2023/07/22(土) - 09:00
2日連続で逃げ切り決着となったツール・ド・フランス第19ステージ。最終山岳直前で飛び出した3名によるスプリントで、マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)が前日勝者アスグリーンを写真判定の末に下した。
前日に引き続きツール・ド・フランス第19ステージもヴォージュ山脈に向かう移動日のようなステージ。172.8kmコースに設定されたカテゴリー山岳は4級と3級の2つのみで、特に残り30.4kmから登る3級山岳イヴォリ(距離2.3km/平均5.9%)は、速度次第ではピュアスプリンターを退けるほどの難易度だ。
イヴォリの頂上から6.3kmを下り、ポリニーのフィニッシュ地点までは平坦路。そして残り8kmからは速度を上下するコーナーやラウンドアバウトのない完全な直線路のため、集団スプリントになれば隊列を整えて踏み続けるチーム力が求められる。だが、この日も勝負の行方は逃げ集団に委ねられた。
ツールの総合優勝を5度、そして通算区間優勝の最多タイ記録を有するエディ・メルクスに見送られながら151名の選手たちがスタートを切る。すると前日に逃げ、敢闘賞に輝いたヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー)がこの日も積極的に飛び出す。一時は現役最後のツールを走るペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)が先頭に出るシーンもありながら、激しいアタック合戦が繰り広げられた。
最初の4級山岳を過ぎ、スタートから57km地点でようやくカンペナールツやジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)、マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)など9名の逃げグループが出来上がる。ビッグネーム揃いのこの集団にリーダーチームのユンボ・ヴィスマはティシュ・ベノート (ベルギー)を送り、UAEチームエミレーツはマッテオ・トレンティン(イタリア)を入れることに成功した。
早々と1分のリードを得た逃げ集団に対し、選手を乗せることができなかったイスラエル・プレミアテックとEFエデュケーション・イージーポスト、ウノエックス・プロサイクリングチームの3チームが中心となり追いかける。カテゴリーのつかない丘を順調に越えていく逃げグループではニルス・ポリッツ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)のバイクチェーンが切れるトラブルが発生。スペアバイクのあるチームカーがなかなか到着しなかったポリッツは逃げから遅れ、更にプロトンへの復帰にも力を使わなければならなかった。
一方のプロトンではヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)の5勝目を狙うべく、マチュー・ファンデルプール(オランダ)らが抜け出し、追走集団を形成する。これにユンボ・ヴィスマやUAEチームエミレーツら総合勢を擁するチームが反応せず、スプリンターのディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ジェイコ・アルウラー)はフィリプセンたちの集団に食らいついた。
フィリプセンを含む追走が先頭の8名に追いつき、大きくなった逃げ集団の一瞬緩んだ隙をついてカンペナールツがアタックする。その動きにサイモン・クラーク(オーストラリア、イスラエル・プレミアテック)が反応し、一時は55秒差を稼ぎ出すことに成功。しかし残り33km地点でクラークが右脚の痙攣によって遅れ、単独となったカンペナールツをめがけて追走集団からカスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)が飛び出した。
最終3級山岳イヴォリ(距離2.3km/平均5.9%)の直前で仕掛けた前日勝者にはマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)とベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)が追従。そして登坂に入りカンペナールツを抜き去った3名がレース先頭に立った。
一方の追走集団ではスプリンターであるヨルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ)が登りで遅れ、これがツールデビューとなった23歳のコービン・ストロング(ニュージーランド、イスラエル・プレミアテック)が落車。ストロングは再スタートを切ったものの追走集団から脱落した。
先頭から8分30秒後方を走る総合首位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)のメイン集団がスローペースで距離を消化するなか、アスグリーンとモホリッチ、オコーナーの3名は後続とのタイム差を拡げていく。フィリプセンとファンデルプールが入った9名の追走集団にはクリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)やピーダスンなどスピードに長けた選手に加え、トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)もローテーションに加わり追いかけた。
だが全員がツール区間優勝の経験を持つ3名のペースは強力で、残り10kmで28秒差、残り5kmでも32秒差と、縮まらないどころか僅かにリードを拡大させる。そしてラウンドアバウトやコーナーの一切ない平坦路に入った3名に、この日の勝負は絞られた。
フラムルージュ(残り1km地点)を過ぎ、先んじてオコーナーがスプリントを開始する。しかしクライマーであるオコーナーのスピードは伸びず、モホリッチを背後につけたままアスグリーンが抜き去る。そしてラスト50mでモホリッチがアスグリーンに並び、両者が同時にフィニッシュラインめがけてハンドルを投げた。
今大会最速タイムかつ、ツール史上5番目となる平均時速49.1kmの高速バトル。そして写真判定の結果、勝利を告げられたモホリッチは喜びとともに涙を流した。
区間2勝を挙げた2021年に続く、3度目の勝利を飾ったモホリッチ。「この勝利が意味するものは大きい。なぜならプロ選手というものは厳しく、時に残酷で、ここまでの準備は多くの苦しみを伴ったから。また自分の人生や家族を犠牲にし、たどり着くのがツール・ド・フランスなんだ。そして出場してみて他の選手たちの強さに愕然とする。最後はアスグリーンに食らいつき、自分やジーノ(メーダー)、チームのために踏み込んだ。正直ズルいやり方ではあったが、勝った瞬間は喜びなど様々な思いが頭を駆け巡った」とモホリッチは、涙ながらに勝利を振り返った。
