2022/07/22(金) - 18:23
ピレネー山岳3連戦の最後の一日、オタカムを最初に駆け上がったのはマイヨヴェールの支援を受けたマイヨジョーヌだった。マイヨ奪回を試みて攻撃を繰り返したポガチャルは「これ以上無い負け方だった」とユンボのチーム力と山岳で最強だったライバルのヴィンゲゴーを讃えた。
カトリックの主な巡礼地として世界的に知られるルルドがスタート地点。毎年何百万人もの人が訪れる聖水の沸くの泉とマッサビエルの洞窟、そして聖母の大聖堂が見下ろす広場がスタート地点に。
警備がいつもより厳重なのはエマヌエル・マクロン大統領がステージに帯同するから。大統領閣下はツールがお気に入りで、これまでも何度か重要なステージで赤いディレクターカーに乗っている。この日もスタートからフィニッシュまで車上からツールを見守ることに。
朝の残念な知らせはダミアーノ・カルーゾ( バーレーン・ヴィクトリアス)とクリストファー・フルーム(イスラエル・プレミアテック)の新型コロナ陽性による不出走。ウェアに着替えてスタートを待つ間に検査結果を知ったというフルームはSNSでファンに向けメッセージを発信。フルームにとって9年前のこの日がツールに初優勝した同じ日。終盤に入り連日アタックを繰り返すまでに復調していただけに残念だ。
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)とタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の図抜けた「2強」によるマイヨジョーヌを巡る最後のバトルの日。奪還を諦めないポガチャルの挑戦を受けて立つヴィンゲゴー。最終週の闘いを前に、ピレネーは「人間対人間」の闘いになると予告したポガチャルの執拗な攻撃があることは明らか。
しかし「ポガチャルは近日疲れを見せはじめている」という声も良く聞かれるようになっていた。昨日、ペラギュードにフィニッシュして倒れ込んだのは、誰もが驚く「超回復力」をもつポガチャルが今までには見せなかった姿。自転車を降りての足取りもやや重かった。
超級山岳オービスク峠とオタカム山頂を含むピレネー最終の難関ステージ。ヴィンゲゴーの出身国デンマークにとっては、1996年にビャルヌ・リース(当時ドイツテレコム)がオタカムでマイヨジョーヌを着てミゲール・インデュラインらを蹴散らして勝利、2007年にはオービスクでミカエル・ラスッムッセン(当時ラボバンク)がマイヨジョーヌを着て勝利。しかしリースは数年後にその期間にドーピングしていたことを告白。ラスムッセンはドーピング検査にまつわる居場所の虚位報告によってチームから退去を命じられ、マイヨジョーヌを着たままツールを去ったという、マイヨジョーヌを巡る「いわく付き」のふたつの峠が待つ。
超級山岳2つと1級山岳スパンデルを詰め込みながらも距離143.2kmとコンパクトな、たった4時間ジャストの短時間レース。最初の60kmで集団に大きなタイム差をつけて逃げれば逃げ切りも可能、そしてツール最後の山岳ステージということでスタートから激しいアタックが繰り広げられた。逃げ切り、前待ち、ポイント賞、山岳賞など、様々な思惑をもつ選手たちが次々と動いたことでアタック合戦は長期化した。
そもそも逃げの口火を切った緑のジャージワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)の、ワウト劇場は今日も開幕した。すでに自身のマイヨヴェールはパリまで完走しさえすれば確実なものとなっているが、そのワウトの走りが山岳最終日のマイヨジョーヌの行方を大きく左右することになった。それどころか、もしワウト自身が狙いさえすれば山岳賞も手にすることができた凄い走りだ。
2分以上ある差を引っくり返すには早めのアタックが必要。そしてJOUR SANS(=バッドデイ)が起こればそれは可能、とばかりに攻め続けたポガチャル。しかしヴィンゲゴーの登りでの余裕ある走りはポガチャルを逃すことはしない。下りが上手くないヴィンゲゴーに対し、テクニシャンとも言えるポガチャル。無線が「この先のグラベル区間に注意せよ」と注意を呼びかける1級山岳スパンデル峠の下りでも攻め続けた。
