自転車での日本縦断ギネス世界記録チャレンジに挑戦、148時間48分の新記録を樹立したの篠さんの自筆レポート第3回は6、7日目(最終日)、フィナーレの北海道区間へ。悪天候に見舞われたが無事に北端の宗谷岬に到着。そして後日に世界記録の認定もされて晴れてレコードホルダーに。



函館から留萌を目指す第6日目 photo:Nobuhiro Toya

試される北の大地へ

5月26日、5時30分起床。いよいよ最後の区間になりました。函館から宗谷岬までの距離は575kmです。北海道でかーい!

今回乗船した青函フェリーは、車庫の一番奥に自転車を停めるため、下船は自動車の後になります。
北海道へは飛行機でなら何度も来たことがありますが、フェリーのランプウェイを自転車に乗ったまま降りる体験は初めてで、アトラクションみたいでワクワクしました。足を踏み入れた!というか…実際歩いている訳でもないのに不思議な感覚です。

昨晩の極寒の青森が嘘のように、函館の朝は暖かな陽射しと雲ひとつない青空が広がっていて、想像よりずっと走りやすい天候で助かりました。ひとまずセブンイレブン函館フェリー埠頭前店まで移動して、出発の準備を整えます。

サポートチームはここで交代。わらばんしさん、オゴウさんと入れ替えで、け~すけさん、キャヴェツさん、Kittaさんが入ります。

北海道チームは3人とも北海道そらちグルメフォンド繋がりの知り合い。2018年に運営のけ~すけさんからゲストライダーをオファーを頂いて以来、そらちグルメフォンドのみならず、北海道に来る度に何かしらのお世話になっています。今回も2月に北海道区間のサポートメンバーを探していると連絡したら、速攻やります!と返信が来ました。多忙な方ですが、本当にありがたい限りです。

け~すけさんの取りまとめで、そらちのコースディレクターの北村さんと、サイクリストで乗馬仲間のキャヴェツさんも来てくれて、これ以上頼もしい人選はいません。サポートメンバー確保で一番苦労するであろう北海道区間があっさり解決して、胸がじんときたのはここだけの話。

当初の予定では、オゴウさんが青森離脱で、ふぃりりんとわらばんしさんは北海道メンバーにサポート関連の引き継ぎを済ませた後、セブンイレブン離脱になっていましたが、私の走行ペースが予想外に順調だったので、オゴウさんとわらばんしさんとは函館でお別れできました。ふぃりりんだけ残って、100km地点まで引き続きサポートカーに同乗しながら、サポート関連の引き継ぎをしていきます。

前半はいける所までいくスタイル

道沿いの防雪柵が北海道らしい風景をつくりだす photo:Nobuhiro Toya

26日は昼過ぎまで強風予報ですが、7割追い風気味です。長万部までは西風ベースで、南南西か西北西と進む方向によって激しく切り替わる感じで、足を回していれば進む区間もあれば、全力で回しても20km/h出ない区間もありました。余計な負荷がかからないように向かい風区間はペースを抑えて姿勢を低くして、追い風区間はスピード乗せていくように徹底しました。

早朝の国道5号線は空いていて、緩い丘を越えて下り出すと平坦が延々と続きます。海沿いの国道229号線も信号がほとんどない為、最初の200kmはあっという間でした。

第1休憩の103km地点のセブンイレブン長万部店に到着したのは10時18分、貯金51分。第2休憩の205km地点のセブンイレブン余市大川店に到着したのは15時17分、貯金1時間40分。ここまでの区間Ave.は初日の九州区間に次ぐ高さです。

元々立てた予定では21時20分に287km地点の道の駅石狩「あいろーど厚田」に到着で、そこで2時間仮眠を取ることになっていましたが、この調子だとかなり早く着いてしまいそうです。

ゴールを予定している明日は大荒れ予報。雨は早朝から降り始め、遅い時間になればなるほど悪化していくので、終盤の宗谷岬付近はかなり厳しいコンディションが予想されます。現時点は順調に進んでいますが、翌朝のことを考えると天気が持つ今日のうちに少しでも前に進めておきたい。

第2休憩から再び走り出すと、風向きが向かい風に変わりました。ここから先は、かの有名な「日本海オロロンライン」が待ち受けています。もっと北上してからのイメージでしたが、実は小樽から既にオロロラインが始まっていました。小樽市街と石狩市までの区間は比較的に交通量が多いです。

当初100km地点で離脱する予定だったふぃりりんは、結局250km地点のローソン石狩新港三丁目店まで着いてきてくれました。私が予想より早く進み続けているから離脱地点がどんどん先送りにされていったとのことらしい笑。石川県から長い区間のサポート、本当にありがとうございました!

