2021/09/01(水) - 07:51
「スプリンターにとってのラストチャンス」と言われたブエルタ・ア・エスパーニャ第16ステージを制したのは、緑のマイヨプントスを着用するファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ)。自身の25歳の誕生日を祝福するバースデーウィンで、大会最強スプリンターであることを印象付けた。
8月31日(火)第16ステージ
ラレド〜サンタ・クルス・デ・ベサナ 180km
8月31日(火)第16ステージ ラレド〜サンタ・クルス・デ・ベサナ 180km image:Unipublic一気に大西洋まで北上したブエルタは、カンタブリア州で最終週をスタートさせた。イベリア半島の北端を走る全長180kmの第16ステージは平坦ステージに分類される。
ステージ中盤には3級山岳アルト・デ・ヒハス(全長4.2km・平均6.5%)が設定され、さらにステージ後半にかけて高低差100mほどの登りが連続。獲得標高差は2,090mに達するが、ここまでブエルタの山岳をこなせているスプリンターにとって問題はないレベルであると見られた。
第19ステージには平坦基調のフィニッシュが用意されているものの、こちらはステージ序盤に山岳が連続するため逃げ向き。さらに今年は最終日が首都マドリードの平坦ステージではなくサンティアゴ・デ・コンポステーラでの個人タイムトライアル。つまりこの第16ステージがスプリンターにとっての実質的なラストチャンス。注目のスプリントステージは開始直後に大落車が発生する慌ただしい幕開けとなる。
8月31日(火)第16ステージ ラレド〜サンタ・クルス・デ・ベサナ 180km image:Unipublic
先頭で早くも逃げグループが形成される中、エンリク・マス(スペイン、モビスター)やギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)を含む集団落車が発生。すべての選手が再スタートを切ったものの、総合12位につけていたジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)がチェーンリングで右膝を深く切ってしまい、ステージ中盤にリタイアを余儀なくされている。他にも落車の影響でルディ・モラール(フランス、グルパマFDJ)とセップ・ファンマルク(ベルギー、イスラエル・スタートアップネイション)もレースを去った。
逃げグループを形成した5名
スタン・デウルフ(ベルギー、アージェードゥーゼール・シトロエン)
ディミトリ・クレイス(ベルギー、クベカ・ネクストハッシュ)
クイン・シモンズ(アメリカ、トレック・セガフレード)
イェツセ・ボル(オランダ、ブルゴスBH)
ミケル・ビスカラ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)
なんとしても集団スプリントに持ち込みたいドゥクーニンク・クイックステップやチームDSM、グルパマFDJがメイン集団の牽引を担当したため、UCIワールドチーム3名とUCIプロチーム2名で構成された逃げグループのリードは2分で頭打ち。常に1分台で押さえ込まれたままステージ中盤の3級山岳アルト・デ・ヒハスに差し掛かると、メイン集団からハーム・ファンフック(ベルギー、ロット・スーダル)が飛び出して先頭5名に合流成功。しかし依然としてスプリンター有利な状態のままステージ後半へと入っていく。
スタート後しばらくアタックが続く photo:Unipublic
クイン・シモンズ(アメリカ、トレック・セガフレード)らが逃げを開始 photo:Unipublic
ドゥクーニンク・クイックステップに守られるファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Unipublic
すると、カテゴリーのついていない残り55km地点のサンチプリアーノ峠(登坂距離5.1km・平均勾配4.2%)で突如としてUAEチームエミレーツがペースアップを開始。マッテオ・トレンティン(イタリア)のためにピュアスプリンターをふるい落としたいUAE勢の目論見通り、マイヨプントスのヤコブセンがこの登りで脱落した。
UAEチームエミレーツのペースアップによってメイン集団から30秒遅れたヤコブセン。しかしドゥクーニンク・クイックステップが総力を上げて割れた集団を一つに繋げ、ヤコブセンは問題なくメイン集団に復帰した。UAEチームエミレーツの集団牽引が終わると再びドゥクーニンク・クイックステップとチームDSM、グルパマFDJが状況をコントロール。危険回避のためにユンボ・ヴィスマやイネオス・グレナディアーズ、モビスターも集団先頭に上がったために自然とペースが上がり、逃げグループのリードが削られていく。
乗馬しながら逃げグループに声援を送る photo:Unipublic
ミケル・ビスカラ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)らが2分のリードで逃げる photo:Unipublic
ハーム・ファンフック(ベルギー、ロット・スーダル)の合流により先頭は6名に photo:Unipublic
断続的なアップダウンで崩壊した逃げグループからデウルフが独走に持ち込んだものの、最終的に残り4.5km地点ですべての逃げは吸収された。サンタ・クルス・デ・ベサナのフィニッシュラインに向かう曲がりくねったコースで完璧なトレインを組むチームは現れず、ボーラ・ハンスグローエやバイクエクスチェンジ、ドゥクーニンク・クイックステップ、グルパマFDJが入り乱れて残り1kmアーチ。