ヴィンゲゴーが後輪を跳ねさせてバランスを崩す危険なシーンを回避した後、それに付け込むようになりふり構わず攻め続けたポガチャルが小石の浮いた急コーナーでオーバーラン、膨らんだラインを修正しきれないうちに路肩のグラベルにタイヤを滑らせて落車してしまう。
ライバルの落車につけこまず、マイヨジョーヌのヴィンゲゴーは復帰を待ってスピードを落とす。追いついたポガチャルが手を差し伸べ、握手。美しいスポーツマンシップが表現された。
「ヨナスにはただリスペクトだ。僕らはお互いにリスペクトしあっている。彼が僕を待ったとき、彼には待っったほうが良い理由=チームメイトが後ろにも前にも居る、があったけど。でも下りを攻めたのは僕。ちょっと攻めすぎて落車してしまった。だれも責められないよ」とポガチャル。
ヴィンゲゴーを孤立させ、一対一の闘いに持ち込みたかったポガチャルのレースは一度離したユンボ勢のアシストを含むグループが再び合流してしまったことで振り出しに戻ってしまった。そしてやはり今日もワウトが前にいたことがユンボの強みになった。
本来マイヨヴェールを着るスプリンターは登りが不得意なもの。しかし超級山岳と一級山岳で先行して後方のマイヨジョーヌを待ったワウトは、「ポギは限界に近い。苦しんでいる」というチームカーからの無線連絡を受けると、山岳アシストのセップ・クスからバトンを受け取るとより厳しいテンポを刻んだ。
超級山岳オタカム山頂へ向けてマイヨジョーヌをマイヨヴェールが牽引、マイヨブランを着たツール2連覇の最強の若者が続くという不思議な構図。しかしそれも長くは続かなかった。ラスト4.4km、ポガチャルが遅れた瞬間にマイヨジョーヌを巡る争いに勝負がついた。
ワウトはそのまま「もうひと押し」の牽引を続け、ヴィンゲゴーを解き放った。ヴィンゲゴーはこの日目標にしていた逃げ切り勝利へとひた走る。マイヨジョーヌを着たら、一度はその姿でステージ勝利を挙げることが必要。ヴィンゲゴーはこの日の朝にガールフレンドと娘に電話して、「君たち2人のために勝つ」と伝えていたという。
膝から血を流したポガチャルはさらにタイム差をつけられてフィニッシュ。ラインを切るとき「やられた、完敗」とばかり舌を出した。レース後、ガールフレンドにスマホで勝利報告するヴィンゲゴーに「またやってくれたな」と絡んだ。勝っても負けても爽やかな2人のマイヨジョーヌ争いバトルには「ほぼ」決着がついた。
負けてさすがに表情に悔しさが浮かぶポガチャル。さらに開いたタイム差に、ツール3連覇の望みはほぼ絶たれた。残る個人TTに向けて気持ちを切り替える。
ポガチャルは言う。「ツール・ド・フランスの負け方にこれ以上は無いね。総合争いのことだけを考えて全力を尽くしたんだ。後悔なくレースを終えられるよ。でもあと1ステージ、パリの前に僕が勝てるステージがある。それに向けて頑張るよ」。
「ユンボ・ヴィスマはこのツールで完璧だった。毎日本当に強かった彼らに脱帽だよ。そして今日は最強の男が勝った。ヨナスは僕よりも強かった。僕は残り2つの峠の時点でほぼ力を使い果たしていた。でも最後の峠で出せる力はあると思っていた。でも落車した。それが少し気をそいだ。ユンボ勢に着いていこうとしたけど、彼らはただ強かったんだ」。
表彰台から降りるポガチャルは昨日に増して脚取りが重く、いつもの跳ねるような仕草も無いのは怪我以上に疲労が溜まっていたのだろう。
最終局面でヴィンゲゴーの決定的なアシストとなったファンアールトは喜びの表情を浮かべてフィニッシュした。遅れても3位。ラインを切るときには小さく力の入ったガッツポーズ。当然のように敢闘賞が送られた。
マイヨジョーヌ争いの壮絶なバトルで締めくくられたが、今日一日はマイヨヴェールのワウトが舞い続けた日でもあった。0km地点からの最初の逃げは吸収されたが、中間スプリントポイントを取り、そのまま逃げに乗る。1級山岳で山岳ポイントを稼ぐ。ヴィンゲゴーのための前待ちに切り替え、オタカムではヴィンゲゴーをアシストしてポガチャルを脱落させることに成功、ヴィンゲゴーを加速させて離脱するが、自身もそのままステージ3位でフィニッシュ。
レース後、「今日の自分の走りを誇りに思うか?」の問いには、ユンボのチームワークが成し遂げた勝利であることを強調した。
