに挑んだルーク・プラップ(オーストラリア)が落車してリタイアするなか、20歳の現TTヨーロッパ王者のジョシュア・ターリング(イギリス)は第1計測を前にパンクでタイムを失う。それでもファンアールトから2秒遅れでフィニッシュする好走を見せ、いよいよ優勝候補のフィリッポ・ガンナ(イタリア)とレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が走り出した。

3位:ワウト・ファンアールト(ベルギー) photo:CorVos

2位:フィリッポ・ガンナ(イタリア) photo:CorVos

最終走者レムコ・エヴェネプール(ベルギー)がスタート photo:CorVos

第1計測でファンアールトのタイムを2秒更新したガンナを、1分30秒遅れでスタートしたエヴェネプールが7秒上回る。両者の差は第2計測で16秒まで拡がり、パリ五輪のために開発されたスペシャルバイクを乗るガンナは、ファンアールトを10秒上回る36分27秒でフィニッシュ。しかしそのタイムを世界王者は15秒更新する、36分12秒という圧巻のタイムを叩き出した。

フィニッシュ直後に勝利を確信し、雄叫びを上げた24歳のエヴェネプール。「コーナーではリスクを取らず、ストレートで踏み込む普段通りの走りをした。だからどこで(ガンナと)タイム差がついたのか分からない。だが勝ったことは事実であり、本当に嬉しいよ。4年に一度しかないチャンスを掴み、目標の一つを達成することができた。2人のレジェンドに勝ててクレイジーだし信じられない。僕の人生と選手キャリアの中で、これが最も美しい瞬間の一つだ」と、金メダルを獲得したエヴェネプールは語った。

ガッツポーズでフィニッシュに飛び込むレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos

金メダルを手にしたレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos

U15のベルギー代表にも選ばれるサッカー選手だったエヴェネプールは、自転車競技に転向後2019年にプロデビュー。2020年には落車して骨盤骨折する重傷を負ったものの、復帰後は驚異的なペースで勝利を重ね、2022年はロード世界選手権で優勝。翌年には個人TTの世界王者に輝き、6日前に閉幕したツールでは総合3位とマイヨブラン(ヤングライダー賞)を獲得する活躍を見せた。

銀メダルを獲得したガンナは8月6日から始まるトラック種目でもメダルを目指し、銅メダルを得たファンアールトはエヴェネプールと共に8月3日に行われる男子ロードレースに臨む。

エッフェル塔をバックに表彰式が行われた photo:CorVos

パリ2024オリンピック 個人タイムトライアル表彰台:2位ガンナ、1位エヴェネプール、3位ファンアールト photo:CorVos
パリ2024オリンピック 個人タイムトライアル 男子結果
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー) 36:12
2位 フィリッポ・ガンナ(イタリア) +0:15
3位 ワウト・ファンアールト(ベルギー) +0:25
4位 ジョシュア・ターリング(イギリス) +0:27
5位 ブランドン・マクナルティ(アメリカ) +1:04
6位 シュテファン・ビッセガー(スイス) +1:26
7位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル) +1:31
8位 シュテファン・キュング(スイス) +1:35
9位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ) +1:38
10位 ミッケル・ビョーグ(デンマーク) +1:43
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos