2009/02/24(火) - 11:34
ヨーロッパでプロとして5年目を迎えたフミこと別府史之。折しも所属するスキル・シマノが今年のツール・ド・フランスに招待されたと朗報を受け取ったばかりの3月中旬は、彼が勝負をかける北のクラシックレースの開催直前だ。
ロンド・ファン・フラーンデレン、ヘント~ウェベルヘム、そしてパリ~ルーベに代表される北のクラシックを前に、今フミが思うところを聞いた。これまでにない好コンディションをキープしているというフミが語る、北のクラシックのプレステージ。難しさ、走り方、そして将来とは。
ースキル・シマノでの2年目のシーズン、ここまで約15レースを走っての手応えは?
フミ:本来はカタールからレースを始める予定だったけれど、今年は南フランスのレースからスタートすることで、ちょっといつとも違うシーズンインにしました。
GPマルセイエーズ、ベセージュ、メディテラニアン、オートヴァー、ヘットニュースブラッド、西フランドル3日間…。悪くない数のレースを走って、4月にむけて順調なスタートが切れたんじゃないかなと思っています。ただ、シーズンはじめはもっと走れるんじゃないか、という気持ちの焦りがちょっとあって、普段と違うことをやっていたかな、というのが反省点ですね。
ーでは、今挙げてもらったここまでのレースをざっと振り返ってみてもらいたいと思います。まずはGPマルセイエーズ。ヨーロッパのシーズンインを告げるレースですが、今年が初めての参戦ですね。昔の地元のレースです。優勝はレミ・ポリオル(コフィディス)、彼はフミのアマ時代のチームメイトですね。
フミ:彼は今もよく話す選手のひとりなんだけど、彼も僕もよく道を知っているし、どんなレース展開になるかもわかってたんです。自分も序盤から逃げてたんですが、そこにレミもいて。集団もその逃げを容認はできなかったみたいで潰されてしまいましたけど。でもレース自体は気持ちよく走れて、いいレース初めになったかな。
ー次戦のベセージュは対照的に辛いレースになったみたいですね。
フミ:そう、雨が降ってたりしてコースも荒れて、気分的にも参っちゃった。ちょっとだけ体調も崩してしまって。
ー続いてのメディテラニアンは?
地中海は、初日のTTTでそんなに順位が悪くなったし、他のステージも好感触で走れたんですが、逃げに乗れなかったことで差が出てしまったかな、という感じですね。でも気持ちはあがってきた。
ーそして北のクラシックに近いレース、ヘットニュースブラッド(旧ヘットフォルク)を迎えます。これはメイン集団でゴール。
フミ:パヴェ区間も普通にこなせたし、まったく苦ではなかった。ここなら勝負できるんじゃないか、という感触をつかめました。
ー3月の上旬に西フランドル3日間。このレースは積極的に逃げを試みたようですね。
フミ:うーん…毎日逃げようとしてうまく決まらなくて、ちょっと滅入ってたところもあったんですけど。ニュースブラッドだけは集団で待機、という走り方をしたんですけど、それ以外マルセイエーズからここまでずっと、成績を狙うために逃げる走りをしていたんです。ただ結果に結びつかなかった。今思うと、みんなが疲れてるときにこそアタックしないといけなかった。モチベーションが高すぎてアタックするタイミングを待てなかったかな…。みんながフレッシュな序盤にアタックしても、みんな元気だから決まりにくい。
ー西フランドルが終ってからは少しレースの無い日が続いていますね
フミ:その間はオランダのマーストリヒト近郊でチームのトレーニングキャンプをやって、だいぶ乗り込んでました。
ーでは、今の感触は良い?
フミ:今、すっごいイイですよ!今までに無いくらい。「脱出」できた。間違いないよ(笑)今までは練習してて回転数が70~80回転くらいだったのが、最近は110回転とか回せるようになっている。
ーコンディションは絶好調と言ってもいい?
フミ:ちょっと早すぎるけど…でも4月のことを考えたらあっという間にクラシックもやってくるし、早すぎるということもないかな。それまでにまだ22日、25日(ドワーズ・ドア・フラーンデレン)、28日(E3プライス・フラーンデレン)、29日(ブラバンツ・ペイル)と、いいレースがあるから、それらを走れば4月の北のクラシックに向けていいコンディションで臨めそうですね。あとは自分の気持ちの問題です。
ーこの絶好調のコンディションとはどれくらい続くものなのでしょう?
