2022/12/17(土) - 12:10
シクリズムジャポン代表の浅田顕氏による次世代ロードレーサー輩出プロジェクト「ロード・トゥ・ラヴニール(略称:RTA)」の記者発表会が12月15日(木)、目黒の自転車総合ビルにて行われた。会場では浅田顕氏が1時間にわたりプロジェクトについて解説。ここで、その模様と詳細を紐解いていく。
RTAの主要な柱は「3つのルールと7つのアクション」だ。これを日本ロードレース界の選手育成・強化モデルとして標準化し、将来的に日本のプロチーム結成へ、と言うのが当プロジェクトの骨子となる。
始まりにあたり、浅田氏は日本ロードレース界の置かれている現状を「2009年7月に日本発の二人のプロロードレーサーがシャンゼリゼにゴールして以来13年もの間、その二人に続く選手が出てこない」と憂い、「日本にもプロはたくさんいます。リーグ所属のプロがたくさんいますし、自称プロもいる。しかしここで言うプロは、上2つのカテゴリーを指します。”ワールドチーム”と”プロチーム”。現状を見ながら何をしていくべきか、ここに属する選手をいかに輩出していくべきか、と考えた結果が、この”ロード・トゥ・ラヴニール”です」と前置きした。
プロジェクト名の由来と、ツール・ド・ラヴニールについて
プレゼンテーション冒頭では、まずプロジェクト名の由来が語られた。「ロード」はロードレースと、ロードマップの意。「ラヴニール」はフランス語で「未来」。フランス語では未来を示す単語が2つあって、何があるかわからない遠い未来を示す「futur(フュチュール)」の他、「将来」と言う意味合いに近く、「より現実的な我々が目指せる未来」と言う意味で「l'avenir(ラヴニール)」があり、こちらを選んだと言う。
「また、U23の頂点として「ツール・ド・ラヴニール」と言うレースが存在します。これは「ネイションズカップ」と言う国別のU23版ワールドカップ的なレースがある中の頂点・決勝戦であり、ツール・ド・フランスのU23版とも呼ばれます。違いは国別であることで、日本も1983年から出場している伝統あるレースです」
「ここで活躍すればプロになれる」と浅田氏は言う。「世界選や他のネイションズカップなどもあるが、最も高い評価を受けているのがこのレース。各国を代表するU23の選手たちがここをめがけてやってくる。言わばロードレースの世界版甲子園。
日本では甲子園で成績を残し、スカウトの目に留まればプロ野球に行ける。ロードレースならラヴニールで成績を残すとプロ選手になれる。アンダー23に限らず、プロと育成の間に位置づけられているレースの代表格として、ラヴニールの名を拝借させてもらった。」
浅田氏は「最近はワールドチームの選手も出られるようなり、これは少し行き過ぎている感もある」と警鐘を鳴らしつつ、「約半数もの選手が、プロ契約を済ませて出場しているのが現状」と解説した。日本人選手達が、今後もここで厳しい戦いを強いられるのは間違いなさそうだ。
「日本のロード界では、どうやってプロになれるかの道筋が示されていない」――3つのルールと7つのアクションで未来を作る
RTAの実施にあたり、浅田氏は重要規則を3つ挙げた。
・世界標準のパスウェイ
・7つの活動の専門化と連鎖化
・正しい評価でステップアップ
世界標準のパスウェイとして示されたRTA[1]〜[7]の活動は、一見日本にいるだけでも出来るように見えるが、現実は違うと言う。「プロ契約のために評価されるレースは、ほぼ100%ヨーロッパ。プロ入りする選手の9割はU23からで、他の1割は遅咲きか、MTBなど他競技のスペシャリスト。2022年ツールや世界選手権のトップ10の90%はジュニアから国際レースを経験しており、そのジュニアの国際大会の95%はヨーロッパで開催されている」
即ち、現状でプロ入りを果たすにはU23以下の育成世代からヨーロッパへ行き、経験を積む他ないと言うことだ。「7つの活動1つずつは、それぞれ特別なことではない。これまでも我々が取り組んできた事だが、深くない部分がたくさんあるので、もう一度しっかり掘り起こしていきたい」とも。
これらの活動それぞれを専門化し、各分野のエキスパートを配しながら継続的に連携・連鎖化することで、育成過程の選手を各段階で「正しく」評価し、最終的に選手のプロ入りまでサポートが行うのが、プロジェクトの根幹だ。
