2022/06/30(木) - 15:59
ツール・ド・フランス開幕を控えたデンマークの首都コペンハーゲン。ツール史上最北での開催となる3日間を前にチームプレゼンテーションが行われ、22チーム、176人の選手たちが「世界で最も自転車に優しい都市」の熱烈なファンに迎えられた。現地の雰囲気をお伝えします。
グランデパールはコペンハーゲン中心部。主要なビルや広場、公園、目抜き通りなどがツールの特別賞ジャージの黄色、緑、白に赤水玉などのカラフルな模様に染められ、市民憩いの広場にはファンパークが設置された。そして市の中心部を通る運河には赤に白十字のデンマーク国旗が連ねて飾られた。
自転車の使用率が高い「自転車王国」デンマーク。コペンハーゲン市民の通勤・通学のじつに44%が自転車を使うという。平均して市民一人あたり一日に1.4km自転車に乗っていると言われ、総計するとデンマークでは自転車が毎日800万km走っていることになる。つまりそれだけ化石燃料をセーブしていることになり、健康にも環境にも社会的にも良い効果がある。
デンマーク政府は2009年以来、自転車活用のためのインフラ整備へ20億ユーロを投資し、ますます脱車社会と自転車の活用を進めている。コペンハーゲンは「世界で最も自転車に優しい都市」「自転車政策でもっとも先進的な国」とも言われる。この国では自転車はもはや生活様式そのもの。
もともと2021年に迎えるはずだったコペンハーゲンでのグランデパール。新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて1年の延期を強いられたが、今年無事に開催にこぎつけた。ツールとしては10カ国目のフランス国外で迎えるグランデパールで、過去最北に位置する国での開幕となる。昨年、開幕地をブルターニュに譲ってからは様々な催しで盛り上げてきた。コペンハーゲンは2011年の世界選手権ロード開催都市であり、ツールを迎える下地はすでに十分にあった。
プレゼン会場となったのはコペンハーゲン中央駅の目の前にあるチボリ公園。自然を生かした庭園テーマパークは首都きっての観光名所で、市民憩いの場。自転車の国の自転車ファンが、夕方18時半からのチームプレゼンテーションを観ようと詰めかけ、公園内はもの凄い密度の人垣で埋まった。
クリスティアン・プリュドム氏と壇上にあがった女性市長ソフィー・ヘストルプ・アナスンさんはコペンハーゲンからパリまでキャンペーンのためにサイクリングした経験があり、3台の自転車を持っているとも。
最初に登場したチームは白から青のジャージに変わったトレック・セガフレード。最初に登壇した地元デンマーク人のマッズ・ピーダスンに早くも観客たちのボルテージがマックスに。ピーダスンは第1ステージの優勝とマイヨジョーヌ獲得が期待されている。
そこからチームが順次登壇、クイックステップ・アルファヴィニルにはカスパー・アスグリーンとミッケルフレーリク・ホノレ、ミカエル・モルコフの3人ものデンマーク人選手がメンバーに選ばれた。そのそれぞれに大歓声が上がる。ファビオ・ヤコブセンへの怪我からのカムバックについても紹介された。ヤコブセンの後方のスクリーンには昨年のツールで活躍したカヴェンディッシュ(今年は選出されず)の映像が流され、それに反応するファンのため息も。
各チームのスター選手はもちろんピックアップしてマイクが渡され、紹介されていくが、10人のデンマーク人選手が登壇するたびに会場からは特別な歓声のエールが贈られた。
アルペシン・フェニックスはアルペシン・ドゥクーニンクにスポンサー入れ替えでこのツールからチーム名変更。マチュー人気も高く、マチューは「この素晴らしいデンマークのステージは3つとも取りたいね」とリップサービス。
ツールに合わせてジャージのデザインを変えてきたチームも続々。EFエデュケーション・イージーポストはまたしてもPALECEスケートボードとラファがコラボしたユニークなイラスト入りジャージとバイクを披露。恐竜?のキャラクターが描かれ、足元のクロックスまで柄物で揃えた。
イスラエル・プレミアテックは爽やかなブルー基調のジャージとなり、バイクのカラーリングもそれに合わせた。ルワンダの伝統模様であるイミゴンゴを取り入れたデザインはアフリカのルワンダに「フィールド・オブ・ドリームス」という名の自転車センター建設を目指す、チャリティのため限定ジャージだ。
デンマーク人のヤコブ・フルサンは11回目のツール・ド・フランス参加を讃えられ大歓声が湧く。「本当に誇らしい。この素晴らしいデンマークでチームメイトたちとここに登壇できて誇らしい」と話した。
水色のヘルメットと柄をジャージに加えロット・スーダルはカレイブ・ユアンの人気にツール初参戦のルーキー、デンマーク人のアンドレアス・クロンへの大声援が並ぶほどだ。クロンは「クレイジーだ! こんなシナリオってある? 僕はここに上がるまで冷静だったけど、今は緊張してる」と、身に余る期待の大歓声に応える。デンマークのファンはどこまでも自国の選手への声援に熱い。
もっとも熱かったのはヨナス・ヴィンゲゴーへの声援だ。MCがマイヨジョーヌにならったイエローのスーツに着替え、ユンボ・ヴィスマを迎えるとプリモシュ・ログリッチやワウト・ファンアールトを凌ぐ大声援がヴィンゲゴーに向けて湧く。
