2023/03/10(金) - 18:05
ニュージーランドのバイクブランド、CHAPTER2の7作目となるグラベルレーシングバイク「KAHA」がリリースされた。スピードに主眼を置いた新世代グラベルバイクは、快速オールロードバイクと形容できる魅力的な一台に仕上がっていた。プレゼンテーションとグラベルで試乗したインプレッションをお届けする。
スモールブランドながら意欲作を世に問い続けるCHAPTER2。かつてニールプライドのバイクセクションを統括したマイク・プライド氏が「第2章」として自身の理想のバイクを追求するために立ち上げたブランドは、日本国内でも着実にファンを増やしている。
2023年の最新作は、これまでブランドのポートフォリオに抜けていたグラベルレーシングバイク。CHAPTER2には2019年発表のAOがすでにユーティリティ・グラベルバイクとしてラインナップされ、ブランド内でも人気モデルの座を獲得しているが、より高いパフォーマンスとスピードを追い求めた「KAHA(カハ)」が新たに加わった。
その背景にはアンバウンド・グラベルに代表されるハイスピードなグラベルレースの世界的な進展がある。スムーズなグラベルを高速で集団走行するこの種のレースでは、低重心で安定性の高いバイクよりも、エアロロードのような効率性と反応性を備えたバイクが要求される。
KAHAはそのニーズを満たしつつ、CHAPTER2らしさを同時に備えたバイクだった。詳細に立ち入る前に、オンラインで行われたマイク・プライド氏によるプレゼンテーションから、このバイクの設計思想とディティールに触れてみよう。
ブランドの顔AOとの違いに注目
まず氏から語られたのは、ブランドの拠点であるニュージーランドには素晴らしいグラベル環境が広がっているということだった。そして、グラベルのマーケットが近年はパフォーマンス寄りに変化してきていることも。
「アンバウンドグラベルやベルジャン・ワッフルライド、UCI世界選手権のようなグラベルレースでバイクにはスピードが求められるようになってきました。急速に発展しつつあるグラベルの、レーシングマシンというマーケットに注目したのです。」
グラベルバイクというジャンルはロードバイク以上に範疇の広い楽しみ方・スタイルを包含している。例えば荷物を満載したキャンプツーリングのためのバイクから、MTBさながらのオフロードバイク、あるいは軽快さに振ったレースバイクまで。それがゆえに、登場時には各ブランドがその定義に難儀した節がある。
CHAPTER2が2019年に発表したAOは、グラベルバイクの範疇の広さをそのまま表現したバイクだった。ダボやフェンダーマウントなどの幅広い拡張性をもたせつつ、軽快な走りを突き詰めファンライドとレースでの使用を両立させた。フリップチップを用いた可変式のチェーンステーによるところも大きいが、2019年時点での正しいグラベルバイクのあり方だったと言える。
それだけマルチパーパスなAOを誇りながら、CHAPTER2は今回ハイパフォーマンスバイクとして新たにKAHAをラインナップする。必然的に両車の違いに注目が集まる。
「KAHAの開発のスタート地点はジオメトリーからでした。AOはアップライトですが、KAHAは遠く長いレースジオメトリーを採っています。」
その言葉通り、KAHAではいずれのサイズでもAOと比較してリーチは長く、スタックは低く設定されている。フォークのオフセット量が大きく取られているが、これはサスペンションフォークをインストールした際の違和感の少なさにも寄与するという。
ベストセラーとなったAOは、今後もし要望が多ければコストパフォーマンスに優れるグラベルへのエントリーモデルとして販売サポートを継続するかもしれないとのことだ。
タイヤクリアランス、ドロッパー対応
基本性能と拡張性を底上げしたレースバイク
KAHAのディティールを見ていこう。まず注目は、フロント50mm・リア47mmと太いタイヤクリアランスが設定されたこと。AOが前後42mmだったことを考えるとその拡がりは際立つ。
フレーム素材は100%日本製の東レT700とT800カーボンのコンビネーション。フレーム重量はMサイズで1099g、フォークで409gとAOよりも151gの軽量化に成功しているという。
AOではBSAだったBBにはT47を採用し、剛性を重視している。これはレースバイクとしての正統なチョイスだろう。シートポストは27.2mm径となり、ドロッパーシートポストも使用が可能だ。