「自分の走りより、チームが今日やり遂げたすべてのことを誇りに思う。個人的にもそれに尽力できたことが誇らしい。ポガチャルが遅れたと聞いたとき、身体に残っている力をすべて出し尽くそうと思った。それがヨナスが残り3kmを走るために僕がしたこと。昨日UAEが見せた反撃のサインに対して、今日は僕たちが攻撃すると決めていたんだ。だから0kmから攻撃した。なんとかその責任を果たせた。今日は僕のキャリアでももっとも素晴らしい一日のひとつだった」。
敢闘賞の獲得は当然だが、しかしもしワウトがオービスク峠で山岳ポイントを取れば、ヴィンゲゴーを待たずに最後まで逃げ切っていれば、山岳賞ジャージも自身の手に入っていた。
「オービスク峠(の順位)次第で山岳賞ジャージを取ることができたと後で知った。もしその時わかっていれば、山岳ポイントに向けてスプリントしたのに」とワウト。
疲労度がスプリントにも影響するツール第3週。明日18ステージ20ステージの個人タイムトライアル、最終シャンゼリゼステージ(昨年ワウトが勝った)はすべてファンアールトに勝つチャンスがある。それらを獲ることになれば、シャンゼリゼで手渡されるスーパー敢闘賞の行方もやはりワウトだろうか。
オタカム山頂での表彰式はマクロン大統領もポディウムに立った。ヴィンゲゴーはそれに気づいていなかったのか、それともツールをほぼ手中に収めた安堵からか、それとっもCOVID-19プロトコルによるものか、大統領に握手を交わすこと無く壇を降りた。
数の優位があるイネオス・グレナディアースはトーマスの小さなアタック以外にレースを変えられず、しかしトーマスは総合3位を堅持した。遅れながら10位に留まるアダム・イェーツは肺の感染症があり、そのために第3週に調子が上がらなかったこと、そのためにトーマスのアシストができなかったことを明かした。それはジョナタン・カストロビエホとダニエル・マルティネスがツール開幕時に患ったものと同様で、イネオスはコロナとは別のウィルスとも闘ってきたことになる。
フランス勢としてはヴァランタン・マドゥアスらの献身的なアシストを受けたダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)が総合4位に浮上。総合5位ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)が遅れたことで2分30秒の差をつけて個人TTに向かう。
text&photo:Makoto AYANO in France
カトリックの主な巡礼地として世界的に知られるルルドがスタート地点。毎年何百万人もの人が訪れる聖水の沸くの泉とマッサビエルの洞窟、そして聖母の大聖堂が見下ろす広場がスタート地点に。
警備がいつもより厳重なのはエマヌエル・マクロン大統領がステージに帯同するから。大統領閣下はツールがお気に入りで、これまでも何度か重要なステージで赤いディレクターカーに乗っている。この日もスタートからフィニッシュまで車上からツールを見守ることに。
朝の残念な知らせはダミアーノ・カルーゾ( バーレーン・ヴィクトリアス)とクリストファー・フルーム(イスラエル・プレミアテック)の新型コロナ陽性による不出走。ウェアに着替えてスタートを待つ間に検査結果を知ったというフルームはSNSでファンに向けメッセージを発信。フルームにとって9年前のこの日がツールに初優勝した同じ日。終盤に入り連日アタックを繰り返すまでに復調していただけに残念だ。
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)とタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の図抜けた「2強」によるマイヨジョーヌを巡る最後のバトルの日。奪還を諦めないポガチャルの挑戦を受けて立つヴィンゲゴー。最終週の闘いを前に、ピレネーは「人間対人間」の闘いになると予告したポガチャルの執拗な攻撃があることは明らか。
しかし「ポガチャルは近日疲れを見せはじめている」という声も良く聞かれるようになっていた。昨日、ペラギュードにフィニッシュして倒れ込んだのは、誰もが驚く「超回復力」をもつポガチャルが今までには見せなかった姿。自転車を降りての足取りもやや重かった。
