2021/07/21(水) - 08:53
空気が良いし、信州を感じる大自然が良い。ちょっと(かなり?)キツイけどコースも良い。そして何より「おもてなし」を感じるエイドステーションが良い。2年ぶり、記念すべき10回目の開催に繋げた北アルプス山麓グランフォンドのレポート。
東京から、あるいは名古屋からでも4時間くらい。安曇野インターを降りて、景色の良い高瀬川沿い「北アルプスパノラマロード」を1時間北上すれば北アルプス山麓グランフォンドの拠点となる鹿島槍スポーツヴィレッジに到着だ。標高は1,130m。梅雨明けの関東平野を出てきた筆者にとっては冷涼な空気がとにかく気持ちいい。
今回お邪魔した北アルプス山麓グランフォンドは、今年で記念すべき10回目を迎えた山岳ロングライドイベント。その名の通り白馬三山や爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳といった名峰に囲まれたエリアを思う存分登って下るコース設定であり、何より地元のバックアップを受けたおもてなしが高い評判の大会だ。2020年大会こそコロナ禍で中止となってしまったものの、2021年は「様子見をするのではなく、どこかのイベントが率先して自粛モードを取り払っていくべき」と、厳重な感染対策を施した上で2年ぶりの開催にこぎつけた。
冬場のウインタースポーツはもちろんのこと、グリーンシーズンもキャンプやBBQ、スポーツ合宿の受け入れなどを行なっている鹿島槍スポーツヴィレッジは、レンタルバイクやサイクリングツアーの開催、過去にはマヴィックのホイールを試せるテストライドステーションの設置など、スポーツバイクフレンドリーなスポーツ施設。代表を務める元スキープロ選手の西沢勇人さんもしっかり自転車に乗る方だし、なにより大町や白馬エリアは自転車にとって最高の環境が広がる。こんな場所を思う存分堪能してほしい。そんな思いが11年前に形となったのが、この大会だ。
標高1,130mの大会会場からは下っていくのかと思いきや、ルートはスタート直後から尾根沿いの林道、小熊黒沢線で標高を上げていく。とても細い林道だけどキチンと舗装されていて、白樺の群生地を駆け抜けるのがいかにも高地らしい。ちょっと道が荒れている部分もあるけれど、車も一切入ってこないからゆっくりと足慣らしをするにはとても良いのだ。この日は霧に包まれていたけれど、木崎湖を眼下にするパラグライダー滑空場からの景色も最高だ。
木崎湖、中綱湖、そして青木湖。青く美しい仁科三湖を横目に楽しみながら、そして朝日を浴びながら車列は一路白馬村へと北上する。2015年にMTBコースが復活(その時のレポートはこちら)し、再び日本国内のMTBムーブメント牽引地となった白馬岩岳マウンテンリゾートで第一エイドに到着だ。ここで振る舞われたのはご当地名物のお蕎麦。これも北アルプス山麓グランフォンドの名物の一つだ。
この日、160kmコースに設けられたエイドステーションは合計6箇所。白馬村エイドの蕎麦に始まり、戸隠エイドの天ぷら蕎麦と揚げ蕎麦団子、小川アルプスラインエイドの焼きたておやき、大町温泉郷エイドの冷麦と、キング・オブ・信州ご当地グルメ全制覇(?)な品揃えだ。感染症対策を踏まえた今年は大幅な見直しを強いられたというが、それでも茹でたて・締めたての蕎麦が味わえるとあればきっと「江戸の蕎麦っ食い」だって大満足。後半戦になるに従って胃に優しいメニューへと変化するのも、過酷な山岳ライドを走る身にありがたい心遣いだ。
大糸線の線路を越え、雪解け水流れる川と沢をいくつも渡り、トンネルを潜って信州の山岳路を駆け抜ける。緑の稲がきらめく田園、予約制の路線バスしか来ない、かつては茅葺きだった三角屋根が並ぶ集落、豪雪地帯であることを強く思わせる長いスノーシェッド。目に入る景色の全てが瑞々しく見えたのは、きっと筆者だけではないだろう。
国内イベント最高クラス難度の獲得標高3500mを誇る150kmコースに平坦という平坦はほとんどなく、それも後半戦になればなるほど(体力が削られていることも相まって)登りの難易度が増していくように思う。参加者の姿を見回しても「いかにも走れそうな人」が少なくないし、話を聞けば「エイドステーションのある山岳トレーニング」として参加しているグループも。でも、話を聞いた全員に共通しているのが、2年ぶりこのイベントを心待ちにしていた、ということだった。もちろん一人で走りきるのは難しい難易度だけれども、数々のおもてなしとサポート体制は、脱ビギナーを目指す方にもばっちりだ。