付属するMANAグラベルバーはステム一体型の新作ハンドル。12°のフレアで未舗装路での安定感を増し、海外グラベルレースで多く使用されるクリップオンバーの装着スペースが確保されるなど、拡張性も抜かり無い。サイズはステム部80〜130 mm、ハンドル幅469 〜525mmの6つの組み合わせから選択することができる。ケーブルフル内装を実現しエアロダイナミクスにも優れる。
KAHAの特徴のもうひとつに、ストレージの豊富さが挙げられるだろう。見た目にも多くのアイレット=ダボ穴を配しており、フェンダーやボトル、バイクバッグの装着幅の広さを感じさせるが、ダウンチューブのストレージボックスにはCO2ボンベやミニツール、ポンプやチューブまで収納可能。常時必要なエマージェンシーキットの携帯に便利で、荷物の多くなるロングライドでも活躍するだろう。
インプレッション
一台しかバイクを持てないならマルチなKAHAを選ぶ(小俣雄風太)
試乗車はLサイズ。タイヤはフロントにピレリ・チントゥラートグラベル45C、リアにコンチネンタル・テラトレイル40Cというセッティング。ちなみにこのカラーはプロトタイプだ。
走り始めからその軽快さに驚く。重量級のグラベルタイヤを履かせているにも関わらず、ゼロ発進からの加速が軽い。ダンシングでバイクを振るとフレーム重量の軽さを感じるが、絶対重量では軽量ロードよりももちろん重い。全体のバランスの良さがこの軽快感につながっているのだろう。
オンロードでの走行感はロードバイクのそれと言ってよいが、クセのない乗り味で極めてニュートラル。グラベルバイクと聞いてイメージするようなどっしりとした安定感よりは、軽快に走れる反応性の良さが印象に残る。
荒れたアスファルト路面でも嫌な突き上げがなく、振動吸収性の高さが感じられる。一見してマッシブで硬そうな印象のあるMANAグラベルバーも振動をマイルドにしている。この時点で、上質なロードバイクとしてかなり好印象。
グラベルに入ってもその印象は変わらない。上り坂でのトラクションコントロールもしやすく、またクイックなターンなどもスパッと決まる。バイクの軽さとジオメトリーの恩恵か、スムーズなグラベルでは滑らかに走っていける。日本では多くなりがちなトレイル色の強いオフロードでは、段差でフロントを浮かせる場面が多くなるが、軽量ゆえにそれもしやすいのも嬉しいところ。
アンバウンドグラベルのような長いグラベルの下りや、時速35-40kmレンジでのグラベル巡航走行をロケーション的に試せていないので直接評価は下せないが、オンロード上の走行性能を鑑みるとそういった場面を想定したチューンとなっていることは間違いないだろう。
さて、グラベルレースバイクを謳うKAHAに、なぜこれほどまでダボ穴やボトルマウントがあてがわれ、ダウンチューブにはストレージボックスをビルトインしているのか。レース専用であれば、キャリアもフェンダーマウントも不要だろうし、悠長にストレージボックスを開けているタイミングもないだろう。レースバイクたるもの、極力無駄は控えるべきだ。
カラーリングを含めたスタイリングもCHAPTER2の魅力であるから、レースバイクにここまでアドオンがあるのは機能美の観点から違和感すらある。しかし、このバイクの走りを知るとそれも納得できた。
軽快な走行性能が心地よく、グラベル、オンロードを問わず距離を走りたくなるこのバイクをレースユースに限定するのは勿体ない。ブランドとしても、レースバイクとして割り切った作りにすることはできたはずだが、サイクリストの良き相棒となるこのバイクの素性ゆえにユーティリティの幅をもたせたということだろう。
そこにはニュージーランドのグラベルを愛するマイク・プライド氏のライドスタイルや哲学も投影されているのだろう。日本にハイスピードなグラベルレースがほとんどないことを考えると、むしろこれは我々にとっても魅力的なアドオンだと言える。
もしバイクを一台しか持てないのならば、KAHAは最有力のチョイスだ。ロードバイク譲りのオンロード走行性能、太いタイヤを飲み込むクリアランス、超ロングライドまで視野に入る拡張性。一台で何でもできるバイクは、どれも中途半端になりがちだが、KAHAはそのどれもを高いレベルで「ライドを楽しめる」レベルで整えている。