フミ:1ヶ月。だからここで頑張りすぎちゃうとその後アップアップになっちゃう危険もあるけど。でも大丈夫。今は気分も乗ってきてるからいい兆候。ホントはパリ~ニースも走りたかったけど、気分(メンタル)がかみ合ってなかったから難しかったかな。
ーオランダ合宿はキツかった?
フミ:この時点でコンディションが良かったからキツかったということはないですね。ほんとに調子がよくて今SRMを取り入れたトレーニングでも2、3分間は平均600Wとか普通に出ていた。調子は悪くないですね。
ー合宿時の体調のよさと、合宿で乗り込んだことで上がってきた精神面が合わさって今の好コンディションが生まれたのでしょうか?
フミ:フィジカル面での問題もあったけど、それよりもメンタル面での問題が大きかった。西フランドル3日間の時にも体は動いたけど、うまく走れないというメンタルの部分での葛藤があった。その葛藤は今、自分が自転車に乗っている意味を整理して考える時期でもあって、そこでプロになった時の心境を思い出したんです。
『最近の僕は本当に戦っていたのか』って自問しながら。ヨーロッパでプロの自転車選手として飯を食いたい。そのために、欲しいものは戦ってでも掴み取らなきゃいけないんだって気持ちが出てきた。それには行動しなきゃいけなくて、トレーニングして気持ちを上げていった。一回や二回の失敗でメゲてちゃ駄目だなって思えるようになりました。
ーフランドル、パリ~ルーベに代表される「北のクラシック」。フミはもうプロ生活の中で経験しているけれど、どんなところが他のレースと違いますか?
フミ:ベルギーの最高峰のレース、フランドル(フランドル一周/ロンド・ファン・フラーンデレン)というのは、やっぱり特別です。レースの日には、ベルギーの人口が増えるとか(笑)。多くの人がレースを見に来るからベルギーが人で溢れ返ると言われているんです。
あのランス(・アームストロング)も出たい!って渇望して、そのキャリアの最後に出場したんですけど、その時はもうそこかしこのカフェは人で溢れて、みんな「ランスが来るぞ!見に行こうぜ!」って。
北ベルギーの選手はみんなフランドルに憧れて自転車選手になるってくらい魅力的なレースなんです。すごい厳しいレースだけれど、その厳しさの中に誇りがあるというか…。
ーフミは秋口のクラシックではいい成績を残している(08年ヴァッテンフォール・サイクラシックス16位)けれど、選手として走ってみてそうしたドイツやフランスのワンデイレースと比べて北のクラシックに特徴的なところはありますか?
フミ:ワンデイクラシック全体に言えることかもしれないけれど、「勝負どころ」というのが確実にあるところですね。坂の手前とか、ポイントで集中力を使うところがある。ステージレースだと、勝負所は山岳ステージだったりしてクラシックほど一瞬の集中力を問われない。クラシックだとそのコーナー、その上り口で前にいないとアウト。その時点で試合終了になっちゃう。常に「ここは自分の場所だ、誰にも譲らない」って前を陣取らなきゃいけないんです。フィジカルにもメンタルにも張りつめていないと駄目ですね。
ーいよいよ北のクラシックが始まります。今年はどんな走りをしたいですか? 目指すものは?
フミ:25日(ドワーズ・ドア・フラーンデレン)と28日(E3プライスフラーンデレン)は逃げを狙う攻める走りをしたい。逆にフランドルやビッグレースは終盤の勝負どころまで待ちたいと思っています。でもフランドルと同じようなメンバーが揃う25日と28日を走ってレース展開を見てみて、序盤から逃げるのがいいか、終盤まで残すのがいいのが見極めたいです。
年と走るメンバーによってレースの進み方は変わるので、先に逃げておいて、追いつかれてスプリントに持ち込むように走るとか、パヴェには先に入るようにするとか、その傾向を掴んでおきたいですね。
ー北のクラシックを代表する3つのレース、フランドル、ヘント~ウェベルヘム、パリ~ルーベについて伺いたいと思います。パリ~ルーベはエスポワール時代の活躍(04年13位)が知られるところですが、昨年は不運なアクシデントで遅れを取ったフランドル、フミはこのレースをどう捉えていますか?
フミ:この3つのレースで言えば、レベル的に一番厳しいのはフランドルでしょうね。
ーパリ~ルーベよりも?
