2023/07/21(金) - 08:30
集団スプリントが濃厚だったツール第18ステージは逃げ切りで決着。迫りくるプロトンを振り切った3名の争いをカスパー・アスグリーン(デンマーク)が制し、スーダル・クイックステップに今大会初の区間優勝をもたらした。
2日に及んだ劇的なマイヨジョーヌ争いは一休み。この日は最終山岳決戦の地ヴォージュ山脈に向けた移動日のかつ、ここまでの山岳に耐えたスプリンターに久々の出番が巡ってきた。
ロズ峠の麓ムティエを出発した選手一向は、第13ステージで登ったグラン・コロンビエールの近くなど山岳を迂回しながらブールカン・ブレスの街を目指す。コース中盤に2つの4級山岳を越えるものの難易度は低いため、逃げ集団には不利なレイアウトと思われていた。
既報通りワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が第二子の出産に立ち会うべくレースを棄権したこの日は、アントニー・ペレス(フランス、コフィディス)も一身上の都合によりレースを去る。そのため152名となった選手たちが走り出し、正式スタートと同時にカスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)が飛び出した。
エーススプリンターであるファビオ・ヤコブセン(オランダ)のいないアスグリーンには、同じくカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・デスティニー)が去ったヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)が追従。そこにヨナス・アブラハムセン(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム)も入り、一縷の望みに賭けた3名による逃げグループが形成された。
一気に1分30秒のリードを許したメイン集団はジェイコ・アルウラーやマイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)のヤスペル・フィリプセン(ベルギー)を擁するアルペシン・ドゥクーニンクらスプリンターチームが牽引。すると前日の山岳ステージをタイムカットのギリギリで完走したシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス)がレース途中でバイクを降りる。ゲシュケはレース後に「胃腸炎のため食事がとれず、脚が完全に空っぽだった」とレース後にSNSに投稿している。
これにより今大会15年振りの区間優勝を挙げたコフィディスは、第17ステージでリタイアしたアレクシー・ルナール(フランス)を含め3名を失うこととなった。
1つ目の4級山岳(残り122.8km地点)をアブラハムセンがトップで通過し、続く4級(残り79.7km)も先頭で頂上を越える。その1分後方を走るプロトンからは2つ目の4級山岳を利用して、カンタン・パシェ(フランス、グルパマFDJ)やフレッド・ライト(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス)、マイヨアポワ(山岳賞ジャージ)を着たジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)ら5名がアタック。遅れて前オランダ王者パスカル・エインコールン(ロット・デスティニー)が飛び出したものの、すぐさま反応したフィリプセンが言葉をかけて説得するように引き戻した。
しかしパシェら追走集団を吸収し、落ち着きを取り戻したプロトンの隙をついてエインコールンが再び加速。それに今度はフィリプセンも反応することなく、エインコールンは約30秒先にいるカンペナールツら逃げグループに合流した。
新たな逃げメンバーを加え4名になった逃げグループは、そのリードを再び1分まで拡大する。残り52km地点の中間スプリントもアブラハムセンがトップ通過し、後方ではマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)のアシストを受けたフィリプセンがプロトン先頭で11ptsを加算。ランキング2位のマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が争わなかったため、フィリプセンはマイヨヴェールのリード拡大に成功している。
残り50kmでプロトンと逃げのタイム差は1分。ボーラ・ハンスグローエやリドル・トレックも集団牽引に選手を送り、また強い向かい風が逃げの4名を襲ったことでその差は残り30kmで45秒まで縮まる。しかしこれが今大会5度目の逃げとなるアスグリーンや4度目となるカンペナールツが巧みなペーシングを披露し、カテゴリーのつかない丘(残り17km地点)でそのリードを35秒差に保った。
そしてフィニッシュ地点の待つブールカン・ブレスの街が近づき、残り10kmを切ってその差は22秒。スプリントに向けて緊張感が高まるプロトンではマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)が牽引し、残り5km(この時点で10秒差)からはニルス・ポリッツ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)が先頭へ。
救済措置が適用される残り3km地点を通過し、8秒まで縮まった差に先頭の4名はローテーションを回しながら懸命に踏み続ける。先頭4名の姿を捉えたメイン集団ではアスタナ・カザフスタンが追走に加わったものの思うようにその差は縮まらず、逃げとプロトンという構図のままフラムルージュ(残り1km地点)を通過。するとここからカンペナールツがエインコールンのために先頭固定でスピードを引き上げた。
カンペナールツによるペースアップの甲斐もあり、メイン集団の追走は届かない。そして三つ巴となったスプリントをアスグリーンが制し、エーススプリンターを欠いたチームに今大会初となる勝利をもたらした。
ツールでは過去に2度(2019、21年)勝利に迫りながらも2位が続き辛酸を嘗めていたアスグリーン。念願の初勝利を掴んだアスグリーンは「理想的な逃げの人数ではなかったものの、厳しいステージを越えたレースでは小さい集団でも逃げ切りが可能だということを知っていた。最後はチームタイムトライアルのようだった。パスカルとヴィクトル、ヨナスという3人の素晴らしい走りがなければこの勝利は不可能だった。全員に勝利が相応しいが、勝つことができて嬉しいよ」と喜びを語った。
