2010/06/25(金) - 08:18
ジェイミスはロードバイクフリークにとってあまりなじみの無いブランドだろう。マウンテンバイクやツーリングバイクなどでは少々知られているようだが、レーシングバイクとなると、日本にはほとんど情報がないのが現状だ。
その歴史は、アメリカンブランドとしては長く30年近くになる。創業は1979年、ビーチクルーザーメーカーとして誕生したという。以来、世界じゅうで横行している企業買収にあうこともなく、アメリカのマーケットでも長い歴史を持つブランドとして現在に至る。
アメリカ東海岸のニュージャージーにヘッドオフィスを置き、堅実な東海岸の文化に育まれたバイク造りの思想は、流行に左右されやすい西海岸のそれと異なる。いたずらな企業的拡大を良しとせず、「良いバイクを造りたい」という信念を貫く姿勢が潔い。
ロードバイクの歴史は1988年に「エクリプス」と「クエスト」の発表からスタートする。この2車種はブラッシュアップを続け、現在もラインナップを続けるロングセラーモデルだ。
マウンテンバイクのイメージも強いが、ロードバイクやクロスバイクと平行して製作を行う総合メーカーである。マウンテンバイクは優れた機構によって、多くの専門誌やメディアから賞賛され、ワールドクラスのレースでも好成績を収めている。
そしてゼニスは2007年に登場したロードバイクの最上位シリーズだ。この新設計のカーボンモノコックフレームは、快適性と優れたパフォーマンスを発揮し、多くのプロライダーから評価されたという。
レーシングフレームとして設計されたゼニスは、ゼニス チームとしてさらに攻撃力を高めて登場したコンペティションフレームだ。フレーム素材には超軽量と剛性を高い次元で融合するウルトラハイモジュールカーボンを採用し、ハイモジュールカーボンを用いるセカンドグレードのゼニスよりも単体で300gの軽量化に成功している。
またサイズによって剛性差を招かないよう、SST(サイズ・スペシフィック・チュービング)理論を展開。各フレームに専用設計されたチューブを使うことで、すべてのサイズで同様のフィーリングを得ている。
フレーム構造は有限要素解析によって最適化されたレイアップ行程を実行し、全体の剛性を整えている。さらにBB30の採用により従来の構造よりも12%の軽量化を達成。またチェーンステーは左右非対称設計で、ドライブ側を10%ほどボリュームアップし、パワーロスを軽減している。
トレンドといえる上下異径ヘッドも採用し、より確実なステアリングフィールを得るためにフォークもハイスペック化している。
肩からブレードにかけてボリュームのあるカーボンフォークは、上下異径ベアリング採用によって実現した。またコラムからエンドの先まで完全にワンピースモノコック成型し、より軽量で頑丈なフォークとなった。
※このゼニス チームは、完成車販売の場合は「TEAM」となり、フレームセット販売の場合は「SL」と名称が異なる。
さてアメリカ屈指のブランド、ジェイミスのロードバイクは2人のインプレライダーにとってどんな印象だったのだろうか。早速インプレッションをお届けしよう。
―インプレッション
「ちょうどよい剛性感、バランスに優れた乗りやすいバイク」 鈴木祐一(Rise Ride)
すごく扱いが簡単で乗りやすいバイクだ。最近は見た目のボリュームがあるロードバイクが多く存在するが、このゼニス チームはスマートに作られているバイクといえる。一言で表現するなら、「ちょうど良い」という言葉が最適だろう。
例えばヘッド周りから生じる剛性感は過剰でもなく足りないわけでもなく、いいバランスを発揮している。必要な剛性とショック吸収性のバランスが優れており、荒れた路面を走ってもコーナーを攻めているときでも不安がなくスムーズにこなせる。
フロントフォークは見た目どおりしっかりとしており、良くできている。ダンシングのときやコーナーリングなどではフォークに強いストレスがかかり、なにかと影響が出やすいが、このフォークはどんな場面でもナチュラルで振りやすい。
「フロントへ意図的に荷重を加えてもフォークが突っ張るようなイメージがない」
ポジティブな意味で特徴といった特徴がなく、必要な機能だけをしっかりと押さえた性能といえる。強いて特徴を挙げるなら、高い剛性を発揮するBB30を搭載したハンガー部分に感じる適度なウィップだろうか。このバネ感が気持ちよく、推進力に変わる感じがする。
ロードバイクは形状の特徴を出すことに対して一生懸命になってしまうと、それゆえに過剰な性能となり、バランスが悪くなってしまうこともある。このバイクにはそういった不安定さがなく、万人向けといえる。
