2010/07/16(金) - 18:00
第11ステージは今大会に合計9つ設定された平坦ステージのうちの一つ。パリまで今日を数えて4つの平坦ステージでスプリントを争う展開になるはず。
特徴的な城砦がそびえ立つ「プロバンス地方の扉」と呼ばれるシストロンの街をスタート。56km地点の3級山岳カブル峠を越えると、あとはブール・レ・ヴァロンスまで平坦路をまっしぐらだ。
そしてこの日も連日と同じようにスタート地点でアタックが決まる。シストロンの街を出てすぐにあるアクチュアルスタート地点で、赤いディレクターカーの屋根から身を乗り出したクリスチャン・プリュドムさんがDEPART(=スタート)の旗を振るやいなや、3人が腰を上げて飛び出していった。今日はモトでの取材なので、その様子を一部始終眺めることができた。
集団はあっさりと3人を見送ると、すぐさままったりペースに入った。これがユキヤの言う今年のツールの変な点。まるで事前に話でもついていたかのように逃げは始まる。
休息日共同記者会見で「第11、第12、第13ステージは面白そうですね」と語ってくれたユキヤ。なかでもこのステージにチャンスがありそうということで逃げることを公言していた。そのため私もモトを手配して乗ることにした。
しかし前日のスローペースのレースはスプリンターチームが休むに十分で、今朝になってユキヤはすでに「今日はスプリンターチームがレースをコントロールしてくるから難しいです。彼らも疲れていないでしょう」と話していた。
そしてスタートしてみるとそのとおりアタックが決まり、それをゴール前までに追い込む「単純で退屈な」レースが展開された。がっかり。
分かりきった展開に、選手たちはまったりムードで進む。ナーバスな雰囲気はなく、40km/h出ていないスピードで走りながら、あちこちで会話に忙しい。アンディと楽しげに話し込むランス。イタリア語でバッソに話しかけるカンチェラーラ。ユキヤはカメラを向けるとニッコリ。並走しながらの撮影は余裕。しかし、和やかすぎる...。
なんと逃げる3人も話をしながらだ。しかもカメラを向けた私に話しかけてくる。
ステファヌ・オジェ(コフィディス)には以前写真をあげたことがあるので、「あのときはありがとう。また今日の写真も頂戴ねっ」と声をかけてくる。それを聞いたアントニー・ジェラン(フランセーズデジュー)が、「それなら僕にも頂戴!」と言って笑う。とにかく、本当のレースが始まるまでは退屈しのぎしながらの走り。今日も太陽が照りつけ、暑い。
展開は極めて単純だが、唯一気になったのは補給地点で会った中野喜文マッサーが教えてくれた一言。渓谷沿いの道を抜けて風を遮るものがなくなるゴール前30kmぐらいに横風が強い区間があって、そこでレースをバラバラにする動きがあるかもしれないとのこと。
昨年のツールでも地中海のミストラルによって集団が分断してコンタドールが取り残されたことがあったが、同じ展開を警戒しているチームがあったようだ。しかし平野に出てからは風は強けれど集団を分解するまでには至らなかったようだ。
勝負は予定どおり集団スプリントに。逃げを約束してくれていたユキヤの勇姿が撮れなかったことを残念に思いながらゴールに向かった。しかし思わぬ結果が待っていた。
頭突きで失格のレンショーに賛否両論
マーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)の勝利の一方で、その重要なアシストを務めるチームメイトのマーク・レンショー(オーストラリア)が失格になった。カヴのもっとも重要な発射台が、ツールから追い出される。
問題になったのはレンショーがジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン・トランジションズ)に対して頭突きを繰り返したこと。
ツールのテクニカルディレクターをつとめるジャン=フランソワ・ペシューさんは、ゴールシーンのリプレイを見てこう説明した。
「レンショーは失格だ。我々はビデオを1度見て判断した。レンショーはディーンに頭突きを食らわしている。これはあからさまだ。まるでケイリンのようだ。我々がしているのはスポーツとしてのサイクリングだ。喧嘩じゃない。これは認めるわけにはいかない」
カヴにとって歓喜は束の間。ドラマはゴール後にあった。勝利者インタビューを受けるブースで、レンショーに降格処分が下るかもしれないということを聞いたカヴがうろたえる。