普段は28-30Cのタイヤでロードライドを楽しみつつ、グラベルライドのお誘いがあれば42Cタイヤを履いて顔を出す。季節が良くなればバイクパッキングでのキャンプライドも。そんな様々な用途が思い浮かぶ。ただこのバイクを持ってさえいれば、ニセコグラベルへの遠征や、アンバウンドグラベルへの出場だって現実のものになる。このバイクに乗ったことで、私はストラーデ・ビアンケの市民ライドイベントを走りに行きたいと切に思ったのだった。
レスポンスにもユーティリティにも優れるオールロードバイクの決定版(綾野真)
AOを愛車として、アンバウンドグラベルにも出場した筆者にとっては期待の新モデル。AOとの比較もしつつ、プレゼンの前日にマイキーが企画したGYPSY グラベルフォンドで小田原のグラベルをKAHAで走った。ガレた林道を含む距離75km、獲得標高2300mUPのハードなテストライドになった。
まずはAOとはライディングポジションの違いを感じる。流行のグラベルジオメトリーの流れを汲むKAHAはリーチが長く、スタックが低いアグレッシブなもの。AOならXSとSの両方のサイズに乗れる筆者だが、KAHAの場合はハンドルが遠いためXS一択となる。つまり前傾がキツめのレース向きジオメトリーということ。
トップチューブ長がAOの26mm増しだが、専用ハンドルMANA GRVLバーのリーチが短いこと、シートポストが0セットバックのものであるため無理はなかったが、それでもややハンドルが遠くなるためサイズ選びはAOよりシビアにはなる。よりパワーを活かせるレーシーなポジションだ。
ポジションの違いもあってか走りの小気味良さが光る。とくに上りが軽く、ダンシングしての上りはレスポンシブなロードバイクそのもの。151gの軽量化以上に軽く登るのが印象的だ。そしてハンドリングも軽く、レーンチェンジも自在。AOが安定性ならKAHAは反応性、高レスポンスに振った味付けだ。
ガレた下りを下っても操作が楽しく、ギャップを避けたり乗り越えたりする身のこなしが軽い。路面の振動もよく吸収してくれて、AOより細くて高圧なタイヤをセットしたKAHAのほうが乗り心地が良いとも感じた。とくにフォークの性能が高く、柔軟でありつつ剛性も高いことが感じられる。これはストレートブレード状でありながら細身で丸められた断面形状にもあるのかもしれない。
乗り心地の良さに寄与しているのがMANA GRVLバーだ。とくに上ハンドルが丸断面形状で、振動を吸収してくれるように素直にしなってくれる。かつ、フレアしたドロップ部を握れば荒れた路面のダウンヒルの際にかなり安定して操作もしやすく、とても気に入った。ケーブルもフル内装となるため、ルックスはすっきりとし、バッグやサイコン、ライト類の取り付けにもメリットが大きい。ユニークなのはブレーキレバー取付部はフレアしない垂直の設計で、ブラケットを持った際の自然さを重視しているようだ。
ロードもオフロードも走りの良さに感心してしまった。現在の愛車のAOと比べて、ライドクォリティーやユーティリティ、キャパシティすべての面でAOの性能を上回っていると感じた。とくに走りの良さにこだわる人ならKAHAを選ばない理由はない。
アイレット=ダボ穴がこれでもかというぐらい多いのは無駄だと感じる人がいるかも知れないが、欧米で盛んなウルトラディスタンスレースなどバッグ類やアクセサリーをフルに取り付けてのレースに対応したもので、キャンプグッズ搭載を狙ったものではないだろうが、そんな用途も十分カバーしているから、ツーリングバイクとして考えるのもいいだろう(速く走るのはもちろんOKだ)。なおダボ穴のボルト(合計21本)で使用しないものは取り外して穴をシール等で塞いで軽量化したい。
KAHAは走りが良く、グラベルレース、ロードツーリング、ウルトラディスタンスレース、オン&オフすべての用途に対応しているキャラクターだと感じた。そのうえハンドリングや操作性も軽いため、シクロクロスレースにも対応できる稀な存在のグラベルバイクだろう。
私が日本のホームルートのグラベルでKAHAに乗るなら、ドロッパーポストを使用し、太さ45C以上の太めのタイヤ、あるいは荒れたグラベルやトレイルに行くならサスペンションフォークに差し替えて使いたい。オンロードタイヤをセットしてバイクパッキングスタイルでロングツーリングに行くのもいいだろう。その場合はダボの多いFフォークが役に立つ。