「昨年のツールは落車により途中で棄権していたから喜びもひとしお。この勝利は今回が最後のツールとなるチームメイトのドリース・デヴェナインスに捧げたい」とアスグリーンは、そう勝利者インタビューを締めくくった。
この日の敢闘賞にはアシストに徹したカンペナールツが輝き、久々のスプリント機会を逃したプロトンではフィリプセンがピーダスンを退けて先着。この結果ステージ4位のフィリプセンは18ポイントを加算し、パリでのマイヨヴェール獲得を大きく引き寄せた。
2日に及んだ劇的なマイヨジョーヌ争いは一休み。この日は最終山岳決戦の地ヴォージュ山脈に向けた移動日のかつ、ここまでの山岳に耐えたスプリンターに久々の出番が巡ってきた。
ロズ峠の麓ムティエを出発した選手一向は、第13ステージで登ったグラン・コロンビエールの近くなど山岳を迂回しながらブールカン・ブレスの街を目指す。コース中盤に2つの4級山岳を越えるものの難易度は低いため、逃げ集団には不利なレイアウトと思われていた。
既報通りワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が第二子の出産に立ち会うべくレースを棄権したこの日は、アントニー・ペレス(フランス、コフィディス)も一身上の都合によりレースを去る。そのため152名となった選手たちが走り出し、正式スタートと同時にカスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)が飛び出した。
エーススプリンターであるファビオ・ヤコブセン(オランダ)のいないアスグリーンには、同じくカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・デスティニー)が去ったヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)が追従。そこにヨナス・アブラハムセン(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム)も入り、一縷の望みに賭けた3名による逃げグループが形成された。
一気に1分30秒のリードを許したメイン集団はジェイコ・アルウラーやマイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)のヤスペル・フィリプセン(ベルギー)を擁するアルペシン・ドゥクーニンクらスプリンターチームが牽引。すると前日の山岳ステージをタイムカットのギリギリで完走したシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス)がレース途中でバイクを降りる。ゲシュケはレース後に「胃腸炎のため食事がとれず、脚が完全に空っぽだった」とレース後にSNSに投稿している。
これにより今大会15年振りの区間優勝を挙げたコフィディスは、第17ステージでリタイアしたアレクシー・ルナール(フランス)を含め3名を失うこととなった。
1つ目の4級山岳(残り122.8km地点)をアブラハムセンがトップで通過し、続く4級(残り79.7km)も先頭で頂上を越える。その1分後方を走るプロトンからは2つ目の4級山岳を利用して、カンタン・パシェ(フランス、グルパマFDJ)やフレッド・ライト(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス)、マイヨアポワ(山岳賞ジャージ)を着たジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)ら5名がアタック。遅れて前オランダ王者パスカル・エインコールン(ロット・デスティニー)が飛び出したものの、すぐさま反応したフィリプセンが言葉をかけて説得するように引き戻した。
しかしパシェら追走集団を吸収し、落ち着きを取り戻したプロトンの隙をついてエインコールンが再び加速。それに今度はフィリプセンも反応することなく、エインコールンは約30秒先にいるカンペナールツら逃げグループに合流した。
新たな逃げメンバーを加え4名になった逃げグループは、そのリードを再び1分まで拡大する。残り52km地点の中間スプリントもアブラハムセンがトップ通過し、後方ではマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)のアシストを受けたフィリプセンがプロトン先頭で11ptsを加算。ランキング2位のマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が争わなかったため、フィリプセンはマイヨヴェールのリード拡大に成功している。
残り50kmでプロトンと逃げのタイム差は1分。ボーラ・ハンスグローエやリドル・トレックも集団牽引に選手を送り、また強い向かい風が逃げの4名を襲ったことでその差は残り30kmで45秒まで縮まる。しかしこれが今大会5度目の逃げとなるアスグリーンや4度目となるカンペナールツが巧みなペーシングを披露し、カテゴリーのつかない丘(残り17km地点)でそのリードを35秒差に保った。
そしてフィニッシュ地点の待つブールカン・ブレスの街が近づき、残り10kmを切ってその差は22秒。スプリントに向けて緊張感が高まるプロトンではマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)が牽引し、残り5km(この時点で10秒差)からはニルス・ポリッツ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)が先頭へ。
救済措置が適用される残り3km地点を通過し、8秒まで縮まった差に先頭の4名はローテーションを回しながら懸命に踏み続ける。先頭4名の姿を捉えたメイン集団ではアスタナ・カザフスタンが追走に加わったものの思うようにその差は縮まらず、逃げとプロトンという構図のままフラムルージュ(残り1km地点)を通過。するとここからカンペナールツがエインコールンのために先頭固定でスピードを引き上げた。
カンペナールツによるペースアップの甲斐もあり、メイン集団の追走は届かない。そして三つ巴となったスプリントをアスグリーンが制し、エーススプリンターを欠いたチームに今大会初となる勝利をもたらした。