TVレポーターがマイクを突きつけて質問する。「今のミックスした気持ちを訊かせて欲しい。ステージ優勝した喜びと、あなたのリードアウトマンのレンショーがツール・ド・フランスを追い出されることについて。これは公式発表です」。
困惑するカヴのもとにジャン=フランソワ・ペシュー氏がやってきて、カヴの肩に手をやって言い聞かせる。「レンショーは失格だ。あのヘッドバットは認められない」。「ノウ!」泣きそうな声で懇願するカヴ。しかしペシュー氏はきっぱり断った。
「レンショーは他に方法がなかった」カヴはディーンが最初に肘を突き出したことをアピールして食い下がるが、ペシュー氏はレンショーのヘッドバットの真似をして、それがやりすぎだということを言い聞かせた。そのゼスチャーは、それが自分のラインを守るための防衛手段でなく、攻撃を意味する行為だったことを表現していた。そして何度も「ノン・ポッシービレ!」と強く断った。
降格でなく失格。厳しい処分だ。
ツール・ド・フランスでのゴールスプリントでの頭突きといえば、ロビー・マキュアンが2005年ツール第3ステージで、ステュアート・オグレディにヘッドバットを繰り出したことが記憶に残る。その時マキュアンはステージ2位から最終順位への降格と、200スイスフランの罰金を受けた。しかし失格にならなかったのは「ラインを保つために頭を使って押し戻した」という理由も一部認められたからだ。
そしてゴールスプリントでの失格といえば、1997年ツール第6ステージで、トップでゴールしたエリック・ツァベルが危険な走行で降格処分を受ける一方、進路を塞がれたことに腹を立てたトム・ステールス(ベルギー)がフレデリック・モンカッサン(フランス)に後ろからボトルを投げつけて失格になっている。ゴールスプリントでのラフプレイによる失格はそれ以来の出来事だ。
ラフプレイといえば今ツール第6ステージで、スプリント終盤のポジション取りを巡ってルイ・コスタ(ポルトガル、ケースデパーニュ)とカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)が殴り合いの喧嘩を繰り広げ、ふたりには400スイスフランの罰金が科せられた。フロントホイールを振りかざしての場外乱闘は、つまりは罰金だけで済んでいる。
HTC・コロンビアとガーミン・トランジションズ、それぞれのチームは自分たちの立場で選手を擁護する。
チームHTC・コロンビアのロルフ・アルダグ監督は言う。「レンショーは両手でハンドルバーを握っていたから他に方法がなかった。頭を使うより他に彼を追い払う方法がなかった。さもなくば皆がフェンスに追いやられた。スプリントは幼稚園じゃない。もしお互いが近寄り過ぎたら肩と肩、肘と肘を張り合う。もしそれができないならタイムトライアルでもやっていればいい」
「数日前の二人の選手の乱闘は、ホイールで人を殴ったが300ユーロ(正確には400)の罰金だけで済んでいる。レンショーは今日自分の走行ラインを保とうとしてディーンともみくちゃになった。それが罰せられないものとは言わない。しかし失格はあんまりだ。間違っている。彼らはディーンもミスを犯したと言っているが、彼は罰せられていない。今年の審判はジャッジについての明確なラインがなく、判断が曖昧だ。つじつまがあっていない。昨年マーク(カヴェンディッシュ)は彼のラインを50cm変えたことでマイヨヴェールのチャンスを奪われた。それは今日ディーンがやったことに比べたらマシなこと」
ファラーの勝利のチャンスが失われたガーミン・トランジションズのジョナサン・ヴォーターズ監督は、審判の判断に賛同している。
「リプレイを見たけど、フェアな決定だと思う。自分たちの選手がこんなことをするのは見たくない。スプリントはホットな闘いで、今日は長くて暑くかった。でもツールでこんなことをしてはいけない。あれは明らかに頭突きで、ファラーをバリアに追いやった。スプリントは緊張の闘いだということは分かっているが、ルールは守らなくてはいけない。これは自転車レース。スポーツにはペナルティがあって、それは順守すべき。カヴェンディッシュは何もしていない。だから彼から勝利を奪うことはない」。
レンショーという発射台を失ったカヴはこの後も「連勝」を続けることができるのか?
