2021/10/24(日) - 21:03
「チーム一丸となってレースを作り、そしてたまたま僕が勝った」と、新チャンピオンは謙虚に振り返る。消耗戦、そして9名のスプリントの末、草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)が全日本選手権を制した。
スタート前、2009年全日本勝者の西谷監督と話す岡本隼(愛三工業レーシングチーム) photo:Satoru Kato
スタート前、リラックスした表情を見せる増田成幸(宇都宮ブリッツェン) photo:Satoru Kato
108名の選手たちがスタートラインに並んだ photo:Makoto AYANO
広島空港に隣接する広島中央森林公園の上空は晴れ時々くもり。太陽が遮られれば風は冷たく感じられるものの、終始良好なコンディション下で第82代全日本チャンピオンを決める戦いが進行した。
上下左右に細かくうねる12.3kmコースの獲得標高は1周あたり111m。1994年のアジア大会個人ロードレースを皮切りに、その後も全日本選手権をはじめとするメジャーレースが数多く行われてきた歴史あるコースであり、今年はここを15周回、合計184.5kmを走る5時間弱のレースが繰り広げられた。
マスターズレースから約1時間のインターバルを挟み、午前11時にスタートを告げる号砲が鳴らされる。伊藤大地(群馬グリフィンレーシングチーム)の飛び出しと吸収、アタック合戦を経て逃げたのは風間翔眞(シマノレーシング)。風間を見送った集団はペースを緩め、やがてタイム差が1分半に達したところで愛三工業レーシングチームが集団前方を固めた。
レース会場となった広島中央森林公園 photo:Makoto AYANO
レース前半を単独で逃げ続けた風間翔眞(シマノレーシング) photo:Satoru Kato
終盤に向けて愛三工業レーシングが集団先頭に出てペースをつくる photo:Makoto AYANO
「スプリントのある岡本隼や草場啓吾で狙う」という思いのもと、集団コントロールを担った愛三工業。中川拳や大前翔、當原隼人らがペースコントロールを担い、時間をおいてTeam UKYO SAGAMIHARAも小山智也を牽引役に送り込む。メイン集団は後半戦に入るまで濃いブルーのジャージの指揮下に置かれた。
約70kmを一人逃げた風間は10周目、つまり全体の2/3を消化したタイミングで吸収され、KINAN Cycling Teamのペースアップを経て今度は冨尾大地(CIEL BLEU KANOYA)が単独先頭に立つ。好調ぶりを伺わせていた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)は最もスピードの乗る下り区間で落車。避けきれずに突っ込んだ織田聖(NIPPOプロヴァンスPTSコンチ)と共に戦線離脱を強いられた。
落車してバイクを壊し、シクロクロススタイルで交換して再走する沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) photo:Makoto AYANO
残り7周から単独先行した冨尾大地(シエルブルー鹿屋) photo:Satoru Kato
展望所への上りで仕掛けた中根英登(EF Education-NIPPO) photo:Yuichiro Hosoda
中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)が動くたびに集団の人数が減っていく photo:Satoru Kato
残り3周、展望台への登りでアタックする入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Satoru Kato
レースが動いたのは残り4周を切ってから。「展望台への登り」で中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)が仕掛けたことで活性化し、中根は次の周でもアタックを続行。集団人数がぐっと絞り込まれていく中、今度は入部正太朗(弱虫ペダル サイクリングチーム)がダウンヒル区間で集団から抜け出した。
前回大会覇者の証、ゼッケン1をつけて逃げ続けた入部。「最後まで自分のスタイルを貫こうと思っていた」と振り返るディフェンディングチャンピオンはリードを10秒、15秒と広げていったものの、優勝候補がずらり揃った後続18名に対してリード拡大は20秒差で頭打ちに。上りと下りでタイム差が増減を繰り返しながら最終周回に入ると、後続グループからは3名が抜け出しを図った。
13周目から最終周回まで逃げた入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto AYANO
逃げる入部正太朗を追って最終周回に向かう追走グループ photo:Makoto AYANO
最終周回 山本元喜(KINAN Cycling Team)ら3名が入部正太朗を追走 photo:Satoru Kato
最終周回 岡本隼(愛三工業レーシングチーム)を引き連れて追走集団にジャンプを試みる中根英登(EFエデュケーション・NIPPO) photo:Satoru Kato
元全日本王者の山本元喜(KINAN Cycling Team)とホビーレーサーの金子宗平と寺崎武郎(バルバレーシングクラブ)が追いかけ、さらにその後方から中根が岡本を引き連れて合流し、入部を捕まえる。
その後も断続的に増田成幸(宇都宮ブリッツェン)たちが入部や山本ら先頭グループに合流して残り6kmへ。優勝候補が多数含まれる10名のグループからは 小石祐馬(Team UKYO SAGAMIHARA)と山本大喜(KINAN Cycling Team)が抜け出しを試みたものの、僅かに先行したのみで引き戻される。スプリントで分が悪い入部が最後の登りで再びアタックするも成功しなかった。
最終列車は10名ほどまで絞られた photo:Satoru Kato
残り4km、小石祐馬(TeamUKYO SAGAMIHARA)と、山本大喜(KINAN Cycling Team)が抜け出すも決定打とならず photo:Satoru Kato
残り3km 登りで入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)が再アタック photo:Satoru Kato
ゴール勝負に向けた牽制を挟み、千切れては舞い戻った金子を先頭に登りの最終コーナーをクリア。金子、中根、岡というオーダーで緩斜面を駆け上がり、9名によるゴールスプリントが始まった。
消耗戦を経たスプリント合戦。一番力を残していたのは「このメンバーのスプリントだったら絶対に獲る」という強い気持ちで臨んだ草場だった。力を使い続けた入部が諦める中、最終ストレートで圧倒的な加速力を見せつけた草場。追いすがる増田の前で、愛三工業のジャージが両手を挙げ、そして人差し指を突き上げた。
9名のスプリントを制して全日本チャンピオンに輝いた草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) photo:Makoto AYANO
チームメイトたちに囲まれる草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) photo:Makoto AYANO
3位に終わった中根英登(EF Education-NIPPO) photo:Makoto AYANO
「フィニッシュまで残り150mから、冷静にもがきはじめることができたのが良かった」と振り返る草場が、最後まで先頭グループに残ったチームメイトの伊藤雅和と喜びを爆発させる。1996年9月8日生まれの新チャンピオンが誕生した。
「チームは集団の先頭に立って引きましたが、そのなかで他チームにラインを邪魔されること無く100kmを走れたので脚が温存できました」と、チームに感謝する草場。「チーム一丸となってこのレースをつくり、勝ちにいきました。そしてたまたま僕が勝っただけ。だから自分がチャンピオンだという実感がないと感じています。不思議な感じです」と続ける。
男子エリート優勝草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)、2位増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、3位中根英登(EFエデュケーション・NIPPO) photo:Makoto AYANO
中根英登の言葉に笑顔の草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) photo:Satoru Kato
「今、増田さんと中根さんの上に立ってるというのが不思議でしょうがないです。もし明日同じレースがあったら絶対に勝てないほどの方々なので、それを勝てたのはチームの力です。勝ちたいという思いがいちばん強かったのが愛三工業だったと感じています」と草場は言う。
京都北桑田高と日本大学を経て、愛三工業に入って3年目。思うように走れず苦しい時期を過ごしていたものの、JBCF南魚沼ロードレースでのプロ初勝利からリズムに乗ってきた、と振り返る。「そこから歯車がうまく噛み合いだし、この最後の全日本のレースで実を結びました」とも。「じつは1週間前におじいちゃんが亡くなってしまって、だからこのレースに賭ける思いは誰よりも強くって。まずは天国のおじいちゃんに「今日僕は頑張ったよ」と伝えたいです」。
一昨日のタイムトライアルで2連覇した増田が「全員が僕のことを警戒しているので思ったアタックは決めにくい。スキを探していたんですが、リスクを負う覚悟が足りなかった」と悔やむ2位。唯一のワールドツアー選手として自らレースを作った中根が3位に入った。
選手のコメントは別記事で紹介します。