ベルト・ファンレルベルフ(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)のリードアウト終了とともに先頭に立ったアレクサンダー・クリーガー(ドイツ、アルペシン・フェニックス)が最終コーナーを抜けたものの、その後ろにサーシャ・モードロ(イタリア、アルペシン・フェニックス)の姿は無し。最終ストレートに入ったところで、クリーガーの後ろからジョルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ)が加速した。
初出場のグランツールでここまで3回ステージトップ10を経験している23歳のメーウスが先頭でスプリント。序盤の落車によって右脚に怪我を負い、スペアバイクでスプリントに挑んだメーウスだったが、その番手につけていたヤコブセンが追い抜いていく。続いてトレンティンも追撃したが、ヤコブセンのスピードが抜きん出ていた。針の穴を通すような位置取りの末に、ヤコブセンが抜群の加速力で3勝目を飾った。
好位置で最終コーナーを抜けるファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Unipublic
今大会ステージ3勝目を飾ったファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Unipublic
大集団スプリントを制したファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Unipublic
残り55km地点の登りで遅れながらも復帰し、最後は悠々とした余裕のある走りで勝利したヤコブセン。バースデーウィンを飾った25歳は「誕生日はいつでも特別だけど、勝利で祝うことができるなんて天にも登る気分。登りで脱落してしまったけどウルフパック(狼の群れ)のおかげで復帰して、勝利した。今日の勝利はチームメイトのおかげ。そして大怪我からの復活に貢献してくれた人々にこの3勝を捧げたい」と喜ぶ。
ポイント賞においてヤコブセンは250ポイントまで積み上げた。ポイント賞2位トレンティンとの差は127ポイントまで広がっている。仮にトレンティンが(非現実的だが)残る5ステージ全てで優勝しても獲得できるのは110ポイントで、さらに中間スプリントのポイントを加えなければヤコブセンには届かない。1年前の落車で選手生命も危ぶまれたスプリンターが、あとは完走さえすればポイント賞をほぼ獲得できるというところまで来た。
総合成績に動きは見られず、第14&15ステージの連続山岳でライバルたちから20秒しか失わなかったオドクリスティアン・エイキング(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオ)が総合首位のまま。エイキングはマルタンから54秒、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)から1分36秒のリードで翌日からの2連続超級山岳ステージに挑む。まずは第17ステージ超級山岳ラゴス・デ・コバドンガ(全長12.5km・平均6.9%)の山頂フィニッシュ。これまで何度も熾烈な登坂バトルが繰り広げられてきた名峰で本命たちが動く。
8月31日(火)第16ステージ
ラレド〜サンタ・クルス・デ・ベサナ 180km
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ステージ中盤には3級山岳アルト・デ・ヒハス(全長4.2km・平均6.5%)が設定され、さらにステージ後半にかけて高低差100mほどの登りが連続。獲得標高差は2,090mに達するが、ここまでブエルタの山岳をこなせているスプリンターにとって問題はないレベルであると見られた。
第19ステージには平坦基調のフィニッシュが用意されているものの、こちらはステージ序盤に山岳が連続するため逃げ向き。さらに今年は最終日が首都マドリードの平坦ステージではなくサンティアゴ・デ・コンポステーラでの個人タイムトライアル。つまりこの第16ステージがスプリンターにとっての実質的なラストチャンス。注目のスプリントステージは開始直後に大落車が発生する慌ただしい幕開けとなる。
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先頭で早くも逃げグループが形成される中、エンリク・マス(スペイン、モビスター)やギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)を含む集団落車が発生。すべての選手が再スタートを切ったものの、総合12位につけていたジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)がチェーンリングで右膝を深く切ってしまい、ステージ中盤にリタイアを余儀なくされている。他にも落車の影響でルディ・モラール(フランス、グルパマFDJ)とセップ・ファンマルク(ベルギー、イスラエル・スタートアップネイション)もレースを去った。
逃げグループを形成した5名
スタン・デウルフ(ベルギー、アージェードゥーゼール・シトロエン)
ディミトリ・クレイス(ベルギー、クベカ・ネクストハッシュ)
クイン・シモンズ(アメリカ、トレック・セガフレード)