発射台などなくても勝てるという声もあるが、スプリント争いは無敵のカヴに訪れた不備に勝機を見出すライバルたちを喜ばせているに違いない。
6位の結果に満足しないユキヤ
レンショー失格の報の混乱に話題をさらわれてしまったが、新城幸也(Bboxブイグテレコム)の6位は素晴らしいの一言に尽きる結果だ。
初出場にして快挙と言われた2009年のツール・ド・フランス第2ステージでの5位から1年。すでに今年5月のジロ・デ・イタリアでも第5ステージで逃げて3位になるなど、結果を残しているだけにもはや驚きは少ないが、このステージの6位はユキヤにとってスプリンターとしての可能性をさらに印象づけるものになった一勝と言えるだろう。
同じくカヴェンディッシュが勝った昨年のツールのステージ5位もゴールスプリントだったが、ゴール前で起こった落車によって中切れが発生しての5位。新城本人もコメントで幸運があっての5位だったことを認めている。しかし今回の6位は世界のトップスプリンターたちに肩を並べる6位であり、幸運や偶然ではありえない結果だ。
Bboxブイグテレコムのジャンルネ・ベルノドー監督も「今日のようなハイレベルなスプリントでは、偶然上位に入ることなんて出来ない。実力と才能がある証拠だ。今日の結果には非常に満足している」と、思わぬユキヤの活躍に驚く。
この日、ユキヤのゴールでの役割はチームメートのセバスティアン・テュルゴー(フランス)がいい位置でゴールスプリントに臨めるように助けるアシストだった。テュルゴーは第4・5・6ステージの連続3日間ゴールスプリントで6位になっている。ユキヤはそれを手伝ってきた。
最終1kmを切る混乱のなか、テュルゴーが前に行き、ユキヤとの間に他の選手が入り乱れてコンタクトを失ってしまう。2人は近くにいたがそれぞれ別のスプリントをせざるを得なかった。「しかたなく自分のスプリントをすることになった」とユキヤはゴール後に語っている。
ゆるい下り坂になった広い直線路のスプリントで全開でペダルを踏んだユキヤは、ロビー・マキュアン(カチューシャ)の後、マイヨヴェールのトル・フースホフト(サーヴェロ・テストチーム)の前という位置でゴールしている。腰を上げずにシッティングで脚を回し続けたスプリントだった。
ユキヤは自分で順位を確認できなかったが、6・7・8位の上位でゴールしたことを確認。しかしとくに喜びはなく、普段どおりの冷静な表情。「また頑張ります」が6位の感想を訊かれての答えだった。(※詳しくはゴール後のコメント参照)
スプリンターのアシストだけでなく、自らがスプリンターであることを結果で証明した6位。チームでは主に(鋭いスピードでアタックできる)パンチャーというタイプとして認識されているユキヤ。結果に満足しない本人の思いにかかわらず、今後チーム内の役割が変わる可能性もあるかもしれない。
フミがゴール地点に登場 ツールを観戦
ゴール地点にはフミこと別府史之(レディオシャック)が現れた。フランスの家から近いこのゴール地点に、フランス人のガールフレンドと一緒にカジュアルシャツ姿で現れた。ゴール地点50m手前のVIP席のパスをゲットして、そこで観戦することができたとのこと。
ゴール後にはレディオシャックのチームバスを訪れ、スタッフにあいさつ。アラン・ギャロパン監督と話し込んでいた。
その横を、帰路に着くユキヤを載せたブイグのバスが通る。ふたりは手を振ってガラス越しの再開を喜んだ。来年はふたたび二人がツールで顔を合わせられるように!
