ジロ・デ・イタリア第1週目を締めくくる35kmの個人タイムトライアルで、レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が区間勝目をマーク。総合首位に返り咲いたものの、COVID-19陽性が発覚したためレースを去っている。



濡れた路面の上を走るレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

ジロ・デ・イタリア2023第9ステージ コースプロフィール image:RCS Sport
アドリア海からティレニア海に到達したジロは、再びアペニン山脈を越えてアドリア海に戻ってくる。第1週目を締めくくるのはサヴィニャーノ・スル・ルビコーネからチェゼーナまでを駆ける、大会2度目の個人タイムトライアル。35kmのコースはド平坦かつ、チェゼーナの市街地まではコーナーも少ないため、純粋なパワー勝負となる。

レースが行われた5月14日(日)の天候は相変わらずの雨。水滴が視界を遮り、水溜りがコーナーの難易度を上げたコースに、COVID-19陽性のため7日目でレースを去った元TT世界王者フィリッポ・ガンナ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)や落車の影響で未出走となったダヴィデ・チモライ(イタリア、コフィディス)を除く163名が次々とスタートを切った。

トップタイムが慌ただしく更新される前半スタート組のなか、42番手スタートのマイケル・ヘップバーン(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)が時速49kmを上回る快走を披露。42分47秒という好タイムに対し、長距離のTTは不得意とするマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)や、今年が現役ラストイヤーである元TT世界王者ローハン・デニス(オーストラリア、ユンボ・ヴィスマ)も及ばない。

前半に出走した選手の中で好タイムを出したマイケル・ヘップバーン(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) photo:CorVos
区間73位(3分55秒遅れ)と健闘した新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos


1時間近くホットシートに座り続けたシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) photo:CorVos

ヘップバーンがマークした42分47秒という好タイムをベテランのバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)が14秒更新する。そして123番目スタートのブルーノ・アルミライル(フランス、グルパマFDJ)が50kmを超える平均速度で3つの計測ポイント(13km、23.1km、29km地点)でトップタイムを連発。41分32秒で暫定トップに立ったものの、アルミライルの直後に出走したチームメイトのシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)がそれを4秒上回った。

そしていよいよ総合上位の選手たちがスタート。意外にもこれまでグランツールでの勝利がないキュングの41分28秒というタイムには、テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)やアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、ボーラ・ハンスグローエ)が平均50km以上のハイスピードで迫ったものの、更新するには至らない。

ホットシートに1時間近く座ったキュングが見守るなか、総合6位のテイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が3つの計測ポイントの全てのタイムを更新。その3分後に飛び出したゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が、さらにゲイガンハートを上回るスピードで35kmコースを駆け抜けた。

区間3位に入ったテイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

ゲイガンハートの中間計測タイムを次々と上回っていったゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

区間9位だったジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
トップから17秒遅れでフィニッシュしたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos


初日の個人TTでも区間4位と、下馬評以上の結果を残したゲイガンハートは41分26秒でフィニッシュ。キュングが悲痛な顔でホットシートを離れるなか、その3分後にトーマスが1秒上回る41分25秒ですぐさま暫定トップを奪い取る。直後に走り終えたジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)は41分59秒、東京五輪の金メダリストであるプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)も尻上がりにスピードを上げながら41分41秒と、まずまずのタイムでまとめた。

そして大会初日を制し、最後から2番目にスタートしたレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が圧巻の走りを見せた。エヴェネプールは最初の計測ポイント(13km地点)を平均53kmに迫るハイスピードで通過。「序盤を飛ばしすぎてしまった」とレース後に語ったように後半こそスピードが落ちたものの、前半に稼いだアドバンテージを使いながらトーマスのタイムを1秒更新。ホットシートに座りながら着替えるトーマスの視線の先で、エヴェネプールが第1週目を締めくくる第9ステージの勝者に輝いた。

「ペース配分を失敗してしまった。そのせいでコース後半の走りは酷く、体調も万全ではなく向かい風も吹いていた。だがチェゼーナ市街地のテクニカルな区間で脚を休めることができ、最高のタイムトライアルではない中でも勝利を飾ることができた」と区間2勝目を挙げながらも、笑顔のないエヴェネプールは語った。

後半に失速したものの、41分24秒のトップタイムを叩き出したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

マリアローザを失ったアンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM) photo:CorVos
ホットシートで頭を抱えるゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:RCS Sport


最終出走者であるアンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM)がトップから1分15秒遅れ(区間19位)でフィニッシュしたため、エヴェネプールはマリアローザ奪還に成功。総合2位のトーマスに45秒、3位のログリッチに47秒のリードについて「それだけのタイム差で第2週目の山岳ステージに臨むことができるのは良いことだ。そこでイネオスは攻勢に出る作戦を持っているだろうが、いまはこの勝利を祝福し、この後しっかり休息を取りたい」と語った。

しかし既報の通り、エヴェネプールは新型コロナウイルス感染症の検査で陽性反応が検出された。無念のリタイアとなったエヴェネプールは、レース後のインタビューにて「みんな僕の鼻詰まりの音が聞こえているかもしれないね。風邪を引かないように気をつけなければならない」と語っていた。

また、EFエデュケーション・イージーポストも区間31位でフィニッシュしたリゴベルト・ウラン(コロンビア)から陽性反応が検出されたことを発表。前述したガンナらを含め、これで計6名が新型コロナによりレースを去っている。

そのためマリアローザは、「勝利を逃したことは残念だが、第2週目以降に向けて良いTTとなった」と語ったトーマスが引き継ぐことに。レースは翌日の大会最初の休息日を経て、スカンディアーノからティレニア海を目指す平坦ステージで第2週目がスタートする。

マリアローザ奪還に成功したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

レース後に新型コロナの陽性反応が出たレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:RCS Sport


ジロ・デ・イタリア2023第9ステージ結果
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) 41:24
2位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:01
3位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:02
4位 シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) +0:04
5位 ブルーノ・アルミライル(フランス、グルパマFDJ) +0:08
6位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) +0:17
7位 テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) +0:24
8位 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、ボーラ・ハンスグローエ) +0:30
9位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +0:35
10位 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) +0:42
11位 ジェイ・ヴァイン(オーストラリア、UAEチームエミレーツ) +0:50
12位 レナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) +0:51
19位 アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM) +1:15
73位 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) +3:55
マリアローザ 個人総合成績
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) 34:33:42
2位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:45
3位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) +0:47
4位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:50
5位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +1:07
6位 アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM)
7位 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、ボーラ・ハンスグローエ) +1:48
8位 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) +2:13
9位 レナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) +2:37
10位 パヴェル・シヴァコフ(フランス、イネオス・グレナディアーズ) +3:00
マリアチクラミーノ ポイント賞
1位 ジョナサン・ミラン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) 113pts
2位 カーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) 100pts
3位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) 89pts
マリアアッズーラ 山岳賞
1位 ダヴィデ・バイス(イタリア、エオーロ・コメタ) 86pts
2位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) 50pts
3位 カレル・ヴァチェク(チェコ、チーム・コラテック) 36pts
マリアビアンカ ヤングライダー賞
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ), 34:33:42
2位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +1:07
3位 アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM)
チーム総合成績
1位 イネオス・グレナディアーズ 103:43:30
2位 バーレーン・ヴィクトリアス +6:19
3位 EFエデュケーション・イージーポスト +7:08
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos

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