2022/02/03(木) - 18:10
スペインを拠点とするベネズエラ籍のコンチネンタルチーム「ハバ・キウィ・アトランティコ」に移籍した石原悠希と小山智也にインタビュー。2人がワールドチームと共に出場したスペインのシーズン開幕レースや、日本のレースとの違いについて語ってくれた。
チーム右京相模原から今年ハバ・キウィ・アトランティコに移籍した石原悠希と小山智也は、ワールドチームもシーズン初戦として出走したクラシカ・コムニタ・バレンシアナ(UCI.1.2)と、5つのワンデーレースが連なるチャレンジマヨルカ(UCI.1.1)の3レースに出場。1月30日に行われたトロフェオ・プラヤデパルマ〜パルマから一夜明け、マヨルカ島からスペイン本土に移動してきた直後の2人に話を聞いた。
― 出場した4つのレースを振り返っていかがでしたか?
小山智也:とにかく"全部が速い"っていう感じでした。
石原悠希:登りが速いのは想像していたのですが…。
小山:平坦と下りもとんでもない速さなので驚きました。少しでも本気で踏まれると到底太刀打ちできない登りは予想していたのですが、下りはついてはいけるけど”とにかく速い”という印象で、その驚きの方が大きかったです。
特に平坦と下りはTVでヨーロッパのレースを観て思っていた2、3倍は速く、ツールとかではないただの(1クラスの)レースですらこんなに速いなんて…(驚きました)。
ー チャレンジマヨルカの中でも出場されたトロフェオ・カルビアとトロフェオ・セッラ・デ・トラムンターナはカテゴリー山岳が連続するコースでした。
小山:登りに入ると集団は一列棒状になって、そこへ集団後方で入ってしまったら終わりという感じでした。その一方で集団前方もワールドチームが固めているので上がっていくのは不可能でした。
石原:頑張って真ん中ぐらいから登りに入って、ギリギリ最後尾で登り切れればいいなと…
小山:それでも奇跡が起きればの話だけどね笑。
― 4戦のうち、最も手応えのあったレースは?
石原:初戦のバレンシアです。トラブルで補給が取れず、残り5kmでハンガーノックになって76位でフィニッシュしたのですが、それがなければもっと上の順位に行けたと思います。悔しさもあるのですが、同時に希望も感じました。
小山:1番良かったのは身体がレースに慣れてきた最終日(トロフェオ・プラヤデパルマ〜パルマ)です。でも逆に初戦は全然ダメで、日本から飛行機で30時間かけて拠点のビーゴに行き、そこからバレンシアまで10時間のバス移動。まともに自転車に乗れない状態で、しかもスタート直後から30〜40分ほどの登りがあったので良い感覚で走ることができませんでした。
チームは所属する11人のうちスペイン人は2人ながら、監督含めスタッフ全員がスペイン人。また生活の拠点もスペイン北西部のビーゴにあることから言語面での苦労は無いのだろうか。
― チームの共通言語であるスペイン語はどれぐらい話せますか?
小山:ほぼ皆無に近いですね。いままでのチームでは英語を使っていたので、いまは困ったらスマホのGoogle翻訳を見せつけています笑。
石原:最初の話ではチームでは全部英語が通じるということだったんですが、こっちに来てみたらすべての会話がスペイン語でした。アメリカ人やキプロス人選手がいるので英語でもコミュニケーションは取れますが、スペイン語しか話せない選手もいるので、正直大変ですね。
― 今回感じた日本とのレースの違いは何でしょうか?
石原:1番はやはりコースの作り方ですね。コースの違いによるレース展開のギャップがあまりにも大き過ぎる。自分がもし日本でそういうレースにもっと慣れていたらもっと違った結果になったんじゃないかなと思いますし、もし欧州のレースで日本人を活躍させたいなら、こっちに近い環境のレースを走らせた方がいいのではないかとも思います。
小山:こちらのレースは登りがとにかく長いです。日本のレースで長い登りと言っても最大で20分ぐらいしか登らないのに対し、こっちのレースはそれが何本も現れる。乗鞍とか富士ヒルクライムがコース上に4つ出てくるっていう感じです。(チャレンジマヨルカで)リタイアして回収車でフィニッシュまでの道をトレースして走るじゃないですか。悔しいなと思いながら乗ってるんですけど、「これはどっちみち無理だったな」って思いました笑。
それに日本のレースと(求められる)脚質が全然違うので、周回コースの「一瞬踏んで、一瞬止めて」というレースばかりに慣れていると、(欧州のラインレースは)ちょっとキツいかもしれないですね。
ー 今回のレースで”自分のここは通用する”と思った点を教えて下さい。
石原:獲得標高が3000m近くになったら厳しいけど、1500m以下だったらなんとか(集団で)走れると思いました。
小山:ワールドチームがプロトンをコントロールしてくれれば登り2〜3本は行けるかもしれないですけど、本気で踏まれたら想像を越えるレベルでついてけませんね。でも逆に昨日(トロフェオ・プラヤデパルマ〜パルマ)の平坦コースは速かったですけど、いまの力でも走れると思えました。
ー 小山選手はチャレンジマヨルカの初日で落車したとSNSに投稿していましたが、どのような状況だったのでしょうか?