イェツセ・ボル(オランダ、ブルゴスBH)
ミケル・ビスカラ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)
なんとしても集団スプリントに持ち込みたいドゥクーニンク・クイックステップやチームDSM、グルパマFDJがメイン集団の牽引を担当したため、UCIワールドチーム3名とUCIプロチーム2名で構成された逃げグループのリードは2分で頭打ち。常に1分台で押さえ込まれたままステージ中盤の3級山岳アルト・デ・ヒハスに差し掛かると、メイン集団からハーム・ファンフック(ベルギー、ロット・スーダル)が飛び出して先頭5名に合流成功。しかし依然としてスプリンター有利な状態のままステージ後半へと入っていく。
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すると、カテゴリーのついていない残り55km地点のサンチプリアーノ峠(登坂距離5.1km・平均勾配4.2%)で突如としてUAEチームエミレーツがペースアップを開始。マッテオ・トレンティン(イタリア)のためにピュアスプリンターをふるい落としたいUAE勢の目論見通り、マイヨプントスのヤコブセンがこの登りで脱落した。
UAEチームエミレーツのペースアップによってメイン集団から30秒遅れたヤコブセン。しかしドゥクーニンク・クイックステップが総力を上げて割れた集団を一つに繋げ、ヤコブセンは問題なくメイン集団に復帰した。UAEチームエミレーツの集団牽引が終わると再びドゥクーニンク・クイックステップとチームDSM、グルパマFDJが状況をコントロール。危険回避のためにユンボ・ヴィスマやイネオス・グレナディアーズ、モビスターも集団先頭に上がったために自然とペースが上がり、逃げグループのリードが削られていく。
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断続的なアップダウンで崩壊した逃げグループからデウルフが独走に持ち込んだものの、最終的に残り4.5km地点ですべての逃げは吸収された。サンタ・クルス・デ・ベサナのフィニッシュラインに向かう曲がりくねったコースで完璧なトレインを組むチームは現れず、ボーラ・ハンスグローエやバイクエクスチェンジ、ドゥクーニンク・クイックステップ、グルパマFDJが入り乱れて残り1kmアーチ。
ベルト・ファンレルベルフ(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)のリードアウト終了とともに先頭に立ったアレクサンダー・クリーガー(ドイツ、アルペシン・フェニックス)が最終コーナーを抜けたものの、その後ろにサーシャ・モードロ(イタリア、アルペシン・フェニックス)の姿は無し。最終ストレートに入ったところで、クリーガーの後ろからジョルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ)が加速した。
初出場のグランツールでここまで3回ステージトップ10を経験している23歳のメーウスが先頭でスプリント。序盤の落車によって右脚に怪我を負い、スペアバイクでスプリントに挑んだメーウスだったが、その番手につけていたヤコブセンが追い抜いていく。続いてトレンティンも追撃したが、ヤコブセンのスピードが抜きん出ていた。針の穴を通すような位置取りの末に、ヤコブセンが抜群の加速力で3勝目を飾った。
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残り55km地点の登りで遅れながらも復帰し、最後は悠々とした余裕のある走りで勝利したヤコブセン。バースデーウィンを飾った25歳は「誕生日はいつでも特別だけど、勝利で祝うことができるなんて天にも登る気分。登りで脱落してしまったけどウルフパック(狼の群れ)のおかげで復帰して、勝利した。今日の勝利はチームメイトのおかげ。そして大怪我からの復活に貢献してくれた人々にこの3勝を捧げたい」と喜ぶ。
ポイント賞においてヤコブセンは250ポイントまで積み上げた。ポイント賞2位トレンティンとの差は127ポイントまで広がっている。仮にトレンティンが(非現実的だが)残る5ステージ全てで優勝しても獲得できるのは110ポイントで、さらに中間スプリントのポイントを加えなければヤコブセンには届かない。1年前の落車で選手生命も危ぶまれたスプリンターが、あとは完走さえすればポイント賞をほぼ獲得できるというところまで来た。
総合成績に動きは見られず、第14&15ステージの連続山岳でライバルたちから20秒しか失わなかったオドクリスティアン・エイキング(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオ)が総合首位のまま。エイキングはマルタンから54秒、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)から1分36秒のリードで翌日からの2連続超級山岳ステージに挑む。まずは第17ステージ超級山岳ラゴス・デ・コバドンガ(全長12.5km・平均6.9%)の山頂フィニッシュ。これまで何度も熾烈な登坂バトルが繰り広げられてきた名峰で本命たちが動く。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2021第16ステージ結果
1位 | ファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 4:08:57 |