このコンビニに立ち寄ったのはもう一つ用事がありました。地元サイクリストの協力の元、翌日の雨に備えた予備のチェーンオイル、着替え用のインナー、ORCAのハンドル高調整用の5mmスペーサーを調達できたので、それを受け取るためでした。今回のチャレンジは本当に色んな方に助けられています。

北海道区間はサドルを下げたり、スペーサーを抜いたりして何度かバイクの調整を繰り返しました。写真で見返すと歪なフォームで走っているなあと自分でも思いますが、その時その時の一番体に負担が少ないセッティングだったと思います。

石狩市から先はここまで多かった交通量が嘘だったみたいに、パタッとすれ違う車両が減りました。道の駅石狩あいろーど厚田には19時28分に到着。ここまで287km、貯金1時間47分です。ここで日が暮れて、チャレンジ最後の夜が訪れます。
※市街地から離れている道の駅だったので、応援に来てくださる方本当に有難かったです。とても力になりました。

当初の仮眠予定を先送りにして、あいろーど厚田では30分ほど滞在。靴を脱いで足の裏を休ませながら、温かいコンポタージュとセコマのホットシェフシリーズのから揚げを頂きました。北海道区間の補給は、北海道ならではのコンビニグルメにこだわってみました。

印象に残ったものと言えば、たまたま手に取ったセコマのエッグ&メンチロールが罪深い美味しさで…
コッペパンにメンチ1枚とたまごサラダを挟んだものですが…たまごサラダがメンチとパンと絡み合って、程よくしっとりで、ソースがいい仕事していて、脂質たっぷりなのに油っこさを感じさせない味付けが最高。また、北海道のお赤飯は甘納豆入りがデフォで、普段とは違う甘塩っぱい味で最初はびっくりしましたが、すごく美味しかったです。

最後の夜、虚無区間Part3

後半はずっと雨。そしてときおり強烈な向かい風が photo:Nobuhiro Toya

20時に走行再開。真っ暗です。波の音が聞こえてくるから、おそらく海沿いを走っているであろうことだけは分かります。自分のフロントライトとサポートカーが照らしてくれる範囲しか見えず、すれ違う車もなく、暗闇に自分達だけが取り残されている気分でした。

留萌まではひたすらアップダウンが繰り返されていきます。暗くなってペースが落ちたというのもありますが、この90kmは最初の100km×2よりずっと長く感じました。

カメラマンのNobさんしばらく姿を見せないなあとぼんやり考えていたら、22時頃道沿いの無料駐車場でキャンピングハイエースを発見。ハザードはついておらず、車内の電気は消えている。
「あ、Nobさん落ちた。」と思った。笑

留萌へ向けて、暗闇の中走り続ける photo:Nobuhiro Toya

それもそうと、隙を見つけて仮眠を入りつつとは言え、九州から北海道まで1人で運転も撮影もこなしながらついてきているから、疲れる訳です。次は私の番かなと、気を引き締めて足を回し続けました。

短時間睡眠で連日平均400km近く稼働のダメージは体よりも脳の方に来ます。5日目の昼過ぎから体調に表れ始めて、適度に休憩を入れつつやり過ごしてきましたが、起きていられる時間がどんどん短くなっていきました。自分の体で人体実験を行っている気分でした。

チャレンジ開始後は、毎日予定より早くゴールすることで睡眠休憩を平均5時間前後を確保できていますが、女性は余計身支度に時間かかるので、寝る準備や寝付くまでの時間、翌朝の身支度を差し引いたら、毎日の本当の睡眠時間は3.5時間~4時間しかありません。単日チャレンジなら北海道区間の距離は一気に行きたいところですが、6日目にもなるとさすがに厳しいです。

23時過ぎぐらいに限界が近いと感じて、サポートカーに「次の留萌で仮眠取ります。」と伝えました。このまま続けたら走行中に寝落ちすると思いました。自転車に乗り始めてから初めてのことです。

