ジャパンカップクリテリウムに波紋を広げたマキシム・ファンヒルス(ベルギー、ロット・デスティニー)の殴打事件。事件を振り返ると共に、ファンヒルス、そしてマトリックスパワータグの安原監督双方の話をまとめた。



クリテリウムのフィニッシュシーン。この直後に騒動が起こった photo:Yuichiro Hosoda

ジャパンカップクリテリウムのフィニッシュ時に、マキシム・ファンヒルス(ベルギー、ロット・デスティニー)がゲオルギオス・バグラス(ギリシャ、マトリックスパワータグ)の頭を叩き、中継映像によって世界中に拡散した問題。位置取り争い中にバグラスがほか選手を押し、その影響を受けたファンヒルスが手を上げたことが取り沙汰されている。

10位に入ったファンヒルスに対して審判団は、「不当な行為」によって50スイスフランの罰金とUCIポイント10点の剥奪を言い渡し、チームは翌日にSNS上で謝罪文を掲載。シクロワイアード取材班は翌日曜日のレース後、それまで口を閉ざしていたファンヒルスと、マトリックスパワータグの安原監督に話を聞くことができた。

ファンヒルスは開口一番「人生最大の過ちを犯してしまった」と謝罪すると共に、「落車が怖かった。そもそも(スプリントという)危険な状況で彼(バグラス)がハンドルから手を離して押したんだ。彼は僕やチームメイトを危険に晒し、動揺してフラストレーションが溜まり過ぎてああいう行動を起こしてしまった。僕の中では冗談で自分の兄弟を叩くような軽い感じだったけれど、動画ではとても強く叩いているようだ」と説明する。

動画を見返すと、スプリント前にバグラスと右側のケヴィン・コレオーニ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)が近づき、バグラスがハンドルから離した右手でコレオーニを押し、さらにその右側にいたファンヒルスに余波が伝わった。ファンヒルスの言う「3回くらい落車しかけた」は動画上では確認できないが、マトリックスの安原監督は「バグラス自身は危険回避のためにやったと言っている」と反論する。

また、安原監督は「バグラスは"なんであんなことされるか分からない"と言っていた。あの(スプリントの)中で(身体が)当たったり、押しのけたりすることは普通にあること。あの中だったら色々なことが起こる。レースが終わった後に話せばよかったものを。バグラスも(咄嗟に)やり返そうと思ったらしいけれど、チームに迷惑をかけてしまうと我慢したらしい」とも。

JCFの競技規約集によれば、国内競技大会において、競技者間の暴力的行動は違反毎に罰金50~500スイスフランと、UCIランキングで25ポイントの剥奪が言い渡されるとある。同じく「他競技者のジャージを引っ張るなどの不穏当な行動、不適切な行為」も禁止事項として明記されているが、今回の件においてコレオーニを押したバグラスに反則裁定は下っていない。

高速で宇都宮の目抜き通りを走るプロトン photo:Kei Tsuji

セカンドディビジョンのUCIプロチームであるロット・ディステニーに対し、マトリックスパワータグはサードディビジョンのUCIコンチネンタルチーム登録。アジアの格下チームを軽視する行為とも取られるが、「仮に相手がチームメイトでも僕は同じことをした。そもそも僕らはワールドチームではないので全チームの選手に対してリスペクトの気持ちを持っている」と異を唱える。

「今回もファンサービスに努めたけれど、あの行動一つで僕とチームに対しての印象はとても悪いものになってしまった。確かに僕は気性の荒い部分がある。彼は間違ったことをして、僕もそれを間違った方法で抗議してしまった。それは今日話したジェイコとEFエデュケーション・イージーポストの選手も同意見だった。日本のファンに、そして子どもたちに対して、僕が土曜日(クリテリウム)に起こした行為については申し訳ない気持ちがある。自転車ロードレースに悪いイメージを与えてしまった。もちろん二度とあんなことはしないと約束する」。

一方、安原監督は「選手を落車させたのであれば話は違うのかもしれないが、競り合いはどこでもあること。こちらに聞こえてくる彼(ファンヒルス)の言葉は言い訳にしか聞こえない。選手たちが言う「日本人は下に見られていると感じる」は実際にあるし、実力の世界だから仕方がないにせよ、あれはダメ。今どきは全て映っているんだから」とのコメントを残している。

text:So Isobe

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