2021/09/27(月) - 09:55
アタックに次ぐアタック、そして心理戦。17.5kmに及ぶ単独走を成功させたジュリアン・アラフィリップ(フランス)が2年連続の世界チャンピオンに輝いた。13回目の世界選手権となった新城幸也は後半まで有力集団に残り49位で完走している。
1週間に及ぶ世界選手権ウィークを締めくくるのは今年100回開催を迎えた男子エリートロードレース。アントワープをスタートし、フィニッシュラインが引かれたルーヴェン市街地の周回コースをまず1周、6箇所の登坂区間が詰め込まれた「フランドリアンサーキット」を1周、ルーヴェンの市街地コースを今度は4周、フランドリアンサーキットを1周、再びルーヴェン市街地コースを2周半巡るという複雑な268.3km。1km未満の登坂が合計42箇所も現れるコースでは、レース中盤からエース/サブエースが次々とアタックを掛ける「フランドル」らしい熱戦が繰り広げられることに。
アントワープで最も美しい広場といわれるグローテ・マルクトを、デウェーフェル市長の旗振りによって出発。リアルスタートと同時にアタックが掛かり、パトリック・ガンパー(オーストリア)やパヴェル・コチェトコフ(ロシア自転車競技連盟)を8名が先行。開催国ベルギーや、急逝したクリスアンケル・ソレンセンを偲ぶ喪章を巻いたデンマークがメイン集団のコントロールを担った。
熱狂に包まれるルーヴェン市街地コース。1回目のフィニッシュラインの時点で8カ国8名による逃げグループと、ルーヴェン出身のティム・デクレルク(ベルギー)が仕事を担うメイン集団のタイム差は約5分半。186kmを残したメイン集団後方ではダヴィデ・バッレリーニとマッテオ・トレンティン(イタリア)、そしてマッズ・ピーダスン(デンマーク)が絡む落車が発生する。全員が復帰したものの、その後もう一度落車に巻き込まれたピーダスンはリタイアを強いられた。
並み居る強豪国の中、最も積極的に攻めたのはフランスだった。フランドリアンサーキットに入るやいなや(フィニッシュまで180km)ブノワ・コスヌフロワがアタックを掛け、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)とマグナス・コルト(デンマーク)が追いついた。少々の静観を挟みシュテファン・ビッセガー(スイス)がブリッジを掛けたことで追走グループは15名に膨れ上がった。
エヴェネプール、プリモシュ・ログリッチ、ヤン・トラトニク(共にスロベニア)、カスパー・アスグリーン(デンマーク)、ブランドン・マクナルティ(アメリカ)、アルノー・デマール(フランス)、パスカル・エーンコーン(オランダ)を含む超強力な追走グループにイタリアはメンバーを乗せることができなかった。ベルギーが登坂区間で蓋をしたためタイム差が開き、その差を埋めるべくイタリアが組織的な追走を強いられる。僅か1/3を消化したタイミングで、各チームの思惑が激しく交錯した。
1回目のフランドリアンサーキットを終え、ルーヴェン市街地コースに戻ったタイミングで本来の逃げグループと追走、そしてメイン集団の距離は一気に縮まった。これまでのカテゴリーで鍵を握ってきた登坂「ウインペルス(登坂距離360m/平均7.98%/最大9%)」で全ての逃げと追走が引き戻され、イタリアは追走に力を使ったトレンティンをレース半分という段階で失ってしまう。
沈静化を嫌ったフランスがプレッシャーを掛け、他国もここに乗じてアタックを掛け続けた。ワウト・ファンアールトでの勝負を目指すベルギーが集団先頭を固め、アタックを封じ込めながら約90名まで減ったメイン集団を牽引。しかしそれも束の間、ニルス・ポリッツ(ドイツ)のアタックをきっかけにして再びエヴェネプールやトラトニク、ディラン・ファンバーレ(オランダ)、そしてイバン・ガルシア(スペイン)たちによる11名が先行した。先ほど後手を踏んだイタリアはアンドレア・バジオーリを送り込んだ。
先頭グループとベルギー率いるメイン集団の差は30秒から40秒。2度目のフランドリアンサーキットでは「登れるスプリンター」カレブ・ユアン(オーストラリア)が遅れクラシック強者だけに絞り込まれていく。優勝候補選手のイラストが描かれた最大勾配18%の石畳登坂「モスケストラート(距離550m/平均7.98%)」で先頭グループは僅か5名となり、続く石畳登坂ベークストラート(距離439m/平均7.65%/最大15%)でタイミングを見計らっていたディフェンディングチャンピオンが動いた。
