デビュー以来、指折りの空力性能と動力性能によって、プロレースで圧倒的な実績を残してきたキャニオンAeroad。その完璧なレースバイクとも言えるエアロロードが、さらなる高みを目指して進化を遂げた。今ツールで早くもフィリプセンが勝利を挙げ、デビューに花を添えた〝ウイニングマシン〟の第一報をお伝えする。



並外れた実績を残す〝レーシングマシーン〟

満を持して発表された第4世代Aeroad。既にツール・ド・フランスでステージ優勝を挙げるなど実績十分 (c)キャニオンジャパン

現在のロードレースにおける圧倒的なアイコンの1人であるマチュー・ファンデルプール。現在アルカンシェルをまとい、ツール・ド・フランドル(3度)、パリ~ルーベ(2度)、ミラノ~サンレモといったメジャーレースを次々と制しているが、その勝ちっぷりはいつもエモーショナルだ。勇猛果敢にアタックを試み、圧倒的なパワーで単独の逃げを成功させる。ロードレースの美学を表現した彼の勝利は、世界中のレースファンをとりこにしている。そんなマチューの勝利を支え続けているのがキャニオンであり、そのロードラインアップで最速を誇る「Aeroad」だ。

2010年に初代が産声を挙げたAeroad。2015年に第2世代へと進化し、このときすでに専用のステム一体型カーボンエアロハンドルを装備する。そして現行モデルとなる第3世代が発表されたのは2020年。エアロ感を前面に押し出したフレームワークに加え、ドロップ部分が分割・折りたためる奇想天外な構造のエアロハンドルは、多くのロードサイクリストのど肝を抜いた。そして2023年にはシートポストの固定方法を見直すマイナーチェンジをした〝フェーズ2〟へと進化している。

新型Aeroadで既にツール区間3勝を収めているヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

そんなエアロロードだが、レースでの活躍を振り返ってみると、マチューのみならずあまたのプロレースの勝利に貢献してきた〝ウイニングマシーン〟である。初代はフィリップ・ジルベールの全盛期を支え、第2世代は2015年のツール・ド・フランドルを勝利して石畳のレースを制した初のエアロロードに。現行モデルはマチューはもとより絶対的な強さを誇ったまま引退したアネミエク・ファンフルーテンのグランツールと世界選ダブル優勝を支える快挙を成し遂げた。そして、今年はミラノ~サンレモをヤスペル・フィリプセンが制している。こうして現在では、キャニオンのレーシングバイクのイメージをけん引する存在となっている。

進化を生み出す4つのアプローチ

アルカンシエルカラーの新型Aeroadを駆るマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

平坦のみならずステージレースまで成績を上げてきたAeroad。その戦歴だけでなくエアロロードの要件である空力性能でも競合他社の製品を上回ることが第三者の研究機関によって証明されていた。さらに言えば選手たちの満足度も高い。実際のレースでは多くの場面でAeroadが選択されている。そんな完成度に富んだワールドツアー最速クラスとも言えるバイクをどう進歩させるかは、開発陣にとっても難題であった。とはいえプロレースの世界で求める機材として、耐久性やバイクの使い勝手の部分についてはさらに改善の余地があると考え、今ある速さをさらに極めつつ、それらを追求することとなった。そして、この課題に対してキャニオンのR&Dチームは、以下の4つのアプローチにより新型の開発を進めた。

1,パーフェクトエボルブ
すでに完璧なデザインのAeroadだが、それをさらに洗練させたものへとアップグレードする。

2,プロスポーツとの共同開発
選手はもとより、日々のメンテナンスでバイクに接するワールドツアーのチームメカニックの意見も反映する。

3,世界最速レベルを極める
さらなる空力性能追求。自社が設定する風洞実験の条件ではなく、ドイツにおいて最も信頼されている「ツアーマガジン」の条件を元に競合他社よりも優れたデータを追求する。

4,コブルプルーフ
石畳などバイクに対して過酷な走行条件においても壊れることなく使い続けることができる性能を追求する。

車体の形状変更はごく僅か。シートチューブとシートポスト、シートステーの幅は若干薄くなった (c)キャニオンジャパン
フロントフォークは前作よりも前後幅が広げてエアロ性能を向上 (c)キャニオンジャパン