ヴィンゲゴーの名を連呼するエールは鳴り止まず、感情的になったヴィンゲゴーが涙を流して声を詰まらせる。昨年は総合2位、今年はマイヨ・ジョーヌへという期待が一気に盛り上がった瞬間。ログリッチとファンアールトも主役を譲ったというような笑顔でヴィンゲゴーの肩を叩く。
そしてディフェンディングチャンピオン、タディ・ポガチャルとUAEチームエミレーツが最後に登壇。もちろんポガチャルへの声援も歓声も大きいが、デンマーク人のミッケル・ビョーグへの応援もそれに劣らない大歓声だった。これにはポガチャルもラファル・マイカもビョーグを挟んで顔を見合わせ、驚いたといった表情でおどけた。
ポガチャルはMCの男性に「そのイエロースーツいいね、僕もほしい」と相変わらず飄々とした態度で受け答え。「レースを楽しむこと。それが何より」と軽く笑う。デンマークについて、ビョーグからは何と聞いてる?の問には「坂が全然無いってね」と笑う。ビョーグとはよくルームメイトになる仲良しだ。「ミケルはポテトを持ってきてくれたよ」とも。
コパンハーゲンが1年以上もお預けをくったグランデパール。自転車に熱いファンがどれほどまで待ち焦がれたか、そしてどれほど選手たちを応援しているか、そんな熱量の高さがよくわかったチームプレゼンテーションだった。
デンマーク人出場選手10人のリスト
ミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ)
アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)
クリストファー・ユールイェンセン(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)
カスパー・アスグリーン(クイックステップ・アルファヴィニル)
ミッケルフレーリク・ホノレ(クイックステップ・アルファヴィニル)
ミケル・モルコフ(クイックステップ・アルファヴィニル)
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
ヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック)
マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)
付け加えると、もちろん観客たちはデンマーク人だけでなく各国選手もすべて応援している。プロサイクリングをよく知り尽くしているとも感じるのは、さすが多数の名選手を排出し、2011年の世界選手権ロード開催経験のある国だ。
それにしても人の密度が高すぎて、プレゼン中はステージ脇の撮影場所から一歩も動くことができなかった。その熱量は2017年のドイツ・デュッセルドルフでのグランデパールを遥かに凌いでいる印象だった。
text&photo:Makoto AYANO in Copenhagen Denmark
グランデパールはコペンハーゲン中心部。主要なビルや広場、公園、目抜き通りなどがツールの特別賞ジャージの黄色、緑、白に赤水玉などのカラフルな模様に染められ、市民憩いの広場にはファンパークが設置された。そして市の中心部を通る運河には赤に白十字のデンマーク国旗が連ねて飾られた。
自転車の使用率が高い「自転車王国」デンマーク。コペンハーゲン市民の通勤・通学のじつに44%が自転車を使うという。平均して市民一人あたり一日に1.4km自転車に乗っていると言われ、総計するとデンマークでは自転車が毎日800万km走っていることになる。つまりそれだけ化石燃料をセーブしていることになり、健康にも環境にも社会的にも良い効果がある。
デンマーク政府は2009年以来、自転車活用のためのインフラ整備へ20億ユーロを投資し、ますます脱車社会と自転車の活用を進めている。コペンハーゲンは「世界で最も自転車に優しい都市」「自転車政策でもっとも先進的な国」とも言われる。この国では自転車はもはや生活様式そのもの。
もともと2021年に迎えるはずだったコペンハーゲンでのグランデパール。新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて1年の延期を強いられたが、今年無事に開催にこぎつけた。ツールとしては10カ国目のフランス国外で迎えるグランデパールで、過去最北に位置する国での開幕となる。昨年、開幕地をブルターニュに譲ってからは様々な催しで盛り上げてきた。コペンハーゲンは2011年の世界選手権ロード開催都市であり、ツールを迎える下地はすでに十分にあった。
プレゼン会場となったのはコペンハーゲン中央駅の目の前にあるチボリ公園。自然を生かした庭園テーマパークは首都きっての観光名所で、市民憩いの場。自転車の国の自転車ファンが、夕方18時半からのチームプレゼンテーションを観ようと詰めかけ、公園内はもの凄い密度の人垣で埋まった。
クリスティアン・プリュドム氏と壇上にあがった女性市長ソフィー・ヘストルプ・アナスンさんはコペンハーゲンからパリまでキャンペーンのためにサイクリングした経験があり、3台の自転車を持っているとも。
最初に登場したチームは白から青のジャージに変わったトレック・セガフレード。最初に登壇した地元デンマーク人のマッズ・ピーダスンに早くも観客たちのボルテージがマックスに。ピーダスンは第1ステージの優勝とマイヨジョーヌ獲得が期待されている。