この日初めて自らハイペースを刻んだジュリアン・アラフィリップ(フランス)に対し、メイン集団はたまらず分裂。アラフィリップの淡々と、それでいて速いペースに食らいついたのはベルギー2名(ワウト・ファンアールトとヤスパー・ストゥイヴェン)とゼネク・スティバル(チェコ)、マテイ・モホリッチ(スロベニア)、そして欧州王者ソンニ・コルブレッリ(イタリア)。MTB五輪覇者トーマス・ピドコック(イギリス)など追走グループが追いついき、更に先頭5名を吸収。フィニッシュまで50km以上を残したタイミングでエース選手ばかりで形成された17名の先頭グループが先行。ペテル・サガン(スロバキア)やマイケル・マシューズ(オーストラリア)を含む後続グループは次第にペースを失っていった。
先行グループを形成した17名
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
ヴァランタン・マデュアス(フランス)
フロリアン・セネシャル(フランス)
レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
ワウト・ファンアールト(ベルギー)
マテイ・モホリッチ(スロベニア)
アンドレア・バジオーリ(イタリア)
ソンニ・コルブレッリ(イタリア)
ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
トーマス・ピドコック(イギリス)
ディラン・ファンバーレ(オランダ)
マチュー・ファンデルプール(オランダ)
ミケル・ヴァルグレン(デンマーク)
マークス・フールゴー(ノルウェー)
ニールソン・ポーレス(アメリカ)
ゼネク・スティバル(チェコ)
エース級揃いの17名のうち、最も果敢に攻めたのはアラフィリップだった。フランドリアンサーキットラストのスメイスベルグで踏み、ルーヴェン市街地コースの「ウインペルス(残り21km)」で踏み、周回最後の「サン・アントニウスベルグ(残り17.5km)」でもう一度アタック。人数が多いため「自分の脚を使いたくない」という思いに駆られた他選手はアラフィリップを見送り、ディフェンディングチャンピオンの独走を許した。
逃げるアラフィリップに対してストゥイヴェンとファンバーレ、ヴァルグレンそしてポーレスが追走グループを作ったものの、ストゥイヴェンとファンバーレが「後ろのエース待ち」姿勢を見せたことでローテーションが回らない。お見合い状態に陥った2つの追走グループを置き去りにして、「ベルギーの観客は僕にスローダウンするように叫んでいたが、そんなのは逆効果で反対に力がみなぎってきた」と言うアラフィリップがリードを広げていった。
2位争いに照準を切り替えた追走グループを置き去りにして、6時間弱に及ぶレースの最後に独走したアラフィリップがフィニッシュラインにやってきた。喜びを噛み締めながら笑顔を見せ、右手をおおきく振りかぶってガッツポーズ。落胆するベルギー観衆の目前で、アラフィリップが2年連続の世界チャンピオンに輝いた。
ベルギーvsイタリアと目されていた世界選手権男子エリートレースで、常にアタックを繰り返しサバイバルレースに持ち込んだフランス。アラフィリップは「幸せすぎて言葉がない。ここでの勝利のために努力を重ね今日は脚もあったが、再びアルカンシェルを守ることができるなんて夢にも思わなかった。とにかく信じられないの一言に尽きる。この素晴らしい勝利はチームの皆がいなければ不可能で、彼らは1日を通して僕を守ってくれ、最高の位置で僕を終盤まで導いてくれた」と母国ナショナルチームに感謝する。昨年24秒差だったリードは1年後の今年32秒に拡大していた。
32秒遅れた追走グループの争いを制したのはファンバーレだった。なんとしてもメダルを確保したかったストゥイヴェンはヴァルグレンの先行も許し、表彰台圏外の4位。ファンバーレが1997年大会のレオン・ファンボン(3位)以来となる世界選手権のオランダ勢メダルを射止め、アスグリーンのアシストを受け逃げグループ合流の最終便となったヴァルグレンが3位銅メダルをつかんだ。
一方、惨敗となったのが開催国ベルギー。必勝態勢で臨みながらもエースが沈没すると言う苦すぎるレースを終えたベルギーは今大会全種目を通じてアルカンシエルを獲れず、ロードレースでは一つも表彰台に登ることができなかった。
たった一人で終盤までメイン集団に残った新城は、6分半遅れの大きなグループ(先頭21位)内の49位でフィニッシュした。レースの大部分でアタックがかかり続けるサバイバルレースの末、今一度ワールドチームに所属するポテンシャルを見せつけることとなった。