text&photo:Makoto Ayano
特徴的な城砦がそびえ立つ「プロバンス地方の扉」と呼ばれるシストロンの街をスタート。56km地点の3級山岳カブル峠を越えると、あとはブール・レ・ヴァロンスまで平坦路をまっしぐらだ。
そしてこの日も連日と同じようにスタート地点でアタックが決まる。シストロンの街を出てすぐにあるアクチュアルスタート地点で、赤いディレクターカーの屋根から身を乗り出したクリスチャン・プリュドムさんがDEPART(=スタート)の旗を振るやいなや、3人が腰を上げて飛び出していった。今日はモトでの取材なので、その様子を一部始終眺めることができた。
集団はあっさりと3人を見送ると、すぐさままったりペースに入った。これがユキヤの言う今年のツールの変な点。まるで事前に話でもついていたかのように逃げは始まる。
休息日共同記者会見で「第11、第12、第13ステージは面白そうですね」と語ってくれたユキヤ。なかでもこのステージにチャンスがありそうということで逃げることを公言していた。そのため私もモトを手配して乗ることにした。
しかし前日のスローペースのレースはスプリンターチームが休むに十分で、今朝になってユキヤはすでに「今日はスプリンターチームがレースをコントロールしてくるから難しいです。彼らも疲れていないでしょう」と話していた。
そしてスタートしてみるとそのとおりアタックが決まり、それをゴール前までに追い込む「単純で退屈な」レースが展開された。がっかり。
分かりきった展開に、選手たちはまったりムードで進む。ナーバスな雰囲気はなく、40km/h出ていないスピードで走りながら、あちこちで会話に忙しい。アンディと楽しげに話し込むランス。イタリア語でバッソに話しかけるカンチェラーラ。ユキヤはカメラを向けるとニッコリ。並走しながらの撮影は余裕。しかし、和やかすぎる...。
なんと逃げる3人も話をしながらだ。しかもカメラを向けた私に話しかけてくる。
ステファヌ・オジェ(コフィディス)には以前写真をあげたことがあるので、「あのときはありがとう。また今日の写真も頂戴ねっ」と声をかけてくる。それを聞いたアントニー・ジェラン(フランセーズデジュー)が、「それなら僕にも頂戴!」と言って笑う。とにかく、本当のレースが始まるまでは退屈しのぎしながらの走り。今日も太陽が照りつけ、暑い。
展開は極めて単純だが、唯一気になったのは補給地点で会った中野喜文マッサーが教えてくれた一言。渓谷沿いの道を抜けて風を遮るものがなくなるゴール前30kmぐらいに横風が強い区間があって、そこでレースをバラバラにする動きがあるかもしれないとのこと。
昨年のツールでも地中海のミストラルによって集団が分断してコンタドールが取り残されたことがあったが、同じ展開を警戒しているチームがあったようだ。しかし平野に出てからは風は強けれど集団を分解するまでには至らなかったようだ。
勝負は予定どおり集団スプリントに。逃げを約束してくれていたユキヤの勇姿が撮れなかったことを残念に思いながらゴールに向かった。しかし思わぬ結果が待っていた。
頭突きで失格のレンショーに賛否両論
マーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)の勝利の一方で、その重要なアシストを務めるチームメイトのマーク・レンショー(オーストラリア)が失格になった。カヴのもっとも重要な発射台が、ツールから追い出される。
問題になったのはレンショーがジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン・トランジションズ)に対して頭突きを繰り返したこと。
ツールのテクニカルディレクターをつとめるジャン=フランソワ・ペシューさんは、ゴールシーンのリプレイを見てこう説明した。
「レンショーは失格だ。我々はビデオを1度見て判断した。レンショーはディーンに頭突きを食らわしている。これはあからさまだ。まるでケイリンのようだ。我々がしているのはスポーツとしてのサイクリングだ。喧嘩じゃない。これは認めるわけにはいかない」
カヴにとって歓喜は束の間。ドラマはゴール後にあった。勝利者インタビューを受けるブースで、レンショーに降格処分が下るかもしれないということを聞いたカヴがうろたえる。