フミ:パリ~ルーベより。フランドルはパリ~ルーベよりテクニックが要る。パリ~ルーベは耐えて走る力、ー我慢強さというかー、が必要になる。そういった意味でフランドルは僕にはちょっと難しいレースになる。ただフランドルに関して言えば水モノ、と言うか場所取りの激しさやその他不確定要素が多い。でもクイックステップやサイレンスといった他のチームが足を使う分、スキル・シマノは気張らなくて済むし、終盤まで足を温存して集団に残ることがポイントになってくると思います。去年走りきれなかったのはペテルベルクって言う激坂で集団から離れてしまっていたから。でも今までの経験上、そこさえ越えられればいけると思う。今度のドワーズとE3はフランドルと同じところを上るから、それで今の自分のコンディションもわかるし、どこで動けるかもそれらセミクラシックで試せると思う。それに脚質が去年と違う。そのために今までと違ったトレーニングをしてきたし、こなせるとは思う。
ー今までと違うトレーニングとは、具体的には?
フミ:ウェイトトレーニングを多くして筋肉量を増やすようにしてきた。パワーをもっと出せるように。ボディバランスも変わってきて、もっとしっかりペダルを踏めるようになってきています。クラシックのための肉体改造、と言えるかもしれません。
ーヘント~ウェベルヘムについては?
フミ:これは得意なレース。終盤にケメルベルクという上りがあって、去年から下りが石畳じゃなくなって、舗装路になったことで走りやすくなった。レースはそこを2回上るけど、去年はその2回目の上りで先頭の20人の中に自分はいた。結局後からきたグループに追いつかれてしまったけれど、それくらい自分は上れるっていう実感を去年のレースで持ったんです。あとは最後のスプリントにむけてどう動くかが問題ですね。去年は最後に前に出ることができずに、39位。今年はそこで違う動きをしてみたい。
ーそして北のクラシックの最終戦、パリ~ルーベにかける想いを聞かせてください。
フミ:ツール・ド・フランスも有名だけれど、自分の中ではパリ~ルーベは特別。このレースを好きな人って世界中にいっぱいいると思うけど、僕は観ているのが楽しいんじゃなくて、乗ってる方が楽しい。よくテレビでパリ~ルーベを観てて、「うわぁ、これ観てる分にはいいけど走りたくねぇなぁ~」って声を聞くけど、僕はテレビを見てると逆に走りたくなっちゃう(笑)。
普通に走ったら路面はガタガタで嫌だなぁって思うかもしれないけれど、レースで走ってると楽しくなっちゃうんですよね。それぐらい自分の中でも気持ちが上がって楽しめるレースですね。このレースもアクシデントが多いけれど、運も実力のうちというか…これは言いたくないけど。チャンスをつかんでこその勝者だし、ベストを尽くしてこの3連戦を走りたいですね。
ーパリ~ルーベのエスポワールでは好成績を残していますが、そしてプロのパリ~ルーベはすでに2007年に走られていますが、プロとアマチュアの違いは感じますか?
フミ:コース的にはあんまり変わりはないですよね。距離が伸びたことくらいかな…。基本的にはやることは一緒です。07年はアシストとしての出場だったから、今年はスキルという強いチームを得て、自分のために走れるという意味では今年が初めてということになるのかな。
ー今名前が出てきましたが、スキル・シマノというチームについて伺います。今年はフランス人選手も多く加入してまたチームの雰囲気が変わったと思うのですが、今期のスキル、どんなチームでしょうか?
フミ:とっても楽しい!(笑) ジョナタン・イヴェールやシリル(・ルモワンヌ)は笑える奴らで。若い選手でね。シリルは同い年だけど。
春先はよくスプリントトレーニングをしていたんですが、ジョナタンに勝ったのは僕だけ。トム・フィーラーズなんかは5回やって5敗。僕は4勝1敗で、ジョナタンはスゲー悔しがってた(笑)。なんでこんなに悔しがってるんだろうって。でもGPマルセイエーズからパリ~ニースまで大活躍で、その走りを見て『彼は違うな』と思った。
ー今年のツールにスキル・シマノが出場を決めたのも、ジョナタン・イヴェールのパリ~ニースの走りがあったからでしょうね。
フミ:それがほとんどでしょうね。他の選手も一生懸命走っていたけれど、ジョナタンのアグレッシブな走りが評価されたんだと思う。
ーイヴェールはパリ~ニースでもスプリントでステージ2位になりましたが、そのジョナタンよりもフミがスプリントで強いとなると…。
フミ:いや、でもトレーニングの短いスプリントとレースのスプリントはまた違うんですよね。僕は15秒スプリントなら他の選手より強いと思う。ただレースでのスプリントになると何かが足りないというか…。申し訳ない話なんですが(笑)。
ーやはりレースの展開の中でスプリントをすることは難しいんですね。
フミ:ジョナタンも純粋なスプリンターってわけじゃない。パリ~ニースのステージ2位の時も小集団のスプリントだったし。でも他の選手をずいぶん離していたのには驚かされた。
ーチームはフミを北のクラシックではエースとして走らせる?
