2022/11/21(月) - 06:05
2020東京五輪が開催された伊豆・修善寺の日本CSCのMTBコースで開催されたMTBクロスカントリー全日本選手権。雨で過酷さを増した超難度の争いで、男子エリートは平林安里(TEAM SCOTT TERRA SYSTEM)が優勝、初の日本チャンピオンに輝いた。
年に一度の日本チャンピオンを決める大会の舞台となったのは、東京オリンピックのレガシーとして常設となった静岡県伊豆市・修善寺の日本サイクルスポーツセンターにある伊豆MTBコース。「世界トップ選手基準」として東京五輪のためにゼロから設計し造られた難コースで、激登りが連続し、下りの動作の正確性や瞬発的なパワーなど、様々なスキルが要求される「試されるコース」だ。
ロックセクションのダウンヒルから橋を渡る「天城越え」、巨大な岩が連続する「浄蓮の滝」、斜度の厳しい上りから2つの丸太を飛び越える「チョップスティック」。マチュー・ファンデルプールが落車した、ジャンプから大きく弧を描くように落下する「桜ドロップ」。パンプトラックを組み入れたダウンヒル、岩盤と土の組み合わされた激下り「枯山水」。うねる細道でスピードに乗せる「伊豆半島」。「わさび」、「踊り子トレイル」と、侘び・寂びを感じさせるネーミングの難所を繋いでいく。技術があれば流れるように、ミスすれば即転倒、ケガにつながる難易度の高いコースだ。
昨年の優勝者・沢田時は鎖骨骨折の影響が残るため転倒のリスクを取れないとして不参加を早くから表明。優勝候補は10月後半に韓国で行われたMTBアジア選手権で優勝している北林力(Athlete Farm SPECIALIZED)や2週間前にこのコースで開催されたジャパン・マウンテンバイク・カップで有力外国人選手と互角に渡り合った平林安里(TEAM SCOTT TERRA SYSTEM)。その2人を筆頭に宮津旭(PAXPROJECT)らがどう絡むのかといったところ。
そして難コースに加えて午後からは雨予報。すでに先に行われたレースで降り出していた雨は、男子エリートレースを迎える頃には本降りに。58人の選手たちが水飛沫を上げて舗装路のホームストレートを駆け上がり、五輪コースへと飛び込んでいった。
雨が降ることで難コースが超難コースに。濡れた岩に土。難関セクションのなかでもカオスな状況と化したのが「枯山水」だ。岩盤と土の組み合わされた激下りは極端にスリッピーな状況となり、乗って行くことが難しいだけでなくバイクを押して歩いて下るだけでもスリップして転ぶ選手が続出。
そんな状況のなかでも乗ったままクリアしたのが平林安里。近年はシーズン中にもダウンヒルにも取り組み、下りのテクニックを磨いてきた本領を発揮し、濡れた岩盤が続く激下りを乗ったまま下る走りを見せ観客を沸かせた。観測した限り他にこのセクションを乗れたのは永田隼也(TEAM A&F / OAKLEY)のみ。永田はご存知の通りダウンヒル&エンデューロのトップ選手で、この日はオールマウンテン系のタイヤを装着してこのコースに挑み、爽やかな笑顔とともに超級テクニックを披露していた。
平林をして「今季から乗るバイク、スコットSPARKのサスストロークが120mmに伸びたことも効いたが、それでも全然足りないほどで、エンデューロバイクのようなロングストロークサスが必要なコースとコンディションだった」と言わしめるほど。それでも「下地の石が露出してきて登りも滑ったが、3周目までは砂埃が上がるぐらい乾いたところもあってドライの箇所も混じっていた難しいコンディションだった」という。
泥を被り、11月の雨に凍えるなか生命力との闘いとでも言えそうなレースが展開された。苦戦するアジア大陸チャンピオンの北林力は平林との差を最後まで詰めることはできなかったが、緩めない走りで攻め続けた。
後半にかけて宮津旭(PAXPROJECT)を追い込んだのが山本幸平(Athlete Farm SPECIALIZED)。東京五輪を最後に引退したはずが、チームを率いるマネジャー兼JCFコーチとして「走れるときは走る」とする山本が、宮津を喰ってしまう。
イエローのノースポンサージャージで淡々と攻める竹之内悠もテクが光った選手のひとり。平林に12分遅れながら5位の竹之内までが同一周回で完走できた選手となった。
フィニッシュ後に低体温症になり搬送される選手も出たサバイバルレース。過酷な1時間18分で力を見せつけた平林安里が5周回のレースをフィニッシュ。初のXCO全日本チャンピオンの座についた。