取材した上での機材的なアドバイスをするのであれば、上り対策の軽いギアを用意することと、自分のロードバイクにセットできる限り太いタイヤを選んだ方がいい、ということ。コースは100%舗装されているけれど、深い雪に閉ざされる地域だけに路面は驚くほど荒れて(雪国の方ならお分かりだと思う)いたり、山からの染み出し水が多数流れていたりもする。少なくとも25,26c以上は欲しいし、多少上りの軽さを犠牲にしてでも耐パンク性能と乗り心地に優れたタイヤが後半の体力セーブに貢献してくれるはず。特に太めのチューブレスタイヤはこのコースにマッチするだろう。
そして今回から導入されたのが参加者用スマホアプリ。走行ログ取りはもちろんのこと、コースと自分の居場所を確認できたり、大会からのお知らせ情報通知や救援要請が位置情報付きでできるようになった。感染症対策でスタッフ数を減らした打開策だというものの、例えば一人きりになってしまってもコースから外れていないか確認できるし、緊急時にはトラブル内容と位置情報を把握したスタッフが即座に駆けつけてくれるようになった。非常にユーザーフレンドリーな試みだけに、全国のロングライドイベントで普及していけばいいな、と思った次第。
交通量の少ない農道を繋いで(この辺りのコース設定は素晴らしいと思った)走り、日本海側の糸魚川から松本方面へ塩を運んだ「塩の道」の面影残る大町市街地を抜け、黒部立山アルペンルート探勝の玄関口として発展した大町温泉郷内のエイドステーションで最後の一息を。ここからは鹿島槍スポーツヴィレッジまでのヒルクライムだ。
おおよそ平坦な県道325号線を北上し、沢に沿って上がる約2km、平均勾配7%のヒルクライムをこなせばフィニッシュはすぐそこだ。150kmを走ってきた脚には10%のつづら折れはたいそうキツイけれど、横を流れる清らかな沢の流れで気を紛らわせましょう。蛇行したり、押し歩いたりとそれぞれがなんとか登りきれば、感動のゴールがあなたの帰りを待っている。
雷注意報の中、数回雨に降られたものの、結果的にクールダウンとなったためカンカン照りの年よりも、雨続きの年よりもずっと完走率の高かった第10回北アルプス山麓グランフォンド。北アルプスの大自然に囲まれた走りごたえのあるコースに、おもてなしの心が詰まったエイドステーション。実行委員長のを務める西沢さんによれば、今まで以上に大きな手応えを得たことで、来年大会をもっと素晴らしいものにしたい、という意欲が実行委員会全員の心に宿ったという。
2年ぶりに開催にこぎつけた北アルプス山麓グランフォンドは、心から「行って良かったね」と言えるイベントだった。
text&photo:So Isobe
東京から、あるいは名古屋からでも4時間くらい。安曇野インターを降りて、景色の良い高瀬川沿い「北アルプスパノラマロード」を1時間北上すれば北アルプス山麓グランフォンドの拠点となる鹿島槍スポーツヴィレッジに到着だ。標高は1,130m。梅雨明けの関東平野を出てきた筆者にとっては冷涼な空気がとにかく気持ちいい。
今回お邪魔した北アルプス山麓グランフォンドは、今年で記念すべき10回目を迎えた山岳ロングライドイベント。その名の通り白馬三山や爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳といった名峰に囲まれたエリアを思う存分登って下るコース設定であり、何より地元のバックアップを受けたおもてなしが高い評判の大会だ。2020年大会こそコロナ禍で中止となってしまったものの、2021年は「様子見をするのではなく、どこかのイベントが率先して自粛モードを取り払っていくべき」と、厳重な感染対策を施した上で2年ぶりの開催にこぎつけた。
冬場のウインタースポーツはもちろんのこと、グリーンシーズンもキャンプやBBQ、スポーツ合宿の受け入れなどを行なっている鹿島槍スポーツヴィレッジは、レンタルバイクやサイクリングツアーの開催、過去にはマヴィックのホイールを試せるテストライドステーションの設置など、スポーツバイクフレンドリーなスポーツ施設。代表を務める元スキープロ選手の西沢勇人さんもしっかり自転車に乗る方だし、なにより大町や白馬エリアは自転車にとって最高の環境が広がる。こんな場所を思う存分堪能してほしい。そんな思いが11年前に形となったのが、この大会だ。
標高1,130mの大会会場からは下っていくのかと思いきや、ルートはスタート直後から尾根沿いの林道、小熊黒沢線で標高を上げていく。とても細い林道だけどキチンと舗装されていて、白樺の群生地を駆け抜けるのがいかにも高地らしい。ちょっと道が荒れている部分もあるけれど、車も一切入ってこないからゆっくりと足慣らしをするにはとても良いのだ。この日は霧に包まれていたけれど、木崎湖を眼下にするパラグライダー滑空場からの景色も最高だ。
