2022/09/19(月) - 00:35
ノルウェーのトビアス・フォスが自身も驚く優勝を決め、シュテファン・キュング(スイス)が銀、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)は再び銅。ウロンゴンのアップダウンコースが若き個人TT新世界王者を生み出した。
西陽が差し込むウロンゴンのアップダウンTTコース photo:CorVos
オーストラリアのシドニーから85km北に位置するウロンゴンを舞台にしたロード世界選手権。市街地を発着する34.2kmコースは、純粋な平地巡航スピードもさることながらコーナリングのスムーズさと、小刻みなアップダウンに対応するペースメイクが鍵を握る。大柄なTTスペシャリストはもちろん、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)やタデイ・ポガチャル(スロベニア)といった新世代オールラウンダーにもチャンスがある、誰が勝つかわからない緊張感の中レースが進行した。
現地時間13時42分に、ダニエルジョセフ・ボネッロ(マルタ共和国)を先頭に個人タイムトライアル男子エリートが幕開けた。母国オーストラリアファンの大声援に後押しされた4番手出走のルーク・プラップ(オーストラリア)が早速好タイムを叩き出した。
4番手出走のルーク・プラップ(オーストラリア)は最終的に12位に photo:CorVos
中盤まで暫定首位を守ったシュテファン・ビッセガー(スイス) photo:CorVos
終始安定感ある走りでトップタイムをマークしたトビアス・フォス(ノルウェー) photo:CorVos
しかし「プラッピー」のホットシートキープは長く持たず、第2ウェーブに入るとブルーノ・アルミライル(フランス)とツール・ド・フランスでの快走も記憶に新しいイヴ・ランパールト(ベルギー)が僅差でトップタイムを更新しあったものの、すぐ後ろを走ったシュテファン・ビッセガー(スイス)が平均50km/hの壁を破る。40分49秒59というビッセガーのタイムを破る選手がなかなか現れない中、強豪ひしめく最終第4ウェーブ勢がスタートを切ることに。
真っ先にビッセガーのタイムを上回ったのは、若手登竜門として知られるツール・ド・ラヴニールの2019年大会を制し、2020年からユンボ・ヴィスマに所属しているトビアス・フォス(ノルウェー)だった。2年連続のノルウェー個人タイムトライアル王者はビッセガーを実に47秒上回る40分02秒を叩き出し、ホットシートに座って強豪勢の走りを見守ることとなった。
時間をかけて身体を暖めるレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos
スタート台に向かうシュテファン・キュング(スイス) photo:CorVos
イーサン・ヘイター(イギリス)は途中メカトラに見舞われながらも4位 photo:CorVos
ホットシートで強豪勢の走りを見守るトビアス・フォス(ノルウェー) photo:CorVos
今日が誕生日のイーサン・ヘイター(イギリス)はフォスのタイムには届かずとも表彰台圏内を狙う走りだったが、チェーン落ちのメカトラブルに見舞われて大きくタイムロス。第1中間計測でフォスとシュテファン・キュング(スイス)、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)、そして最終走者フィリッポ・ガンナ(イタリア)が僅差の接戦を繰り広げた。
コーナーを攻め抜いたキュングは第2中間計測でフォスに対してリードを12秒近く広げた一方、キュングと共にTTスペシャリストの双璧をなすガンナは失速。マイケル・ロジャース(オーストラリア)に並ぶ3度目のアルカンシエルを目指したガンナだったが、いつものような後半追い上げを披露することができず。ロードを見据えるポガチャルもビッセガーのタイムには及ばなかった。
第2中間計測までは順調に駒を進めていたシュテファン・キュング(スイス) photo:CorVos
レムコ・エヴェネプール(ベルギー)がフィニッシュラインに突き進む photo:CorVos
第2中間計測ポイント(24.5km地点)の時点で、1位通過キュングとフォスの差は12秒で、エヴェネプールは15秒遅れ。徐々にリードを広げるキュングが悲願の初優勝に向けて順調に駒を進めていたかに思えたものの、最終区間の中継カメラに映し出されたキュングはガクッとタイムを失い、まさかの逆転負けでフォスに2.95秒届かな買った。
終盤にかけてやはりフォスとの差が広がったエヴェネプールは9秒16遅れでフィニッシュし、大きくタイムを失ったガンナがゴールに辿り着いた瞬間、フォスの男子エリート個人タイムトライアル優勝が決まった。
逆転負けを喫したシュテファン・キュング(スイス) photo:CorVos
9秒差で敗れたレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos
驚きの優勝を遂げたトビアス・フォス(ノルウェー) photo:CorVos
上位入賞確実と目されつつも、決して優勝候補ではなかったフォスが大金星。優勝が決まった瞬間「頭が爆発している」ポーズをとったフォスは「夢を見ている気分だよ。まだ全く信じられない。レース中はずっと脚に力を感じていたんだ。カナダでワールドツアー2連戦を走った時にもきっちりと仕上がっている感覚があった。でも結果は想像よりもずっと素晴らしかった。まだまだ現実と思えないけれど、この優勝を楽しむつもりだ」と、事態を飲み込めていない様子でフォスはインタビューに答えた。