もしアンバウンドグラベルなどのレースを走るなら、42C程度のタイヤにクリップオンバーを使いたい。もしもXLクラス(512km)に出場するにもバッグ、ストレージ、ライトなどを取り付ける高ユーティリティ性ではこれ以上のバイクはない。そこまでの用途も「グラベルレース」には含まれるのだ。こうして考えると、オン&オフすべて、どんなライドだってこなせてしまうKAHAの高いキャパシティに大きな魅力を感じる。
CHAPTER2 KAHAフレームセット
カーボン素材:100% Made in Japan by Toray
サイズ:XS, S, M, L,XL
フレーム重量:1099 (Mサイズ)
フォーク重量:409g
MANAグラベルバー重量:330g(100x491mm)
BB:T47
タイヤクリアランス:47mm (700c) & 47mm (650B)
フレーム+MANAグラベルバーセット価格: ¥475,000(税別)
フレームのみ ¥409,000 (税別)
MANAグラベルバー:単体価格 :¥66,000(税別)
※およそ10%の輸入税がかかります。
text: Yufta Omata & Makoto AYANO
photo: Makoto AYANO
インプレッションライダーのプロフィール
小俣雄風太(サイクルジャーナリスト)
GCNサイクルロードレースの実況解説やJCLレースあるいは各地のシクロクロスレースなどのMCもこなすマルチ型サイクルジャーナリスト。フランス留学経験を持ちカルチャーにこだわったレース報道が持ち味。メールニュースとポッドキャスト配信を中心としたメディア「Arenberg(アランべール)」を主宰。2021年からは男女ツール・ド・フランス&ファムの取材を行い、現地からコンテンツを発信する。
Arenberg(アランべール)
綾野 真(シクロワイアード編集部)
ロード、マウンテンバイク、シクロクロス、グラベル、ツーリングと多くのジャンルのサイクリングスポーツを趣味でも楽しむCW編集長。現在は山岳系ロングライドに傾倒し、グラベルとバイクパッキングを融合させたライドの計画に余念がない。チャプター2代表マイク・プライド氏とはニールプライド時代からの友人で、タイのステージレース「ツアー・オブ・フレンドシップ」を一緒に走った仲。過去すべてのバイクのインプレを担当し、チャプター2 AOで2022アンバウンドグラベル100マイルを完走した。
スモールブランドながら意欲作を世に問い続けるCHAPTER2。かつてニールプライドのバイクセクションを統括したマイク・プライド氏が「第2章」として自身の理想のバイクを追求するために立ち上げたブランドは、日本国内でも着実にファンを増やしている。
2023年の最新作は、これまでブランドのポートフォリオに抜けていたグラベルレーシングバイク。CHAPTER2には2019年発表のAOがすでにユーティリティ・グラベルバイクとしてラインナップされ、ブランド内でも人気モデルの座を獲得しているが、より高いパフォーマンスとスピードを追い求めた「KAHA(カハ)」が新たに加わった。
その背景にはアンバウンド・グラベルに代表されるハイスピードなグラベルレースの世界的な進展がある。スムーズなグラベルを高速で集団走行するこの種のレースでは、低重心で安定性の高いバイクよりも、エアロロードのような効率性と反応性を備えたバイクが要求される。
KAHAはそのニーズを満たしつつ、CHAPTER2らしさを同時に備えたバイクだった。詳細に立ち入る前に、オンラインで行われたマイク・プライド氏によるプレゼンテーションから、このバイクの設計思想とディティールに触れてみよう。
ブランドの顔AOとの違いに注目
まず氏から語られたのは、ブランドの拠点であるニュージーランドには素晴らしいグラベル環境が広がっているということだった。そして、グラベルのマーケットが近年はパフォーマンス寄りに変化してきていることも。
「アンバウンドグラベルやベルジャン・ワッフルライド、UCI世界選手権のようなグラベルレースでバイクにはスピードが求められるようになってきました。急速に発展しつつあるグラベルの、レーシングマシンというマーケットに注目したのです。」
グラベルバイクというジャンルはロードバイク以上に範疇の広い楽しみ方・スタイルを包含している。例えば荷物を満載したキャンプツーリングのためのバイクから、MTBさながらのオフロードバイク、あるいは軽快さに振ったレースバイクまで。それがゆえに、登場時には各ブランドがその定義に難儀した節がある。