39秒遅れでやってきた追走集団はピーダスンを退けたフィリプセンが先着して4位でフィニッシュ。フィリプセンにとっては2連続でスプリントを逃す悔しい結果となったものの、40ポイントを加算してパリでのマイヨヴェール獲得に向けてまた一歩前進した。
またヴィンゲゴーや総合2位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)らのいるプロトンは13分43秒遅れでレースを終えた。そのため総合順位に動きはなく、ヴィンゲゴーがポガチャルに対し7分35秒のリードを得たまま翌日の今大会最後となる山岳ステージに臨む。
前日に引き続きツール・ド・フランス第19ステージもヴォージュ山脈に向かう移動日のようなステージ。172.8kmコースに設定されたカテゴリー山岳は4級と3級の2つのみで、特に残り30.4kmから登る3級山岳イヴォリ(距離2.3km/平均5.9%)は、速度次第ではピュアスプリンターを退けるほどの難易度だ。
イヴォリの頂上から6.3kmを下り、ポリニーのフィニッシュ地点までは平坦路。そして残り8kmからは速度を上下するコーナーやラウンドアバウトのない完全な直線路のため、集団スプリントになれば隊列を整えて踏み続けるチーム力が求められる。だが、この日も勝負の行方は逃げ集団に委ねられた。
ツールの総合優勝を5度、そして通算区間優勝の最多タイ記録を有するエディ・メルクスに見送られながら151名の選手たちがスタートを切る。すると前日に逃げ、敢闘賞に輝いたヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー)がこの日も積極的に飛び出す。一時は現役最後のツールを走るペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)が先頭に出るシーンもありながら、激しいアタック合戦が繰り広げられた。
最初の4級山岳を過ぎ、スタートから57km地点でようやくカンペナールツやジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)、マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)など9名の逃げグループが出来上がる。ビッグネーム揃いのこの集団にリーダーチームのユンボ・ヴィスマはティシュ・ベノート (ベルギー)を送り、UAEチームエミレーツはマッテオ・トレンティン(イタリア)を入れることに成功した。
早々と1分のリードを得た逃げ集団に対し、選手を乗せることができなかったイスラエル・プレミアテックとEFエデュケーション・イージーポスト、ウノエックス・プロサイクリングチームの3チームが中心となり追いかける。カテゴリーのつかない丘を順調に越えていく逃げグループではニルス・ポリッツ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)のバイクチェーンが切れるトラブルが発生。スペアバイクのあるチームカーがなかなか到着しなかったポリッツは逃げから遅れ、更にプロトンへの復帰にも力を使わなければならなかった。
一方のプロトンではヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)の5勝目を狙うべく、マチュー・ファンデルプール(オランダ)らが抜け出し、追走集団を形成する。これにユンボ・ヴィスマやUAEチームエミレーツら総合勢を擁するチームが反応せず、スプリンターのディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ジェイコ・アルウラー)はフィリプセンたちの集団に食らいついた。
フィリプセンを含む追走が先頭の8名に追いつき、大きくなった逃げ集団の一瞬緩んだ隙をついてカンペナールツがアタックする。その動きにサイモン・クラーク(オーストラリア、イスラエル・プレミアテック)が反応し、一時は55秒差を稼ぎ出すことに成功。しかし残り33km地点でクラークが右脚の痙攣によって遅れ、単独となったカンペナールツをめがけて追走集団からカスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)が飛び出した。
最終3級山岳イヴォリ(距離2.3km/平均5.9%)の直前で仕掛けた前日勝者にはマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)とベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)が追従。そして登坂に入りカンペナールツを抜き去った3名がレース先頭に立った。
一方の追走集団ではスプリンターであるヨルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ)が登りで遅れ、これがツールデビューとなった23歳のコービン・ストロング(ニュージーランド、イスラエル・プレミアテック)が落車。ストロングは再スタートを切ったものの追走集団から脱落した。
先頭から8分30秒後方を走る総合首位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)のメイン集団がスローペースで距離を消化するなか、アスグリーンとモホリッチ、オコーナーの3名は後続とのタイム差を拡げていく。フィリプセンとファンデルプールが入った9名の追走集団にはクリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)やピーダスンなどスピードに長けた選手に加え、トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)もローテーションに加わり追いかけた。
だが全員がツール区間優勝の経験を持つ3名のペースは強力で、残り10kmで28秒差、残り5kmでも32秒差と、縮まらないどころか僅かにリードを拡大させる。そしてラウンドアバウトやコーナーの一切ない平坦路に入った3名に、この日の勝負は絞られた。
フラムルージュ(残り1km地点)を過ぎ、先んじてオコーナーがスプリントを開始する。しかしクライマーであるオコーナーのスピードは伸びず、モホリッチを背後につけたままアスグリーンが抜き去る。そしてラスト50mでモホリッチがアスグリーンに並び、両者が同時にフィニッシュラインめがけてハンドルを投げた。
