2022/11/04(金) - 18:00
モビスターがワールドチームから降格の危機に陥った一方で、20歳フアン・アユソの活躍など復権の兆しを見せるスペイン。来日したイニーゴ・エロセギ(スペイン、モビスター)に「奇妙だった」と語るモビスターの内情や、モビスター退団に至った真意などを聞いた。
前編はこちらから。
―モビスターは今年、UCIポイントランキングで18位(2020〜2022年の合算)に落ちるなどワールドチームから降格の危機にありました。チームの雰囲気はどのようなものだったのでしょうか?
ものすごい緊張感だった。40年という長い歴史あるモビスターがワールドチームでなくなるなんて許されないからね。でもそれは我々だけじゃなく(同じく降格圏争いを強いられた)コフィディスやロット・スーダル、イスラエル・プレミアテックの選手たちも同じだった。チームは皆UCIポイントのことばかり話し、監督が(UCIポイントが付与される)トップ10を狙う指示を出すなど、とても奇妙な状態だった。
―現役最終年であるバルベルデでさえ世界選手権を回避し、他のレースで上位を狙っていました。
ああ。幸いブエルタ・ア・エスパーニャでUCIポイントをたくさん獲得できたおかげで降格圏を脱したが、みんな文字通り必死だったよ。
―そうなった背景には、元来モビスターがクラシックなどのワンデーレースに注力していないこともあったと思います。
スペインではそもそもクラシックがTV中継されないからね。スペイン人はツール・ド・フランスやブエルタ・ア・エスパーニャは知っているが、パリ〜ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンなんて聞いたこともない人がほとんどなんだ。
例えば世界選手権で3度の優勝を誇るオスカル・フレイレも、コンタドールやバルベルデに比べれば知名度は無いに等しい。世界一に加え、ミラノ〜サンレモなどを勝っている偉大な選手なのにね。ベルギーやオランダでは有名選手であるフレイレでさえ、その母国では無名の選手なんだ。
ただ、最近はインターネットで様々なレースが観ることができるようになってきた。だから状況は変わりつつある。
―つまり今後、スペインでクラシックの知名度が上がればフレイレの名前も…
広まるのかもかもしれない。いまさら「このクラシックでたくさん勝っている選手は誰だ?」ってなるかもね(笑)。
―変化で言えば、あなたが加入した2020年頃からモビスターもアメリカ人やスイス人など、多くの非スペイン語圏の選手を獲得しています。チームの共通言語はいまだスペイン語が主なのでしょうか?
もちろんスペイン語だよ。ただ、最近はチームにスペイン語が母国語ではない選手の方が多いレースもある。だがその時でさえモビスターの監督はスペイン語で指示を出す。彼らは英語が話せないからね。そんなときは僕が英語に訳したりするんだ。
だが、そんなモビスターも変わりつつあるんだ。例えば女子チームでは昨年ファンフルーテンを獲得したことからも明らかなように、徐々に国際化を進めているんだ。
―スペイン人やコロンビアなど南米出身の選手は英語が苦手な印象があります。なぜあなたは英語が流暢なのでしょうか?