超級山岳オービスク峠とオタカム山頂を含むピレネー最終の難関ステージ。ヴィンゲゴーの出身国デンマークにとっては、1996年にビャルヌ・リース(当時ドイツテレコム)がオタカムでマイヨジョーヌを着てミゲール・インデュラインらを蹴散らして勝利、2007年にはオービスクでミカエル・ラスッムッセン(当時ラボバンク)がマイヨジョーヌを着て勝利。しかしリースは数年後にその期間にドーピングしていたことを告白。ラスムッセンはドーピング検査にまつわる居場所の虚位報告によってチームから退去を命じられ、マイヨジョーヌを着たままツールを去ったという、マイヨジョーヌを巡る「いわく付き」のふたつの峠が待つ。
超級山岳2つと1級山岳スパンデルを詰め込みながらも距離143.2kmとコンパクトな、たった4時間ジャストの短時間レース。最初の60kmで集団に大きなタイム差をつけて逃げれば逃げ切りも可能、そしてツール最後の山岳ステージということでスタートから激しいアタックが繰り広げられた。逃げ切り、前待ち、ポイント賞、山岳賞など、様々な思惑をもつ選手たちが次々と動いたことでアタック合戦は長期化した。
そもそも逃げの口火を切った緑のジャージワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)の、ワウト劇場は今日も開幕した。すでに自身のマイヨヴェールはパリまで完走しさえすれば確実なものとなっているが、そのワウトの走りが山岳最終日のマイヨジョーヌの行方を大きく左右することになった。それどころか、もしワウト自身が狙いさえすれば山岳賞も手にすることができた凄い走りだ。
2分以上ある差を引っくり返すには早めのアタックが必要。そしてJOUR SANS(=バッドデイ)が起こればそれは可能、とばかりに攻め続けたポガチャル。しかしヴィンゲゴーの登りでの余裕ある走りはポガチャルを逃すことはしない。下りが上手くないヴィンゲゴーに対し、テクニシャンとも言えるポガチャル。無線が「この先のグラベル区間に注意せよ」と注意を呼びかける1級山岳スパンデル峠の下りでも攻め続けた。
ヴィンゲゴーが後輪を跳ねさせてバランスを崩す危険なシーンを回避した後、それに付け込むようになりふり構わず攻め続けたポガチャルが小石の浮いた急コーナーでオーバーラン、膨らんだラインを修正しきれないうちに路肩のグラベルにタイヤを滑らせて落車してしまう。
ライバルの落車につけこまず、マイヨジョーヌのヴィンゲゴーは復帰を待ってスピードを落とす。追いついたポガチャルが手を差し伸べ、握手。美しいスポーツマンシップが表現された。
「ヨナスにはただリスペクトだ。僕らはお互いにリスペクトしあっている。彼が僕を待ったとき、彼には待っったほうが良い理由=チームメイトが後ろにも前にも居る、があったけど。でも下りを攻めたのは僕。ちょっと攻めすぎて落車してしまった。だれも責められないよ」とポガチャル。
ヴィンゲゴーを孤立させ、一対一の闘いに持ち込みたかったポガチャルのレースは一度離したユンボ勢のアシストを含むグループが再び合流してしまったことで振り出しに戻ってしまった。そしてやはり今日もワウトが前にいたことがユンボの強みになった。
本来マイヨヴェールを着るスプリンターは登りが不得意なもの。しかし超級山岳と一級山岳で先行して後方のマイヨジョーヌを待ったワウトは、「ポギは限界に近い。苦しんでいる」というチームカーからの無線連絡を受けると、山岳アシストのセップ・クスからバトンを受け取るとより厳しいテンポを刻んだ。
超級山岳オタカム山頂へ向けてマイヨジョーヌをマイヨヴェールが牽引、マイヨブランを着たツール2連覇の最強の若者が続くという不思議な構図。しかしそれも長くは続かなかった。ラスト4.4km、ポガチャルが遅れた瞬間にマイヨジョーヌを巡る争いに勝負がついた。
ワウトはそのまま「もうひと押し」の牽引を続け、ヴィンゲゴーを解き放った。ヴィンゲゴーはこの日目標にしていた逃げ切り勝利へとひた走る。マイヨジョーヌを着たら、一度はその姿でステージ勝利を挙げることが必要。ヴィンゲゴーはこの日の朝にガールフレンドと娘に電話して、「君たち2人のために勝つ」と伝えていたという。
膝から血を流したポガチャルはさらにタイム差をつけられてフィニッシュ。ラインを切るとき「やられた、完敗」とばかり舌を出した。レース後、ガールフレンドにスマホで勝利報告するヴィンゲゴーに「またやってくれたな」と絡んだ。勝っても負けても爽やかな2人のマイヨジョーヌ争いバトルには「ほぼ」決着がついた。