フミ:エースというより、チームオーダーはフリーだと思う。誰が終盤まで残れるかわからないし、うちは誰か一人のためにみんなが働くというチームではないから。スタートの時点で誰がエースと言うことはない。その分、誰にでもチャンスがある。
ー別府史之という選手にとって、将来的に北のクラシックというレースはどんな位置づけのレースになってくるのでしょう?
フミ:自分にとって、ここで始めないとシーズン中盤・後半も戦えないレース。それが春のクラシック。そしてやっぱり一番熱がこもってるのはここだと思う。外は寒いけど(笑)、集団の中はほんとに熱い。ツール・ド・フランスなんかは夏の暑い中走るから物理的に熱いけど、北のクラシックは泥だらけになっても、傷だらけになっても走り続ける男と男の力のぶつかり合い。
自分もそこで戦いたい、負けたくない!って思うようなレース。落車がなんだ、悪路がなんだ、それでも戦うのが男なんじゃないか。そんな意志をもって、自分に壁を作らずに走っていたいレースですね。あと何年自転車できるんだろうって考えたら、もうすでにそう長くはない。現役はまだ出来るとしても、ほんとにヨーロッパの舞台で勝負できる年はそんなに多いわけじゃないから、1年1年本気で勝負して行かないと手遅れになる。
ーそしてその戦う舞台、北のクラシックが待っています。
時期もぴったりで、モチベーションは高まっています。そしてその先にツール・ド・フランスもある。もし走れるのなら走りたいし、そのためにもクラシックで成績を出したい。ケガが怖いなんて言っていられない。戦うだけです。
<後編に続く>
interviewer:Yufta Omata
ロンド・ファン・フラーンデレン、ヘント~ウェベルヘム、そしてパリ~ルーベに代表される北のクラシックを前に、今フミが思うところを聞いた。これまでにない好コンディションをキープしているというフミが語る、北のクラシックのプレステージ。難しさ、走り方、そして将来とは。
ースキル・シマノでの2年目のシーズン、ここまで約15レースを走っての手応えは?
フミ:本来はカタールからレースを始める予定だったけれど、今年は南フランスのレースからスタートすることで、ちょっといつとも違うシーズンインにしました。
GPマルセイエーズ、ベセージュ、メディテラニアン、オートヴァー、ヘットニュースブラッド、西フランドル3日間…。悪くない数のレースを走って、4月にむけて順調なスタートが切れたんじゃないかなと思っています。ただ、シーズンはじめはもっと走れるんじゃないか、という気持ちの焦りがちょっとあって、普段と違うことをやっていたかな、というのが反省点ですね。
ーでは、今挙げてもらったここまでのレースをざっと振り返ってみてもらいたいと思います。まずはGPマルセイエーズ。ヨーロッパのシーズンインを告げるレースですが、今年が初めての参戦ですね。昔の地元のレースです。優勝はレミ・ポリオル(コフィディス)、彼はフミのアマ時代のチームメイトですね。
フミ:彼は今もよく話す選手のひとりなんだけど、彼も僕もよく道を知っているし、どんなレース展開になるかもわかってたんです。自分も序盤から逃げてたんですが、そこにレミもいて。集団もその逃げを容認はできなかったみたいで潰されてしまいましたけど。でもレース自体は気持ちよく走れて、いいレース初めになったかな。
ー次戦のベセージュは対照的に辛いレースになったみたいですね。
フミ:そう、雨が降ってたりしてコースも荒れて、気分的にも参っちゃった。ちょっとだけ体調も崩してしまって。
ー続いてのメディテラニアンは?