CHAPTER2が2019年に発表したAOは、グラベルバイクの範疇の広さをそのまま表現したバイクだった。ダボやフェンダーマウントなどの幅広い拡張性をもたせつつ、軽快な走りを突き詰めファンライドとレースでの使用を両立させた。フリップチップを用いた可変式のチェーンステーによるところも大きいが、2019年時点での正しいグラベルバイクのあり方だったと言える。
それだけマルチパーパスなAOを誇りながら、CHAPTER2は今回ハイパフォーマンスバイクとして新たにKAHAをラインナップする。必然的に両車の違いに注目が集まる。
「KAHAの開発のスタート地点はジオメトリーからでした。AOはアップライトですが、KAHAは遠く長いレースジオメトリーを採っています。」
その言葉通り、KAHAではいずれのサイズでもAOと比較してリーチは長く、スタックは低く設定されている。フォークのオフセット量が大きく取られているが、これはサスペンションフォークをインストールした際の違和感の少なさにも寄与するという。
ベストセラーとなったAOは、今後もし要望が多ければコストパフォーマンスに優れるグラベルへのエントリーモデルとして販売サポートを継続するかもしれないとのことだ。
タイヤクリアランス、ドロッパー対応
基本性能と拡張性を底上げしたレースバイク
KAHAのディティールを見ていこう。まず注目は、フロント50mm・リア47mmと太いタイヤクリアランスが設定されたこと。AOが前後42mmだったことを考えるとその拡がりは際立つ。
フレーム素材は100%日本製の東レT700とT800カーボンのコンビネーション。フレーム重量はMサイズで1099g、フォークで409gとAOよりも151gの軽量化に成功しているという。
AOではBSAだったBBにはT47を採用し、剛性を重視している。これはレースバイクとしての正統なチョイスだろう。シートポストは27.2mm径となり、ドロッパーシートポストも使用が可能だ。
付属するMANAグラベルバーはステム一体型の新作ハンドル。12°のフレアで未舗装路での安定感を増し、海外グラベルレースで多く使用されるクリップオンバーの装着スペースが確保されるなど、拡張性も抜かり無い。サイズはステム部80〜130 mm、ハンドル幅469 〜525mmの6つの組み合わせから選択することができる。ケーブルフル内装を実現しエアロダイナミクスにも優れる。
KAHAの特徴のもうひとつに、ストレージの豊富さが挙げられるだろう。見た目にも多くのアイレット=ダボ穴を配しており、フェンダーやボトル、バイクバッグの装着幅の広さを感じさせるが、ダウンチューブのストレージボックスにはCO2ボンベやミニツール、ポンプやチューブまで収納可能。常時必要なエマージェンシーキットの携帯に便利で、荷物の多くなるロングライドでも活躍するだろう。
インプレッション
一台しかバイクを持てないならマルチなKAHAを選ぶ(小俣雄風太)
試乗車はLサイズ。タイヤはフロントにピレリ・チントゥラートグラベル45C、リアにコンチネンタル・テラトレイル40Cというセッティング。ちなみにこのカラーはプロトタイプだ。
走り始めからその軽快さに驚く。重量級のグラベルタイヤを履かせているにも関わらず、ゼロ発進からの加速が軽い。ダンシングでバイクを振るとフレーム重量の軽さを感じるが、絶対重量では軽量ロードよりももちろん重い。全体のバランスの良さがこの軽快感につながっているのだろう。
オンロードでの走行感はロードバイクのそれと言ってよいが、クセのない乗り味で極めてニュートラル。グラベルバイクと聞いてイメージするようなどっしりとした安定感よりは、軽快に走れる反応性の良さが印象に残る。
荒れたアスファルト路面でも嫌な突き上げがなく、振動吸収性の高さが感じられる。一見してマッシブで硬そうな印象のあるMANAグラベルバーも振動をマイルドにしている。この時点で、上質なロードバイクとしてかなり好印象。
グラベルに入ってもその印象は変わらない。上り坂でのトラクションコントロールもしやすく、またクイックなターンなどもスパッと決まる。バイクの軽さとジオメトリーの恩恵か、スムーズなグラベルでは滑らかに走っていける。日本では多くなりがちなトレイル色の強いオフロードでは、段差でフロントを浮かせる場面が多くなるが、軽量ゆえにそれもしやすいのも嬉しいところ。