小山:登りで遅れたので、下りをダッシュして追いかけようと思ったらコースがわからずクラッシュしました。
石原:チャレンジマヨルカでは道幅が狭いのにもかからず、集団も選手たちがギチギチに密集しているので(集団のスピードが速く)落車が多発していました。
小山:みんな転んでいくので運ゲー(誰が落車するかは運次第)でしたね。
石原:チャレンジマヨルカだけで目の前で4、5回落車に遭遇して、その選手に接触しながら何とか落車を免れたこともありました。奇跡的に落車はなかったですが、かなり怖かったですね。
小山:急に道が狭くなったり、市街地の中をあんなハイスピードで走行するのは日本ではないので。スピードバンプ(車に減速を促す道路上の隆起)もみんなピョンピョン飛んでいるけど、あのスピードだと少しでもタイミングを誤ったらそのまま飛んでいってしまう。集団の中で見えないときもありますし。
ー 石原選手と小山選手はそれぞれレース直後に詳細なレースレポート(石原、小山)を書かれています。どんな意識で書かれているのですか?
石原:自分から少しでも発信しないと自分が何をやっているのか周りに知ってもらえないので。もったいないというか”発信しなければ”という思いでやっています。
小山:自分は元々カメラや文章を書くのが小さい頃から好きだったので(ブログを)書くことは苦ではないのですが、日本と時差があるので書いた文章をどのタイミングで投稿するかは頭を悩ませています。インスタも投稿する時間帯によって反応が違うので。
あと、石原さんに書いた文章の添削を頼まれています。いつも改行を全くしない呪文のような文章が送られてくるんですけどね笑。
ー 投稿の中で、小山選手はアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)とのツーショットを投稿していました。やはり同じスプリンターとして意識する選手の1人ですか?
小山:そうですね。他にもマヨルカでは山岳が厳しいかったので、登りで遅れそうなワールドチームのスプリンターを何人かピックアップして、彼らがどう登りをこなしていくのかをずっと見ていました。
ー クリストフ選手もその中の1人だったと?
小山:はい。他には(パスカル)アッカーマン選手や、元々チーム右京で今はトレックにいるジョン・アベラストゥリ選手などを観察していました。クリストフ選手にはレース期間中の回復走でたまたま出会い、写真を撮ってもらいました。
石原:僕は欧州のレースに出場して、(新城)幸也選手や別府選手に対する考えが大きく変わりました。全く同じではないにせよワールドチームと同じレースを走ってみて、そこで走る選手たちがどれだけ凄いことをしているのかをしみじみ感じました。
小山:僕は元々自転車レースのファンなので、有名な外国人選手を見るとその度に石原さんに伝えるぐらい”かっこいい”なと思っています。でもやはり幸也さんがこんな奴らと一緒に走って、あんだけ仕事して、あの成績を残しているのかと思うと、自分はまだまだ足元にも及ばないなと思います。(レースの新城選手は)一緒に練習で走っているよりもっと”ヤバいんだ”ということがわかりました。
石原:しかも、そのとてつもない選手たちに新城選手は認められているわけなので、本当にすごいと改めて思わされました。
小山:(チャレンジマヨルカで)集団に遅れて山岳を登っていたら、観客から「新城!」って言われて。「(僕で)すみません」っていう顔してその横を通り過ぎましたけどね笑。
欧州レースの厳しさを語りながらも、客観的に改善点を挙げていた2人。今後の予定として、1月中旬に渡欧したばかりの小山は未定、去年末からスペインで準備を進めている石原は2月12日にある「ブエルタ・ア・ムルシア(1.1)」と2月24日〜27日までのステージレース「ブエルタ・ア・ガリシア」を転戦する予定だ。
text:Sotaro.Arakawa
チーム右京相模原から今年ハバ・キウィ・アトランティコに移籍した石原悠希と小山智也は、ワールドチームもシーズン初戦として出走したクラシカ・コムニタ・バレンシアナ(UCI.1.2)と、5つのワンデーレースが連なるチャレンジマヨルカ(UCI.1.1)の3レースに出場。1月30日に行われたトロフェオ・プラヤデパルマ〜パルマから一夜明け、マヨルカ島からスペイン本土に移動してきた直後の2人に話を聞いた。
― 出場した4つのレースを振り返っていかがでしたか?