「こんなに難しいコースのレースは今まで走ったことがなかった。レースというよりサバイバルで、とにかく必死でしたね。ドライコンディションで周回数が多いほうが全然いいですけど、楽しかった。タイヤの面圧が使えなくて岩場で停まると転ぶので、落ちるのに任せて下るしか無かったけど、慎重にいきました。乗車不可能になった箇所も多かった。前回のドライで走った感覚からするとどれだけ遅いレースだったことか。下りを攻めれたのは普段ダウンヒルの先輩ライダーたちに揉んでもらったのが良かった」と平林。
昨年の11月、平林は千葉公園で開催されたXCC/XCE選手権の際にジャンプセクションで着地に失敗して背骨を骨折。そこから手術・リハビリを重ねての復帰の一年だった。すでに全快したことは証明済みだが、改めてここまでの道のりに感謝の言葉を口にした。
「あれは日常生活が送れなくなる可能性もあった大怪我でした。それからちょうど1年経ってここまでこれたのは周囲のサポートがあってのこと。その恩返しにこの結果が残せたことは本当に良かった」。
2位に甘んじた北林力。「このダイナミックなコースは雨が降れば繊細さも要求されるものでした。コンディションに対応できず、地元の先輩・アリさんに完敗でした。でもレースは何が有るかわからない。だから最後まで諦めずに攻め続けることができたのは唯一良かったことです。アジアチャンピオンとして日本で負けられないという気持ちが強かったですが、コンディションが合わせられなかった。それが敗因ですね」。
3位につけた山本幸平。「リキが勝てなかったのは残念ですが、アリはかなり走れていた。それは称賛しかない。チームとしては来シーズンに向けてリキと高め合いながら過ごしていきたい。アジア選手権とパリ五輪に向けてしっかりやり直そうと思います。難しい、いいコースでした。でもユースやジュニア世代が当たり前に乗ってクリアしたり飛んだりして、ラップもエリートよりよかったりするのは良いこと。これを強化にうまく使っていきたいですね。マウンテンバイク選手で高めあえたらと思います」。
そして引退撤回?との疑問にはこう返した。「じつは僕、来年また走ろうと思っています。オフィシャルに発表することもあるので、今日表彰台に乗れたのはいい弾みになります」。
年に一度の日本チャンピオンを決める大会の舞台となったのは、東京オリンピックのレガシーとして常設となった静岡県伊豆市・修善寺の日本サイクルスポーツセンターにある伊豆MTBコース。「世界トップ選手基準」として東京五輪のためにゼロから設計し造られた難コースで、激登りが連続し、下りの動作の正確性や瞬発的なパワーなど、様々なスキルが要求される「試されるコース」だ。
ロックセクションのダウンヒルから橋を渡る「天城越え」、巨大な岩が連続する「浄蓮の滝」、斜度の厳しい上りから2つの丸太を飛び越える「チョップスティック」。マチュー・ファンデルプールが落車した、ジャンプから大きく弧を描くように落下する「桜ドロップ」。パンプトラックを組み入れたダウンヒル、岩盤と土の組み合わされた激下り「枯山水」。うねる細道でスピードに乗せる「伊豆半島」。「わさび」、「踊り子トレイル」と、侘び・寂びを感じさせるネーミングの難所を繋いでいく。技術があれば流れるように、ミスすれば即転倒、ケガにつながる難易度の高いコースだ。
昨年の優勝者・沢田時は鎖骨骨折の影響が残るため転倒のリスクを取れないとして不参加を早くから表明。優勝候補は10月後半に韓国で行われたMTBアジア選手権で優勝している北林力(Athlete Farm SPECIALIZED)や2週間前にこのコースで開催されたジャパン・マウンテンバイク・カップで有力外国人選手と互角に渡り合った平林安里(TEAM SCOTT TERRA SYSTEM)。その2人を筆頭に宮津旭(PAXPROJECT)らがどう絡むのかといったところ。
そして難コースに加えて午後からは雨予報。すでに先に行われたレースで降り出していた雨は、男子エリートレースを迎える頃には本降りに。58人の選手たちが水飛沫を上げて舗装路のホームストレートを駆け上がり、五輪コースへと飛び込んでいった。
雨が降ることで難コースが超難コースに。濡れた岩に土。難関セクションのなかでもカオスな状況と化したのが「枯山水」だ。岩盤と土の組み合わされた激下りは極端にスリッピーな状況となり、乗って行くことが難しいだけでなくバイクを押して歩いて下るだけでもスリップして転ぶ選手が続出。
そんな状況のなかでも乗ったままクリアしたのが平林安里。近年はシーズン中にもダウンヒルにも取り組み、下りのテクニックを磨いてきた本領を発揮し、濡れた岩盤が続く激下りを乗ったまま下る走りを見せ観客を沸かせた。観測した限り他にこのセクションを乗れたのは永田隼也(TEAM A&F / OAKLEY)のみ。永田はご存知の通りダウンヒル&エンデューロのトップ選手で、この日はオールマウンテン系のタイヤを装着してこのコースに挑み、爽やかな笑顔とともに超級テクニックを披露していた。