眠気覚ましにACTIVEのスピードジェル(カフェイン入り)を2個投入。ここまでほとんどカフェインを取らずに来たおかげで、効き目は抜群。

道の駅るもいに到着したのは27日の0時15分。ここまで375km、貯金3時間11分。(仮眠2時間含む)

自転車降りた瞬間にどっと眠気が押し寄せてきて、「とりあえず1時間だけ寝ます!」とみんなに伝えたら、ジャージ着たまま毛布にくるまって、秒で寝落ちました。

最終日

荒天のなかレインギアを着て走る photo:Nobuhiro Toya

5月27日、2時20分起床。1時間だけ寝るつもりでしたが、アラームの音で起きてはみたものの、脳も体もまったく動かなかったから二度寝して自然覚醒。通勤電車で寝落ちた5分が最高に気持ちいいのと一緒で、極限に眠い時の仮眠は効率よく回復します。起きあがったら、憑き物が落ちたように体が軽くなって頭も冴えていました。

就寝前ヘルメットとアイウェアをその辺にぞんざいに置いたせいで、アイウェアが荷物に紛れ込んで見つからない事件が起きました。予備アイウェアの保管ケースの発掘にも時間がかかってしまい、結局走り出したのは2時40分。※最終日だけ違うアイウェアをかけているのはこれが理由です。人は疲れているといろいろ抜けちゃいますよね。その時はめちゃくちゃ焦りましたが、今になると笑い話です。ほんとしょうもないことで10分ロスしました笑

宗谷岬まであと少し photo:Nobuhiro Toya

残り200km。北海道区間は全行程で一番要求Ave.が低いです。休憩込みでAve.17km/hさえ維持できれば、今回設定した目標タイムは達成。予定通りにいくと、180時間台の現女子記録を約29時間更新できます。ある意味それが最低ラインでもあり、体に続行できないレベルの支障が起きない限り遂行できるペースです。

「そこからどれだけ詰めていけるか」が、本当の意味での私のチャレンジかもしれません。最後の最後であとどれぐらい絞り出せるか。
自分の意思でどこまでやりたいか。突き詰めると、最後は気持ちの問題な気がします。

最後の試練

海沿いの道は単調だ photo:Nobuhiro Toya

6時過ぎから本降りの雨に変わり、一旦道の駅遠別にピットインして装備を整えます。ゴールまでの残り113kmはほぼ平坦で雨も強まるので、バイクをXELIUSからディスクのORCAにチェンジ。ここで貯金1時間49分、少しずつ確実に巻いています。

天塩町を通り過ぎ、天塩河口大橋を渡れば、異世界のような景色が広がっていました。巨大な風車が右手側にずらーっと並んでいて、真っ直ぐな道がどこまでも続いていきます。北海道は地図だけ見ると縮尺感覚がおかしいとよく言いますが、サイコンに表示された短い直線が32kmもあります笑

風車が強風でビュンビュンと音を立てて回っている photo:Nobuhiro Toya

自分は進み続けているのに、風車がなかなか近づいてこなくて、三本ローラーを回し続けているような気分に陥りました。視覚情報で脳がバグります。

どんどん雨も強くなって、轍に水が溜まって道路が川と化して、そこに対向車の大きなダンプカーが遠慮なく突っ込んでいく…。北海道の大型車は高速道路並のスピードで走っているから、対向とすれ違う度に、凄まじい風圧とともに、スプラッシュマウンテンみたいな水飛沫が頭より高い位置から振りかかってきました。

2、3分に1台の頻度で来るから、スプラッシュマウンテンを浴びた回数は軽く50回は超えてるかな…。稚内まで残り25km辺りから横殴りの風もプラスされて、油断すると普通に持っていかれます。10℃未満の雨は体の芯まで冷えていく感じで、ふと自分何やってんだろうと我に返る瞬間もありましたが、止まると低体温で死ぬから踏み続けるしかなかったです。

悪天候で気分は世紀末でしたが、稚内に向かうまでの道、広大な野原の奥に向かって道が消えていく様子はとても日本離れしていて、深く記憶に刻んだ景色でした。天気が良ければ、この区間は利尻島を横目に走り続けられる絶景ロードらしいです。