アンバウンドグラベルのような長いグラベルの下りや、時速35-40kmレンジでのグラベル巡航走行をロケーション的に試せていないので直接評価は下せないが、オンロード上の走行性能を鑑みるとそういった場面を想定したチューンとなっていることは間違いないだろう。
さて、グラベルレースバイクを謳うKAHAに、なぜこれほどまでダボ穴やボトルマウントがあてがわれ、ダウンチューブにはストレージボックスをビルトインしているのか。レース専用であれば、キャリアもフェンダーマウントも不要だろうし、悠長にストレージボックスを開けているタイミングもないだろう。レースバイクたるもの、極力無駄は控えるべきだ。
カラーリングを含めたスタイリングもCHAPTER2の魅力であるから、レースバイクにここまでアドオンがあるのは機能美の観点から違和感すらある。しかし、このバイクの走りを知るとそれも納得できた。
軽快な走行性能が心地よく、グラベル、オンロードを問わず距離を走りたくなるこのバイクをレースユースに限定するのは勿体ない。ブランドとしても、レースバイクとして割り切った作りにすることはできたはずだが、サイクリストの良き相棒となるこのバイクの素性ゆえにユーティリティの幅をもたせたということだろう。
そこにはニュージーランドのグラベルを愛するマイク・プライド氏のライドスタイルや哲学も投影されているのだろう。日本にハイスピードなグラベルレースがほとんどないことを考えると、むしろこれは我々にとっても魅力的なアドオンだと言える。
もしバイクを一台しか持てないのならば、KAHAは最有力のチョイスだ。ロードバイク譲りのオンロード走行性能、太いタイヤを飲み込むクリアランス、超ロングライドまで視野に入る拡張性。一台で何でもできるバイクは、どれも中途半端になりがちだが、KAHAはそのどれもを高いレベルで「ライドを楽しめる」レベルで整えている。
普段は28-30Cのタイヤでロードライドを楽しみつつ、グラベルライドのお誘いがあれば42Cタイヤを履いて顔を出す。季節が良くなればバイクパッキングでのキャンプライドも。そんな様々な用途が思い浮かぶ。ただこのバイクを持ってさえいれば、ニセコグラベルへの遠征や、アンバウンドグラベルへの出場だって現実のものになる。このバイクに乗ったことで、私はストラーデ・ビアンケの市民ライドイベントを走りに行きたいと切に思ったのだった。
レスポンスにもユーティリティにも優れるオールロードバイクの決定版(綾野真)
AOを愛車として、アンバウンドグラベルにも出場した筆者にとっては期待の新モデル。AOとの比較もしつつ、プレゼンの前日にマイキーが企画したGYPSY グラベルフォンドで小田原のグラベルをKAHAで走った。ガレた林道を含む距離75km、獲得標高2300mUPのハードなテストライドになった。
まずはAOとはライディングポジションの違いを感じる。流行のグラベルジオメトリーの流れを汲むKAHAはリーチが長く、スタックが低いアグレッシブなもの。AOならXSとSの両方のサイズに乗れる筆者だが、KAHAの場合はハンドルが遠いためXS一択となる。つまり前傾がキツめのレース向きジオメトリーということ。
トップチューブ長がAOの26mm増しだが、専用ハンドルMANA GRVLバーのリーチが短いこと、シートポストが0セットバックのものであるため無理はなかったが、それでもややハンドルが遠くなるためサイズ選びはAOよりシビアにはなる。よりパワーを活かせるレーシーなポジションだ。
ポジションの違いもあってか走りの小気味良さが光る。とくに上りが軽く、ダンシングしての上りはレスポンシブなロードバイクそのもの。151gの軽量化以上に軽く登るのが印象的だ。そしてハンドリングも軽く、レーンチェンジも自在。AOが安定性ならKAHAは反応性、高レスポンスに振った味付けだ。
ガレた下りを下っても操作が楽しく、ギャップを避けたり乗り越えたりする身のこなしが軽い。路面の振動もよく吸収してくれて、AOより細くて高圧なタイヤをセットしたKAHAのほうが乗り心地が良いとも感じた。とくにフォークの性能が高く、柔軟でありつつ剛性も高いことが感じられる。これはストレートブレード状でありながら細身で丸められた断面形状にもあるのかもしれない。
