2022/05/23(月) - 09:06
獲得標高4,000m弱に及ぶ休息日前の難関ステージで、本来の登坂力を披露。逃げグループに入り、自らレースを動かしたジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)が涙の復活勝利を挙げた。
大会2週目最終盤の難関ステージ2連戦を締めくくる舞台は、スイス国境に面した山岳地帯。スタートしてから90kmは真っ平らな平坦路が続くが、アオスタ渓谷へ入ると標高1,400〜1,500mクラスの大きな山岳に3回挑む。
まずは30年ぶりのジロ登場となる1級山岳ピラ(登坂距離12.3km/平均勾配6.9%/最大15%)と2つ目の1級山岳ヴェッロニェ(距離13.8km/平均勾配7.1%/最大14%)をクリアし、最後は2級山岳コーニュ(距離22.4km/平均4.3%%/最大11%)の山頂にフィニッシュする。残り50km地点から獲得標高3,000m近くを登るという一切気の抜けないレイアウトだ。
最後の「コーニュ」は頂上に近づくほど勾配が緩くなるため、前日に比べて総合成績は動きづらい。逃げ切りにもチャンスが用意されたこの日も、当然ながら多くの選手がスタート直後からアタック合戦に加わわることとなる。
前日37歳の誕生日を過ごしたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、クイックステップ・アルファヴィニル)がグランツールのステージ300日目(合計走行距離は約55,000km)となったこの日は、スタートから7km地点でマリアローザを着たばかりのリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)をきっかけとした大きな落車が発生してしまう。カラパスは他選手と接触し、バランスを崩して肩から路肩に落ちたものの、幸い柔らかい草地だったため肩口を汚したのみ。同じく草地に落ちたサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)にも怪我はなかった。
小さな逃げグループが生まれては引き戻され、さらに小さな逃げグループが生まれては引き戻される。全く逃げが決まらないまま距離を消化し、なんと70kmを過ぎてもエスケープは容認されなかった。1級山岳ピラの手前では2つの逃げグループが合流し、ようやく28名という大集団が先行を開始した。
ステージ優勝狙い、山岳賞狙い、あるいは総合バトルを見据えた前待ち。さまざまな思惑を秘めた先頭グループは、イネオス・グレナディアーズ率いるメイン集団から4分リードで1級山岳ピラの登坂を開始する。マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)が登りでペースアップを図る中、続いて飛び出したクーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)は1分リードを稼いでピラ山頂をクリア。山岳ランキング2位につけていたボウマンは、逃げに入れなかったディエゴ・ローザ(イタリア、エオーロ・コメタ)を抜いてマリアアッズーラ奪取に成功している。
ボウマンには下り区間でファンデルプールとマーティン・トゥスフェルト(オランダ、チームDSM)が追いついたものの、直後の1級山岳ヴェッロニェではタイミングを待ったジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)が追走グループから抜け出し、サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス)、そしてアントニオ・ペドレロ(スペイン、モビスター)を従えて合流。ファンデルプールたちオランダコンビがついていくことができず、代わってクライマーコンビがレース先頭に立った。
先頭3名にはやがてヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)が、続いてトゥスフェルトが、さらにはルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)が追いつき、イネオス率いるメイン集団からは前日に遅れ、総合5位から12位まで落ちたギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)が飛び出して順位アップを目論む。こうした展開で、先頭6名がメイン集団に対して5分半リードを携え、この日最後のカテゴリー山岳である2級山岳コーニュへの登坂を開始した。
序盤ほど勾配がキツく、終盤になるほど緩やかになる2級山岳コーニュ。登録100周年を祝うイタリア最古の国立公園「グラン・パラディゾ」を登り始めるや否や、チッコーネが積極的にペースを上げた。「フィニッシュに近づくほど平坦になることが分かっていたので、急勾配の序盤区間で仕掛けた」と言うチッコーネはすぐに先頭グループを分断し、3名となってすぐにブイトラゴを千切り、さらには断続的なペースアップでカーシーさえも振り落とす。
フィニッシュまで19km。「2,3名のスプリントになれば結果はギャンブル。一人で行った方が確実に勝てる。なぜなら今日は絶好調だったから」と言うチッコーネが、19kmを残して単独先頭に立った。
独走に持ち込んだチッコーネは、それぞれ単独となって追うブイトラゴや、カーシーとの距離をぐいぐいと広げ続ける。残り10km地点で2番手ブイトラゴとの差は1分に到達し、逃げ切りへの青信号をしっかりと点らせる。一方、7分台まで開いたメイン集団では、イネオス・グレナディアーズが徹底的なペースメイクをしたため、マルタン以降飛び出しを図る選手は現れなかった。
ほぼ平坦と言える最終区間でもペースを崩さず、アウターギアを回したチッコーネがフィニッシュ地点にやってくる。ジャージとヘルメットを整え、観衆を沸かせ、勝利のトレードマークであるアイウェアを沿道に投げ込むパフォーマンスを決めてからフィニッシュライン上で右手を突き上げる。これまで不運に見舞われ続けていたチッコーネは、フィニッシュ直後、チームスタッフや報道陣に囲まれながら、感情を抑えることができなかった。
2019年ジロのモルティローロステージで勝利を挙げ、続くツール・ド・フランスではマイヨジョーヌを途中着用するも、2020年ジロは気管支炎で、2021年のジロとブエルタ・ア・エスパーニャはどちらも落車や体調不良でリタイア。コロナ感染や落車に悩まされ続けるなど苦しい期間を乗り越えて、「チッコ」が再びトップコンディションに戻ってきた。