休憩ポイントでハイエースから補給をとる photo:Nobuhiro Toya

抜海を通過したのは9時52分、貯金2時間54分。稚内市街を抜けたのは11時、貯金2時間57分。遂に、宗谷岬まで残り27kmの看板が見えました。

気分はもうウィニングランですが、宗谷岬方面に左折した瞬間、押し戻されるような強烈な向かい風が出迎えてくれました。予報見返したら風速10m/s超えでした。向かい風だけではなく、いろんな方向から突風が吹いて、そのタイミングで対向車がくると予測できない煽られ方で、心臓に悪い区間でもありました。昨日まで順調過ぎたから、神様が最後の最後に過酷さを演出してくれたんじゃないか説ですが、やり過ぎです。

最果て感漂う宗谷岬へ。いよいよフィニッシュだ photo:Nobuhiro Toya

身体的な限界はとうに越えたはずですが、最後の18kmは強風に耐えながら無心に踏みました。ラストの区間、あとからデータ見返したらあの向かい風でAve.25.4km/hでした、びっくりです。残り僅かだから、体のリミッターが外れたと思います。

遠目に宗谷岬らしきものが見えて、広場に入っていって、「終わったー!!」と声出したら、奥で待っていたNobさんが、「まだだよ!石碑の前まで来て!」と誘導してくれて、何ともぐだぐだなゴールでした笑

宗谷岬の日本最北端の碑の前で。記録はグロス148時間48分(6日4時間48分) photo:Nobuhiro Toya

あとから沢山の方が宗谷岬のライブカメラでゴールする瞬間を見守ってくださったと知り、嬉しかったです。SNSにコメントをくださった皆さんも本当にありがとうございました。

宗谷岬に到着したのは11時48分。予定から3時間14分を巻いて、全行程を走破しました。
総距離2536km、獲得標高15641m。
記録は148時間48分(6日4時間48分)※睡眠休憩込みのグロス計測

ゴールの瞬間、もっといろんなものが湧き上がってくるかなと想像しましたが、九州の端っこからここまで走ってきた実感が湧かないのと、無事走り切った安堵の方が強かったのか、ただただ石碑を眺めていました。

総距離2536km、獲得標高15641mの旅が終わった安堵の笑い photo:Nobuhiro Toya

その後「やり切った!」と言ったのかな? うろ覚えです。サポートチームのみんなで集合写真を撮った時が一番はしゃいでいた気がします笑

サポートの仲間たちとも記念撮影 photo:Nobuhiro Toya

ゴール後は温泉で感覚を取り戻してから、稚内のマクドナルドを聖地巡礼して、札幌の美味しいジンギスカンを堪能しました。

長かったようで体感一瞬だった濃すぎた一週間。自分にとって本当に貴重な経験になりましたし、いろんな人を巻き込んで、沢山の方に応援されて走り抜けた日本縦断ギネス世界記録チャレンジでした。勇気を出して挑戦してよかったです。

6日目 青函フェリー函館ターミナル~留萌
走行距離 370km 獲得標高 2183m
グロス平均速度 20.3km/h
経過時間 18時間16分
走行時間 16時間10分
活動時間 5:59~24:15
睡眠休憩 2時間25分

7日目 留萌~宗谷岬
走行距離 205km 獲得標高 1100m
グロス平均速度 22.4km/h
経過時間 9時間8分
走行時間 8時間23分
活動時間 2:40~11:48


天気 晴れ→曇り→雨
気温 9~20℃
湿度 76%

着用ウェア
【ASSOS】
UMA GTV SPRING FALL JACKET C2
DYORA RS SPRINGFALL BIB SHORTS S9
ASSOSOIRES W SPRING FALL LS SKIN LAYER
GT SPRING FALL LEG WARMERS C2
DYORA RS RAIN JACKET
SEEME VEST P1
RSR THERMO RAIN SHELL GLOVES
SPRING FALL SOCKS EVO
JINGO RS HELMET


走行ログ
https://www.strava.com/activities/11506344698/



後日、ギネス認定のページの名前が切り替わり、写真はまだ掲載されていないものの、無事に記録が世界記録として認定されたことがわかりました。6月30日には報告会を開催する予定です。お近くの方でご都合つく方はお越しください。会の様子はYoutubeLIVEでも配信します。

ギネス世界記録認定ページ
https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/551680-fastest-time-…

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