トレックが第8世代となる新型MADONE(マドン)を正式発表。新機軸のエアロ考察によってMADONEたるエアロ性能とEMONDAの軽さを両立させ、2モデルを集約した軽量オールラウンダーに仕上げられた。秘密裏に開催されたプレゼンの模様を通し、その詳細をレポートする。



フルモデルチェンジを遂げた第8世代MADONE。軽さとエアロを兼ね備えたピュアレーシングバイクだ (c)トレック・ジャパン

ツール・ド・フランス前哨戦でその姿が目撃され、誰もが軽量モデルEMONDAの次世代機と思い込んでいたマシンは、なんと次世代MADONEだった。富士ヒルクライムを翌日に控えた富士北麓公園の一室で、トレックのロード開発チーフを務めるジョーダン・ロージン氏の手によって、圧倒的な軽量化を果たした次世代MADONEが姿を現した。

シートチューブ上部のエアフローを最適化し、乗り心地にも配慮した「IsoFlow」で話題を呼んだ第7世代からたったの2年。長年トレックのフラッグシップモデルとして君臨してきたMADONEはリドル・トレックの選手たちから要望によって、MADONEとEMONDAを統合すると言うトレックのロードバイク史に残るモデルチェンジを断行した。

EMONDAのような細身のヘッドチューブ周り。ヘッド剛性は向上しているという (c)トレック・ジャパン

エアフローと快適性を両立するIsoFlowを継続。快適性を先代MADONE比80%も改善している (c)トレック・ジャパン

「UCI規定の6.8kgに達するMADONE」、「スプリントステージからパリルーベまで1モデルで完結できるMADONE」という従来不可能と思われていた無理難題を、「フルシステム・フォイル」たる新機軸のエアロ考察を投入したことで実現。結果的に先代MADONEに比べて圧倒的にスリムなシェイプながら同様の空力性能を有しつつ、フレーム重量は320gも軽いという数値を手にすることになった。

「ステージレース中に2モデルを乗り分けることで生じるストレスを軽減した」ともアピールされた新型MADONE。スリムなフレーム形状ながら先代同等の空力性能を叶えたキーワードが先述した「フルシステム・フォイル」だ。

前後ホイールとフレーム、ボトルを一体化してエアフローを整える「フルシステム・フォイル」 (c)トレック・ジャパン

シミュレーションと風導実験を重ねて形作られた (c)トレック・ジャパン

従来トレックはUCIの3:1ルールに則りつつ空力や剛性、軽さを追い求めたカムテール・バーチャル・フォイル(KVF)チューブ形状を用いていた。これをヘッドやダウンチューブなど各チューブ単体でのエアロ性能を追求した上で一台のフレームを作り上げていたが、新型MADONEは専用設計の「RSLエアロボトルケージ&ボトル(単体でも通常のボトルに比べて35km/hで1.8ワット削減)」を投入することで、その名称通り、フロントホイール&タイヤ(フレーム側)からダウンチューブ〜ボトル〜シートチューブ、そしてリアホイール&タイヤ(フレーム側)までを一つの物体として捉えてエアフローを整えた。空気を切り裂き整流する役目を前後ホイールに任せたことで、EMONDAのような軽さを意識したカムテール形状とも、先代MADONEのようなエアロ最優先のカムテール形状とも異なる、長方形に近いチューブ断面形状を採用できた。結果的に軽さと剛性を高めることができたという。

専用設計の「RSLエアロボトルケージ&ボトル」を投入。通常のボトルも搭載できる (c)トレック・ジャパン

フロントフォークは370gとEMONDAから微増に留めた。モノコック構造によって軽さを演出 (c)トレック・ジャパン
エアフローと快適性を両立するIsoFlowを継続。快適性を先代MADONE比80%も改善している (c)トレック・ジャパン



先代MADONEで話題をさらったIsoFlowはエアフローと快適性を両立するために継続されているが、フレームシェイプに合わせてかなり細身になったことが大きな変更点だ。特にシートステーが細くなったことも含めて垂直方向の快適性を先代MADONE比で実に80%、EMONDA比でも24%を改善しており、「パリ〜ルーベでも最善の選択」という言葉を裏付ける。IsoSpeedが投入された3世代前のMADONE(2015)はエアロロードとして画期的な衝撃吸収性能を持たせてパリ〜ルーベ対応を謳っていたが、それを踏まえても新型MADONEはあくまで通常進化であることが理解できる。

ステム一体型のハンドルバーは前方投影面積を大きくしているが、これはあえて乱流を生み、ライダーの脚前方の空気を減速させ、ペダリング中の脚による空気抵抗をわずかに減らすという考え方によるもの。結果的に上ハンドル部分を持ちやすく、さらに軽くできるというメリットも生み出した。これらはソフト上でのシミュレーションはもちろん、脚を可動させるマネキンをプロトモデルに乗せ、風導実験を繰り返して導き出された答えだという。

