自動車関連部品メーカーでトランスミッションの開発を行ってきたエンジニアが立ち上げた気鋭ブランドのクラシファイド。フロント変速のオルタナティブとして活躍する無線式内装2段変速ハブ"Powershift Hub"をピックアップして、紹介しよう。



クラシファイド Powershift hub

グラベルやシクロクロス、マウンテンバイクではフロントシングルがポピュラーな仕様として、完成車販売では殆どがそのスペックが採用されている。しかし、走る場所やライダーの脚力によってはフロントダブルが必要となるものまた事実だが、フロントディレイラーの装着が叶わないフロントシングル専用マシンも存在する。

またロードカテゴリーにおいても、ヴィクトル・カンペナールツがレースでチェーンリングを可能な限り大きくしたフロントシングルバイクを使用したのも記憶に新しい。彼は純粋にフロントシングルを選択したわけではなく、リアハブに内装変速機構を仕込んだクラシファイドのPowershiftを使用しており、実質フロントダブルで運用していた。今回の記事ではそんなクラシファイドのPowershift Hubをピックアップしよう。

コーン形状のフリーハブ内部に変速システムが組み込まれる

ロード選手のフロントシングル使用はカンペナールツだけではなく、ユンボ・ヴィスマのヨナス・ヴィンゲゴーらヒルクライマーたちも実験的に採用しており、今年はその選択に注目が集まった。

彼らがギア比の選択肢が多いフロントダブルを見送り、なぜシングルにしているのかと言うと、大きなフロントギアを使用することや、チェーンラインの適正化による駆動ロス低減、フロントディレイラー等による空気抵抗削減のマージナルゲインを得ようとしているためと考えられる。

これらのメリットに加えてクラシファイドはフロントダブルをエミュレートすることができ、より幅広いシチュエーションに対応できることが美点。しかし、内装変速は駆動ロスの面でネガティブな要素があると思われているが、発表当時にクラシファイドは目を見張る数値のアナウンスを行っている。また2023年の9月末には、その根拠となる実験内容などを記載したホワイトペーパーも公表した。

カセットスプロケットは専用品となっている

ハブ内装ギアはクラシファイドよりも前に存在していたが、その多くは多段変速仕様とされており、ディレイラーによる外装変速を置き換えるような存在まで昇華しきれていなかった。クラシファイドはリアディレイラーの代替ではなく、フロントディレイラーに替わる2段変速のシンプルな構造に設計することで、これまでの内装変速が到達できなかった駆動効率や信頼性を獲得するに至っている。

Powershift Hubは減速比0.686の遊星ギアを採用しており、1:1の直結ギア比との2段で構成されている。トッププロが求めるようなビッグギア(54〜58T)の場合はトップのギア比をそのままに、アウターチェーンリング54T×スプロケットローギア34Tの組み合わせとすれば、1.08のギア比まで落とすことが可能となる。この時仮想チェーンリングは36.7Tとなり、プロ選手たちがツールの現場で採用していたギア比を再現することができる。ツール・ド・フランスでチェックしたプロ選手のギア周りの記事はこちらから。

クラシファイド Powershift hub

もしこのギア比を再現するのであれば、シマノの場合フロントディレイラーとチェーンリングのキャパシティ外になっており、チェーン落ちリスクが内包されてしまう。プロたちはそれを承知でビッグギアを使うほど、大きなチェーンリングにメリットを感じているのだろう。そのギア比を再現しつつ、チェーン落ちのリスクから解放されるPowershift Hubはメリットが大きいものと言えよう。

内装変速システムとしてだけではなく、フロント変速システムとしての信頼性を獲得したPowershift Hub。効率面については、先述したホワイトペーパーによると、クラシファイドはハブ単体での効率を測定する機械を開発し独自のテストを行い、Powershift HubとDT Swiss 240との比較を実施したという。

スルーアクスルがリモートスイッチの受信機と変速機を動かす役割を担う

テストリグで行われた実験では1:1の場合、入力を500Wとして、走行スピードを30〜40km/hを再現した際の平均駆動効率は99.8%をマーク。これはDT Swiss 240とほぼ同等の数値となっている。そして、0.686の時は400W入力で20〜30km/hを再現すると99.2%の駆動効率を実現した。

クラシファイドはこのテストリグでの結果のみならず、チェーンリングの大きさによる駆動ロスも検討した。例えばヒルクライムで52/36Tのインナーチェーンリングを使う場合、チェーンにかかる力は45%大きくなりロスが生まれているといい、大きなチェーンのまま36Tと同等のギア比を使えるPowershift Hubは1%駆動効率が向上することが期待できるとしている。

スプリンタースイッチのようにボタンを後付けする

またホワイトペーパーではフロントディレイラーとインナーチェーンリングを取り外して得られるエアロダイナミクスのゲインは3〜6ワットだと説明。スプリントシーンではエアロのメリットに加え、最適なチェーンラインとなる12Tカセットと60Tチェーンリングの組み合わせにすることで更に1%の駆動効率を向上させるという。

これほどまで高い駆動効率を実現しているならば、走行状態でその差を感じることは難しい。実際に今回テストしてみても駆動効率が良いのか、はたまた悪いのかを実感できることはなく、いい意味で”普通に”使えてしまった。

ホイールセットとしても販売されるため、簡単に導入することができる

変速フィーリングとしては、1:1から変更する時はロックがかかっていたものを開放するように瞬時にギアが切り替わる。斜度が大きな上り坂でトルクをかけた状態でも動作は問題なく、ギア比の差によって生まれる抜け感はあるものの、チェーン落ちの心配はなくギアは常にかかり続けているため、安心してペダリングを続けることが可能だ。