TVレポーターがマイクを突きつけて質問する。「今のミックスした気持ちを訊かせて欲しい。ステージ優勝した喜びと、あなたのリードアウトマンのレンショーがツール・ド・フランスを追い出されることについて。これは公式発表です」。
困惑するカヴのもとにジャン=フランソワ・ペシュー氏がやってきて、カヴの肩に手をやって言い聞かせる。「レンショーは失格だ。あのヘッドバットは認められない」。「ノウ!」泣きそうな声で懇願するカヴ。しかしペシュー氏はきっぱり断った。
「レンショーは他に方法がなかった」カヴはディーンが最初に肘を突き出したことをアピールして食い下がるが、ペシュー氏はレンショーのヘッドバットの真似をして、それがやりすぎだということを言い聞かせた。そのゼスチャーは、それが自分のラインを守るための防衛手段でなく、攻撃を意味する行為だったことを表現していた。そして何度も「ノン・ポッシービレ!」と強く断った。
降格でなく失格。厳しい処分だ。
ツール・ド・フランスでのゴールスプリントでの頭突きといえば、ロビー・マキュアンが2005年ツール第3ステージで、ステュアート・オグレディにヘッドバットを繰り出したことが記憶に残る。その時マキュアンはステージ2位から最終順位への降格と、200スイスフランの罰金を受けた。しかし失格にならなかったのは「ラインを保つために頭を使って押し戻した」という理由も一部認められたからだ。
そしてゴールスプリントでの失格といえば、1997年ツール第6ステージで、トップでゴールしたエリック・ツァベルが危険な走行で降格処分を受ける一方、進路を塞がれたことに腹を立てたトム・ステールス(ベルギー)がフレデリック・モンカッサン(フランス)に後ろからボトルを投げつけて失格になっている。ゴールスプリントでのラフプレイによる失格はそれ以来の出来事だ。
ラフプレイといえば今ツール第6ステージで、スプリント終盤のポジション取りを巡ってルイ・コスタ(ポルトガル、ケースデパーニュ)とカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)が殴り合いの喧嘩を繰り広げ、ふたりには400スイスフランの罰金が科せられた。フロントホイールを振りかざしての場外乱闘は、つまりは罰金だけで済んでいる。
HTC・コロンビアとガーミン・トランジションズ、それぞれのチームは自分たちの立場で選手を擁護する。
チームHTC・コロンビアのロルフ・アルダグ監督は言う。「レンショーは両手でハンドルバーを握っていたから他に方法がなかった。頭を使うより他に彼を追い払う方法がなかった。さもなくば皆がフェンスに追いやられた。スプリントは幼稚園じゃない。もしお互いが近寄り過ぎたら肩と肩、肘と肘を張り合う。もしそれができないならタイムトライアルでもやっていればいい」
「数日前の二人の選手の乱闘は、ホイールで人を殴ったが300ユーロ(正確には400)の罰金だけで済んでいる。レンショーは今日自分の走行ラインを保とうとしてディーンともみくちゃになった。それが罰せられないものとは言わない。しかし失格はあんまりだ。間違っている。彼らはディーンもミスを犯したと言っているが、彼は罰せられていない。今年の審判はジャッジについての明確なラインがなく、判断が曖昧だ。つじつまがあっていない。昨年マーク(カヴェンディッシュ)は彼のラインを50cm変えたことでマイヨヴェールのチャンスを奪われた。それは今日ディーンがやったことに比べたらマシなこと」
ファラーの勝利のチャンスが失われたガーミン・トランジションズのジョナサン・ヴォーターズ監督は、審判の判断に賛同している。
「リプレイを見たけど、フェアな決定だと思う。自分たちの選手がこんなことをするのは見たくない。スプリントはホットな闘いで、今日は長くて暑くかった。でもツールでこんなことをしてはいけない。あれは明らかに頭突きで、ファラーをバリアに追いやった。スプリントは緊張の闘いだということは分かっているが、ルールは守らなくてはいけない。これは自転車レース。スポーツにはペナルティがあって、それは順守すべき。カヴェンディッシュは何もしていない。だから彼から勝利を奪うことはない」。
レンショーという発射台を失ったカヴはこの後も「連勝」を続けることができるのか?