木崎湖、中綱湖、そして青木湖。青く美しい仁科三湖を横目に楽しみながら、そして朝日を浴びながら車列は一路白馬村へと北上する。2015年にMTBコースが復活(その時のレポートはこちら)し、再び日本国内のMTBムーブメント牽引地となった白馬岩岳マウンテンリゾートで第一エイドに到着だ。ここで振る舞われたのはご当地名物のお蕎麦。これも北アルプス山麓グランフォンドの名物の一つだ。
この日、160kmコースに設けられたエイドステーションは合計6箇所。白馬村エイドの蕎麦に始まり、戸隠エイドの天ぷら蕎麦と揚げ蕎麦団子、小川アルプスラインエイドの焼きたておやき、大町温泉郷エイドの冷麦と、キング・オブ・信州ご当地グルメ全制覇(?)な品揃えだ。感染症対策を踏まえた今年は大幅な見直しを強いられたというが、それでも茹でたて・締めたての蕎麦が味わえるとあればきっと「江戸の蕎麦っ食い」だって大満足。後半戦になるに従って胃に優しいメニューへと変化するのも、過酷な山岳ライドを走る身にありがたい心遣いだ。
大糸線の線路を越え、雪解け水流れる川と沢をいくつも渡り、トンネルを潜って信州の山岳路を駆け抜ける。緑の稲がきらめく田園、予約制の路線バスしか来ない、かつては茅葺きだった三角屋根が並ぶ集落、豪雪地帯であることを強く思わせる長いスノーシェッド。目に入る景色の全てが瑞々しく見えたのは、きっと筆者だけではないだろう。
国内イベント最高クラス難度の獲得標高3500mを誇る150kmコースに平坦という平坦はほとんどなく、それも後半戦になればなるほど(体力が削られていることも相まって)登りの難易度が増していくように思う。参加者の姿を見回しても「いかにも走れそうな人」が少なくないし、話を聞けば「エイドステーションのある山岳トレーニング」として参加しているグループも。でも、話を聞いた全員に共通しているのが、2年ぶりこのイベントを心待ちにしていた、ということだった。もちろん一人で走りきるのは難しい難易度だけれども、数々のおもてなしとサポート体制は、脱ビギナーを目指す方にもばっちりだ。
取材した上での機材的なアドバイスをするのであれば、上り対策の軽いギアを用意することと、自分のロードバイクにセットできる限り太いタイヤを選んだ方がいい、ということ。コースは100%舗装されているけれど、深い雪に閉ざされる地域だけに路面は驚くほど荒れて(雪国の方ならお分かりだと思う)いたり、山からの染み出し水が多数流れていたりもする。少なくとも25,26c以上は欲しいし、多少上りの軽さを犠牲にしてでも耐パンク性能と乗り心地に優れたタイヤが後半の体力セーブに貢献してくれるはず。特に太めのチューブレスタイヤはこのコースにマッチするだろう。
そして今回から導入されたのが参加者用スマホアプリ。走行ログ取りはもちろんのこと、コースと自分の居場所を確認できたり、大会からのお知らせ情報通知や救援要請が位置情報付きでできるようになった。感染症対策でスタッフ数を減らした打開策だというものの、例えば一人きりになってしまってもコースから外れていないか確認できるし、緊急時にはトラブル内容と位置情報を把握したスタッフが即座に駆けつけてくれるようになった。非常にユーザーフレンドリーな試みだけに、全国のロングライドイベントで普及していけばいいな、と思った次第。
交通量の少ない農道を繋いで(この辺りのコース設定は素晴らしいと思った)走り、日本海側の糸魚川から松本方面へ塩を運んだ「塩の道」の面影残る大町市街地を抜け、黒部立山アルペンルート探勝の玄関口として発展した大町温泉郷内のエイドステーションで最後の一息を。ここからは鹿島槍スポーツヴィレッジまでのヒルクライムだ。
おおよそ平坦な県道325号線を北上し、沢に沿って上がる約2km、平均勾配7%のヒルクライムをこなせばフィニッシュはすぐそこだ。150kmを走ってきた脚には10%のつづら折れはたいそうキツイけれど、横を流れる清らかな沢の流れで気を紛らわせましょう。蛇行したり、押し歩いたりとそれぞれがなんとか登りきれば、感動のゴールがあなたの帰りを待っている。
雷注意報の中、数回雨に降られたものの、結果的にクールダウンとなったためカンカン照りの年よりも、雨続きの年よりもずっと完走率の高かった第10回北アルプス山麓グランフォンド。北アルプスの大自然に囲まれた走りごたえのあるコースに、おもてなしの心が詰まったエイドステーション。実行委員長のを務める西沢さんによれば、今まで以上に大きな手応えを得たことで、来年大会をもっと素晴らしいものにしたい、という意欲が実行委員会全員の心に宿ったという。
2年ぶりに開催にこぎつけた北アルプス山麓グランフォンドは、心から「行って良かったね」と言えるイベントだった。
text&photo:So Isobe
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