フォスはノルウェーの名門育成チームであるジョーカーとウノエックスを経て力を伸ばし、2019年のラヴニール総合優勝をバネにワールドツアー入りした1997年5月25日生まれの25歳。これまでナショナル選手権では3度の優勝経験(個人TTx2回、ロード1回)を持っていたが、キャリア最大の優勝と共にアルカンシエルを掴み取った。
「テクニカルでトリッキーなタイムトライアルだったよ。レース全てでプッシュし続けなければならなかった。登りを思い切り踏んで、下りで心拍を下げることを意識していた。アドバイスは完璧だったし、準備も万全だった」と振り返るフォスだが「今日はトップ10、できればトップ5に入りたいと思っていたんだ。でも僕は世界チャンピオンになり、アルカンシエルを1年着る権利を得た。本当に名誉なことだし、このジャージを楽しみたい」と、自分でも想像していなかった優勝を喜ぶ。ノルウェー人選手の世界選手権個人TT制覇は史上初の快挙で、ロードレースも含めれば2010年のトル・フースホフト以来12年ぶりとなる世界チャンピオンとなった。
2位シュテファン・キュング(スイス)、1位トビアス・フォス(ノルウェー)、3位レムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos
世界チャンピオン戴冠後初仕事(サイン)をこなすトビアス・フォス(ノルウェー) photo:CorVos
限りなく優勝に近づきながら、まさかの大失速で勝利を取りこぼしたキュングは2位。2020年の3位を上回り自身最高記録を塗り替えたものの、終始安定したフォスの走りに最後の最後で敗北を喫した。「全力だった。今朝自分自身に"僅差で敗れるのはもうこりごり"と言い聞かせ、可能な限りリスクを冒して攻め続けた。なんといったら良いかわからないけれど、とにかく残念だ」と悔しさを顕にする。
「4年前だったらこの結果を喜んだと思うけれど、今日は全然違う。ただイライラしているよ。今朝スタートリストを見た時にも今日はいけると思っていたけれど、僕を破るとは思っていなかった選手に敗れてしまった。でも"時間との戦い"は、ピュアに最強だった選手が勝つ。だから彼におめでとうと言いたい」とフォスを称賛している。
エヴェネプール2019年の銀メダル、2021年の銅メダルに続く2年連続銅メダル。ブエルタ覇者の証である赤いヘルメットで走った22歳は「僅差で敗れただけに悔しいけれど、アルカンシエルを求めて挑戦を続けていく」と前向きなコメントを残している。
タデイ・ポガチャル(スロベニア)は6位 photo:CorVos
2年連続覇者フィリッポ・ガンナ(イタリア)は精彩を欠いて7位 photo:CorVos
メカトラブルで大きなタイムロスを被りながらも持ち直したヘイターが4位で、ビッセガーは5位。ポガチャルが昨年10位から大きくランクアップして6位に入り、夢破れたガンナは7位。地元オーストラリア唯一の参加選手だったプラップは12位だった。
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オーストラリアのシドニーから85km北に位置するウロンゴンを舞台にしたロード世界選手権。市街地を発着する34.2kmコースは、純粋な平地巡航スピードもさることながらコーナリングのスムーズさと、小刻みなアップダウンに対応するペースメイクが鍵を握る。大柄なTTスペシャリストはもちろん、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)やタデイ・ポガチャル(スロベニア)といった新世代オールラウンダーにもチャンスがある、誰が勝つかわからない緊張感の中レースが進行した。
現地時間13時42分に、ダニエルジョセフ・ボネッロ(マルタ共和国)を先頭に個人タイムトライアル男子エリートが幕開けた。母国オーストラリアファンの大声援に後押しされた4番手出走のルーク・プラップ(オーストラリア)が早速好タイムを叩き出した。
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しかし「プラッピー」のホットシートキープは長く持たず、第2ウェーブに入るとブルーノ・アルミライル(フランス)とツール・ド・フランスでの快走も記憶に新しいイヴ・ランパールト(ベルギー)が僅差でトップタイムを更新しあったものの、すぐ後ろを走ったシュテファン・ビッセガー(スイス)が平均50km/hの壁を破る。40分49秒59というビッセガーのタイムを破る選手がなかなか現れない中、強豪ひしめく最終第4ウェーブ勢がスタートを切ることに。
真っ先にビッセガーのタイムを上回ったのは、若手登竜門として知られるツール・ド・ラヴニールの2019年大会を制し、2020年からユンボ・ヴィスマに所属しているトビアス・フォス(ノルウェー)だった。2年連続のノルウェー個人タイムトライアル王者はビッセガーを実に47秒上回る40分02秒を叩き出し、ホットシートに座って強豪勢の走りを見守ることとなった。
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今日が誕生日のイーサン・ヘイター(イギリス)はフォスのタイムには届かずとも表彰台圏内を狙う走りだったが、チェーン落ちのメカトラブルに見舞われて大きくタイムロス。第1中間計測でフォスとシュテファン・キュング(スイス)、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)、そして最終走者フィリッポ・ガンナ(イタリア)が僅差の接戦を繰り広げた。
コーナーを攻め抜いたキュングは第2中間計測でフォスに対してリードを12秒近く広げた一方、キュングと共にTTスペシャリストの双璧をなすガンナは失速。マイケル・ロジャース(オーストラリア)に並ぶ3度目のアルカンシエルを目指したガンナだったが、いつものような後半追い上げを披露することができず。ロードを見据えるポガチャルもビッセガーのタイムには及ばなかった。