乗り心地の良さに寄与しているのがMANA GRVLバーだ。とくに上ハンドルが丸断面形状で、振動を吸収してくれるように素直にしなってくれる。かつ、フレアしたドロップ部を握れば荒れた路面のダウンヒルの際にかなり安定して操作もしやすく、とても気に入った。ケーブルもフル内装となるため、ルックスはすっきりとし、バッグやサイコン、ライト類の取り付けにもメリットが大きい。ユニークなのはブレーキレバー取付部はフレアしない垂直の設計で、ブラケットを持った際の自然さを重視しているようだ。
ロードもオフロードも走りの良さに感心してしまった。現在の愛車のAOと比べて、ライドクォリティーやユーティリティ、キャパシティすべての面でAOの性能を上回っていると感じた。とくに走りの良さにこだわる人ならKAHAを選ばない理由はない。
アイレット=ダボ穴がこれでもかというぐらい多いのは無駄だと感じる人がいるかも知れないが、欧米で盛んなウルトラディスタンスレースなどバッグ類やアクセサリーをフルに取り付けてのレースに対応したもので、キャンプグッズ搭載を狙ったものではないだろうが、そんな用途も十分カバーしているから、ツーリングバイクとして考えるのもいいだろう(速く走るのはもちろんOKだ)。なおダボ穴のボルト(合計21本)で使用しないものは取り外して穴をシール等で塞いで軽量化したい。
KAHAは走りが良く、グラベルレース、ロードツーリング、ウルトラディスタンスレース、オン&オフすべての用途に対応しているキャラクターだと感じた。そのうえハンドリングや操作性も軽いため、シクロクロスレースにも対応できる稀な存在のグラベルバイクだろう。
私が日本のホームルートのグラベルでKAHAに乗るなら、ドロッパーポストを使用し、太さ45C以上の太めのタイヤ、あるいは荒れたグラベルやトレイルに行くならサスペンションフォークに差し替えて使いたい。オンロードタイヤをセットしてバイクパッキングスタイルでロングツーリングに行くのもいいだろう。その場合はダボの多いFフォークが役に立つ。
もしアンバウンドグラベルなどのレースを走るなら、42C程度のタイヤにクリップオンバーを使いたい。もしもXLクラス(512km)に出場するにもバッグ、ストレージ、ライトなどを取り付ける高ユーティリティ性ではこれ以上のバイクはない。そこまでの用途も「グラベルレース」には含まれるのだ。こうして考えると、オン&オフすべて、どんなライドだってこなせてしまうKAHAの高いキャパシティに大きな魅力を感じる。
CHAPTER2 KAHAフレームセット
カーボン素材:100% Made in Japan by Toray
サイズ:XS, S, M, L,XL
フレーム重量:1099 (Mサイズ)
フォーク重量:409g
MANAグラベルバー重量:330g(100x491mm)
BB:T47
タイヤクリアランス:47mm (700c) & 47mm (650B)
フレーム+MANAグラベルバーセット価格: ¥475,000(税別)
フレームのみ ¥409,000 (税別)
MANAグラベルバー:単体価格 :¥66,000(税別)
※およそ10%の輸入税がかかります。
text: Yufta Omata & Makoto AYANO
photo: Makoto AYANO
インプレッションライダーのプロフィール
小俣雄風太(サイクルジャーナリスト)
GCNサイクルロードレースの実況解説やJCLレースあるいは各地のシクロクロスレースなどのMCもこなすマルチ型サイクルジャーナリスト。フランス留学経験を持ちカルチャーにこだわったレース報道が持ち味。メールニュースとポッドキャスト配信を中心としたメディア「Arenberg(アランべール)」を主宰。2021年からは男女ツール・ド・フランス&ファムの取材を行い、現地からコンテンツを発信する。
Arenberg(アランべール)
綾野 真(シクロワイアード編集部)
ロード、マウンテンバイク、シクロクロス、グラベル、ツーリングと多くのジャンルのサイクリングスポーツを趣味でも楽しむCW編集長。現在は山岳系ロングライドに傾倒し、グラベルとバイクパッキングを融合させたライドの計画に余念がない。チャプター2代表マイク・プライド氏とはニールプライド時代からの友人で、タイのステージレース「ツアー・オブ・フレンドシップ」を一緒に走った仲。過去すべてのバイクのインプレを担当し、チャプター2 AOで2022アンバウンドグラベル100マイルを完走した。
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