その性格上、サードパーティ系のパーツ性能を発揮しやすいだろう。元々が素直なので、カスタムパーツの価値や性能を伝えやすいのだ。反対に言えばフレームに特徴がありすぎると、そのフレームのコンセプトにあわせた機材選びをしていかないと、フレームとパーツの性能を相殺しかねない。そうなると双方の性能を引き出せないという悪循環になる場合もある。
ゼニス チームなら自分好みのバイクセッティングが行いやすいだろう。ホイールクリアランスも広く、太めのタイヤが入らないということもないので、幅広い用途を視野に入れつつカスタマイズを楽しめる。レースはもちろん、ツーリングといった幅広い用途で楽しめるはずだ。
「すべての性能が保証された優等生バイク」 山本健一(バイクジャーナリスト)
日本でのネームバリューはまだまだこれからだが、高い能力を秘めた隠れた名車といえるゼニス チーム。
実のところテストに使用したバイクは筆者の私物である。パーツアッセンブルをみると妙なパーツがひしめいており、見苦しいがご了承いただきたい。
ゼニスをセレクトした理由としては、その乗りやすさが第一だった。軽さを求めれば200g以上も軽いブランドもある。また剛性を求めればより高剛性なバイクは山ほど存在する。ただし、山を越えて下りもこなせて平坦も踏めて、長距離もこなせるオールラウンドな性能を求めたときにセレクトした数台に含まれていた。
そして2009年度に現在の形状にモデルチェンジを果たしたときに一度試乗している。その約1年後、2010年モデルを試乗したときに印象が変わらなかったのも購入動機のひとつだ。また、費用対効果も考慮した。レースで使うため、破損したときにすぐに代替えが用意できるぎりぎりの予算レベルに留めたかった。
また、ジェイミス=ロードバイクという認知度が低い現状も、好奇心を刺激したというわけだ。
「万人向けながらトップクラスの性能をもつ」
初めてテストバイクにまたがったときは加速感がよく、立ち止まって「コンパクトドライブではないか」と疑った覚えもある。フレーム剛性は高いが過剰ではなく、誰にでも心地よく思えるレベルで、踏み込んだときの加速感は軽くスッと前に伸びる。
BB30も効果的だ。せっかくのBB30規格であるならば、アダプターでやり過ごすのはもったいない。この規格のクランクを搭載することで、初めて性能を引き立てることができると思う。多くの部位が大口径規格の道を歩んでいるが、いずれの規格よりも体感しやすいといえるだろう。
フレームのしなりと高い剛性のクランクのマッチングは絶妙で、しなりから生まれる反発力はクランクで受け止められ、踏力とミックスすることで心地よい推進力が発生している。
それでいて踏み負けないバック剛性。左右非対称チェーンステーの性能は残念ながらピンポイントで感じとれないが、全体から醸し出すパワーロスの少なさに貢献していると思われる。振動吸収性はそれほど高くはないが、長距離を乗ってもそれほど疲労感は残らない。上質なカーボンファイバーの恩恵を感じる。
ハンドリングも絶妙で、フォークの高い性能が大きく影響しているだろう。しなり方が自然でロスが少ない上に、しっかりと耐えるのでセーフティマージンが抜群に高い。
上り性能も良好で、フォークの優れた安定感はダンシング時の上体を支え、バック剛性も適正で、いやなねじれを感じない。シッティングでも軽快に、パワフルに進んでくれる。さらに踏み込んでも高回転のペダリングでもフレームが応えてくれる。
万人向けのナチュラルな乗り心地。重量級のユーザーでも十分にその良さを味わえるはず。その性能はコンペティション向けだが、初めてのレースバイクとしても良いだろう。しかしながら、トップクラスの性能をもつモデルと張り合えるのも事実。
ジオメトリーはコンペティション指向ではあるものの標準的。レースを志すサイクリストなら、よりしっくりとフィットするバイクになるだろう。
ジェイミス ゼニス チーム スペック
フレームマテリアル:ウルトラハイモジュールカーボンファイバー、BB30
フォーク:ジェイミス ゼニスSL、ウルトラハイモジュールカーボン
サイズ:44、48、51、54cm
カラー:ビクトリーレッド、パールホワイト
重量:6.63kg(メーカー公称値)
希望小売価格:ゼニスチーム 59万9000円(スラム・レッド完成車)
ゼニスSL 29万9000円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
ウェア協力:ETXE ONDO(エチェオンド)(サイクルクリエーション)
text&edit :Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto.AYANO
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