地中海は、初日のTTTでそんなに順位が悪くなったし、他のステージも好感触で走れたんですが、逃げに乗れなかったことで差が出てしまったかな、という感じですね。でも気持ちはあがってきた。
ーそして北のクラシックに近いレース、ヘットニュースブラッド(旧ヘットフォルク)を迎えます。これはメイン集団でゴール。
フミ:パヴェ区間も普通にこなせたし、まったく苦ではなかった。ここなら勝負できるんじゃないか、という感触をつかめました。
ー3月の上旬に西フランドル3日間。このレースは積極的に逃げを試みたようですね。
フミ:うーん…毎日逃げようとしてうまく決まらなくて、ちょっと滅入ってたところもあったんですけど。ニュースブラッドだけは集団で待機、という走り方をしたんですけど、それ以外マルセイエーズからここまでずっと、成績を狙うために逃げる走りをしていたんです。ただ結果に結びつかなかった。今思うと、みんなが疲れてるときにこそアタックしないといけなかった。モチベーションが高すぎてアタックするタイミングを待てなかったかな…。みんながフレッシュな序盤にアタックしても、みんな元気だから決まりにくい。
ー西フランドルが終ってからは少しレースの無い日が続いていますね
フミ:その間はオランダのマーストリヒト近郊でチームのトレーニングキャンプをやって、だいぶ乗り込んでました。
ーでは、今の感触は良い?
フミ:今、すっごいイイですよ!今までに無いくらい。「脱出」できた。間違いないよ(笑)今までは練習してて回転数が70~80回転くらいだったのが、最近は110回転とか回せるようになっている。
ーコンディションは絶好調と言ってもいい?
フミ:ちょっと早すぎるけど…でも4月のことを考えたらあっという間にクラシックもやってくるし、早すぎるということもないかな。それまでにまだ22日、25日(ドワーズ・ドア・フラーンデレン)、28日(E3プライス・フラーンデレン)、29日(ブラバンツ・ペイル)と、いいレースがあるから、それらを走れば4月の北のクラシックに向けていいコンディションで臨めそうですね。あとは自分の気持ちの問題です。
ーこの絶好調のコンディションとはどれくらい続くものなのでしょう?
フミ:1ヶ月。だからここで頑張りすぎちゃうとその後アップアップになっちゃう危険もあるけど。でも大丈夫。今は気分も乗ってきてるからいい兆候。ホントはパリ~ニースも走りたかったけど、気分(メンタル)がかみ合ってなかったから難しかったかな。
ーオランダ合宿はキツかった?
フミ:この時点でコンディションが良かったからキツかったということはないですね。ほんとに調子がよくて今SRMを取り入れたトレーニングでも2、3分間は平均600Wとか普通に出ていた。調子は悪くないですね。
ー合宿時の体調のよさと、合宿で乗り込んだことで上がってきた精神面が合わさって今の好コンディションが生まれたのでしょうか?
フミ:フィジカル面での問題もあったけど、それよりもメンタル面での問題が大きかった。西フランドル3日間の時にも体は動いたけど、うまく走れないというメンタルの部分での葛藤があった。その葛藤は今、自分が自転車に乗っている意味を整理して考える時期でもあって、そこでプロになった時の心境を思い出したんです。
『最近の僕は本当に戦っていたのか』って自問しながら。ヨーロッパでプロの自転車選手として飯を食いたい。そのために、欲しいものは戦ってでも掴み取らなきゃいけないんだって気持ちが出てきた。それには行動しなきゃいけなくて、トレーニングして気持ちを上げていった。一回や二回の失敗でメゲてちゃ駄目だなって思えるようになりました。
ーフランドル、パリ~ルーベに代表される「北のクラシック」。フミはもうプロ生活の中で経験しているけれど、どんなところが他のレースと違いますか?
フミ:ベルギーの最高峰のレース、フランドル(フランドル一周/ロンド・ファン・フラーンデレン)というのは、やっぱり特別です。レースの日には、ベルギーの人口が増えるとか(笑)。多くの人がレースを見に来るからベルギーが人で溢れ返ると言われているんです。
あのランス(・アームストロング)も出たい!って渇望して、そのキャリアの最後に出場したんですけど、その時はもうそこかしこのカフェは人で溢れて、みんな「ランスが来るぞ!見に行こうぜ!」って。
北ベルギーの選手はみんなフランドルに憧れて自転車選手になるってくらい魅力的なレースなんです。すごい厳しいレースだけれど、その厳しさの中に誇りがあるというか…。
ーフミは秋口のクラシックではいい成績を残している(08年ヴァッテンフォール・サイクラシックス16位)けれど、選手として走ってみてそうしたドイツやフランスのワンデイレースと比べて北のクラシックに特徴的なところはありますか?