1週間に及ぶ世界選手権ウィークを締めくくるのは今年100回開催を迎えた男子エリートロードレース。アントワープをスタートし、フィニッシュラインが引かれたルーヴェン市街地の周回コースをまず1周、6箇所の登坂区間が詰め込まれた「フランドリアンサーキット」を1周、ルーヴェンの市街地コースを今度は4周、フランドリアンサーキットを1周、再びルーヴェン市街地コースを2周半巡るという複雑な268.3km。1km未満の登坂が合計42箇所も現れるコースでは、レース中盤からエース/サブエースが次々とアタックを掛ける「フランドル」らしい熱戦が繰り広げられることに。
アントワープで最も美しい広場といわれるグローテ・マルクトを、デウェーフェル市長の旗振りによって出発。リアルスタートと同時にアタックが掛かり、パトリック・ガンパー(オーストリア)やパヴェル・コチェトコフ(ロシア自転車競技連盟)を8名が先行。開催国ベルギーや、急逝したクリスアンケル・ソレンセンを偲ぶ喪章を巻いたデンマークがメイン集団のコントロールを担った。
熱狂に包まれるルーヴェン市街地コース。1回目のフィニッシュラインの時点で8カ国8名による逃げグループと、ルーヴェン出身のティム・デクレルク(ベルギー)が仕事を担うメイン集団のタイム差は約5分半。186kmを残したメイン集団後方ではダヴィデ・バッレリーニとマッテオ・トレンティン(イタリア)、そしてマッズ・ピーダスン(デンマーク)が絡む落車が発生する。全員が復帰したものの、その後もう一度落車に巻き込まれたピーダスンはリタイアを強いられた。
並み居る強豪国の中、最も積極的に攻めたのはフランスだった。フランドリアンサーキットに入るやいなや(フィニッシュまで180km)ブノワ・コスヌフロワがアタックを掛け、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)とマグナス・コルト(デンマーク)が追いついた。少々の静観を挟みシュテファン・ビッセガー(スイス)がブリッジを掛けたことで追走グループは15名に膨れ上がった。
エヴェネプール、プリモシュ・ログリッチ、ヤン・トラトニク(共にスロベニア)、カスパー・アスグリーン(デンマーク)、ブランドン・マクナルティ(アメリカ)、アルノー・デマール(フランス)、パスカル・エーンコーン(オランダ)を含む超強力な追走グループにイタリアはメンバーを乗せることができなかった。ベルギーが登坂区間で蓋をしたためタイム差が開き、その差を埋めるべくイタリアが組織的な追走を強いられる。僅か1/3を消化したタイミングで、各チームの思惑が激しく交錯した。
1回目のフランドリアンサーキットを終え、ルーヴェン市街地コースに戻ったタイミングで本来の逃げグループと追走、そしてメイン集団の距離は一気に縮まった。これまでのカテゴリーで鍵を握ってきた登坂「ウインペルス(登坂距離360m/平均7.98%/最大9%)」で全ての逃げと追走が引き戻され、イタリアは追走に力を使ったトレンティンをレース半分という段階で失ってしまう。
沈静化を嫌ったフランスがプレッシャーを掛け、他国もここに乗じてアタックを掛け続けた。ワウト・ファンアールトでの勝負を目指すベルギーが集団先頭を固め、アタックを封じ込めながら約90名まで減ったメイン集団を牽引。しかしそれも束の間、ニルス・ポリッツ(ドイツ)のアタックをきっかけにして再びエヴェネプールやトラトニク、ディラン・ファンバーレ(オランダ)、そしてイバン・ガルシア(スペイン)たちによる11名が先行した。先ほど後手を踏んだイタリアはアンドレア・バジオーリを送り込んだ。
先頭グループとベルギー率いるメイン集団の差は30秒から40秒。2度目のフランドリアンサーキットでは「登れるスプリンター」カレブ・ユアン(オーストラリア)が遅れクラシック強者だけに絞り込まれていく。優勝候補選手のイラストが描かれた最大勾配18%の石畳登坂「モスケストラート(距離550m/平均7.98%)」で先頭グループは僅か5名となり、続く石畳登坂ベークストラート(距離439m/平均7.65%/最大15%)でタイミングを見計らっていたディフェンディングチャンピオンが動いた。
この日初めて自らハイペースを刻んだジュリアン・アラフィリップ(フランス)に対し、メイン集団はたまらず分裂。アラフィリップの淡々と、それでいて速いペースに食らいついたのはベルギー2名(ワウト・ファンアールトとヤスパー・ストゥイヴェン)とゼネク・スティバル(チェコ)、マテイ・モホリッチ(スロベニア)、そして欧州王者ソンニ・コルブレッリ(イタリア)。MTB五輪覇者トーマス・ピドコック(イギリス)など追走グループが追いついき、更に先頭5名を吸収。フィニッシュまで50km以上を残したタイミングでエース選手ばかりで形成された17名の先頭グループが先行。ペテル・サガン(スロバキア)やマイケル・マシューズ(オーストラリア)を含む後続グループは次第にペースを失っていった。
先行グループを形成した17名