自転車でプロになることを意識して以来、ずっと外国(スペイン以外)のチームで走りたいと思っていた。だから英語を勉強したんだ。おかげで世界中の人と話すことができるし、なによりプロ選手としては契約できるチームの数にも関わっていくる。スペイン語しか話さなくていいワールドチームはモビスターしかないからね。そのためにも英語は僕にとって大きなアドバンテージになっている。
―20歳のフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)が大型契約を結ぶなど、最近の時流である選手発掘の"若年化"がスペインでも活発になっているように感じます。
いまスペインの17〜18歳の選手たちは、24歳の僕と同じようなトレーニングを行っている。例えば高地トレーニングやパワーメーターによる徹底した出力管理など。だから成長スピードがとにかく早いんだ。それほど年齢の変わらない僕らがジュニアの時でさえ、レースをゲームのように楽しむなど牧歌的だった。「力は徐々に、年々増していくもの」だと考えられていたからね。
また若手の育成をスペイン自転車協会ではなく、各チームが独自に行っているのもトレンドの1つ。そのため各チームのスカウトたちが若い才能を求め、スペイン中を探し回っている。例えばアユソのいるUAEチームエミレーツのホセアン・マチンフェルナンデスは、チーム代表の1人であると共にスペインのスカウト的役割も担っている。僕もジュニア時代は彼からよく電話がかかってきたよ。
―長い時間ありがとうございました。最後に来年の目標を聞かせてください。
実は来年、違うチームに移籍するんだ。発表がまだだからどこのチームとは言えないが、スペイン籍のプロチームだ。ブエルタ・ア・エスパーニャとボルタ・ア・カタルーニャに出場できるチームだよ。
―モビスターと契約延長の話はあったのですか?
その話を(モビスターと)する前に新しいチームへの移籍を決めたんだ。いまのチームでは僕の目標とするビックレースに出場するのは難しいからね。モビスターでは僕の意思よりもチーム事情が優先されてしまう。だが新しいチームでは僕の意思も尊重してくれ、自分でレースカレンダーをある程度コントロールすることができるんだ。
また、来シーズンを挑戦の年にするべくチームと話し合って単年契約にした。もちろん良い成績を残せば次のチームからステップアップできるし、居心地が良ければ更に契約を延長するかもしれない。
11月2日、スペイン籍のプロチームであるエキポ・ケルンファルマがエロセギの獲得を発表した。同チームは2021年にプロチームに昇格し、今年のブエルタ・ア・エスパーニャに初出場したチーム。しかし運営母体であるガリビエル・スポルツ・アソシエシオンの歴史は古く、これまでマルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ)やリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)などの育成に携わってきた実績あるチームだ。
エロセギはこの移籍について「私が向上して最高のレースを走るために、このチームは一番です!来年はたくさんの大切チャレンジがあります。 Kern Pharmaを応援してください!」とSNSに日本語で綴っている。
text&photo:Sotaro.Arakawa
前編はこちらから。
―モビスターは今年、UCIポイントランキングで18位(2020〜2022年の合算)に落ちるなどワールドチームから降格の危機にありました。チームの雰囲気はどのようなものだったのでしょうか?
ものすごい緊張感だった。40年という長い歴史あるモビスターがワールドチームでなくなるなんて許されないからね。でもそれは我々だけじゃなく(同じく降格圏争いを強いられた)コフィディスやロット・スーダル、イスラエル・プレミアテックの選手たちも同じだった。チームは皆UCIポイントのことばかり話し、監督が(UCIポイントが付与される)トップ10を狙う指示を出すなど、とても奇妙な状態だった。
―現役最終年であるバルベルデでさえ世界選手権を回避し、他のレースで上位を狙っていました。
ああ。幸いブエルタ・ア・エスパーニャでUCIポイントをたくさん獲得できたおかげで降格圏を脱したが、みんな文字通り必死だったよ。
―そうなった背景には、元来モビスターがクラシックなどのワンデーレースに注力していないこともあったと思います。
スペインではそもそもクラシックがTV中継されないからね。スペイン人はツール・ド・フランスやブエルタ・ア・エスパーニャは知っているが、パリ〜ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンなんて聞いたこともない人がほとんどなんだ。
例えば世界選手権で3度の優勝を誇るオスカル・フレイレも、コンタドールやバルベルデに比べれば知名度は無いに等しい。世界一に加え、ミラノ〜サンレモなどを勝っている偉大な選手なのにね。ベルギーやオランダでは有名選手であるフレイレでさえ、その母国では無名の選手なんだ。
ただ、最近はインターネットで様々なレースが観ることができるようになってきた。だから状況は変わりつつある。
―つまり今後、スペインでクラシックの知名度が上がればフレイレの名前も…
広まるのかもかもしれない。いまさら「このクラシックでたくさん勝っている選手は誰だ?」ってなるかもね(笑)。
―変化で言えば、あなたが加入した2020年頃からモビスターもアメリカ人やスイス人など、多くの非スペイン語圏の選手を獲得しています。チームの共通言語はいまだスペイン語が主なのでしょうか?