「トップスポーツはなんでもそうですが、正しい評価でないと上には行けない。だが、たまにそうでなくても行けてしまう事がある。しかし、それで力が発揮できるかと言えば、予選を勝ち上がってきた百戦錬磨の選手には絶対敵わない。実力に従った評価。これが基本です」
ネイションズカップの同じランクでも評価の違うレースがあり、その上位のレースで入賞している選手は確実にプロになっていると言う。
「実力の上に欧州で必要とされるのは、環境順応力やコミュニケーション能力。選手には「ヨーロッパの会社に入って働くくらいのコミュニケーションが取れなければ、チームでも役に立たないよ」と指導しています。国内では(日本語が通じるため)なんとなく聞いてる選手でも、実際に行くとわかってもらえている。この力がある人は現地で得る物、情報量が違うので、ここも含めて周囲からの目で正しく評価する必要があります」
それでは、具体的にその7つの活動とはどのようなものになっていくのか。浅田氏が当日語った言葉と資料の内容とを照合しながら、読んでいただきたい。
RTA[1] パスウェイのPR
「このプロジェクト、実は1年遅れてしまっています。そういった意味でも、まずは賛同いただける方を急いで増やしていきたい」
集まった報道陣に、浅田氏から「プロになるにはこうやって進むべきなんだよ、と言うのが重要で、これをメディアの皆さんからもぜひ伝えていっていただきたい」と呼びかけがあり、「特に日本選手はヨーロッパに住んでいないので、日本からどうやって本場にアプローチして評価をされていくかが重要な課題。日本独自のものをしっかり作って、アピールしていきたい」と言葉に力をこめた。
RTA[2] タレント発掘
浅田:我々もトライアウトは毎年1-2回ずつ、20回以上は実施しました。ただ、来るメンバーの大半は、自転車をすでにやっている選手。レースのリザルトを見たら、どれほどか大体わかります。結局今トライアウトをやっても、常に自転車競技をやっていて、またさらに上を目指したいと言う気持ちのある選手しか来ないんです。その少ない対象だけに実施しても埒が明かないと強く感じているため、トライアウトは最近実施していません。
今は情報がたくさんありレースも見られるようになっているが、本当に(心に)火が点いた子どもや選手はそれほど多くない。RTA[1]と[2]をうまく連携させて、自転車(業界)の中のトライアウトだけでなく、スポーツ界全体のタレント発掘の事業にも協力してもらいながらやっていく必要があると考えている。
国内でのタレント発掘事業は各地で行われている。盛んなのは福岡県。すでに10人ほどオリンピック出場選手が誕生しており、自転車でもそこに参加している選手もいる。もちろん他県でもやっているので、各都道府県の自転車連盟の皆さんにもご協力いただきながら、多くの方にこのプロジェクトに賛同していただきたいと思っています。
何より、タレント発掘をした後で一番問題になるのは、選手の受け入れ先。そこをしっかり準備しておかねばならない。各地のクラブチーム独自でタレント発掘をやってもらえるように話をしていきます。
RTA[3] ユースキャンプ
浅田:トレーニングキャンプをしっかりやっていきます。春夏2回は開催したい。「別にみんな個別に練習してるから(いらない)」と言うことではなくて、ここで集まってもらって、自分のロードマップを変えてほしいと思っています。「僕がプロになるにはどういう活動をして、どういう生活をしていったらいいのか」標準(のパスウェイ)があって、そこに自分をどうあてはめて進んでいくか、毎回考えてほしいのです。
合宿や海外遠征をやると、その時はみんな熱くなり、海外で活躍しようと大志を抱く。しかし、帰りに成田(空港)へ着いたら日本食のことで頭がいっぱいで、家に帰ったらそのことを忘れてしまっているんじゃないか?というくらいの冷め方が見られます。
ですので、日本にいたとしても、ただ集めて走るだけではなく、本場では、欧州ではこうやっていると、話の中で伝えていきたい。特に重要なのは自分達で考えてもらうこと。自分のロードマップを現実的に考えてもらいたい。
もう一つ重要なのは、U17やジュニアなどでの育成レース、本場の国の同じ年齢層のレースを体験してほしいということ。体力的にはまだの段階だが、技術、メンタル、その後の環境順応を考えると、U17くらいからしっかり見ていく必要があります。今チームユーラシアで橋川健監督がやっていることですが、今後一般的になっていかないといけません。そうでないと、いきなりネイションズカップに出て、面食らって無理ですと帰ってしまいかねない。これでは非常にもったいない。