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
ヴァランタン・マデュアス(フランス)
フロリアン・セネシャル(フランス)
レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
ワウト・ファンアールト(ベルギー)
マテイ・モホリッチ(スロベニア)
アンドレア・バジオーリ(イタリア)
ソンニ・コルブレッリ(イタリア)
ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
トーマス・ピドコック(イギリス)
ディラン・ファンバーレ(オランダ)
マチュー・ファンデルプール(オランダ)
ミケル・ヴァルグレン(デンマーク)
マークス・フールゴー(ノルウェー)
ニールソン・ポーレス(アメリカ)
ゼネク・スティバル(チェコ)
エース級揃いの17名のうち、最も果敢に攻めたのはアラフィリップだった。フランドリアンサーキットラストのスメイスベルグで踏み、ルーヴェン市街地コースの「ウインペルス(残り21km)」で踏み、周回最後の「サン・アントニウスベルグ(残り17.5km)」でもう一度アタック。人数が多いため「自分の脚を使いたくない」という思いに駆られた他選手はアラフィリップを見送り、ディフェンディングチャンピオンの独走を許した。
逃げるアラフィリップに対してストゥイヴェンとファンバーレ、ヴァルグレンそしてポーレスが追走グループを作ったものの、ストゥイヴェンとファンバーレが「後ろのエース待ち」姿勢を見せたことでローテーションが回らない。お見合い状態に陥った2つの追走グループを置き去りにして、「ベルギーの観客は僕にスローダウンするように叫んでいたが、そんなのは逆効果で反対に力がみなぎってきた」と言うアラフィリップがリードを広げていった。
2位争いに照準を切り替えた追走グループを置き去りにして、6時間弱に及ぶレースの最後に独走したアラフィリップがフィニッシュラインにやってきた。喜びを噛み締めながら笑顔を見せ、右手をおおきく振りかぶってガッツポーズ。落胆するベルギー観衆の目前で、アラフィリップが2年連続の世界チャンピオンに輝いた。
ベルギーvsイタリアと目されていた世界選手権男子エリートレースで、常にアタックを繰り返しサバイバルレースに持ち込んだフランス。アラフィリップは「幸せすぎて言葉がない。ここでの勝利のために努力を重ね今日は脚もあったが、再びアルカンシェルを守ることができるなんて夢にも思わなかった。とにかく信じられないの一言に尽きる。この素晴らしい勝利はチームの皆がいなければ不可能で、彼らは1日を通して僕を守ってくれ、最高の位置で僕を終盤まで導いてくれた」と母国ナショナルチームに感謝する。昨年24秒差だったリードは1年後の今年32秒に拡大していた。
32秒遅れた追走グループの争いを制したのはファンバーレだった。なんとしてもメダルを確保したかったストゥイヴェンはヴァルグレンの先行も許し、表彰台圏外の4位。ファンバーレが1997年大会のレオン・ファンボン(3位)以来となる世界選手権のオランダ勢メダルを射止め、アスグリーンのアシストを受け逃げグループ合流の最終便となったヴァルグレンが3位銅メダルをつかんだ。
一方、惨敗となったのが開催国ベルギー。必勝態勢で臨みながらもエースが沈没すると言う苦すぎるレースを終えたベルギーは今大会全種目を通じてアルカンシエルを獲れず、ロードレースでは一つも表彰台に登ることができなかった。
たった一人で終盤までメイン集団に残った新城は、6分半遅れの大きなグループ(先頭21位)内の49位でフィニッシュした。レースの大部分でアタックがかかり続けるサバイバルレースの末、今一度ワールドチームに所属するポテンシャルを見せつけることとなった。
ロード世界選手権2021男子エリートロードレース結果
1位 | ジュリアン・アラフィリップ(フランス) | 5:56:34 |
2位 | ディラン・ファンバーレ(オランダ) | 0:32 |
3位 | ミケル・ヴァルグレン(デンマーク) | |
4位 | ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー) | |
5位 | ニールソン・ポーレス(アメリカ) | |
6位 | トーマス・ピドコック(イギリス) | 0:49 |
7位 | ゼネク・スティバル(チェコ) | 1:06 |
8位 | マチュー・ファンデルプール(オランダ) | 1:18 |
9位 | フロリアン・セネシャル(フランス) | |
10位 | ソンニ・コルブレッリ(イタリア) | |
49位 | 新城幸也(日本) | 6:31 |
Amazon.co.jp