こうしたアプローチから多くの要望が選手やメカニックから寄せられた。中でも落車に対するトップチューブやシートステーの強化、チェーントラブルに強い右チェーンステーBB側の仕様、ヘッドベアリングの耐久性強化、エアロダイナミクスが向上するハンドルセット、よりスリムなシートポストなどが新型には反映されている。

一見するだけでは新型のフォルムに、前作からの劇的な変化を見い出すことはできない。しかし細部に目を凝らすと、ほぼ全てのチューブの形状が細かく変わっている。前作よりもフロントフォークは前後の幅が広くなり、逆にシートチューブとシートポスト、シートステーは前後幅が抑えられている。トップチューブは幅が広くなり、ダウンチューブとヘッドチューブは細くなった。そしてチェーンステーの形状も変わり、シートステーの集合部は最も変更がよく分かる部分だ。こうしてフレーム単体重量は前作とほぼ同じ960gとしながら、同時に剛性バランスを維持して耐久性が強化されている。

フレーム形状の見直しと新型ハンドルで最大15.6W空力が向上

ハンドルは分割式を継続。上部350mm、フレア18度の「エアロドロップ」ハンドルがオプションで用意される (c)キャニオンジャパン

空力面の数的データは、先のツアーマガジンの方法に則った試験での現行エアロロードは202.9W。競合他社となるサーヴェロ・S5は203.9W、スペシャライズド・ターマックSL8は209.3Wで、前作の空力がいかに優れているか分かる。これらに対して新型エアロロードは201.3Wを記録し、前作に対して僅かではあるが1.6Wの空力改善を達成している。そして、空力比較の表に目を向けると、フレームに当たる風の角度が大きくなるにつれてAeroadは競合他社より空力が良くなるので、より広範囲の風の状況に対応できるのだ。

フレームとしては小幅に思える空力向上だが、新型Aeroadは専用のハンドルセットを新調して、ライダーの前面投影面積を減少して空力を大きく進歩させている。前作から投入されたハンドルのドロップ部を分割・折りたためる斬新な構造を最大限活用して、今回はもう一つの「エアロドロップ」というドロップ形状をオプションに用意して14Wの空力向上を果たした。ちなみに販売される完成車に標準装備されるのは、前作と同じドロップ形状の「クラシック」というタイプになる。

アグレッシブなエアロポジションを叶える「エアロドロップ」ハンドル。14Wの空力向上を叶える (c)キャニオンジャパン

デフォルトで用意される「クラシック」ハンドル (c)キャニオンジャパン
トライアスロン用途を考えた「GEARグルーブエアロエクステンション」も用意される (c)キャニオンジャパン



このエアロドロップは、ブラケットの部分で350㎜のハンドル幅、18度のフレア角が与えられている(クラシックのブラケット部はXXS~Sで370㎜、Mサイズ以上390㎜の幅。フレア角は4度)。さらにブラケット部を握った際の乗車姿勢で空力を高めるために、クラシックよりも10㎜長い95㎜のリーチを採用。また、下ハンドルを長時間握ってもストレスが生じないようにドロップ自体も小さく設計されている。2つのハンドル形状がもたらす前面投影面積を比較すると、前者は177.5㎠、後者は231㎠となり、大きな差が生じ、これが14Wの空力アドバンテージを生み出す。先のフレーム側の1.6Wとハンドルを含めたトータルインテグレーションにより、新型Aeroadは15.6Wの空力向上に成功している。

プロにもアマチュアにも有益なユーザービリティを徹底的に追求

さらに新型のハンドルセットは、使い勝手の面でも大きく進化をしている。前作ではハンドル内全てにオイルラインが通る仕様だったが、新作では分割できるドロップ部のみハンドルの外側に添って配置するに変更。これによりオイルラインを抜かずにドロップ部の付け替えを可能にしている。

キャニオンでは先に発売されているグラベルロードのグレイルにおいて「ギアグルーブ マウント」と呼ばれるバートップの専用アクセサリーマウントシステムを導入するが、新型Aeroadにも採用。サイクルコンピューター、モノステータイプのDHバー、スマートフォンマウントなど各種のアクセサリー類の装着をスマートにして容易に、そして多様なバリエーションを提供してくれる。