「ようやく勝利がやってきた。今までの中で一番美しい勝利だ。ツールのマイヨジョーヌより、僕の最初のジロ区間優勝よりも美しい。3度目のステージ優勝だけど、僕にとって一番価値がある勝利になった。挑戦しても結果に繋がらない苦しい時期を過ごしたけれど、今日ようやく結果に結びついた」とチッコーネは勝利を喜ぶ。総合成績という大きな目標からは遅れたものの、ステージ優勝に狙いを切り替えた27歳が価値ある勝利を掴み取った。
この日メイン集団はイネオスに率いられたまま7分48秒遅れでフィニッシュ。その1分42秒前でフィニッシュしたマルタンは総合12位から総合10位まで順位を回復させている。
大会2週目最終盤の難関ステージ2連戦を締めくくる舞台は、スイス国境に面した山岳地帯。スタートしてから90kmは真っ平らな平坦路が続くが、アオスタ渓谷へ入ると標高1,400〜1,500mクラスの大きな山岳に3回挑む。
まずは30年ぶりのジロ登場となる1級山岳ピラ(登坂距離12.3km/平均勾配6.9%/最大15%)と2つ目の1級山岳ヴェッロニェ(距離13.8km/平均勾配7.1%/最大14%)をクリアし、最後は2級山岳コーニュ(距離22.4km/平均4.3%%/最大11%)の山頂にフィニッシュする。残り50km地点から獲得標高3,000m近くを登るという一切気の抜けないレイアウトだ。
最後の「コーニュ」は頂上に近づくほど勾配が緩くなるため、前日に比べて総合成績は動きづらい。逃げ切りにもチャンスが用意されたこの日も、当然ながら多くの選手がスタート直後からアタック合戦に加わわることとなる。
前日37歳の誕生日を過ごしたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、クイックステップ・アルファヴィニル)がグランツールのステージ300日目(合計走行距離は約55,000km)となったこの日は、スタートから7km地点でマリアローザを着たばかりのリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)をきっかけとした大きな落車が発生してしまう。カラパスは他選手と接触し、バランスを崩して肩から路肩に落ちたものの、幸い柔らかい草地だったため肩口を汚したのみ。同じく草地に落ちたサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)にも怪我はなかった。
小さな逃げグループが生まれては引き戻され、さらに小さな逃げグループが生まれては引き戻される。全く逃げが決まらないまま距離を消化し、なんと70kmを過ぎてもエスケープは容認されなかった。1級山岳ピラの手前では2つの逃げグループが合流し、ようやく28名という大集団が先行を開始した。
ステージ優勝狙い、山岳賞狙い、あるいは総合バトルを見据えた前待ち。さまざまな思惑を秘めた先頭グループは、イネオス・グレナディアーズ率いるメイン集団から4分リードで1級山岳ピラの登坂を開始する。マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)が登りでペースアップを図る中、続いて飛び出したクーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)は1分リードを稼いでピラ山頂をクリア。山岳ランキング2位につけていたボウマンは、逃げに入れなかったディエゴ・ローザ(イタリア、エオーロ・コメタ)を抜いてマリアアッズーラ奪取に成功している。
ボウマンには下り区間でファンデルプールとマーティン・トゥスフェルト(オランダ、チームDSM)が追いついたものの、直後の1級山岳ヴェッロニェではタイミングを待ったジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)が追走グループから抜け出し、サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス)、そしてアントニオ・ペドレロ(スペイン、モビスター)を従えて合流。ファンデルプールたちオランダコンビがついていくことができず、代わってクライマーコンビがレース先頭に立った。
先頭3名にはやがてヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)が、続いてトゥスフェルトが、さらにはルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)が追いつき、イネオス率いるメイン集団からは前日に遅れ、総合5位から12位まで落ちたギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)が飛び出して順位アップを目論む。こうした展開で、先頭6名がメイン集団に対して5分半リードを携え、この日最後のカテゴリー山岳である2級山岳コーニュへの登坂を開始した。
序盤ほど勾配がキツく、終盤になるほど緩やかになる2級山岳コーニュ。登録100周年を祝うイタリア最古の国立公園「グラン・パラディゾ」を登り始めるや否や、チッコーネが積極的にペースを上げた。「フィニッシュに近づくほど平坦になることが分かっていたので、急勾配の序盤区間で仕掛けた」と言うチッコーネはすぐに先頭グループを分断し、3名となってすぐにブイトラゴを千切り、さらには断続的なペースアップでカーシーさえも振り落とす。
フィニッシュまで19km。「2,3名のスプリントになれば結果はギャンブル。一人で行った方が確実に勝てる。なぜなら今日は絶好調だったから」と言うチッコーネが、19kmを残して単独先頭に立った。
独走に持ち込んだチッコーネは、それぞれ単独となって追うブイトラゴや、カーシーとの距離をぐいぐいと広げ続ける。残り10km地点で2番手ブイトラゴとの差は1分に到達し、逃げ切りへの青信号をしっかりと点らせる。一方、7分台まで開いたメイン集団では、イネオス・グレナディアーズが徹底的なペースメイクをしたため、マルタン以降飛び出しを図る選手は現れなかった。
ほぼ平坦と言える最終区間でもペースを崩さず、アウターギアを回したチッコーネがフィニッシュ地点にやってくる。ジャージとヘルメットを整え、観衆を沸かせ、勝利のトレードマークであるアイウェアを沿道に投げ込むパフォーマンスを決めてからフィニッシュライン上で右手を突き上げる。これまで不運に見舞われ続けていたチッコーネは、フィニッシュ直後、チームスタッフや報道陣に囲まれながら、感情を抑えることができなかった。