小山智也:とにかく"全部が速い"っていう感じでした。
石原悠希:登りが速いのは想像していたのですが…。
小山:平坦と下りもとんでもない速さなので驚きました。少しでも本気で踏まれると到底太刀打ちできない登りは予想していたのですが、下りはついてはいけるけど”とにかく速い”という印象で、その驚きの方が大きかったです。
特に平坦と下りはTVでヨーロッパのレースを観て思っていた2、3倍は速く、ツールとかではないただの(1クラスの)レースですらこんなに速いなんて…(驚きました)。
ー チャレンジマヨルカの中でも出場されたトロフェオ・カルビアとトロフェオ・セッラ・デ・トラムンターナはカテゴリー山岳が連続するコースでした。
小山:登りに入ると集団は一列棒状になって、そこへ集団後方で入ってしまったら終わりという感じでした。その一方で集団前方もワールドチームが固めているので上がっていくのは不可能でした。
石原:頑張って真ん中ぐらいから登りに入って、ギリギリ最後尾で登り切れればいいなと…
小山:それでも奇跡が起きればの話だけどね笑。
― 4戦のうち、最も手応えのあったレースは?
石原:初戦のバレンシアです。トラブルで補給が取れず、残り5kmでハンガーノックになって76位でフィニッシュしたのですが、それがなければもっと上の順位に行けたと思います。悔しさもあるのですが、同時に希望も感じました。
小山:1番良かったのは身体がレースに慣れてきた最終日(トロフェオ・プラヤデパルマ〜パルマ)です。でも逆に初戦は全然ダメで、日本から飛行機で30時間かけて拠点のビーゴに行き、そこからバレンシアまで10時間のバス移動。まともに自転車に乗れない状態で、しかもスタート直後から30〜40分ほどの登りがあったので良い感覚で走ることができませんでした。
チームは所属する11人のうちスペイン人は2人ながら、監督含めスタッフ全員がスペイン人。また生活の拠点もスペイン北西部のビーゴにあることから言語面での苦労は無いのだろうか。
― チームの共通言語であるスペイン語はどれぐらい話せますか?
小山:ほぼ皆無に近いですね。いままでのチームでは英語を使っていたので、いまは困ったらスマホのGoogle翻訳を見せつけています笑。
石原:最初の話ではチームでは全部英語が通じるということだったんですが、こっちに来てみたらすべての会話がスペイン語でした。アメリカ人やキプロス人選手がいるので英語でもコミュニケーションは取れますが、スペイン語しか話せない選手もいるので、正直大変ですね。
― 今回感じた日本とのレースの違いは何でしょうか?
石原:1番はやはりコースの作り方ですね。コースの違いによるレース展開のギャップがあまりにも大き過ぎる。自分がもし日本でそういうレースにもっと慣れていたらもっと違った結果になったんじゃないかなと思いますし、もし欧州のレースで日本人を活躍させたいなら、こっちに近い環境のレースを走らせた方がいいのではないかとも思います。
小山:こちらのレースは登りがとにかく長いです。日本のレースで長い登りと言っても最大で20分ぐらいしか登らないのに対し、こっちのレースはそれが何本も現れる。乗鞍とか富士ヒルクライムがコース上に4つ出てくるっていう感じです。(チャレンジマヨルカで)リタイアして回収車でフィニッシュまでの道をトレースして走るじゃないですか。悔しいなと思いながら乗ってるんですけど、「これはどっちみち無理だったな」って思いました笑。
それに日本のレースと(求められる)脚質が全然違うので、周回コースの「一瞬踏んで、一瞬止めて」というレースばかりに慣れていると、(欧州のラインレースは)ちょっとキツいかもしれないですね。
ー 今回のレースで”自分のここは通用する”と思った点を教えて下さい。
石原:獲得標高が3000m近くになったら厳しいけど、1500m以下だったらなんとか(集団で)走れると思いました。
小山:ワールドチームがプロトンをコントロールしてくれれば登り2〜3本は行けるかもしれないですけど、本気で踏まれたら想像を越えるレベルでついてけませんね。でも逆に昨日(トロフェオ・プラヤデパルマ〜パルマ)の平坦コースは速かったですけど、いまの力でも走れると思えました。
ー 小山選手はチャレンジマヨルカの初日で落車したとSNSに投稿していましたが、どのような状況だったのでしょうか?