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第2中間計測ポイント(24.5km地点)の時点で、1位通過キュングとフォスの差は12秒で、エヴェネプールは15秒遅れ。徐々にリードを広げるキュングが悲願の初優勝に向けて順調に駒を進めていたかに思えたものの、最終区間の中継カメラに映し出されたキュングはガクッとタイムを失い、まさかの逆転負けでフォスに2.95秒届かな買った。
終盤にかけてやはりフォスとの差が広がったエヴェネプールは9秒16遅れでフィニッシュし、大きくタイムを失ったガンナがゴールに辿り着いた瞬間、フォスの男子エリート個人タイムトライアル優勝が決まった。
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上位入賞確実と目されつつも、決して優勝候補ではなかったフォスが大金星。優勝が決まった瞬間「頭が爆発している」ポーズをとったフォスは「夢を見ている気分だよ。まだ全く信じられない。レース中はずっと脚に力を感じていたんだ。カナダでワールドツアー2連戦を走った時にもきっちりと仕上がっている感覚があった。でも結果は想像よりもずっと素晴らしかった。まだまだ現実と思えないけれど、この優勝を楽しむつもりだ」と、事態を飲み込めていない様子でフォスはインタビューに答えた。
フォスはノルウェーの名門育成チームであるジョーカーとウノエックスを経て力を伸ばし、2019年のラヴニール総合優勝をバネにワールドツアー入りした1997年5月25日生まれの25歳。これまでナショナル選手権では3度の優勝経験(個人TTx2回、ロード1回)を持っていたが、キャリア最大の優勝と共にアルカンシエルを掴み取った。
「テクニカルでトリッキーなタイムトライアルだったよ。レース全てでプッシュし続けなければならなかった。登りを思い切り踏んで、下りで心拍を下げることを意識していた。アドバイスは完璧だったし、準備も万全だった」と振り返るフォスだが「今日はトップ10、できればトップ5に入りたいと思っていたんだ。でも僕は世界チャンピオンになり、アルカンシエルを1年着る権利を得た。本当に名誉なことだし、このジャージを楽しみたい」と、自分でも想像していなかった優勝を喜ぶ。ノルウェー人選手の世界選手権個人TT制覇は史上初の快挙で、ロードレースも含めれば2010年のトル・フースホフト以来12年ぶりとなる世界チャンピオンとなった。
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限りなく優勝に近づきながら、まさかの大失速で勝利を取りこぼしたキュングは2位。2020年の3位を上回り自身最高記録を塗り替えたものの、終始安定したフォスの走りに最後の最後で敗北を喫した。「全力だった。今朝自分自身に"僅差で敗れるのはもうこりごり"と言い聞かせ、可能な限りリスクを冒して攻め続けた。なんといったら良いかわからないけれど、とにかく残念だ」と悔しさを顕にする。
「4年前だったらこの結果を喜んだと思うけれど、今日は全然違う。ただイライラしているよ。今朝スタートリストを見た時にも今日はいけると思っていたけれど、僕を破るとは思っていなかった選手に敗れてしまった。でも"時間との戦い"は、ピュアに最強だった選手が勝つ。だから彼におめでとうと言いたい」とフォスを称賛している。
エヴェネプール2019年の銀メダル、2021年の銅メダルに続く2年連続銅メダル。ブエルタ覇者の証である赤いヘルメットで走った22歳は「僅差で敗れただけに悔しいけれど、アルカンシエルを求めて挑戦を続けていく」と前向きなコメントを残している。
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メカトラブルで大きなタイムロスを被りながらも持ち直したヘイターが4位で、ビッセガーは5位。ポガチャルが昨年10位から大きくランクアップして6位に入り、夢破れたガンナは7位。地元オーストラリア唯一の参加選手だったプラップは12位だった。
ロード世界選手権2022男子エリート個人タイムトライアル結果
1位 | トビアス・フォス(ノルウェー) | 40:02 | 51.257km/h |
2位 | シュテファン・キュング(スイス) | +0:03 | 51.193km/h |
3位 | レムコ・エヴェネプール(ベルギー) | +0:09 | 51.066km/h |
4位 | イーサン・ヘイター(イギリス) | +0:40 | 50.418km/h |
5位 | シュテファン・ビッセガー(スイス) | +0:47 | 50.274km/h |
6位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア) | +0:48 | 50.253km/h |
7位 | フィリッポ・ガンナ(イタリア) | +0:56 | 50.090km/h |
8位 | ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル) | +0:59 | 50.028km/h |
9位 | イヴ・ランパールト(ベルギー) | +1:09 | 49.826km/h |
10位 | ブルーノ・アルミライル(フランス) | +1:10 | 49.806km/h |
text:So Isobe
photo:CorVos
photo:CorVos
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