対して軽い状態から1:1へと戻す時は、ギアを直結状態にする一瞬だけゴリッとギアが噛み合うことを感じる。もちろん常に発生するわけではなく、あえて力強いペダリングを行った時のみ。チェーンが落ちることがなくスムーズに変速が決まるため、ディレイラー式よりも安定感は抜群だ。

ちなみにクラシファイドの開発にはトム・ボーネンも関わっており、世界最高峰の選手によるテストにも耐えうるというから、高出力時の変速についても心配はなさそうだ。

ディスクブレーキ+スルーアクスルのバイクにはクラシファイドのコンポーネントを導入することが可能

今回のテストではアルゴン18のエンデュランスロードKRYPTON+カンパニョーロEkar 13速グラベルコンポーネントに、クラシファイド Powershift Hubを組み合わせた。チェーンリングが44Tだったため、仮想インナーリングは30T相当。いわゆるインナーローの状態(カセットは36T)にするとギア比が1を下回り、0.83の比率となる。これがあれば激坂でも怖いもの無しだったのは言うまでもない。あまりにも斜度に対応できてしまうため、エンデュランスロードながらシングルトラックの登りまでチャレンジできてしまった。

ただ、試してみてこのコンポーネントのネガティブな面も見えてしまった。特殊なハブを使用しているため、カセットスプロケットは専用品となる。Ekarの純正スプロケットであればトップ9Tが備えられており44Tでもちょうど良いギア比構成となるが、クラシファイドの純正スプロケットでは11Tがトップとなり、44Tチェーンリングのトップギアでもギア比が4.0と少し物足りない。

スムーズに変速することが可能となっている

実際のところギア比4.0は、チェーンリング52Tや50Tの場合、カセット12Tや13Tとの中間に位置しており、サイクリングペースで走るロードライドにはちょうど良い重さで、大部分では不満を感じなかった。だが下り坂や少し頑張りたい時は直ぐにペダルを回し切ってしまうため、基本的に出力高めのライダーなどはチェーンリングを大きくしても良さそうだ。

レーサーがエアロアドバンテージや駆動効率などマージナルゲインを得るためにPowershift Hubは最適な選択肢となり、ホビーサイクリストではグラベルを楽しみたい方にはうってつけだ。特に日本では舗装比率が高いため自然とスピードが乗りやすく、オフロードでは斜度が大きいため、トップ側とロー側どちらのニーズにもPowershift Hubは応えてくれる。

グラベルユースにぴったりなクラシファイドのPowershift hub

例えば48Tのチェーンリング、11-34Tのカセットスプロケットを装備すればトップのギア比は4.36で、最も軽いギア比は0.96となる。スプロケットはロードでもポピュラーな構成となっているため、クランクとチェーンリングを用意すればこの構成も実現が可能。シクロクロスバイクを夏場にグラベルバイクとして、未舗装路を楽しむためにカスタマイズしても良ささそうだ。

Powershift Hubはハブシェルと、内装変速システムを組み込んだハブ本体が別体となっている。ハブ本体はASSYとしてユーザーが中身を確認することができないが、このシェルと別体となっているおかげで、万が一ハブ本体が破損してしまっても、組み上げたリムを分解することなくASSY全てを置き換えられる。そのためサポートの状況にもよるが、代替品を見つけることも難しくなさそうだ。

ハブ本体とハブシェルは別体となっている

販売の形態としてはハブ単体とクラシファイドオリジナルのリムで組み上げたホイールセットとして行われる。基本的には好みのリムで組めるため、手組みリムを所有していればそれを活用することが可能だ。マウンテンバイク用も登場しているため、販売内容は以下の一覧をチェックしてもらいたい。



クラシファイド POWERSHIFT KIT
キット内容:ハブ本体、ハブシェル、トルクサポートアダプター、スマートスルーアクスル、ハンドルバーユニット、シフトボタン、専用カセットスプロケット
価格:237,270円(税込)

クラシファイド Power Shift hub ホイールセット
リム:フルカーボン
リムハイト/幅:30mmハイト/23mm幅、35mmハイト/19mm幅、50mmハイト/19mm幅、19mm/25mm幅
対応タイヤ:チューブレスレディ、クリンチャー
ハブ:Power Shift hub
付属品:カセットスプロケット、スマートスルーアクスル、ハンドルバーユニット、シフトボタン、専用ツール
価格:
G19(19mmハイト/25mm幅):418,000円(税込)
G30(30mmハイト/23mm幅):440,000円(税込)
R35(35mmハイト/19mm幅):440,000円(税込)
R50(50mmハイト/19mm幅):440,000円(税込)

クラシファイド 専用スプロケット
歯数構成:
11速:11-27T、11-30T、11-32T、11-34T
12速:11-28T、11-30T、11-32T、11-34T
価格:11速25,300円(税込)、12速28,600円(税込)

クラシファイド Power Shift Boost Hub(MTBホイールセット)
ホイール径:29er
リムハイト:25mm
リム内幅:30mm
重量(ハブ本体除く):1250g
対応リアエンド幅:148mm
カラー BLK
リム:カーボン
スポーク:CX-RAY ストレートプル
ニップル:ブラス(ワッシャーあり)
対応タイヤ:Tubeless ready/Hookless
セット内容:前後カーボンリム+リアCLASSIFIEDハブシェル、パワーシフトハブMTB、カセットスプロケット、スマートスルーアクスル&シフターリング、ツール
価格:429,000円(税込)

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