今大会最速タイムかつ、ツール史上5番目となる平均時速49.1kmの高速バトル。そして写真判定の結果、勝利を告げられたモホリッチは喜びとともに涙を流した。
区間2勝を挙げた2021年に続く、3度目の勝利を飾ったモホリッチ。「この勝利が意味するものは大きい。なぜならプロ選手というものは厳しく、時に残酷で、ここまでの準備は多くの苦しみを伴ったから。また自分の人生や家族を犠牲にし、たどり着くのがツール・ド・フランスなんだ。そして出場してみて他の選手たちの強さに愕然とする。最後はアスグリーンに食らいつき、自分やジーノ(メーダー)、チームのために踏み込んだ。正直ズルいやり方ではあったが、勝った瞬間は喜びなど様々な思いが頭を駆け巡った」とモホリッチは、涙ながらに勝利を振り返った。
39秒遅れでやってきた追走集団はピーダスンを退けたフィリプセンが先着して4位でフィニッシュ。フィリプセンにとっては2連続でスプリントを逃す悔しい結果となったものの、40ポイントを加算してパリでのマイヨヴェール獲得に向けてまた一歩前進した。
またヴィンゲゴーや総合2位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)らのいるプロトンは13分43秒遅れでレースを終えた。そのため総合順位に動きはなく、ヴィンゲゴーがポガチャルに対し7分35秒のリードを得たまま翌日の今大会最後となる山岳ステージに臨む。
ツール・ド・フランス2023第19ステージ
1位 | マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) | 3:31:02 |
2位 | カスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ) | |
3位 | ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン) | +0:04 |
4位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | +0:39 |
5位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | |
6位 | クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ) | |
7位 | ルカ・メズゲッツ(スロベニア、ジェイコ・アルウラー) | |
8位 | アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト) | |
9位 | マッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ) | |
10位 | トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | |
37位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | +13:43 |
42位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | |
43位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 75:49:24 |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +7:35 |
3位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | +10:45 |
4位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +12:01 |
5位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | +12:19 |
6位 | ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +12:50 |
7位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | +13:50 |
8位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | +16:11 |
9位 | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) | +16:49 |
10位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | +17:57 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | 377pts |
2位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | 238pts |
3位 | ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) | 188pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) | 88pts |
2位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | 82pts |
3位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 81pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 75:56:59 |
2位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +4:26 |
3位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | +8:36 |
チーム総合成績
1位 | ユンボ・ヴィスマ | 227:54:45 |
2位 | UAEチームエミレーツ | +27:15 |
3位 | バーレーン・ヴィクトリアス | +30:09 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.
photo:CorVos, A.S.O.
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