2019年ジロのモルティローロステージで勝利を挙げ、続くツール・ド・フランスではマイヨジョーヌを途中着用するも、2020年ジロは気管支炎で、2021年のジロとブエルタ・ア・エスパーニャはどちらも落車や体調不良でリタイア。コロナ感染や落車に悩まされ続けるなど苦しい期間を乗り越えて、「チッコ」が再びトップコンディションに戻ってきた。
「ようやく勝利がやってきた。今までの中で一番美しい勝利だ。ツールのマイヨジョーヌより、僕の最初のジロ区間優勝よりも美しい。3度目のステージ優勝だけど、僕にとって一番価値がある勝利になった。挑戦しても結果に繋がらない苦しい時期を過ごしたけれど、今日ようやく結果に結びついた」とチッコーネは勝利を喜ぶ。総合成績という大きな目標からは遅れたものの、ステージ優勝に狙いを切り替えた27歳が価値ある勝利を掴み取った。
この日メイン集団はイネオスに率いられたまま7分48秒遅れでフィニッシュ。その1分42秒前でフィニッシュしたマルタンは総合12位から総合10位まで順位を回復させている。
ジロ・デ・イタリア2022第15ステージ結果
1位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) | 4:37:41 |
2位 | サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス) | +1:31 |
3位 | アントニオ・ペドレロ(スペイン、モビスター) | +2:19 |
4位 | ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト) | +3:09 |
5位 | マーティン・トゥスフェルト(オランダ、チームDSM) | +4:36 |
6位 | ルーカ・コヴィッリ(イタリア、バルディアーニCSFファイザネ) | +5:08 |
7位 | ナトナエル・テスファション(エリトリア、ドローンホッパー・アンドローニ・ジョカトリ) | +5:27 |
8位 | バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) | |
9位 | ハイス・リームライゼ(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) | |
10位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | +6:06 |
マリアローザ 個人総合成績
1位 | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) | 63:06:57 |
2位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | +0:07 |
3位 | ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) | +0:30 |
4位 | ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +0:59 |
5位 | ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) | +1:01 |
6位 | ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +1:52 |
7位 | エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) | +1:58 |
8位 | ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナカザフスタン) | +2:58 |
9位 | フアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード) | +4:04 |
10位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | +8:02 |
マリアチクラミーノ ポイント賞
1位 | アルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ) | 238pts |
2位 | マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、クイックステップ・アルファヴィニル) | 121pts |
3位 | フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) | 117pts |
マリアアッズーラ 山岳賞
1位 | クーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) | 109pts |
2位 | ディエゴ・ローザ(イタリア、エオーロ・コメタ) | 92pts |
3位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | 62pts |
マリアビアンカ ヤングライダー賞
1位 | ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) | 63:07:27 |
2位 | フアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード) | +3:34 |
3位 | テイメン・アレンスマン(オランダ、チームDSM) | +11:17 |
チーム総合成績
1位 | ボーラ・ハンスグローエ | 189:24:11 |
2位 | バーレーン・ヴィクトリアス | +1:02 |
3位 | アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ | +11:49 |
text:So Isobe
photo:CorVos
photo:CorVos
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