そして、ここにも専門の担当者を置きたい。片手間ではこれまでと一緒なので。才能を発掘した後、次にどう繋げていくかと言う人が必要です。
RTA[4]タイムトライアル定期テスト
「日本人のタイムトライアル(TT)能力は非常に低い」とした上で、浅田氏は続けた。
浅田:これは顕著で、アジアの中でも簡単に勝てません。器用な選手はたくさんいて、集団走行や展開は上手でも、(独走能力を試される)TTで「いってらっしゃい」となると勝てない。
ロードだと国内でブッチギリで勝って、翌週欧州へ行ったら最初に千切れた、なんて事も起きる。比較が難しい。しかしTTに関しては、(独走競技ゆえ)国内での評価が可能。なので絶対に強化していく必要があります。
ただ新規にTTレース一つ作るのは大変ですので、まず既存のレースでTTをやっているところに声をかけていて、現在6大会くらいはやっても良いと言って頂いています。そこで走力のデータ化をし、分析、選手へのフィードバック、次の目標の設定までを出来るようにしたい。
RTA[5] 欧州レース参戦
浅田:ロードレースの本場はヨーロッパにしかありません。グローバリゼーションで、世界各地で今いろいろな取組がある。しかし、特に育成カテゴリーでの評価はヨーロッパへ行くしかない。ここで成績を残すことが重要。ヨーロッパに行って走る必要があります。
RTA[1]〜[4]を経て、走力や適正を見極めた上で、適切な(実力)の選手が本番で力を伸ばせるように。どこの所属かは関係なく、適切であれば、どんどん受け入れていける形を作る。
ただ、国内にUCIチームはたくさんあるが、UCI登録してしまうと、選手にせっかく実力があるのに欧州へ行ってもUCIレースしか走れない事になってしまう。本当に走らせたい(実力に見合ったアマチュア)レースを走れない。だから、こういう活動に参加できるように、U23で1-2年目の選手はUCI登録をしないよう毎年チームへお願いをしている。
これには各チームの人数等の事情があるので、難しい面があることも理解している。日本は若い選手のコンチネンタル登録がどんどん増えているのですが、肩書的にはプロとなってしまうため、ここはちょっと苦労すると思います。
そして本当に重要なのは、ジュニアの2年目での頑張り。高校3年の夏くらいになると、進路が現実的な問題になってくるので、そこも受け入れる体制をしっかり作っていきます。
RTA[6] 代表チームサポート
浅田氏自らが代表チームを率いた経験も踏まえ、「世界選手権やツール・ド・ラヴニールを含む年齢別のネイションズカップ等に参加する日本代表チームへ、より優秀な選手の輩出をし、その活動へ全面協力します」と、今後も変わらぬ協力体制を約束した。
RTA[7] プロ契約サポート
「実力の伴ってきた選手に対しては、しっかりサポートする。本来ならプロチームからアプローチしてくれれば良いのだが、色々な事情があるので、ここは我々がしっかりサポートしていきます」と浅田氏。
「2028年頃にはこのパスウェイが標準化されていることを望んでいる。パスウェイが確立できれば、ウォーミングアップやトレーニング等で自転車やワットバイクを使っているような、他競技からトランジット(転向)してくる選手が増えてくることも考えられる。最近ではスキー・ジャンプから来た(プリモシュ・)ログリッチなどもその例にあたりますね」と期待を込めた口調で締めくくった。
RTAが見込むスケジュールやその後の展望については、下図を参照いただきたい。
今回のプレゼンテーションで印象的だったことの1つは、RTA開始から2028年までのプロジェクト運営予算が明示されたことだ。「賛同者、協力者、協賛、選手など、全ての募集はこれから」と述べられており、本格スタートは23年4月に設定、予算として6900万円が示された。ただし無理せず集まったお金で進める上、「行くのは選手。選手に準備が出来ているかどうかが重要」と、あくまでも選手目線での強化・育成を進める方針だ。
翌24年からは8500万円/年とされているが、25年以降にチームを結成する場合は、ここにUCIコンチネンタルのチーム運営費がかかると言う。現在はコンチネンタルチームでも欧州ツアーで活躍する選手には結構な予算を割いており、フランスだとFFC(Fédération Française de Cyclisme=フランス自転車競技連盟)の規則上、100万ユーロ(約1億5000万円)の総予算がないと登録すらさせてもらえないとのことだ。年間通した欧州レースでの転戦を主軸に据えるとなれば、RTAが設立するチームにも同程度の予算が必要となる可能性がある。