2位 | ジョルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ) | |
3位 | マッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ) | |
4位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ) | |
5位 | アルベルト・ダイネーゼ(イタリア、チームDSM) | |
6位 | ジョン・アベラストゥリ(スペイン、カハルラル・セグロスRGA) | |
7位 | ルイ・オリヴェイラ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) | |
8位 | リカルド・ミナーリ(イタリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) | |
9位 | アントニオ・ソト(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ) | |
10位 | クレマン・ヴァントゥリーニ(フランス、アージェードゥーゼール・シトロエン) | |
29位 | 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) | |
46位 | オドクリスティアン・エイキング(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオ) | |
DNF | セップ・ファンマルク(ベルギー、イスラエル・スタートアップネイション) | |
DNF | ルディ・モラール(フランス、グルパマFDJ) | |
DNF | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) |
マイヨロホ 個人総合成績
1位 | オドクリスティアン・エイキング(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオ) | 64:06:47 |
2位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | 0:00:54 |
3位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | 0:01:36 |
4位 | エンリク・マス(スペイン、モビスター) | 0:02:11 |
5位 | ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター) | 0:03:04 |
6位 | ジャック・ヘイグ(オーストラリア、バーレーン・ヴィクトリアス) | 0:03:35 |
7位 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | 0:04:21 |
8位 | アダム・イェーツ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | 0:04:34 |
9位 | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) | 0:04:59 |
10位 | フェリックス・グロスシャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) | 0:05:31 |
マイヨプントス(ポイント賞ジャージ)
1位 | ファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 250pts |
2位 | マッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ) | 123pts |
3位 | マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO) | 114pts |
マイヨモンターニャ(山岳賞ジャージ)
1位 | ロマン・バルデ(フランス、チームDSM) | 50pts |
2位 | ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) | 31pts |
3位 | ラファウ・マイカ(ポーランド、UAEチームエミレーツ) | 29pts |
マイヨブランコ(ヤングライダー賞ジャージ)
1位 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | 64:11:08 |
2位 | アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック) | 0:01:43 |
3位 | ジーノ・マーダー(スイス、バーレーン・ヴィクトリアス) | 0:02:26 |
チーム総合成績
1位 | イネオス・グレナディアーズ | 192:19:54 |
2位 | UAEチームエミレーツ | 0:03:40 |
3位 | バーレーン・ヴィクトリアス | 0:06:48 |
text:Kei Tsuji
photo:Unipublic
photo:Unipublic
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