広島空港に隣接する広島中央森林公園の上空は晴れ時々くもり。太陽が遮られれば風は冷たく感じられるものの、終始良好なコンディション下で第82代全日本チャンピオンを決める戦いが進行した。
上下左右に細かくうねる12.3kmコースの獲得標高は1周あたり111m。1994年のアジア大会個人ロードレースを皮切りに、その後も全日本選手権をはじめとするメジャーレースが数多く行われてきた歴史あるコースであり、今年はここを15周回、合計184.5kmを走る5時間弱のレースが繰り広げられた。
マスターズレースから約1時間のインターバルを挟み、午前11時にスタートを告げる号砲が鳴らされる。伊藤大地(群馬グリフィンレーシングチーム)の飛び出しと吸収、アタック合戦を経て逃げたのは風間翔眞(シマノレーシング)。風間を見送った集団はペースを緩め、やがてタイム差が1分半に達したところで愛三工業レーシングチームが集団前方を固めた。



「スプリントのある岡本隼や草場啓吾で狙う」という思いのもと、集団コントロールを担った愛三工業。中川拳や大前翔、當原隼人らがペースコントロールを担い、時間をおいてTeam UKYO SAGAMIHARAも小山智也を牽引役に送り込む。メイン集団は後半戦に入るまで濃いブルーのジャージの指揮下に置かれた。
約70kmを一人逃げた風間は10周目、つまり全体の2/3を消化したタイミングで吸収され、KINAN Cycling Teamのペースアップを経て今度は冨尾大地(CIEL BLEU KANOYA)が単独先頭に立つ。好調ぶりを伺わせていた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)は最もスピードの乗る下り区間で落車。避けきれずに突っ込んだ織田聖(NIPPOプロヴァンスPTSコンチ)と共に戦線離脱を強いられた。