協賛社や個人から受け取る資金は、協賛金ではなく「強化支援金」と言う呼び方を用いている。「選手の強化って何もお返しが出来ないんですね。お金をそのために使うので、宣伝することが出来ない。強化に支援してください、とお願いする他ありません」と、ここでも再び支援を呼びかけた。
最後に「エキップアサダとしてのレース活動はどうなるのか」との問いには、「もちろん今後も継続して参ります。引き続きEQADS(またはエキップアサダ)として、“RTA[5]=欧州レース参戦”の部分の重要な役割を担い、所属選手に限定しない形で可能性のあるジュニア、U23選手へフランスを中心とする質の高い欧州でのレース活動機会の提供を行います。また地域からのユース選手の発掘と育成についても引き続き「埼玉ユース自転車競技部」を通じてRTA[2]およびRTA[3]の活動に取り組んで参ります」との答えが返された。
「誰でも欧州に行けばいいってもんじゃありません。やることはこれまでと変わらないが、もっと広く大きくやっていく。状況に応じて別法人設立も検討しています」と浅田氏。やるべき事は多岐に渡るが、プロジェクトの本質は「偽りなく強い選手を育て、上へと引き上げる。その手助けをする」と言うことに尽きるのではないか。
前述の通り、このプロジェクトはすでに1年遅れのスタートだと言う。発表会を見終えた筆者の肌感覚として、こういった全国的で低年齢層にまでわたる強化計画は、本来ナショナルプロジェクトとして予算を組み、動かすべきもののようにも見えた。ロードレースのみならず、国内選手やそれを代表するナショナルチームの総合的な強化は、あらゆる競技団体が目指すべき最大の目標だからだ。
競技の顔たる選手の強化と活躍なくして、国際舞台における日本の地位向上などないはずだ。すでに浅田氏は日本ナショナルチームの監督職を退く事を表明した上で、代表チームへの協力継続も約束しているが、対する国内統括団体であるJCF(日本自転車競技連盟)が、今後どう呼応していくのかも注目したいところだ。
text: Yuichiro Hosoda
Photo: Makoto Ayano, Yuichiro Hosoda
RTAの主要な柱は「3つのルールと7つのアクション」だ。これを日本ロードレース界の選手育成・強化モデルとして標準化し、将来的に日本のプロチーム結成へ、と言うのが当プロジェクトの骨子となる。
始まりにあたり、浅田氏は日本ロードレース界の置かれている現状を「2009年7月に日本発の二人のプロロードレーサーがシャンゼリゼにゴールして以来13年もの間、その二人に続く選手が出てこない」と憂い、「日本にもプロはたくさんいます。リーグ所属のプロがたくさんいますし、自称プロもいる。しかしここで言うプロは、上2つのカテゴリーを指します。”ワールドチーム”と”プロチーム”。現状を見ながら何をしていくべきか、ここに属する選手をいかに輩出していくべきか、と考えた結果が、この”ロード・トゥ・ラヴニール”です」と前置きした。
プロジェクト名の由来と、ツール・ド・ラヴニールについて
プレゼンテーション冒頭では、まずプロジェクト名の由来が語られた。「ロード」はロードレースと、ロードマップの意。「ラヴニール」はフランス語で「未来」。フランス語では未来を示す単語が2つあって、何があるかわからない遠い未来を示す「futur(フュチュール)」の他、「将来」と言う意味合いに近く、「より現実的な我々が目指せる未来」と言う意味で「l'avenir(ラヴニール)」があり、こちらを選んだと言う。
「また、U23の頂点として「ツール・ド・ラヴニール」と言うレースが存在します。これは「ネイションズカップ」と言う国別のU23版ワールドカップ的なレースがある中の頂点・決勝戦であり、ツール・ド・フランスのU23版とも呼ばれます。違いは国別であることで、日本も1983年から出場している伝統あるレースです」
「ここで活躍すればプロになれる」と浅田氏は言う。「世界選や他のネイションズカップなどもあるが、最も高い評価を受けているのがこのレース。各国を代表するU23の選手たちがここをめがけてやってくる。言わばロードレースの世界版甲子園。