空力性能比較。専用ハンドルを取り付ければ10ワットの削減が、RSL専用ボトル装着で更なる空力メリットを得られる (c)トレック・ジャパン

剛性比較。先代とEMONDA比較で数値が上がった一方、快適性が向上していることも分かる (c)トレック・ジャパン

全く新しい設計思想を投入した新型MADONEは、先代MADONEと同じ速さ、つまり200Wで走行した際EMONDAよりも77秒速いという実験結果を達成。ヨー角10度以上の横風が吹いた場合はよりアグレッシブなエアロフォルムを持つ先代MADONEがエアロ性能に優れているものの、それ以下の風の中を走ることが大部分を占める実際の走行環境では、軽さに優れる新型が圧倒的なメリットを有するという。

いよいよトレックの最高級カーボンはOCLV900へと進化。素材、製造方法共に刷新されている (c)トレック・ジャパン
フレーム形状だけではなく、新型MADONEではフレーム素材のアップデートが実施されたこともトピック。トレックは第6世代MADONEからOCLV800カーボンを使用してきたが、2世代後の本作ではいよいよ20%もの強度アップに成功したOCLV900を新規採用。素材面だけではなくブラダー方式の新しい成型プロセス「ネットシェイプド・ブラダー」を投入し、カーボンシートの重なりを減らした高精度なフレームワークを実現している。従来2ピース構成だったフロントフォークは成型方法の技術革新によって1ピース化され、こちらも剛性や堅牢性を維持したまま大幅な軽量化を達成した。

素材、そして成型方法自体まで見直した新型MADONEの未塗装重量はフレームが765g、フォークが370g。EMONDAから+67gという僅かな重量増で、先代MADONEからは320gも軽い。特にフォークの重量減は著しく、完成車に仕上げた際は軽量パーツを使うことなく目標値である6.8kgに収まるという。

先代MADONE比-320gという圧倒的な軽さ。登坂でのメリットを最大化する (c)トレック・ジャパン

フレームジオメトリーはトップ選手からアマチュアまで幅広く対応するH1.5フィットで統一されたほか、各フレームサイズに合わせてチューブ形状を最適化。フレームサイズは従来の8サイズから6サイズに減らしているが、これは「従来サイズでの重複をなくし、よりベストなフレームサイズを選べるように」という思想に基づいたものだという。

「”究極のレースバイク”に求められるのは軽さとエアロの両立です。平坦で速く、それでいて上りで勝負できるように超軽量でなくてはなりません。2つの要素を両立できれば選手にとって、ものすごく大きなアドバンテージが生まれる。トレックとして、ほぼ不可能に思える課題をこのMADONEで解決しました」とは、インタビューで聞いたロージン氏の言葉。トレックがMADONEを開発してからおよそ20年。軽さとエアロ、そして乗り心地を兼ね備えた、原点回帰とも言えるスーパーバイクが誕生した。

新型MADONEはOCLV900カーボンを投入した上級モデル「MADONE SLR」と、コストパフォーマンスに優れるOCLV500カーボンを投入した「MADONE SL」の2グレード体制でラインナップされる。MADONE SLRは新型のスラムRED AXSを搭載した200万円のハイエンドモデルを筆頭に4種類の完成車とフレームセット(79万円)、MADONE SLはシマノULTEGRAを搭載した95万円の完成車を筆頭に3種類の完成車が用意される。もちろん自分だけの一台を作り上げることのできるプロジェクトワンにも対応。色鮮やかなリドル・トレックカラーのほか、トレックが誇る煌びやかな各種カラーを、自分好みのパーツでオーダーすることが可能だ。

MADONE SLR GEN 8ラインナップ
Madone SLR 9 AXS(スラム RED AXS完成車):2,000,000円
Madone SLR 9(シマノ DURA-ACE完成車):1,850,000円
Madone SLR 7 AXS(スラム FORCE AXS完成車):1,600,000円
Madone SLR 7(シマノ ULTEGRA完成車):1,400,000円
Madone SLR フレームセット:850,000円

MADONE SL GEN 8ラインナップ
Madone SL 7(シマノ ULTEGRA完成車):950,000円
Madone SL 6(シマノ 105 DI2完成車):720,000円
Madone SL 5(シマノ 105 完成車):449,000円

※価格はいずれも税込



開発マネージャーを務めたジョーダン・ロージン氏。インタビューは続編にて紹介する photo:So Isobe

続編では発表会に同席し、新型MADONEで富士ヒルクライムを走ったジョーダン・ロージン氏へのインタビューをお届けする。「社内でも大議論が起こった」という2モデルの統合や、リドル・トレックとの競合、新しい設計思想について、そして日本のトレックファンへのメッセージを紹介します。

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