負けてさすがに表情に悔しさが浮かぶポガチャル。さらに開いたタイム差に、ツール3連覇の望みはほぼ絶たれた。残る個人TTに向けて気持ちを切り替える。
ポガチャルは言う。「ツール・ド・フランスの負け方にこれ以上は無いね。総合争いのことだけを考えて全力を尽くしたんだ。後悔なくレースを終えられるよ。でもあと1ステージ、パリの前に僕が勝てるステージがある。それに向けて頑張るよ」。
「ユンボ・ヴィスマはこのツールで完璧だった。毎日本当に強かった彼らに脱帽だよ。そして今日は最強の男が勝った。ヨナスは僕よりも強かった。僕は残り2つの峠の時点でほぼ力を使い果たしていた。でも最後の峠で出せる力はあると思っていた。でも落車した。それが少し気をそいだ。ユンボ勢に着いていこうとしたけど、彼らはただ強かったんだ」。
表彰台から降りるポガチャルは昨日に増して脚取りが重く、いつもの跳ねるような仕草も無いのは怪我以上に疲労が溜まっていたのだろう。
最終局面でヴィンゲゴーの決定的なアシストとなったファンアールトは喜びの表情を浮かべてフィニッシュした。遅れても3位。ラインを切るときには小さく力の入ったガッツポーズ。当然のように敢闘賞が送られた。
マイヨジョーヌ争いの壮絶なバトルで締めくくられたが、今日一日はマイヨヴェールのワウトが舞い続けた日でもあった。0km地点からの最初の逃げは吸収されたが、中間スプリントポイントを取り、そのまま逃げに乗る。1級山岳で山岳ポイントを稼ぐ。ヴィンゲゴーのための前待ちに切り替え、オタカムではヴィンゲゴーをアシストしてポガチャルを脱落させることに成功、ヴィンゲゴーを加速させて離脱するが、自身もそのままステージ3位でフィニッシュ。
レース後、「今日の自分の走りを誇りに思うか?」の問いには、ユンボのチームワークが成し遂げた勝利であることを強調した。
「自分の走りより、チームが今日やり遂げたすべてのことを誇りに思う。個人的にもそれに尽力できたことが誇らしい。ポガチャルが遅れたと聞いたとき、身体に残っている力をすべて出し尽くそうと思った。それがヨナスが残り3kmを走るために僕がしたこと。昨日UAEが見せた反撃のサインに対して、今日は僕たちが攻撃すると決めていたんだ。だから0kmから攻撃した。なんとかその責任を果たせた。今日は僕のキャリアでももっとも素晴らしい一日のひとつだった」。
敢闘賞の獲得は当然だが、しかしもしワウトがオービスク峠で山岳ポイントを取れば、ヴィンゲゴーを待たずに最後まで逃げ切っていれば、山岳賞ジャージも自身の手に入っていた。
「オービスク峠(の順位)次第で山岳賞ジャージを取ることができたと後で知った。もしその時わかっていれば、山岳ポイントに向けてスプリントしたのに」とワウト。
疲労度がスプリントにも影響するツール第3週。明日18ステージ20ステージの個人タイムトライアル、最終シャンゼリゼステージ(昨年ワウトが勝った)はすべてファンアールトに勝つチャンスがある。それらを獲ることになれば、シャンゼリゼで手渡されるスーパー敢闘賞の行方もやはりワウトだろうか。
オタカム山頂での表彰式はマクロン大統領もポディウムに立った。ヴィンゲゴーはそれに気づいていなかったのか、それともツールをほぼ手中に収めた安堵からか、それとっもCOVID-19プロトコルによるものか、大統領に握手を交わすこと無く壇を降りた。
数の優位があるイネオス・グレナディアースはトーマスの小さなアタック以外にレースを変えられず、しかしトーマスは総合3位を堅持した。遅れながら10位に留まるアダム・イェーツは肺の感染症があり、そのために第3週に調子が上がらなかったこと、そのためにトーマスのアシストができなかったことを明かした。それはジョナタン・カストロビエホとダニエル・マルティネスがツール開幕時に患ったものと同様で、イネオスはコロナとは別のウィルスとも闘ってきたことになる。
フランス勢としてはヴァランタン・マドゥアスらの献身的なアシストを受けたダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)が総合4位に浮上。総合5位ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)が遅れたことで2分30秒の差をつけて個人TTに向かう。
text&photo:Makoto AYANO in France
Amazon.co.jp