日本では甲子園で成績を残し、スカウトの目に留まればプロ野球に行ける。ロードレースならラヴニールで成績を残すとプロ選手になれる。アンダー23に限らず、プロと育成の間に位置づけられているレースの代表格として、ラヴニールの名を拝借させてもらった。」
浅田氏は「最近はワールドチームの選手も出られるようなり、これは少し行き過ぎている感もある」と警鐘を鳴らしつつ、「約半数もの選手が、プロ契約を済ませて出場しているのが現状」と解説した。日本人選手達が、今後もここで厳しい戦いを強いられるのは間違いなさそうだ。
「日本のロード界では、どうやってプロになれるかの道筋が示されていない」――3つのルールと7つのアクションで未来を作る
RTAの実施にあたり、浅田氏は重要規則を3つ挙げた。
・世界標準のパスウェイ
・7つの活動の専門化と連鎖化
・正しい評価でステップアップ
世界標準のパスウェイとして示されたRTA[1]〜[7]の活動は、一見日本にいるだけでも出来るように見えるが、現実は違うと言う。「プロ契約のために評価されるレースは、ほぼ100%ヨーロッパ。プロ入りする選手の9割はU23からで、他の1割は遅咲きか、MTBなど他競技のスペシャリスト。2022年ツールや世界選手権のトップ10の90%はジュニアから国際レースを経験しており、そのジュニアの国際大会の95%はヨーロッパで開催されている」
即ち、現状でプロ入りを果たすにはU23以下の育成世代からヨーロッパへ行き、経験を積む他ないと言うことだ。「7つの活動1つずつは、それぞれ特別なことではない。これまでも我々が取り組んできた事だが、深くない部分がたくさんあるので、もう一度しっかり掘り起こしていきたい」とも。
これらの活動それぞれを専門化し、各分野のエキスパートを配しながら継続的に連携・連鎖化することで、育成過程の選手を各段階で「正しく」評価し、最終的に選手のプロ入りまでサポートが行うのが、プロジェクトの根幹だ。
「トップスポーツはなんでもそうですが、正しい評価でないと上には行けない。だが、たまにそうでなくても行けてしまう事がある。しかし、それで力が発揮できるかと言えば、予選を勝ち上がってきた百戦錬磨の選手には絶対敵わない。実力に従った評価。これが基本です」
ネイションズカップの同じランクでも評価の違うレースがあり、その上位のレースで入賞している選手は確実にプロになっていると言う。
「実力の上に欧州で必要とされるのは、環境順応力やコミュニケーション能力。選手には「ヨーロッパの会社に入って働くくらいのコミュニケーションが取れなければ、チームでも役に立たないよ」と指導しています。国内では(日本語が通じるため)なんとなく聞いてる選手でも、実際に行くとわかってもらえている。この力がある人は現地で得る物、情報量が違うので、ここも含めて周囲からの目で正しく評価する必要があります」
それでは、具体的にその7つの活動とはどのようなものになっていくのか。浅田氏が当日語った言葉と資料の内容とを照合しながら、読んでいただきたい。
RTA[1] パスウェイのPR
「このプロジェクト、実は1年遅れてしまっています。そういった意味でも、まずは賛同いただける方を急いで増やしていきたい」
集まった報道陣に、浅田氏から「プロになるにはこうやって進むべきなんだよ、と言うのが重要で、これをメディアの皆さんからもぜひ伝えていっていただきたい」と呼びかけがあり、「特に日本選手はヨーロッパに住んでいないので、日本からどうやって本場にアプローチして評価をされていくかが重要な課題。日本独自のものをしっかり作って、アピールしていきたい」と言葉に力をこめた。
RTA[2] タレント発掘
浅田:我々もトライアウトは毎年1-2回ずつ、20回以上は実施しました。ただ、来るメンバーの大半は、自転車をすでにやっている選手。レースのリザルトを見たら、どれほどか大体わかります。結局今トライアウトをやっても、常に自転車競技をやっていて、またさらに上を目指したいと言う気持ちのある選手しか来ないんです。その少ない対象だけに実施しても埒が明かないと強く感じているため、トライアウトは最近実施していません。
今は情報がたくさんありレースも見られるようになっているが、本当に(心に)火が点いた子どもや選手はそれほど多くない。RTA[1]と[2]をうまく連携させて、自転車(業界)の中のトライアウトだけでなく、スポーツ界全体のタレント発掘の事業にも協力してもらいながらやっていく必要があると考えている。