レースが動いたのは残り4周を切ってから。「展望台への登り」で中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)が仕掛けたことで活性化し、中根は次の周でもアタックを続行。集団人数がぐっと絞り込まれていく中、今度は入部正太朗(弱虫ペダル サイクリングチーム)がダウンヒル区間で集団から抜け出した。
前回大会覇者の証、ゼッケン1をつけて逃げ続けた入部。「最後まで自分のスタイルを貫こうと思っていた」と振り返るディフェンディングチャンピオンはリードを10秒、15秒と広げていったものの、優勝候補がずらり揃った後続18名に対してリード拡大は20秒差で頭打ちに。上りと下りでタイム差が増減を繰り返しながら最終周回に入ると、後続グループからは3名が抜け出しを図った。




元全日本王者の山本元喜(KINAN Cycling Team)とホビーレーサーの金子宗平と寺崎武郎(バルバレーシングクラブ)が追いかけ、さらにその後方から中根が岡本を引き連れて合流し、入部を捕まえる。
その後も断続的に増田成幸(宇都宮ブリッツェン)たちが入部や山本ら先頭グループに合流して残り6kmへ。優勝候補が多数含まれる10名のグループからは 小石祐馬(Team UKYO SAGAMIHARA)と山本大喜(KINAN Cycling Team)が抜け出しを試みたものの、僅かに先行したのみで引き戻される。スプリントで分が悪い入部が最後の登りで再びアタックするも成功しなかった。



ゴール勝負に向けた牽制を挟み、千切れては舞い戻った金子を先頭に登りの最終コーナーをクリア。金子、中根、岡というオーダーで緩斜面を駆け上がり、9名によるゴールスプリントが始まった。
消耗戦を経たスプリント合戦。一番力を残していたのは「このメンバーのスプリントだったら絶対に獲る」という強い気持ちで臨んだ草場だった。力を使い続けた入部が諦める中、最終ストレートで圧倒的な加速力を見せつけた草場。追いすがる増田の前で、愛三工業のジャージが両手を挙げ、そして人差し指を突き上げた。



「フィニッシュまで残り150mから、冷静にもがきはじめることができたのが良かった」と振り返る草場が、最後まで先頭グループに残ったチームメイトの伊藤雅和と喜びを爆発させる。1996年9月8日生まれの新チャンピオンが誕生した。
「チームは集団の先頭に立って引きましたが、そのなかで他チームにラインを邪魔されること無く100kmを走れたので脚が温存できました」と、チームに感謝する草場。「チーム一丸となってこのレースをつくり、勝ちにいきました。そしてたまたま僕が勝っただけ。だから自分がチャンピオンだという実感がないと感じています。不思議な感じです」と続ける。


「今、増田さんと中根さんの上に立ってるというのが不思議でしょうがないです。もし明日同じレースがあったら絶対に勝てないほどの方々なので、それを勝てたのはチームの力です。勝ちたいという思いがいちばん強かったのが愛三工業だったと感じています」と草場は言う。
京都北桑田高と日本大学を経て、愛三工業に入って3年目。思うように走れず苦しい時期を過ごしていたものの、JBCF南魚沼ロードレースでのプロ初勝利からリズムに乗ってきた、と振り返る。「そこから歯車がうまく噛み合いだし、この最後の全日本のレースで実を結びました」とも。「じつは1週間前におじいちゃんが亡くなってしまって、だからこのレースに賭ける思いは誰よりも強くって。まずは天国のおじいちゃんに「今日僕は頑張ったよ」と伝えたいです」。
一昨日のタイムトライアルで2連覇した増田が「全員が僕のことを警戒しているので思ったアタックは決めにくい。スキを探していたんですが、リスクを負う覚悟が足りなかった」と悔やむ2位。唯一のワールドツアー選手として自らレースを作った中根が3位に入った。
選手のコメントは別記事で紹介します。
全日本選手権ロードレース2021 男子エリート 結果
1位 | 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) | 4時間47分16秒 |
2位 | 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) | |
3位 | 中根英登(EFエデュケーション・NIPPO) | +2秒 |
4位 | 山本大喜(KINAN Cycling Team) | +3秒 |
5位 | 岡篤志(NIPPOプロヴァンスPTSコンチ) | |
6位 | 小石祐馬(Team UKYO SAGAMIHARA) | +4秒 |
7位 | 金子宗平 | |
8位 | 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム) | |
9位 | 入部正太朗(弱虫ペダル サイクリングチーム) | +6秒 |
10位 | 岡本隼(愛三工業レーシングチーム) | +1分14秒 |
text:So.Isobe
photo:Makoto Ayano, Satoru Kato
photo:Makoto Ayano, Satoru Kato
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