2021/07/25(日) - 10:29
7月26日・27日に開催される東京五輪MTBXCOまであと1日。世界最高難度と呼ばれるコースを制し、世代交代の渦中にあるMTBクロスカントリーシーンにおいてメダルを獲得するのは誰なのか。レースのプレビューをお伝えする。
世界最先端のMTBXCOコース
修善寺CSC内に特設された4kmの周回コースは、ワールドカップレーサーたちの間でも世界最先端であり最高難度の水準にあるコースだという評価だ。ニノ・シューターをして「テクニックとフィジカルの両面で最もチャレンジングでハードなコース」と言わしめるほどであり、スコット・スラムレーシングチーム監督のトーマス・フリシュクネヒトも「僕のMTB人生の中で最高のXCサーキット。素晴らしい戦いの場だ」とコメントしている。
スタート後すぐに草地の急坂区間に入り、「天城越え」と命名されたセクションを通過すると、ロックガーデンを下る。その後、抜き所の無いシングルトラックの中には「チョップスティック(箸)」と呼ばれる丸太ジャンプや、短くもパンチ力ある「ワサビヒルクライム」が配置される。これらのコースの序盤はトップ選手間でのテクニックの差が生じないレベルの難易度であるものの、スタート直後の登坂区間と連続するショートクライムではアタックがいつでも起こり得る。緊張感のある展開となるだろう。
コースの中間地点付近にはこのコースで最も映像映えする「桜ドロップ」と連続ジャンプセクションが設定され、アクションスポーツとしての色合いを濃くする近年のXCOを象徴している。ここではドロップオフの落下で得た速度を次のジャンプやコーナリングに繋ぐスキルが求められており、この区間での技術的ロスが後に続くペダリング区間でのハードプッシュを強いられる。MTBライダーとして最大の見せ場である一方で、勝負所に脚を残す為にはミスの無い正確な走行スキルが求められる。
コースの後半には「枯山水」と命名された美しいロックガーデンが林の中に造成されており、幾重にも敷き詰められた岩はライダーの走行ライン判断の遅れを許さない。この区間では各選手のスキルや集団内での位置、レース展開の状況次第でカードの切り方が大きく変わる為、レース後半ではゴール勝負のポジションを左右する重要なセクションとなる。
2019年のプレ大会時には男子は6周回、女子は5周回でレースが行われており、両カテゴリでゴールタイムが1時間17分前後だった。近年のXCOレースの傾向と当日が7月下旬の炎天下となる環境を踏まえれば、同様の周回設定となる事が予想される。
2019年10月プレ大会は
まず、東京五輪のテスト大会として開催されたプレ大会(男子、女子)のレースを振り返る。
男子の上位3名はニノ・シューター(スイス)、ビクトール・コレツキー(フランス)、ルカ・ブライドット(イタリア)の順。レースはヘンリケ・アバンチーニ(ブラジル)のロケットスタートで始まった後は、最終周回まで7人の集団でのクリテリウムレースの様相を呈し、最終周回でのアタックのタイミングの巧拙とスプリントでレースが決まった。上位9名迄のタイムギャップが1分以内という、密度の高い高速集団レースとなった。
女子の上位3名はヨランダ・ネフ(スイス)、シーナ・フライ(スイス)、アン・テルプストラ(オランダ)の順。男子レースと異なり、テクニック面で優勢に立つスイス勢の2名がレース序盤から他選手とのギャップを広げ、独走でのペースを保ってのレース展開となった。当時有力候補とされていたポリーヌ・フェランプレボ(フランス)、ケイト・コートニー(アメリカ)、ジェニー・リズベッツ(スェーデン)の3名が試走やレース本番での落車でDNS・DNF。男女共にテクニック面でのレベルが高いスイス勢の強さを感じさせる内容となった。
注目選手達の今シーズンの動向と展望
さて、2021年。ここまでのワールドカップ4戦の動向を見渡すと、2019年シーズンからレースシーンの前線に立つ選手のラインナップには大きな変化が起きている。