国内でのタレント発掘事業は各地で行われている。盛んなのは福岡県。すでに10人ほどオリンピック出場選手が誕生しており、自転車でもそこに参加している選手もいる。もちろん他県でもやっているので、各都道府県の自転車連盟の皆さんにもご協力いただきながら、多くの方にこのプロジェクトに賛同していただきたいと思っています。
何より、タレント発掘をした後で一番問題になるのは、選手の受け入れ先。そこをしっかり準備しておかねばならない。各地のクラブチーム独自でタレント発掘をやってもらえるように話をしていきます。
RTA[3] ユースキャンプ
浅田:トレーニングキャンプをしっかりやっていきます。春夏2回は開催したい。「別にみんな個別に練習してるから(いらない)」と言うことではなくて、ここで集まってもらって、自分のロードマップを変えてほしいと思っています。「僕がプロになるにはどういう活動をして、どういう生活をしていったらいいのか」標準(のパスウェイ)があって、そこに自分をどうあてはめて進んでいくか、毎回考えてほしいのです。
合宿や海外遠征をやると、その時はみんな熱くなり、海外で活躍しようと大志を抱く。しかし、帰りに成田(空港)へ着いたら日本食のことで頭がいっぱいで、家に帰ったらそのことを忘れてしまっているんじゃないか?というくらいの冷め方が見られます。
ですので、日本にいたとしても、ただ集めて走るだけではなく、本場では、欧州ではこうやっていると、話の中で伝えていきたい。特に重要なのは自分達で考えてもらうこと。自分のロードマップを現実的に考えてもらいたい。
もう一つ重要なのは、U17やジュニアなどでの育成レース、本場の国の同じ年齢層のレースを体験してほしいということ。体力的にはまだの段階だが、技術、メンタル、その後の環境順応を考えると、U17くらいからしっかり見ていく必要があります。今チームユーラシアで橋川健監督がやっていることですが、今後一般的になっていかないといけません。そうでないと、いきなりネイションズカップに出て、面食らって無理ですと帰ってしまいかねない。これでは非常にもったいない。
そして、ここにも専門の担当者を置きたい。片手間ではこれまでと一緒なので。才能を発掘した後、次にどう繋げていくかと言う人が必要です。
RTA[4]タイムトライアル定期テスト
「日本人のタイムトライアル(TT)能力は非常に低い」とした上で、浅田氏は続けた。
浅田:これは顕著で、アジアの中でも簡単に勝てません。器用な選手はたくさんいて、集団走行や展開は上手でも、(独走能力を試される)TTで「いってらっしゃい」となると勝てない。
ロードだと国内でブッチギリで勝って、翌週欧州へ行ったら最初に千切れた、なんて事も起きる。比較が難しい。しかしTTに関しては、(独走競技ゆえ)国内での評価が可能。なので絶対に強化していく必要があります。
ただ新規にTTレース一つ作るのは大変ですので、まず既存のレースでTTをやっているところに声をかけていて、現在6大会くらいはやっても良いと言って頂いています。そこで走力のデータ化をし、分析、選手へのフィードバック、次の目標の設定までを出来るようにしたい。
RTA[5] 欧州レース参戦
浅田:ロードレースの本場はヨーロッパにしかありません。グローバリゼーションで、世界各地で今いろいろな取組がある。しかし、特に育成カテゴリーでの評価はヨーロッパへ行くしかない。ここで成績を残すことが重要。ヨーロッパに行って走る必要があります。
RTA[1]〜[4]を経て、走力や適正を見極めた上で、適切な(実力)の選手が本番で力を伸ばせるように。どこの所属かは関係なく、適切であれば、どんどん受け入れていける形を作る。
ただ、国内にUCIチームはたくさんあるが、UCI登録してしまうと、選手にせっかく実力があるのに欧州へ行ってもUCIレースしか走れない事になってしまう。本当に走らせたい(実力に見合ったアマチュア)レースを走れない。だから、こういう活動に参加できるように、U23で1-2年目の選手はUCI登録をしないよう毎年チームへお願いをしている。
これには各チームの人数等の事情があるので、難しい面があることも理解している。日本は若い選手のコンチネンタル登録がどんどん増えているのですが、肩書的にはプロとなってしまうため、ここはちょっと苦労すると思います。
そして本当に重要なのは、ジュニアの2年目での頑張り。高校3年の夏くらいになると、進路が現実的な問題になってくるので、そこも受け入れる体制をしっかり作っていきます。
RTA[6] 代表チームサポート