もちろんスペイン語だよ。ただ、最近はチームにスペイン語が母国語ではない選手の方が多いレースもある。だがその時でさえモビスターの監督はスペイン語で指示を出す。彼らは英語が話せないからね。そんなときは僕が英語に訳したりするんだ。
だが、そんなモビスターも変わりつつあるんだ。例えば女子チームでは昨年ファンフルーテンを獲得したことからも明らかなように、徐々に国際化を進めているんだ。
―スペイン人やコロンビアなど南米出身の選手は英語が苦手な印象があります。なぜあなたは英語が流暢なのでしょうか?
自転車でプロになることを意識して以来、ずっと外国(スペイン以外)のチームで走りたいと思っていた。だから英語を勉強したんだ。おかげで世界中の人と話すことができるし、なによりプロ選手としては契約できるチームの数にも関わっていくる。スペイン語しか話さなくていいワールドチームはモビスターしかないからね。そのためにも英語は僕にとって大きなアドバンテージになっている。
―20歳のフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)が大型契約を結ぶなど、最近の時流である選手発掘の"若年化"がスペインでも活発になっているように感じます。
いまスペインの17〜18歳の選手たちは、24歳の僕と同じようなトレーニングを行っている。例えば高地トレーニングやパワーメーターによる徹底した出力管理など。だから成長スピードがとにかく早いんだ。それほど年齢の変わらない僕らがジュニアの時でさえ、レースをゲームのように楽しむなど牧歌的だった。「力は徐々に、年々増していくもの」だと考えられていたからね。
また若手の育成をスペイン自転車協会ではなく、各チームが独自に行っているのもトレンドの1つ。そのため各チームのスカウトたちが若い才能を求め、スペイン中を探し回っている。例えばアユソのいるUAEチームエミレーツのホセアン・マチンフェルナンデスは、チーム代表の1人であると共にスペインのスカウト的役割も担っている。僕もジュニア時代は彼からよく電話がかかってきたよ。
―長い時間ありがとうございました。最後に来年の目標を聞かせてください。
実は来年、違うチームに移籍するんだ。発表がまだだからどこのチームとは言えないが、スペイン籍のプロチームだ。ブエルタ・ア・エスパーニャとボルタ・ア・カタルーニャに出場できるチームだよ。
―モビスターと契約延長の話はあったのですか?
その話を(モビスターと)する前に新しいチームへの移籍を決めたんだ。いまのチームでは僕の目標とするビックレースに出場するのは難しいからね。モビスターでは僕の意思よりもチーム事情が優先されてしまう。だが新しいチームでは僕の意思も尊重してくれ、自分でレースカレンダーをある程度コントロールすることができるんだ。
また、来シーズンを挑戦の年にするべくチームと話し合って単年契約にした。もちろん良い成績を残せば次のチームからステップアップできるし、居心地が良ければ更に契約を延長するかもしれない。
11月2日、スペイン籍のプロチームであるエキポ・ケルンファルマがエロセギの獲得を発表した。同チームは2021年にプロチームに昇格し、今年のブエルタ・ア・エスパーニャに初出場したチーム。しかし運営母体であるガリビエル・スポルツ・アソシエシオンの歴史は古く、これまでマルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ)やリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)などの育成に携わってきた実績あるチームだ。
エロセギはこの移籍について「私が向上して最高のレースを走るために、このチームは一番です!来年はたくさんの大切チャレンジがあります。 Kern Pharmaを応援してください!」とSNSに日本語で綴っている。
text&photo:Sotaro.Arakawa
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