男子について言えば、長年に渡り絶対的王者の名を欲しいままにしていたニノ・シューターがアルカンシェルをヨルダン・サルー(フランス)に明け渡し世代交代が起きた。それに加えて、ロードレーストシクロクロスでも実績を残すマチュー・ファンデルポール(オランダ)とトーマス・ピドコック(イギリス)の2名が金メダルを目指し日本にやってきた。
そう言った大きなうねりの中、W杯3戦・4戦と連続優勝したマティアス・フルキガー(スイス)と優勝争いを演じているオンドレイ・チンク(チェコ)の二人の登坂区間の力強さにも注目だ。W杯第一戦を制し、自身初のW杯リーダージャージを獲得したヴィクトール・コレツキーや、アントン・クーパー(ニュージーランド)、ヘンリケ・アバンチーニ(ブラジル)、アラン・ハースリー(南アフリカ)らの積極的な走りもレースの流れを左右するだろう。
付言するが、7度の世界チャンピオン、リオ五輪金メダリストであるニノが弱くなったわけではない。ニノは依然としてUCIランキング3位であり、今シーズンもW杯の表彰台をキープしている。ニノに勝つ事を目標にした多くの選手が育ってきているこの現状と、その対決が見れることをMTBファンとしては喜びたい。
女子においてもトップ選手の入れ替わりの兆しが見られる。2019年時点の主要メンバーであった現世界チャンピオンのポリーヌ・フェランプレヴォやリオ金メダリストのジェニー・リズベッツ、前世界チャンピオンのヨランダ・ネフやケイト・コートニー、レベッカ・マッコーネル(オーストラリア)は依然強さを維持している一方、W杯四連勝中のロアーナ・ルコントを筆頭として、ラウラ・スティガー(オーストリア)、シーナ・フライ、イビィ・リチャーズ(イギリス)と言った現役U23又は卒業組の成長が著しい。特に今季圧倒的なパフォーマンスを誇示しているルコントは優勝候補筆頭だ。
2021年のW杯での結果を見れば、ロアーナとポリーヌ擁するフランス勢とリオ五輪金メダリストのジェニー・リズベッツの好調が目立つ。昨シーズンまでの予想が役に立たない状況に女子競技の全体レベルの向上が見られる。現状のサーキットは近年で最も選手間の実力が拮抗している状況にあり、世界最先端の東京のコースに適応出来る進化した選手は誰か?を争う戦いとなる。
レースの鍵となるポイント:フローを制する者がレースを制す
上述の通り、東京五輪のコースは修善寺CSCのコンパクトな敷地の中に急峻なクライミングとテクニカルなダウンヒルが詰め込まれている為、選手は短いダッシュと難セクションの処理を絶え間なく繰り返す。各セクションの勢いと慣性をリズムよく繋ぎスピードを維持出来れば脚を温存出来るが、ミスや集団内での位置取次第では脚を使わざるを得ない展開に追い込まれる。トレイルやパークを走る様な感覚で「フロー」が維持出来ればかなり有利に駒を進められるとの声もり、クリアな状態で走る為にもスタートからの熾烈なバトルが展開されるはずだ。
テスト大会時にニノ・シューター並びに上位陣の選手は口を揃えて、ライダー達がトップコンディションで本コースでのレースに臨めば、集団は形成されず、アタックが連続してかかり、少人数でのバラけたメンバーでのマッチレースになるとの旨のコメントを残している。選手の緊迫感が伝わってくる激しいレースとなることは間違いなく、ファンは目が離せない。
また、機材がコースとライダーにフィットしているのかも大きな影響を与えるのは言うまでもない。過去最高難度のコースを最速で走るバイクは何か?選手の使用機材にも注目したい。
日本選手団
日本からは男子レースに山本幸平、女子レースに今井美穂がそれぞれ参加する。コロナ影響で海外遠征が難しい局面にあった日本代表の両名であったが、国内で長期に渡り東京五輪コースで求められるフィジカルの錬成とテクニック面での強化を図ってきた模様。世界最高の舞台での両者の活躍に期待すると共に心からの応援を送りたい。
世界最先端のMTBXCOコース
