「増田さんと中根さんの上に立ってるのが不思議で仕方ない」と、新王者草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)は言う。全日本ロードの展開を動かし、そして成績を残した選手たちの言葉でレースを振り返る。



優勝:草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)

チャンピオンジャージに袖を通した草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)チャンピオンジャージに袖を通した草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) photo:Satoru Kato
今日は岡本や自分で勝負しにいくことはチームオーダーで決めていました。シマノの選手の一人逃げが決まった段階で愛三がコントロールしはじめ、他のチームの協力を求めましたがどこも応じてはくれなかったので「ウチらでやろう」と集団を引きました。残り5周ぐらいで逃げを捕まえてそこからレースは一気に動きました。

チームは集団の先頭に立って引きましたが、そのなかで他チームにラインを邪魔されること無く100kmを走れたので脚が温存できました。最後に残ったこのメンバーならスプリントになれば僕が一番力があるということは思っていました。フィニッシュまで残り150mから冷静にもがきはじめることができたのが良かった。

チーム一丸となってこのレースをつくり、勝ちにいきました。そしてたまたま僕が勝っただけ。だから自分がチャンピオンだという実感がないと感じています。不思議な感じです。

天の祖父に捧げる全日本選手権優勝天の祖父に捧げる全日本選手権優勝 photo:Satoru Kato
今、増田さんと中根さんの上に立ってるというのが不思議でしょうがないです。もし明日同じレースがあったら絶対に勝てないほどの方々なので、それを勝てたのはチームの力です。勝ちたいという思いがいちばん強かったのが愛三工業だったと感じています。

ここまでのレースでたくさん失敗をして学んできました。去年からJプロツアーレースもぜんぜん勝てていなくて、辛い期間が長く続きましたが、それがJBCF南魚沼のレースから歯車がうまく噛み合いだし、この最後の全日本のレースで実を結びました。これからはレースを引っ張っていくチームにならなければいけないという責任感が生まれた気がします。

愛三工業レーシングのチームメイトやスタッフたちと勝利を喜ぶ草場啓吾愛三工業レーシングのチームメイトやスタッフたちと勝利を喜ぶ草場啓吾 photo:So Isobe
じつは1週間前におじいちゃんが亡くなってしまって、だからこのレースに賭ける思いは誰よりも強くって。まずは天国のおじいちゃんに「今日僕は頑張ったよ」と伝えたいです。



2位:増田成幸(宇都宮ブリッツェン)

「2位って一番悔しいですね」と話す増田成幸(宇都宮ブリッツェン)「2位って一番悔しいですね」と話す増田成幸(宇都宮ブリッツェン) photo:Satoru Kato
自分の勝ちパターンに持ち込めなかった。全員が僕のことを警戒しているので思ったアタックは決めにくい。スキを探していたんですが、リスクを負う覚悟が足りなかった。オリンピック以降、貯金で走ってきたけど、2位って一番悔しいですね。草場がスプリントがあるのは分っていたけど、彼を残してしまったのは良くなかった。

チームとしては全然思ったようなレースができなかったですね。また来年の全日本が6月に開催されるとなると1年は無いので、そこでまたみんなで頑張っていきたい。全日本の借りは全日本でしか返せないと思っています。

精鋭グループに入った増田成幸(宇都宮ブリッツェン)精鋭グループに入った増田成幸(宇都宮ブリッツェン) photo:Satoru Kato
(シーズン振り返って)コロナ禍で日常のレースが戻ってこないなかでモチベーションを保つことはすごく難しい。僕自身も後半、どうしても本気になれない自分がいて、そのことが許せない気持ちもありました。ですが最後にこの全日本が開催されることになって、身近にいる大切な人が立て続けに亡くなるという不幸がありました。その人達のためにも頑張りたいという気持ちがあり、最後のレースに臨みました。



3位:中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)

3位に終わった中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)3位に終わった中根英登(EFエデュケーション・NIPPO) photo:Makoto AYANO
愛三工業は枚数を揃えていたから、ホントなら脚がある選手が集団を破壊して、脚のある選手たちだけで行かないといけなかった。最後の方は僕ひとりで動いていた感じで、ラスト4周は出し惜しみすることなく攻めました。今日勝った草場選手がいちばん強かったのは確かですが、今日は集団の中で自分がいちばん勝つための動きをしていたという自負はあります。そういう点では自分の力がちゃんとついていることの確認はできました。だから全然悔いは無いです。そのうえで勝てれば良かった。

残り3周を前に中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)が登りでペースアップ残り3周を前に中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)が登りでペースアップ photo:Satoru Kato
もちろん僕がチャンピオンジャージをチームに持ち帰って、ヨーロッパでそのジャージを着て走るという目標が叶わなかったのは少し残念です。でも勝ったのが草場で、いつも日本では一緒に練習するし、弟みたいな存在なので心の底からおめでとうという気持ちです。20代の若い選手がナショナルチャンピオンジャージを着るというのはこれからの日本の自転車界にとってとても大事なことだと思います。そして愛三は僕のチームみたいなもんですから!(笑)。