ツールでは過去に2度(2019、21年)勝利に迫りながらも2位が続き辛酸を嘗めていたアスグリーン。念願の初勝利を掴んだアスグリーンは「理想的な逃げの人数ではなかったものの、厳しいステージを越えたレースでは小さい集団でも逃げ切りが可能だということを知っていた。最後はチームタイムトライアルのようだった。パスカルとヴィクトル、ヨナスという3人の素晴らしい走りがなければこの勝利は不可能だった。全員に勝利が相応しいが、勝つことができて嬉しいよ」と喜びを語った。
「昨年のツールは落車により途中で棄権していたから喜びもひとしお。この勝利は今回が最後のツールとなるチームメイトのドリース・デヴェナインスに捧げたい」とアスグリーンは、そう勝利者インタビューを締めくくった。
この日の敢闘賞にはアシストに徹したカンペナールツが輝き、久々のスプリント機会を逃したプロトンではフィリプセンがピーダスンを退けて先着。この結果ステージ4位のフィリプセンは18ポイントを加算し、パリでのマイヨヴェール獲得を大きく引き寄せた。
ツール・ド・フランス2023第18ステージ
1位 | カスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ) | 4:06:48 |
2位 | パスカル・エインコールン(オランダ、ロット・デスティニー) | |
3位 | ヨナス・アブラハムセン(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム) | |
4位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | |
5位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | |
6位 | ケース・ボル(オランダ、アスタナ・カザフスタン) | |
7位 | ヨルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ) | |
8位 | マッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ) | |
9位 | クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ) | |
10位 | ルーカ・モッツァート(イタリア、アルケア・サムシック) | |
16位 | ヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー) | |
26位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | |
28位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | |
43位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 72:04:39 |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +7:35 |
3位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | +10:45 |
4位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +12:01 |
5位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | +12:19 |
6位 | ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +12:50 |
7位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | +13:50 |
8位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | +16:11 |
9位 | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) | +16:49 |
10位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | +17:57 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | 352pts |
2位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | 202pts |
3位 | ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) | 188pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) | 88pts |
2位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | 82pts |
3位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 81pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 72:12:14 |
2位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +4:26 |
3位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | +8:36 |
チーム総合成績
1位 | ユンボ・ヴィスマ | 217:05:34 |
2位 | UAEチームエミレーツ | +15:15 |
3位 | イネオス・グレナディアーズ | +20:56 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.
photo:CorVos, A.S.O.
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