平林をして「今季から乗るバイク、スコットSPARKのサスストロークが120mmに伸びたことも効いたが、それでも全然足りないほどで、エンデューロバイクのようなロングストロークサスが必要なコースとコンディションだった」と言わしめるほど。それでも「下地の石が露出してきて登りも滑ったが、3周目までは砂埃が上がるぐらい乾いたところもあってドライの箇所も混じっていた難しいコンディションだった」という。
泥を被り、11月の雨に凍えるなか生命力との闘いとでも言えそうなレースが展開された。苦戦するアジア大陸チャンピオンの北林力は平林との差を最後まで詰めることはできなかったが、緩めない走りで攻め続けた。
後半にかけて宮津旭(PAXPROJECT)を追い込んだのが山本幸平(Athlete Farm SPECIALIZED)。東京五輪を最後に引退したはずが、チームを率いるマネジャー兼JCFコーチとして「走れるときは走る」とする山本が、宮津を喰ってしまう。
イエローのノースポンサージャージで淡々と攻める竹之内悠もテクが光った選手のひとり。平林に12分遅れながら5位の竹之内までが同一周回で完走できた選手となった。
フィニッシュ後に低体温症になり搬送される選手も出たサバイバルレース。過酷な1時間18分で力を見せつけた平林安里が5周回のレースをフィニッシュ。初のXCO全日本チャンピオンの座についた。
「こんなに難しいコースのレースは今まで走ったことがなかった。レースというよりサバイバルで、とにかく必死でしたね。ドライコンディションで周回数が多いほうが全然いいですけど、楽しかった。タイヤの面圧が使えなくて岩場で停まると転ぶので、落ちるのに任せて下るしか無かったけど、慎重にいきました。乗車不可能になった箇所も多かった。前回のドライで走った感覚からするとどれだけ遅いレースだったことか。下りを攻めれたのは普段ダウンヒルの先輩ライダーたちに揉んでもらったのが良かった」と平林。
昨年の11月、平林は千葉公園で開催されたXCC/XCE選手権の際にジャンプセクションで着地に失敗して背骨を骨折。そこから手術・リハビリを重ねての復帰の一年だった。すでに全快したことは証明済みだが、改めてここまでの道のりに感謝の言葉を口にした。
「あれは日常生活が送れなくなる可能性もあった大怪我でした。それからちょうど1年経ってここまでこれたのは周囲のサポートがあってのこと。その恩返しにこの結果が残せたことは本当に良かった」。
2位に甘んじた北林力。「このダイナミックなコースは雨が降れば繊細さも要求されるものでした。コンディションに対応できず、地元の先輩・アリさんに完敗でした。でもレースは何が有るかわからない。だから最後まで諦めずに攻め続けることができたのは唯一良かったことです。アジアチャンピオンとして日本で負けられないという気持ちが強かったですが、コンディションが合わせられなかった。それが敗因ですね」。
3位につけた山本幸平。「リキが勝てなかったのは残念ですが、アリはかなり走れていた。それは称賛しかない。チームとしては来シーズンに向けてリキと高め合いながら過ごしていきたい。アジア選手権とパリ五輪に向けてしっかりやり直そうと思います。難しい、いいコースでした。でもユースやジュニア世代が当たり前に乗ってクリアしたり飛んだりして、ラップもエリートよりよかったりするのは良いこと。これを強化にうまく使っていきたいですね。マウンテンバイク選手で高めあえたらと思います」。
そして引退撤回?との疑問にはこう返した。「じつは僕、来年また走ろうと思っています。オフィシャルに発表することもあるので、今日表彰台に乗れたのはいい弾みになります」。
MTB全日本選手権2022 XCO男子レース 結果
男子エリート | ||
1位 | 平林安里(TEAM SCOTT TERRA SYSTEM) | 1:18:55.55 |
2位 | 北林力(Athlete Farm SPECIALIZED) | +4:17 |
3位 | 山本幸平(Athlete Farm SPECIALIZED) | +9:26 |
4位 | 宮津旭(PAXPROJECT) | +11:19 |
5位 | 竹之内悠 | +11:58 |
6位 | 西山靖晃(山鳥レーシング) | -1Lap |
7位 | 戸谷亮司(岩井商会レーシング) | -1Lap |
8位 | 小笠原崇裕 | -1Lap |
9位 | 永田隼也(TEAM A&F / OAKLEY) | -2Laps |
10位 | 箭内秀平(日本ろう自転車競技協会) | -2Laps |
男子U23、ジュニア、ユースは別記事でお伝えします。
text&photo:Makoto AYANO
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