フミ:ワンデイクラシック全体に言えることかもしれないけれど、「勝負どころ」というのが確実にあるところですね。坂の手前とか、ポイントで集中力を使うところがある。ステージレースだと、勝負所は山岳ステージだったりしてクラシックほど一瞬の集中力を問われない。クラシックだとそのコーナー、その上り口で前にいないとアウト。その時点で試合終了になっちゃう。常に「ここは自分の場所だ、誰にも譲らない」って前を陣取らなきゃいけないんです。フィジカルにもメンタルにも張りつめていないと駄目ですね。
ーいよいよ北のクラシックが始まります。今年はどんな走りをしたいですか? 目指すものは?
フミ:25日(ドワーズ・ドア・フラーンデレン)と28日(E3プライスフラーンデレン)は逃げを狙う攻める走りをしたい。逆にフランドルやビッグレースは終盤の勝負どころまで待ちたいと思っています。でもフランドルと同じようなメンバーが揃う25日と28日を走ってレース展開を見てみて、序盤から逃げるのがいいか、終盤まで残すのがいいのが見極めたいです。
年と走るメンバーによってレースの進み方は変わるので、先に逃げておいて、追いつかれてスプリントに持ち込むように走るとか、パヴェには先に入るようにするとか、その傾向を掴んでおきたいですね。
ー北のクラシックを代表する3つのレース、フランドル、ヘント~ウェベルヘム、パリ~ルーベについて伺いたいと思います。パリ~ルーベはエスポワール時代の活躍(04年13位)が知られるところですが、昨年は不運なアクシデントで遅れを取ったフランドル、フミはこのレースをどう捉えていますか?
フミ:この3つのレースで言えば、レベル的に一番厳しいのはフランドルでしょうね。
ーパリ~ルーベよりも?
フミ:パリ~ルーベより。フランドルはパリ~ルーベよりテクニックが要る。パリ~ルーベは耐えて走る力、ー我慢強さというかー、が必要になる。そういった意味でフランドルは僕にはちょっと難しいレースになる。ただフランドルに関して言えば水モノ、と言うか場所取りの激しさやその他不確定要素が多い。でもクイックステップやサイレンスといった他のチームが足を使う分、スキル・シマノは気張らなくて済むし、終盤まで足を温存して集団に残ることがポイントになってくると思います。去年走りきれなかったのはペテルベルクって言う激坂で集団から離れてしまっていたから。でも今までの経験上、そこさえ越えられればいけると思う。今度のドワーズとE3はフランドルと同じところを上るから、それで今の自分のコンディションもわかるし、どこで動けるかもそれらセミクラシックで試せると思う。それに脚質が去年と違う。そのために今までと違ったトレーニングをしてきたし、こなせるとは思う。
ー今までと違うトレーニングとは、具体的には?
フミ:ウェイトトレーニングを多くして筋肉量を増やすようにしてきた。パワーをもっと出せるように。ボディバランスも変わってきて、もっとしっかりペダルを踏めるようになってきています。クラシックのための肉体改造、と言えるかもしれません。
ーヘント~ウェベルヘムについては?
フミ:これは得意なレース。終盤にケメルベルクという上りがあって、去年から下りが石畳じゃなくなって、舗装路になったことで走りやすくなった。レースはそこを2回上るけど、去年はその2回目の上りで先頭の20人の中に自分はいた。結局後からきたグループに追いつかれてしまったけれど、それくらい自分は上れるっていう実感を去年のレースで持ったんです。あとは最後のスプリントにむけてどう動くかが問題ですね。去年は最後に前に出ることができずに、39位。今年はそこで違う動きをしてみたい。
ーそして北のクラシックの最終戦、パリ~ルーベにかける想いを聞かせてください。
フミ:ツール・ド・フランスも有名だけれど、自分の中ではパリ~ルーベは特別。このレースを好きな人って世界中にいっぱいいると思うけど、僕は観ているのが楽しいんじゃなくて、乗ってる方が楽しい。よくテレビでパリ~ルーベを観てて、「うわぁ、これ観てる分にはいいけど走りたくねぇなぁ~」って声を聞くけど、僕はテレビを見てると逆に走りたくなっちゃう(笑)。
普通に走ったら路面はガタガタで嫌だなぁって思うかもしれないけれど、レースで走ってると楽しくなっちゃうんですよね。それぐらい自分の中でも気持ちが上がって楽しめるレースですね。このレースもアクシデントが多いけれど、運も実力のうちというか…これは言いたくないけど。チャンスをつかんでこその勝者だし、ベストを尽くしてこの3連戦を走りたいですね。
ーパリ~ルーベのエスポワールでは好成績を残していますが、そしてプロのパリ~ルーベはすでに2007年に走られていますが、プロとアマチュアの違いは感じますか?