修善寺CSC内に特設された4kmの周回コースは、ワールドカップレーサーたちの間でも世界最先端であり最高難度の水準にあるコースだという評価だ。ニノ・シューターをして「テクニックとフィジカルの両面で最もチャレンジングでハードなコース」と言わしめるほどであり、スコット・スラムレーシングチーム監督のトーマス・フリシュクネヒトも「僕のMTB人生の中で最高のXCサーキット。素晴らしい戦いの場だ」とコメントしている。
スタート後すぐに草地の急坂区間に入り、「天城越え」と命名されたセクションを通過すると、ロックガーデンを下る。その後、抜き所の無いシングルトラックの中には「チョップスティック(箸)」と呼ばれる丸太ジャンプや、短くもパンチ力ある「ワサビヒルクライム」が配置される。これらのコースの序盤はトップ選手間でのテクニックの差が生じないレベルの難易度であるものの、スタート直後の登坂区間と連続するショートクライムではアタックがいつでも起こり得る。緊張感のある展開となるだろう。
コースの中間地点付近にはこのコースで最も映像映えする「桜ドロップ」と連続ジャンプセクションが設定され、アクションスポーツとしての色合いを濃くする近年のXCOを象徴している。ここではドロップオフの落下で得た速度を次のジャンプやコーナリングに繋ぐスキルが求められており、この区間での技術的ロスが後に続くペダリング区間でのハードプッシュを強いられる。MTBライダーとして最大の見せ場である一方で、勝負所に脚を残す為にはミスの無い正確な走行スキルが求められる。
コースの後半には「枯山水」と命名された美しいロックガーデンが林の中に造成されており、幾重にも敷き詰められた岩はライダーの走行ライン判断の遅れを許さない。この区間では各選手のスキルや集団内での位置、レース展開の状況次第でカードの切り方が大きく変わる為、レース後半ではゴール勝負のポジションを左右する重要なセクションとなる。
2019年のプレ大会時には男子は6周回、女子は5周回でレースが行われており、両カテゴリでゴールタイムが1時間17分前後だった。近年のXCOレースの傾向と当日が7月下旬の炎天下となる環境を踏まえれば、同様の周回設定となる事が予想される。
2019年10月プレ大会は
まず、東京五輪のテスト大会として開催されたプレ大会(男子、女子)のレースを振り返る。
男子の上位3名はニノ・シューター(スイス)、ビクトール・コレツキー(フランス)、ルカ・ブライドット(イタリア)の順。レースはヘンリケ・アバンチーニ(ブラジル)のロケットスタートで始まった後は、最終周回まで7人の集団でのクリテリウムレースの様相を呈し、最終周回でのアタックのタイミングの巧拙とスプリントでレースが決まった。上位9名迄のタイムギャップが1分以内という、密度の高い高速集団レースとなった。
女子の上位3名はヨランダ・ネフ(スイス)、シーナ・フライ(スイス)、アン・テルプストラ(オランダ)の順。男子レースと異なり、テクニック面で優勢に立つスイス勢の2名がレース序盤から他選手とのギャップを広げ、独走でのペースを保ってのレース展開となった。当時有力候補とされていたポリーヌ・フェランプレボ(フランス)、ケイト・コートニー(アメリカ)、ジェニー・リズベッツ(スェーデン)の3名が試走やレース本番での落車でDNS・DNF。男女共にテクニック面でのレベルが高いスイス勢の強さを感じさせる内容となった。
注目選手達の今シーズンの動向と展望
さて、2021年。ここまでのワールドカップ4戦の動向を見渡すと、2019年シーズンからレースシーンの前線に立つ選手のラインナップには大きな変化が起きている。
男子について言えば、長年に渡り絶対的王者の名を欲しいままにしていたニノ・シューターがアルカンシェルをヨルダン・サルー(フランス)に明け渡し世代交代が起きた。それに加えて、ロードレーストシクロクロスでも実績を残すマチュー・ファンデルポール(オランダ)とトーマス・ピドコック(イギリス)の2名が金メダルを目指し日本にやってきた。
そう言った大きなうねりの中、W杯3戦・4戦と連続優勝したマティアス・フルキガー(スイス)と優勝争いを演じているオンドレイ・チンク(チェコ)の二人の登坂区間の力強さにも注目だ。W杯第一戦を制し、自身初のW杯リーダージャージを獲得したヴィクトール・コレツキーや、アントン・クーパー(ニュージーランド)、ヘンリケ・アバンチーニ(ブラジル)、アラン・ハースリー(南アフリカ)らの積極的な走りもレースの流れを左右するだろう。