そこからチームが順次登壇、クイックステップ・アルファヴィニルにはカスパー・アスグリーンとミッケルフレーリク・ホノレ、ミカエル・モルコフの3人ものデンマーク人選手がメンバーに選ばれた。そのそれぞれに大歓声が上がる。ファビオ・ヤコブセンへの怪我からのカムバックについても紹介された。ヤコブセンの後方のスクリーンには昨年のツールで活躍したカヴェンディッシュ(今年は選出されず)の映像が流され、それに反応するファンのため息も。
各チームのスター選手はもちろんピックアップしてマイクが渡され、紹介されていくが、10人のデンマーク人選手が登壇するたびに会場からは特別な歓声のエールが贈られた。
アルペシン・フェニックスはアルペシン・ドゥクーニンクにスポンサー入れ替えでこのツールからチーム名変更。マチュー人気も高く、マチューは「この素晴らしいデンマークのステージは3つとも取りたいね」とリップサービス。
ツールに合わせてジャージのデザインを変えてきたチームも続々。EFエデュケーション・イージーポストはまたしてもPALECEスケートボードとラファがコラボしたユニークなイラスト入りジャージとバイクを披露。恐竜?のキャラクターが描かれ、足元のクロックスまで柄物で揃えた。
イスラエル・プレミアテックは爽やかなブルー基調のジャージとなり、バイクのカラーリングもそれに合わせた。ルワンダの伝統模様であるイミゴンゴを取り入れたデザインはアフリカのルワンダに「フィールド・オブ・ドリームス」という名の自転車センター建設を目指す、チャリティのため限定ジャージだ。
デンマーク人のヤコブ・フルサンは11回目のツール・ド・フランス参加を讃えられ大歓声が湧く。「本当に誇らしい。この素晴らしいデンマークでチームメイトたちとここに登壇できて誇らしい」と話した。
水色のヘルメットと柄をジャージに加えロット・スーダルはカレイブ・ユアンの人気にツール初参戦のルーキー、デンマーク人のアンドレアス・クロンへの大声援が並ぶほどだ。クロンは「クレイジーだ! こんなシナリオってある? 僕はここに上がるまで冷静だったけど、今は緊張してる」と、身に余る期待の大歓声に応える。デンマークのファンはどこまでも自国の選手への声援に熱い。
もっとも熱かったのはヨナス・ヴィンゲゴーへの声援だ。MCがマイヨジョーヌにならったイエローのスーツに着替え、ユンボ・ヴィスマを迎えるとプリモシュ・ログリッチやワウト・ファンアールトを凌ぐ大声援がヴィンゲゴーに向けて湧く。
ヴィンゲゴーの名を連呼するエールは鳴り止まず、感情的になったヴィンゲゴーが涙を流して声を詰まらせる。昨年は総合2位、今年はマイヨ・ジョーヌへという期待が一気に盛り上がった瞬間。ログリッチとファンアールトも主役を譲ったというような笑顔でヴィンゲゴーの肩を叩く。
そしてディフェンディングチャンピオン、タディ・ポガチャルとUAEチームエミレーツが最後に登壇。もちろんポガチャルへの声援も歓声も大きいが、デンマーク人のミッケル・ビョーグへの応援もそれに劣らない大歓声だった。これにはポガチャルもラファル・マイカもビョーグを挟んで顔を見合わせ、驚いたといった表情でおどけた。
ポガチャルはMCの男性に「そのイエロースーツいいね、僕もほしい」と相変わらず飄々とした態度で受け答え。「レースを楽しむこと。それが何より」と軽く笑う。デンマークについて、ビョーグからは何と聞いてる?の問には「坂が全然無いってね」と笑う。ビョーグとはよくルームメイトになる仲良しだ。「ミケルはポテトを持ってきてくれたよ」とも。
コパンハーゲンが1年以上もお預けをくったグランデパール。自転車に熱いファンがどれほどまで待ち焦がれたか、そしてどれほど選手たちを応援しているか、そんな熱量の高さがよくわかったチームプレゼンテーションだった。
デンマーク人出場選手10人のリスト
ミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ)
アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)
クリストファー・ユールイェンセン(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)
カスパー・アスグリーン(クイックステップ・アルファヴィニル)
ミッケルフレーリク・ホノレ(クイックステップ・アルファヴィニル)
ミケル・モルコフ(クイックステップ・アルファヴィニル)
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
ヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック)
マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)
付け加えると、もちろん観客たちはデンマーク人だけでなく各国選手もすべて応援している。プロサイクリングをよく知り尽くしているとも感じるのは、さすが多数の名選手を排出し、2011年の世界選手権ロード開催経験のある国だ。
それにしても人の密度が高すぎて、プレゼン中はステージ脇の撮影場所から一歩も動くことができなかった。その熱量は2017年のドイツ・デュッセルドルフでのグランデパールを遥かに凌いでいる印象だった。
text&photo:Makoto AYANO in Copenhagen Denmark
Amazon.co.jp