フミ:コース的にはあんまり変わりはないですよね。距離が伸びたことくらいかな…。基本的にはやることは一緒です。07年はアシストとしての出場だったから、今年はスキルという強いチームを得て、自分のために走れるという意味では今年が初めてということになるのかな。
ー今名前が出てきましたが、スキル・シマノというチームについて伺います。今年はフランス人選手も多く加入してまたチームの雰囲気が変わったと思うのですが、今期のスキル、どんなチームでしょうか?
フミ:とっても楽しい!(笑) ジョナタン・イヴェールやシリル(・ルモワンヌ)は笑える奴らで。若い選手でね。シリルは同い年だけど。
春先はよくスプリントトレーニングをしていたんですが、ジョナタンに勝ったのは僕だけ。トム・フィーラーズなんかは5回やって5敗。僕は4勝1敗で、ジョナタンはスゲー悔しがってた(笑)。なんでこんなに悔しがってるんだろうって。でもGPマルセイエーズからパリ~ニースまで大活躍で、その走りを見て『彼は違うな』と思った。
ー今年のツールにスキル・シマノが出場を決めたのも、ジョナタン・イヴェールのパリ~ニースの走りがあったからでしょうね。
フミ:それがほとんどでしょうね。他の選手も一生懸命走っていたけれど、ジョナタンのアグレッシブな走りが評価されたんだと思う。
ーイヴェールはパリ~ニースでもスプリントでステージ2位になりましたが、そのジョナタンよりもフミがスプリントで強いとなると…。
フミ:いや、でもトレーニングの短いスプリントとレースのスプリントはまた違うんですよね。僕は15秒スプリントなら他の選手より強いと思う。ただレースでのスプリントになると何かが足りないというか…。申し訳ない話なんですが(笑)。
ーやはりレースの展開の中でスプリントをすることは難しいんですね。
フミ:ジョナタンも純粋なスプリンターってわけじゃない。パリ~ニースのステージ2位の時も小集団のスプリントだったし。でも他の選手をずいぶん離していたのには驚かされた。
ーチームはフミを北のクラシックではエースとして走らせる?
フミ:エースというより、チームオーダーはフリーだと思う。誰が終盤まで残れるかわからないし、うちは誰か一人のためにみんなが働くというチームではないから。スタートの時点で誰がエースと言うことはない。その分、誰にでもチャンスがある。
ー別府史之という選手にとって、将来的に北のクラシックというレースはどんな位置づけのレースになってくるのでしょう?
フミ:自分にとって、ここで始めないとシーズン中盤・後半も戦えないレース。それが春のクラシック。そしてやっぱり一番熱がこもってるのはここだと思う。外は寒いけど(笑)、集団の中はほんとに熱い。ツール・ド・フランスなんかは夏の暑い中走るから物理的に熱いけど、北のクラシックは泥だらけになっても、傷だらけになっても走り続ける男と男の力のぶつかり合い。
自分もそこで戦いたい、負けたくない!って思うようなレース。落車がなんだ、悪路がなんだ、それでも戦うのが男なんじゃないか。そんな意志をもって、自分に壁を作らずに走っていたいレースですね。あと何年自転車できるんだろうって考えたら、もうすでにそう長くはない。現役はまだ出来るとしても、ほんとにヨーロッパの舞台で勝負できる年はそんなに多いわけじゃないから、1年1年本気で勝負して行かないと手遅れになる。
ーそしてその戦う舞台、北のクラシックが待っています。
時期もぴったりで、モチベーションは高まっています。そしてその先にツール・ド・フランスもある。もし走れるのなら走りたいし、そのためにもクラシックで成績を出したい。ケガが怖いなんて言っていられない。戦うだけです。
<後編に続く>
interviewer:Yufta Omata
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