付言するが、7度の世界チャンピオン、リオ五輪金メダリストであるニノが弱くなったわけではない。ニノは依然としてUCIランキング3位であり、今シーズンもW杯の表彰台をキープしている。ニノに勝つ事を目標にした多くの選手が育ってきているこの現状と、その対決が見れることをMTBファンとしては喜びたい。
女子においてもトップ選手の入れ替わりの兆しが見られる。2019年時点の主要メンバーであった現世界チャンピオンのポリーヌ・フェランプレヴォやリオ金メダリストのジェニー・リズベッツ、前世界チャンピオンのヨランダ・ネフやケイト・コートニー、レベッカ・マッコーネル(オーストラリア)は依然強さを維持している一方、W杯四連勝中のロアーナ・ルコントを筆頭として、ラウラ・スティガー(オーストリア)、シーナ・フライ、イビィ・リチャーズ(イギリス)と言った現役U23又は卒業組の成長が著しい。特に今季圧倒的なパフォーマンスを誇示しているルコントは優勝候補筆頭だ。
2021年のW杯での結果を見れば、ロアーナとポリーヌ擁するフランス勢とリオ五輪金メダリストのジェニー・リズベッツの好調が目立つ。昨シーズンまでの予想が役に立たない状況に女子競技の全体レベルの向上が見られる。現状のサーキットは近年で最も選手間の実力が拮抗している状況にあり、世界最先端の東京のコースに適応出来る進化した選手は誰か?を争う戦いとなる。
レースの鍵となるポイント:フローを制する者がレースを制す
上述の通り、東京五輪のコースは修善寺CSCのコンパクトな敷地の中に急峻なクライミングとテクニカルなダウンヒルが詰め込まれている為、選手は短いダッシュと難セクションの処理を絶え間なく繰り返す。各セクションの勢いと慣性をリズムよく繋ぎスピードを維持出来れば脚を温存出来るが、ミスや集団内での位置取次第では脚を使わざるを得ない展開に追い込まれる。トレイルやパークを走る様な感覚で「フロー」が維持出来ればかなり有利に駒を進められるとの声もり、クリアな状態で走る為にもスタートからの熾烈なバトルが展開されるはずだ。
テスト大会時にニノ・シューター並びに上位陣の選手は口を揃えて、ライダー達がトップコンディションで本コースでのレースに臨めば、集団は形成されず、アタックが連続してかかり、少人数でのバラけたメンバーでのマッチレースになるとの旨のコメントを残している。選手の緊迫感が伝わってくる激しいレースとなることは間違いなく、ファンは目が離せない。
また、機材がコースとライダーにフィットしているのかも大きな影響を与えるのは言うまでもない。過去最高難度のコースを最速で走るバイクは何か?選手の使用機材にも注目したい。
日本選手団
日本からは男子レースに山本幸平、女子レースに今井美穂がそれぞれ参加する。コロナ影響で海外遠征が難しい局面にあった日本代表の両名であったが、国内で長期に渡り東京五輪コースで求められるフィジカルの錬成とテクニック面での強化を図ってきた模様。世界最高の舞台での両者の活躍に期待すると共に心からの応援を送りたい。
開催日 | スタート時刻 | ライブ配信URL |
---|---|---|
7月26日(月) | 15:00 | https://gorin.jp/live/MTBMXCTRY-------------FNL-000100--/ |
7月27日(火) | 15:00 | https://gorin.jp/live/MTBWXCTRY-------------FNL-000100--/ |
世界最高難度のコースを舞台に、新時代の到来を予感させるXCレースが東京・伊豆にやってくる。是非とも皆で現地・ネットでその熱量を存分に味わいたい。
text:Yoshinori Suzuki
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