4位:山本大喜(KINAN Cycling Team)

「勝てなかったのは自分の責任」と言う山本大喜(KINAN Cycling Team、写真中央)「勝てなかったのは自分の責任」と言う山本大喜(KINAN Cycling Team、写真中央) photo:Satoru Kato
「チームとしては兄と自分がエースで行こうという作戦でした。最終局面では兄もアシストに回ってくれて、自分に全てを託してくれたんですが、勝てなかったのは自分の力不足だと思います。チームとしては完璧な状態だったので、だからこそ勝てなかったのが悔しい。終盤小石選手と飛び出したのは、スプリントに持ち込まずに逃げないと勝機がないと考えたから。でも勝ちきれませんでした。

前半はスローペースで、その中で愛三がしっかりコントロールして、草場のスプリントで勝ちにくるというのが伝わってきていました。だからこそやっぱり振るい落とさねばならなかった。チームメイトも草場を落とすために動いて完璧な展開に持ち込んでくれました。全日本で勝ってキナンの力を示せなかったのは悔しいですが、JCLの残り3戦でしっかり勝って結果を残したい。



5位:岡篤志(NIPPOプロヴァンスPTSコンチ)

5位に終わった岡篤志(NIPPOプロヴァンスPTSコンチ)5位に終わった岡篤志(NIPPOプロヴァンスPTSコンチ) photo:Makoto AYANO
前半は落ち着いていつも以上にイージーな展開でしたが、愛三がコントロールして中盤に逃げを吸収してからレースが始まったという感じでした。中根選手が強くてレースを厳しくしてくれて、自分もそれに続きましたが、もうちょっとスマートに走れたかなと。最後はスプリントでチャンスがあるかなと思っていたのですが、脚が無くて、悔しい思いをしました。でも今のコンディションで最後まで残れただけでも、最低限良かったかなと思っています。

全日本選手権は今まで完走すらしたことがなくて、コンディションの波も合わせられず、距離の長さも苦手だったのですが、今年は200kmのレースをいくつも走ってきたこともあったので、それが今回の結果にもつながっていると感じています。

愛三のチーム力も強かったし、中根選手が自分の脚を使いまくって最後もスプリントをしたのも強かったです。入部選手がラスト2周で行った時は、どうせすぐ捕まるとみんな言っていたけれどなかなか捕まらなかった。みんな強かったですね。

10月1日と2日にフランスでレースに出て、4日に帰国して、19日に隔離期間が終わってそのまま広島入りでした。もう少し準備期間があればコンディションを合わせられたかなと。最低限は走れたけれど、終わってみたらやはり悔しい。また来年チャレンジします。



9位:入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)

2年越しの連覇が見えかけていた入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)2年越しの連覇が見えかけていた入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Satoru Kato
逃げ切れるか、きれないか、難しいタイム差でしたね。でも捕まってからも千切れることなく、またアタックして三段坂と展望所の登りで抜け出そうとしたんですがうまく行かなかった。脚が残っていたとしても草場には勝てる気がしなかったので、最後まで自分のスタイルを貫こうと思っていました。愛三はうまくやったと思います。岡本も居たし、スプリンター2人を乗せていたので集団をまとめるだけで良かった。

(最近のレースでは常に積極的に逃げるレースをしていることについて)僕は今、若手育成を掲げて活動しています。若い選手には常にチャレンジして欲しいと思っていて、自分の走りでそれを示せればと思っています。僕が逃げて最後まで粘るところを見せることで何かを感じ取ってもらいたいなと思っています。これからもこのスタイルを貫きたいと思っています。



後半戦にアタックした石橋学(シエルブルー鹿屋)

石橋学(CIEL BLEU KANOYA)石橋学(CIEL BLEU KANOYA) photo:Makoto AYANO
「直前まで(冨尾)大地が逃げていたので、残りの距離と次の展開を考えてアタックするタイミングを考えていました。抜け出した時は1人で行くつもりはなかったんですけど、次の展開に繋げればと思って行きました。本命どころしか残っていないような状態だったので、このメンバーでの勝負は間違いないと思っていました。

コンディションはそれほど良くなかったので、登りでガチンコ勝負するよりは先に前で展開を作り、優位に進めるのがチームにとっても良いし、今の自分に出来ることかなと考えていました。

今年1年間の中で(コンディションが)落ちてきていたところを、もうひと踏ん張りって感じでしたが、夏は調子が良かったので、上げるところは上げられたのは良かったと思います。パワーもしっかり上げられたので、チームとしても大地だったり白川(幸希)が力をつけてきたので、色々な戦い方が出来るようになればと思ってます。



ラストレースを走り終えた木村圭佑(シマノレーシング)

ラストレースとなった木村圭佑(シマノレーシング)を野寺監督が労うラストレースとなった木村圭佑(シマノレーシング)を野寺監督が労う photo:Satoru Kato
最後は出し切りました。力で負けてしまったので悔いはないです。また来年も、シマノレーシングが強い状態で走れるように見届けたいです。応援したいです。長い間、応援していただきありがとうございました。

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