小山:登りで遅れたので、下りをダッシュして追いかけようと思ったらコースがわからずクラッシュしました。
石原:チャレンジマヨルカでは道幅が狭いのにもかからず、集団も選手たちがギチギチに密集しているので(集団のスピードが速く)落車が多発していました。
小山:みんな転んでいくので運ゲー(誰が落車するかは運次第)でしたね。
石原:チャレンジマヨルカだけで目の前で4、5回落車に遭遇して、その選手に接触しながら何とか落車を免れたこともありました。奇跡的に落車はなかったですが、かなり怖かったですね。
小山:急に道が狭くなったり、市街地の中をあんなハイスピードで走行するのは日本ではないので。スピードバンプ(車に減速を促す道路上の隆起)もみんなピョンピョン飛んでいるけど、あのスピードだと少しでもタイミングを誤ったらそのまま飛んでいってしまう。集団の中で見えないときもありますし。
ー 石原選手と小山選手はそれぞれレース直後に詳細なレースレポート(石原、小山)を書かれています。どんな意識で書かれているのですか?
石原:自分から少しでも発信しないと自分が何をやっているのか周りに知ってもらえないので。もったいないというか”発信しなければ”という思いでやっています。
小山:自分は元々カメラや文章を書くのが小さい頃から好きだったので(ブログを)書くことは苦ではないのですが、日本と時差があるので書いた文章をどのタイミングで投稿するかは頭を悩ませています。インスタも投稿する時間帯によって反応が違うので。
あと、石原さんに書いた文章の添削を頼まれています。いつも改行を全くしない呪文のような文章が送られてくるんですけどね笑。
ー 投稿の中で、小山選手はアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)とのツーショットを投稿していました。やはり同じスプリンターとして意識する選手の1人ですか?
小山:そうですね。他にもマヨルカでは山岳が厳しいかったので、登りで遅れそうなワールドチームのスプリンターを何人かピックアップして、彼らがどう登りをこなしていくのかをずっと見ていました。
ー クリストフ選手もその中の1人だったと?
小山:はい。他には(パスカル)アッカーマン選手や、元々チーム右京で今はトレックにいるジョン・アベラストゥリ選手などを観察していました。クリストフ選手にはレース期間中の回復走でたまたま出会い、写真を撮ってもらいました。
石原:僕は欧州のレースに出場して、(新城)幸也選手や別府選手に対する考えが大きく変わりました。全く同じではないにせよワールドチームと同じレースを走ってみて、そこで走る選手たちがどれだけ凄いことをしているのかをしみじみ感じました。
小山:僕は元々自転車レースのファンなので、有名な外国人選手を見るとその度に石原さんに伝えるぐらい”かっこいい”なと思っています。でもやはり幸也さんがこんな奴らと一緒に走って、あんだけ仕事して、あの成績を残しているのかと思うと、自分はまだまだ足元にも及ばないなと思います。(レースの新城選手は)一緒に練習で走っているよりもっと”ヤバいんだ”ということがわかりました。
石原:しかも、そのとてつもない選手たちに新城選手は認められているわけなので、本当にすごいと改めて思わされました。
小山:(チャレンジマヨルカで)集団に遅れて山岳を登っていたら、観客から「新城!」って言われて。「(僕で)すみません」っていう顔してその横を通り過ぎましたけどね笑。
欧州レースの厳しさを語りながらも、客観的に改善点を挙げていた2人。今後の予定として、1月中旬に渡欧したばかりの小山は未定、去年末からスペインで準備を進めている石原は2月12日にある「ブエルタ・ア・ムルシア(1.1)」と2月24日〜27日までのステージレース「ブエルタ・ア・ガリシア」を転戦する予定だ。
text:Sotaro.Arakawa
Amazon.co.jp