浅田氏自らが代表チームを率いた経験も踏まえ、「世界選手権やツール・ド・ラヴニールを含む年齢別のネイションズカップ等に参加する日本代表チームへ、より優秀な選手の輩出をし、その活動へ全面協力します」と、今後も変わらぬ協力体制を約束した。
RTA[7] プロ契約サポート
「実力の伴ってきた選手に対しては、しっかりサポートする。本来ならプロチームからアプローチしてくれれば良いのだが、色々な事情があるので、ここは我々がしっかりサポートしていきます」と浅田氏。
「2028年頃にはこのパスウェイが標準化されていることを望んでいる。パスウェイが確立できれば、ウォーミングアップやトレーニング等で自転車やワットバイクを使っているような、他競技からトランジット(転向)してくる選手が増えてくることも考えられる。最近ではスキー・ジャンプから来た(プリモシュ・)ログリッチなどもその例にあたりますね」と期待を込めた口調で締めくくった。
RTAが見込むスケジュールやその後の展望については、下図を参照いただきたい。
今回のプレゼンテーションで印象的だったことの1つは、RTA開始から2028年までのプロジェクト運営予算が明示されたことだ。「賛同者、協力者、協賛、選手など、全ての募集はこれから」と述べられており、本格スタートは23年4月に設定、予算として6900万円が示された。ただし無理せず集まったお金で進める上、「行くのは選手。選手に準備が出来ているかどうかが重要」と、あくまでも選手目線での強化・育成を進める方針だ。
翌24年からは8500万円/年とされているが、25年以降にチームを結成する場合は、ここにUCIコンチネンタルのチーム運営費がかかると言う。現在はコンチネンタルチームでも欧州ツアーで活躍する選手には結構な予算を割いており、フランスだとFFC(Fédération Française de Cyclisme=フランス自転車競技連盟)の規則上、100万ユーロ(約1億5000万円)の総予算がないと登録すらさせてもらえないとのことだ。年間通した欧州レースでの転戦を主軸に据えるとなれば、RTAが設立するチームにも同程度の予算が必要となる可能性がある。
協賛社や個人から受け取る資金は、協賛金ではなく「強化支援金」と言う呼び方を用いている。「選手の強化って何もお返しが出来ないんですね。お金をそのために使うので、宣伝することが出来ない。強化に支援してください、とお願いする他ありません」と、ここでも再び支援を呼びかけた。
最後に「エキップアサダとしてのレース活動はどうなるのか」との問いには、「もちろん今後も継続して参ります。引き続きEQADS(またはエキップアサダ)として、“RTA[5]=欧州レース参戦”の部分の重要な役割を担い、所属選手に限定しない形で可能性のあるジュニア、U23選手へフランスを中心とする質の高い欧州でのレース活動機会の提供を行います。また地域からのユース選手の発掘と育成についても引き続き「埼玉ユース自転車競技部」を通じてRTA[2]およびRTA[3]の活動に取り組んで参ります」との答えが返された。
「誰でも欧州に行けばいいってもんじゃありません。やることはこれまでと変わらないが、もっと広く大きくやっていく。状況に応じて別法人設立も検討しています」と浅田氏。やるべき事は多岐に渡るが、プロジェクトの本質は「偽りなく強い選手を育て、上へと引き上げる。その手助けをする」と言うことに尽きるのではないか。
前述の通り、このプロジェクトはすでに1年遅れのスタートだと言う。発表会を見終えた筆者の肌感覚として、こういった全国的で低年齢層にまでわたる強化計画は、本来ナショナルプロジェクトとして予算を組み、動かすべきもののようにも見えた。ロードレースのみならず、国内選手やそれを代表するナショナルチームの総合的な強化は、あらゆる競技団体が目指すべき最大の目標だからだ。
競技の顔たる選手の強化と活躍なくして、国際舞台における日本の地位向上などないはずだ。すでに浅田氏は日本ナショナルチームの監督職を退く事を表明した上で、代表チームへの協力継続も約束しているが、対する国内統括団体であるJCF(日本自転車競技連盟)が、今後どう呼応していくのかも注目したいところだ。
text: Yuichiro Hosoda
Photo: Makoto Ayano, Yuichiro Hosoda
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