ヘッドセットは耐久性を上げるために工夫が凝らされた。レース現場からの声を反映したものだという (c)キャニオンジャパン
脱着式のスールーアクスル回しを継続。各部ボルト用のT25トルクスも装備されている (c)キャニオンジャパン



使い勝手への配慮はこれだけに留まらない。メカニックから石畳のレースを走り終えると、ほこりや水などの侵入によりダメージが大きいと指摘を受けていたヘッドベアリングの類いも改良が加えられた。下側のヘッドベアリングを受けるフォークコラムの根元には高精度なチタン製のパーツが挿入され、上下ベアリングの上にはゴム製のシールを追加。さらに最上位グレードのCFRシリーズでは、ステンレス製レースとセラミックボール仕様のヘッドベアリングが装備される。開発陣によれば高圧洗浄機を使った洗車も問題なく、過酷なレースもワンシーズン戦い抜けるだけの耐久性があるという。

その他にもフロントフォークエンドの下側にゴムバンパーを装備して、前輪を外した際にフォークエンドの塗装のはげを防止。フレームに装備するボルト類(スルーアクスルを除く)は全てトルクスのT25サイズに統一。流行となりつつあるフロントシングルギヤ仕様を考慮して着脱式のフロントディレーラー台座を採用。シートポストの後部には台座が設けられ、日常使いではテールライト、レースではゼッケン、トライアスロンではボトル台座などの装備が可能になる。また、前作より前乗りのポジションに対応したオフセット仕様となったが、新作ではゼロオフセットタイプも追加されるという。

装着できるタイヤについては最大32Cサイズまで対応し、石畳やグラベルセクターのあるロードレースに対して万全の対応を見せる。販売される完成車については空力性能を優先して、フロントが25C、リヤ28Cのタイヤを装備する(スラムコンポ仕様はジップのホイールが装備されるため前後28Cを装備)。

セカンドグレードの「SLX」はフレームセットで約100g程度増量。剛性もホビレーサー向けに調整されている (c)キャニオンジャパン

ラインナップは最上位グレードでプロチームが使用する「CFR」と、その下に「SLX」グレードが用意される。市販車の完成車重量はCFRが7.07㎏とエアロロードとしては抜群の軽さを誇る(シマノ デュラエース、DTスイス・ARC 1100 Dicut ホイール装着)。SLXはフレームセットで約100g程度重くなり、完成車重量は7.45㎏(シマノ アルテグラDTスイス・ARC 1100 Dicut ホイール装着)に仕上げられている。フルラインナップはキャニオン公式HPから確認してほしい。

エアロードCFR AXS(キャニオン//スラムレーシングレプリカ:1,499,000円) (c)キャニオンジャパン

エアロードCFR Di2(アルペシン・ドゥクーニンク チームレプリカ:1,429,000円) (c)キャニオンジャパン
エアロードCFR Di2(スパークルステルス:1,429,000円) (c)キャニオンジャパン


エアロードCF SLX 8 Di2(クリスタルホワイト:929,000円) (c)キャニオンジャパン
エアロードCF SLX 8 AXS(ラピッドルビー:999,000円) (c)キャニオンジャパン



こうして新型となったエアロロード。派手な変更点がないのは、それだけ現行モデルの基本設計と完成度が優れることの裏返しでもある。市場は常にドラスティックなモデルチェンジを期待するが、その一方で現行モデルに大きな不満のない選手とチームのジレンマに、開発チームは新型の仕様に頭を悩ませたかもしれない。

しかし基本設計を大きく変えることなく、微に入り細を穿つような設計によって性能や機能を進歩させたことは、相当な英断だったと言えるだろう。レーシングバイクとして勝つための性能を改めて冷静に分析し、優位性はしっかり継承・更新をし、改善点は徹底的に改善する。それは伝統を重んじ質実剛健な物作りを行うドイツのブランドらしい姿である。見た目は大人しいかもしれないが、進化を凝縮した実利に優れたレーシングマシン、それが新型Aeroadである。



新型Aeroadのインプレッションを既に実施済み。初代からAeroadを乗ってきた吉本司氏による試乗レポートをお届け予定だ photo:Naoki Yasuoka


text:Tsukasa Yoshimoto
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