発射台などなくても勝てるという声もあるが、スプリント争いは無敵のカヴに訪れた不備に勝機を見出すライバルたちを喜ばせているに違いない。
6位の結果に満足しないユキヤ
レンショー失格の報の混乱に話題をさらわれてしまったが、新城幸也(Bboxブイグテレコム)の6位は素晴らしいの一言に尽きる結果だ。
初出場にして快挙と言われた2009年のツール・ド・フランス第2ステージでの5位から1年。すでに今年5月のジロ・デ・イタリアでも第5ステージで逃げて3位になるなど、結果を残しているだけにもはや驚きは少ないが、このステージの6位はユキヤにとってスプリンターとしての可能性をさらに印象づけるものになった一勝と言えるだろう。
同じくカヴェンディッシュが勝った昨年のツールのステージ5位もゴールスプリントだったが、ゴール前で起こった落車によって中切れが発生しての5位。新城本人もコメントで幸運があっての5位だったことを認めている。しかし今回の6位は世界のトップスプリンターたちに肩を並べる6位であり、幸運や偶然ではありえない結果だ。
Bboxブイグテレコムのジャンルネ・ベルノドー監督も「今日のようなハイレベルなスプリントでは、偶然上位に入ることなんて出来ない。実力と才能がある証拠だ。今日の結果には非常に満足している」と、思わぬユキヤの活躍に驚く。
この日、ユキヤのゴールでの役割はチームメートのセバスティアン・テュルゴー(フランス)がいい位置でゴールスプリントに臨めるように助けるアシストだった。テュルゴーは第4・5・6ステージの連続3日間ゴールスプリントで6位になっている。ユキヤはそれを手伝ってきた。
最終1kmを切る混乱のなか、テュルゴーが前に行き、ユキヤとの間に他の選手が入り乱れてコンタクトを失ってしまう。2人は近くにいたがそれぞれ別のスプリントをせざるを得なかった。「しかたなく自分のスプリントをすることになった」とユキヤはゴール後に語っている。
ゆるい下り坂になった広い直線路のスプリントで全開でペダルを踏んだユキヤは、ロビー・マキュアン(カチューシャ)の後、マイヨヴェールのトル・フースホフト(サーヴェロ・テストチーム)の前という位置でゴールしている。腰を上げずにシッティングで脚を回し続けたスプリントだった。
ユキヤは自分で順位を確認できなかったが、6・7・8位の上位でゴールしたことを確認。しかしとくに喜びはなく、普段どおりの冷静な表情。「また頑張ります」が6位の感想を訊かれての答えだった。(※詳しくはゴール後のコメント参照)
スプリンターのアシストだけでなく、自らがスプリンターであることを結果で証明した6位。チームでは主に(鋭いスピードでアタックできる)パンチャーというタイプとして認識されているユキヤ。結果に満足しない本人の思いにかかわらず、今後チーム内の役割が変わる可能性もあるかもしれない。
フミがゴール地点に登場 ツールを観戦
ゴール地点にはフミこと別府史之(レディオシャック)が現れた。フランスの家から近いこのゴール地点に、フランス人のガールフレンドと一緒にカジュアルシャツ姿で現れた。ゴール地点50m手前のVIP席のパスをゲットして、そこで観戦することができたとのこと。
ゴール後にはレディオシャックのチームバスを訪れ、スタッフにあいさつ。アラン・ギャロパン監督と話し込んでいた。
その横を、帰路に着くユキヤを載せたブイグのバスが通る。ふたりは手を振ってガラス越しの再開を喜んだ。来年はふたたび二人がツールで顔を合わせられるように!
text&photo:Makoto Ayano
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